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そんな事を考えている内に、アタシ達は30分ほどで村長の家に着いたのだった。
「僕はここで待っているから」
そう言ってアタシをあっちゃんから降ろしてくれたフランツ副隊長は、門より先には入って来なかった。
気を使ってくれているのだろう。
玄関の前に立つ。
一晩中、考えていた事を思い出そうとするが……ここに来て頭が真っ白になってしまった。
何と言って別れを告げれば良いのか……。何と言えば、二人をガッカリさせずに済むのか。
あれだけ考えたのに、何一つ思い出せない。
数分間、玄関の前で棒立ちになっていた。
覚悟を決めて、いざドアをノックしようとするとそのドアがゆっくり開いた。
「あ……」
「おかえりなさい、チヒロさん。さぁ、早くお入り」
そこには、出会った時と同じ優しい笑みを携えたロイズさんが立っていた。
突っ立っているアタシに「おかえりなさい」と言って、家に招き入れてくれた。
さらに、
「迎えに行ったのに連れ帰れなくて、本当にすまんかった。役立たずな年寄りを許しておくれ」
と頭を下げられてしまった。
「あの……そんな。ロイズさん、私……」
「あらあら、おかえりなさい、チヒロさん!」
奥から、テレサさんも出てきた。
「お腹が空いたでしょ? 今、朝食に――」
「ごめんなさい、ロイズさん、テレサさん。アタシ……アタシ、この村を出て行くことにしました。この後、城塞都市マルトゥスにフジサキと一緒に移送されます。外で副隊長さんを待たせているんです。すぐ、行かなくちゃいけないんです」
「……」
テレサさんの言葉をさえぎって、言いたかったことを一気に吐き出した。
アタシは二人に頭を下げる。
申し訳なくて、そんな事しか言えない自分が恨めしくて顔を上げられなかった。
「アタシ……何て、言ったらいいか……」
「チヒロさん……」
「ごめんなさい……」
「謝る必要なんか全然、ないわ」
思わず俯く。
そんなアタシの肩に、ロイズさんの温かい手が触れる。
そして、テレサさんの温かい声が、アタシの耳に。
「貴女はいつか、ここ出て行くんだと覚悟したいたのだから……。。ここに貴女を留まらせてはいけない。そう自分達に言い聞かせて……」
「でも、アタシ……『終末の巫女』としての役目も、自分で勝手に始めた仕事も、全部放り出して行こうとしてるんです。アタシはずるいんです」
耐え切れずに、アタシは涙を流した。
ボロボロ零れ落ちる涙をテレサさんが優しい手つきで拭ってくれる。
いつでも優しく接してくれたテレサさん達を裏切る。
あぁ、アタシはやっぱり悪いヤツだ……自己嫌悪で胸が一杯になっていく。
「泣かないで。貴女はずるくなんて無いわ。貴女をここに引き止めたのは私達なんですもの。ずるいのは私達の方よ。チヒロさんは何にも悪い事なんてしてないわ」
「でも……でも、アタシはッ!」
「これ以上、自分を責めないでちょうだい。貴女から、私達も村の人達も、十分過ぎるほどたくさんの幸せを貰ったわ。だから今度は、貴女が幸せになる番……」
テレサさんはアタシの言葉を遮って強い口調でそう言った。
もうこれ以上、アタシが罪悪感に囚われないように。この村に未練を残さないように。
「テレサさん……」
「いってらっしゃい、チヒロさん。誰よりも幸せになってちょうだいね」
「……はい」
アタシ達は再び抱き合って、泣いた。
アタシは声を上げて泣いて、テレサさんはそんなアタシの背を撫でながら静かに涙を流していた。
ロイズさんはアタシ達二人を包み込むように腕を回し、優しく頷いていた。
こんなにも優しい人達に囲まれていたアタシは、何て幸せ者だったのだろう。
それが束の間であっても、アタシは決してこの村を、この人達を、生涯忘れる事はないだろう。
……そう、思った。
★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 別 】を失いました。
★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 会 】を手に入れました。
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