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「あの、フランツ副隊長さん。一つだけ、お願いがあります。ここを発つ前に、居候させてもらっていた村長ご夫妻だけには、お礼とお別れを言いたいんです。……駄目でしょうか?」
駄目と言われるのを覚悟で聞いてみる。
するとフランツ副隊長はふぅと小さく息を吐いて、
「実を言うとね、村長さんがここに来たんだよ」
と意外な事実を語った。
「え、ロイズさんが?」
「この陣に1人でいらっしゃったんだ。無実の若い女性に大の男が寄ってたかって何事だ! 恥を知りなさい! チヒロさんを今すぐ連れて帰る! ……って。大変お怒りになってね。隊長が何とか説得して。、やっと帰って頂いたんだ。つい、2時間ほど前の話だよ」
ロイズさん、来てくれたんだ。全然、気が付かなかった。
あの温厚なロイズさんが怒りを露わにして、騎士たちを一喝しただなんて信じられない。
ローナ村からここまで結構な距離があるのに、たった一人で――。
とある日の記憶が蘇る。村の集会所に向かう途中、急に立ち止まってしまったロイズさん。
アタシが「どうしたんですか?」と覗き込めば、ロイズさんは膝と腰を摩っていた。
上がってしまった息を整えてからアタシを見上げて、
「ほほほ、ワシももう歳ですなぁ」
と寂しそうに笑っていた姿。
決意が揺らぎそうになる。
駄目だ、流されちゃいけない。
しっかりしろ、アタシ。フジサキの言う通り、自分の目標を最優先にしなきゃ!
「明朝の出発前に1時間だけ時間をとろう。万が一のために僕が同行することになるけど、いいね?」
「はい、ありがとうございます。あとフジサキのことなんですけど、彼と一緒のテントにしてもらえませんか?」
「……君がそれで問題ないなら構わないよ。好きにしたらいい」
そこで会話は終了した。フランツ副隊長は別のテントへと入っていった。
アタシ達も護衛の騎士に誘導されてテントに入った。
テントに設置された簡易ベッドに横になる。
フジサキにはベッドの側の椅子に座ってもらった。
「お休みなさいませ、マスター。何かございましたら何なりとお言い付けください」
そう言って、フジサキはテントの出入り口の方に目を向けた。
眠らないフジサキは夜通し、何があってもすぐさま対応できるように警戒に当たるのだろう。
どうして、そこまでしてくれるのだろうか?
アタシの持ち物だからというのでは、理由にならない気もする。
目を閉じてみるが、一向に眠気はやって来ない。
明日の朝、ロイズさんやテレサさんに再会したら、まず何と話しかけよう。
そして何と言って別れれば良いのか、全く思いつかない。
戻って来ないアタシとフジサキをきっと、今この瞬間も心配しているはずだ。
2人にだけ挨拶をして、自分勝手な理由で去るアタシを2人は怒るだろうか? 失望するのだろうか?
考えれば考えるほど、眠れなくなっていく。
ただ目を瞑って「このまま朝なんて来なければ良いのに」と、刻々と迫る夜明けを呪った。
※ここでは、所持している【 Key word 】により所持状況が変わります。
①【 Key word 】の【 礼 】を持っている場合
★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 礼 】を失いました。
★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 別 】を手に入れました。
②【 Key word 】の【 礼 】を持っていない場合
★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 別 】を手に入れました。
※【 Key word 】がMAXの25個だった場合は、もっとも古い【 Key word 】を破棄し、【 別 】を入手して下さい。
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