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JKのアタシが異世界転移(以下略)ゲームブック版  作者: 加瀬優妃
第2章 アタシと、ローナ村
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2-≪ 27 ≫

≪ 27 ≫


 再びテントから出て行くフランツ副隊長の背中を見送り、何と返事をすべきか一人考えた。

 答えは殆ど決まっていた。ただ、このアタシの判断を後押ししてくれる言葉が欲しかった。

 きっとアタシは悪者になりたくない、皆を裏切る……後ろめたさで一杯になっていたんだと思う。


「マスター」


 半日ぶりに聞くその声に、アタシの涙腺は限界に達しそうになった。

 潤んだ目でテントの出入り口を見ると、相変わらず無表情のフジサキがフランツ副隊長に付き添われて立っていた。


「マスター、ご無事ですか? 拷問などは――」

「フジサキッ!!」


 アタシを心配して、そう問いかけながらこちらに向かって来ようとしていたフジサキにアタシは飛び付いた。

 やっと得られた安心感から涙が出た。

 でも涙を見られたくなくて、フジサキの胸に顔を押付けてギュッとしがみ付いた。


「マスター……一体、どうなされたのですか?」

「僕は表に出ているから。話し合いが終わったら呼んでくれ」


 場の空気を読んだのか、フランツ副隊長がバツの悪そうな顔をしてテントから出て行った。

 その気配を感じて、アタシはフジサキにしがみ付いたまま声を殺して泣いた。

 泣き続けるアタシを最初は困惑した表情で見ていたフジサキだったが、やがてぎこちない手つきで頭を撫で始め、アタシが落ち着くまで黙って待ってくれた。

 だいぶん落ち着いてから、アタシは呟くように話し始めた。


「フジサキ、アタシを汚いヤツだと思う?」

「マスターは毎日、濡らしたタオルで身体を拭いていらっしゃったので、ある程度は清潔かと判断します」

「いや、そういう物理的な意味の汚いじゃなくて……これからアタシが言う事を、フジサキならどう思う?」

「どういった事でしょう?」

「アタシね………ローナ村には、もう戻らない。このまま城塞都市マルトゥスに行こうと思う」

「はい、了承致しました」


 悩んだ末の決意をフジサキに伝えると、彼は声色一つ変える事無く即答した。

 フジサキは人間じゃないから、こういう返事をされても仕方ないと頭の中では分かっているのに、どこか否定して欲しかった、怒って欲しかったと思っている自分がいた。


「アタシさ、ローナ村の人達に受け入れてもらえて嬉しかったんだ。ロイズさんとテレサさんは凄く優しいし、村の人達は歓迎会もしてくれた。無理やり提案したアルバイトも皆、助かるよって言って喜んでくれた……」

「はい」

「でもアタシは……村の誰かにスパイかもって密告されただけで、ローナ村の皆を信じられなくなっちゃった。『終末の巫女』の肩書きも、自分で勝手に始めたバイトも、全部中途半端に投げ出して……ロイズさんとテレサさん、あんなに親切いしてくれたのに……早く元の世界に帰りたいからって……ぽっと出のフランツ副隊長に提案されたことを全部鵜呑みにして……ローナ村から全力で逃げ出そうとしてる……アタシって、とんでもなく悪いヤツだよね?」

「マスター」


 途切れ途切れに心境を言葉にしていく。

 一度は止まったはずの涙がまた頬を伝って零れ落ちる。

 アタシは本当に自分勝手なヤツだ。

 結局は自分の事しか考えてなかった。優しい村の人々を利用したのだ。


 フジサキがアタシの肩に手を置いて、そっと優しく引き離した。

 やめてよ。泣いてるアタシの顔はいつも以上に不細工なんだから。

 絶対に見られたくなかったのに……。


 フジサキは腰を屈めて、目線をアタシに合わせた。

 その一点の曇りも無い、真っ直ぐな視線から逃れたくて、アタシは下を向いた。

 アタシを見つめたまま、フジサキは静かに語り出した。


「マスターは決して『汚いヤツ』でも『悪いヤツ』でもございません。人はより良い条件を提示されればそちらに移行する、それは当たり前の行為でございます」

「……」


 フジサキの言葉にアタシは唇を噛み締める。フジサキはなおも淡々と続けた。


「マスターには『絶対に元の世界に帰る!』という明確な目標がございます。目標達成のための最短コースを選択していくのは大変よろしい事でございます。残念ながら、今の私には人間の感情起伏、マスターが感じていらっしゃるローナ村の方々への後ろめたさというものを理解することが出来ません……ですが」

「……ですが?」

「マスターがどんな選択をなされようとも、例えそれがこの世界を敵に回す選択であったとしても、私はマスターと共にその選択を全う致します。それが私の役目だからでございます。私はいつでもマスターの隣で、マスターをお守り致します」


 その言葉にアタシは顔を上げた。滲む視界の向こうで、一瞬フジサキが微笑んで見えた。

 目を擦ってもう一度見てみたが、どうやら目の錯覚だったらしい。

 彼はいつも通りの綺麗なポーカーフェイスだった。


「フジサキ」

「はい。何でございましょう?」

「今の言葉……信じていいの?」

「はい。私は機能上、『嘘』というものをつくことが出来ませんので、ご安心ください」


 フジサキの言葉を最後まで聞く前に、アタシはその首にしがみ付いた。

 いきなり抱きついたというのに、フジサキはビクともしなかった。


「……ありがとう。……グスッ」

「どう致しまして、マスター」


 その後、アタシはフジサキにしがみついたまま、声を上げて泣いた。

 いろんな感情が混ぜこぜになって溢れ出した涙だった。

 ずっと溜め込んできた物がここに来て、全て放出されてしまったのだ。

 泣いている間、フジサキはずっと中腰のまま動かなかった。

 ただ、静かにアタシを受け止めていてくれた。

 テントの外までその鳴き声は聞こえていただろうが、そんなことを気にしている余裕なんてその時のアタシにはなかった。



★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 後 】を失いました。

★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 嘘 】を失いました。

※持っていない場合は、何も変化はありません。


★チヒロは【 Key word 】の1つ、【 涙 】を手に入れました。



 ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻したあと――アタシはテントの外に出た。

 そこには、フランツ副隊長が待っていた。





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