2-≪ 61 ≫
≪ 61 ≫
小人族――。
そうだ、ロイズさんの話にあったっけ。
ディス・ノグディスには人族以外の種族、全部ひっくるめて魔族と通称する種族達がそれぞれの文化を持って暮らしてるって……。
ここに来る道すがら、小人族は、そのディス・ノグディスの精霊樹林に棲んでいる種族だってフジサキから聞いた。
「そうです、そうです。よくご存じですな、お嬢さん」
ピスタさんがちょっと嬉しそうに頷いた。
フジサキが「小人族は成人しても人族の子供位にしかならないそうですが、寿命は人族の3倍あるそうですよ」と補足説明してくれた。
ナイスだ、フジサキ。
きっとピスタさんも、見かけは子供でも立派な大人なんだろう。
知らなかったら失礼ぶっこいちゃったに違いない。
ふと荷馬車の脇を見ると、これまた初めて見る種族の男性がいた。
天然のケモノ耳と、尻尾……。
「マスター、あの方は……獣族、アマローク族の方のようですね」
「へえ……」
「じろじろ見ては失礼ですよ」
フジサキにそう注意されたけど、アタシは目を逸らすことができなかった。
だって、ここにオタクがいたら涎を垂らして飛びつく存在だ。『2次元が3次元になった奇跡』と言っても過言ではない。
長身のその男は灰色の髪にピンとたった犬耳、鋭い灰色の目、鍛えられた褐色の肌、ローマ時代のグラディエーターの様な皮製の軽装備を身にまとい、剥き出しの腹部は腹筋が綺麗に6つに割れている。
カレーのルーみたいだ。後ろから押したら飛び出すんじゃないだろうか?
更にピッチリパッツンパッツンの革製のズボンからはフサフサの尻尾が出ている。
腰には使い込まれていそうな分厚くて刃先が反った剣を携えていて、腕を組みながら絶えず辺りを警戒するように見回している。
「ほほう、お客様。ソールが珍しいようですね? 残念ですが、彼は当店の大切な用心棒でございます。非売品でございますので、販売はしておりません」
穴が開くほどソールという名前の彼を見つめていると、肩から下げた鞄から分厚い台帳を取り出し、村人からの注文を書き取っていたピスタさんが笑いながら話しかけてきた。
商人ジョークなんだろうけど、結構笑えないタイプのヤツだ。
「あ、すみません。人族以外の種族の方を初めて見たので」
「なるほど、そうでございましたか。そちらの御仁が仰っていた通り、彼はアマローク族出身で頼りになる旅のパートナーでございます」
アマローク族――。そう言えば、広場に着くまでにフジサキが話していたっけ。
「狼の様な耳と尾を持っており、聴覚と嗅覚、また俊敏性に長けた種族であり、集団で狩りを行う生活をする狩猟民族です。獣族は、人族よりも遥かに優れた肉体と鋼のような忍耐力を兼ね備えているため、過去のイオ・ヒュムニアの戦争では傭兵にするために、たくさんの獣族が奴隷として連れてこられたそうです」
元の世界で言うなら、アフリカの黒人奴隷のような扱いだ。
現在は獣族の奴隷輸入は厳重に取り締まられている。
おそらくソールさんは戦争で連れて来られた奴隷の末裔なのだろう。そんな歴史があるため、獣族は人族を極端に嫌っている。
……そうか、フジサキはテレサさんに小人族と獣族の行商人だと聞いていたから、アタシに長々と説明してくれていたのか。
情報の提示はアタシが頼まない限りしないのに、妙によく喋るな、と思ってた。
このまま、≪ 151 ≫ へ進んでください。




