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旅立ちの時。
アタシは、ゆっくりと振り返った。
そこにはテレサさんとその肩を抱くロイズさんがいた。
2人とも笑顔だった。だから、アタシも精一杯の笑顔を浮かべた。
「フジサキもお2人にお世話になりましたと、お礼を言っていました」
「いやいや、フジサキさんには仕事を手伝って頂いて本当に助かったよ。ロイズが礼を言っていたと伝えてください」
「はい、必ず伝えます」
そこまで会話が進んだところで、テレサさんが何かを思い出した様に『あ!』と小さく呟いて、口に手を当てた。
その姿は、何だかお転婆な少女のようで可愛らしかった。
「そうそう。渡す物があったのにすっかり忘れる所だったわ!」
「?」
テレサさんがそう言って、エプロンのポケットから何かを取り出した。
アタシはそれに見覚えがあった。テレサさんに差し出されたそれを受け取る。
「これって……」
「今の私達にはこんな贈り物しかできないの。ごめんなさい」
それは、前にアタシがピスタさんのお店で見ていた小箱だった。
二人は、アタシのために購入してくれていたらしい。
それをギュッと抱きしめて、アタシは頭を横に振った。
「とんでもないです。アタシには勿体無いくらいです。大切にします」
「チヒロさん、お身体に気をつけて。いつでも、どんな時でも私たちは貴女の無事を祈っております」
ロイズさんが優しく微笑みながら、そう言ってくれた。
アタシは強く頷いて、一歩下がると二人にお辞儀をする。
そして、大きな声でこう言った。
「ロイズさん、テレサさん。アタシ、行ってきます! いつか……ううん、絶対に! 絶対に会いに来ますから!」
こうして、アタシはローナ村を去った。
向かうは『城塞都市マルトゥス』――。
一体、何が待ち受けているのか。
アタシの長い長いグラン・パナゲアでの旅が幕を開けようとしていた。
~ 8th Scene End ~
第2章「アタシと、ローナ村」≪ 完 ≫
これで、チヒロの2つ目の冒険は終了です。
お疲れさまでした。
このまま、「第2章 あとがき」へ進んでください。




