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数字の見えるフットボーラー  〜世界一の選手を目指して〜  作者: シャーロック
第1章 U20ワールド杯カタール大会(95年)編
7/10

⑥U20ワールド杯 inカタール

@ジャシム・ビン・ハマド・スタジアム (対アルゼンチン戦 ナイトゲーム)

レオン・龍馬・エドワーズ


 前回の対スペイン戦の勝利(ベスト4進出)から中3日。現在、イングランド代表は準決勝の試合の真っ只中。後半30分、2-1でアルゼンチンにリードしている。


 一週間前に俺とクリステンセンさんと食事を共にした“ヒデ”こと中村 英明の日本代表はベスト8の試合でアルゼンチンに0-2で無念の敗退。この準決勝で日本代表との対戦を楽しみにしていたのだがまたの機会となってしまった。


 ヒデは一足先に日本への帰国となったが、俺とヒデは大会後の日本でのオフシーズンバケーションでの再会を約束した。大会の優勝報告ができるよう負けられない。


 この試合は前回のスペイン戦と打って変わってイングランド代表もポゼッション率は高い。司令塔のポート(中央OMF)さんが相手を引きつけ、前線の(くさび)となってクリステンセン(ST)さん、ガリア(右OMF)さん、(左OMF)が自由に攻め続けている。


 残り時間も少なくなって焦っているのかアルゼンチン選手のプレーが荒くなってきている気がするが……


『ピーーッ!!! アルゼンチン9番、今のは危険なプレーだ! 退場しなさい!! 』


 ポートさんからスルーパスを貰おうと、ちょうど相手DF(ディフェンスダー)の裏に走り出そうとしていた俺は、主審の笛の音に振り向いた。


『うッ……』


 左足首を抱えてフィールドに倒れ込んでいる背番号【10】のユニフォームと傍に立って申し訳なさそうな顔のアルゼンチン9番が見えた。ポートさんが接触プレーでケガだろうか……


 すぐにチームスタッフが駆けつけるがポートさんは立ち上がることができなさそうだ。スタッフの担架を要請するジェスチャーにイングランドベンチが慌ただしくなってきた。


 ベンチ前ではLW(レフトウィング)が適正ポジションのハモンドさんがマカリスター監督から指示を受けて準備している様子が見えた。


 選手交代のプラカードが掲げられ背番号【10】ポートさんと【12】ハモンドさんの交代が告げられ、ハモンドさんが俺の立つ左OMFのポジションへ走ってやってくる。


『レオン、ポートの代わりにトップ下を頼む。俺が左サイドだ。』


『ポートさんは大丈夫でしょうか……』


『恐らく打撲か捻挫だとは思うが、念のため病院で検査だろうな。お前はトップ下で司令塔になってくれ。アルゼンチンの人数少なくなった分、もう1点狙うくらいでいけってポートからの指示だ。』


 俺はわかりましたと伝えポートさんの代わりにトップ下へ向かおうとすると後ろから、


 『守備は両サイドとボランチがやるからお前とクリステンセンはあんまり下がらなくていいからな。』


 ハモンドさんはそう俺に声を掛けると試合再開のFK(フリーキック)に備えてPA(ペナルティーエリア)付近に並んだ列へ入っていった。


 緊急事態に俺が心の準備をするまでもなく、試合再開のホイッスルが聞こえ、FKをウルク(右CB)さんがPA内へ蹴り込んだ。


『ウジウジしたって仕方がないんだ。俺はトップ下の2番手だってもともと監督に言われてたじゃないか。フットボールにアクシデントは付き物なんだ』


 俺はそう自分に言い聞かせ、周りの雑音が遠くに聞こえるぐらいに試合に集中しなおすのだった。


——————

ウェイン・ポート 視点 (U20英代表・中央OMF・背番号【10】・チェルシー所属)


 視界の左端にレオンがスペースを見つけ、走り出そうとしているのが見えた。その先へスルーパスを差し込もうとドリブルを細かくした瞬間、足首への衝撃を感じ、俺は空を見上げて吹っ飛んだ。


 遅れてやってくる左足首の鈍く響くような痛みに声すら出ない。


 痛みで一杯一杯の俺に、遠くでかすかに聞こえる審判の退場の掛け声と心配して駆けつけるガリアの声が聞こえてくる。


『ポートさん大丈夫ですかッ! 審判ッ! スタッフを呼んでくださいッ! 後ろからスライディングするなんて……』


『大丈夫だ、ガリア。ビハインドで焦ってたんだろ。立てるから、心配ないよ』


 痛みをこらえて立ち上がろうと足を地面に付けるとまた激痛が走った。


『うッ……』


 駆けつけてくれたスタッフさんが足を触診で見てくれるが、触られるたびにズキンとくる。ユースの時に骨折した際に感じたような骨の痛みは感じないため、恐らく捻挫か打撲のようなケガだと思うが今日のプレーは無理そうだ。


『無理はしないほうがいい。残念だが今日は交代だ』


 メディカルスタッフさんの交代宣言で俺は担架に乗せられて運ばれる。途中で交代出場するハモンドとすれ違った。


『後は頼む。レオンにはもう1点狙えって伝えてくれ。ケガは心配ないと……』


『わかった。レオンなら大丈夫だろう。今大会はお前のプレーばっか見てたみたいだしな。ゆっくり休め』


 そういうとハモンドはレオンのいる左サイドへ走っていった。


 ポートが医務室へ運ばれる担架の上で、あと1勝で決勝戦だというのにこんなところでケガなんてするんじゃねぇと自嘲する中、フィールドからは試合再開の笛が鳴るのが聞こえた。


——————

マルス・ガリア 視点 (U20英代表・右OMF・背番号【8】・エバートン所属)


 ポートさんがケガで下がった後、戸惑うようにプレーを始めたレオンだったがすぐに切り替え攻めの姿勢を前面に押し出し始めた。


 代表合宿ではトップ下を担うことはあったものの、本大会が始まってからは一度もその役割を担ってこなかったにもかかわらず、このアクシデントに際してチーム最年少のネクストエースと呼ばれる彼は、その存在感を示し始めた。


『相手が10人とはいえ、レオンがボールを持ったら一方的じゃないか……』


 試合再開直後のFKは相手に確保されたもののその後は常にイングランドが攻撃する展開になっている。今もまた、レオンがボールを持てばすぐさま前を向き、相手を1人、2人と抜き去ってPA(ペナルティーエリア)へ迫っていく。


 その緩急入り混じった相手を翻弄するドリブルはLW(レフトウィング)ハモンドの十八番だし、切れ味鋭いシザースはケガしたポートさんを彷彿させるプレーだ。


 相手の股下にボールを通し、最短距離で中盤を駆け、相手ゴールへ進んでいく(さま)はイングランド代表エンブレムに描かれる獅子(スリーライオンズ)の如き強さだと俺は思った。


 そんなレオンの独壇場に、たまらず俺やクリステンセンさんのマークについたCB(アルゼンチン)がレオンを止めに行けば、空いたスペースに俺やクリステンセンさんが走り込んでチャンスを演出する。


『レオンッ!! パスッ!! 』


 空いたスペースで俺がパスを要求すると、STクリステンセンさんのようなお洒落なアウトサイドパスできっちり俺の足元へ収まるパスを出してきた。


 そんなうち(イングランド)の攻めのバラエティーさに対応が遅れる相手GKを横目に、俺は狙いすましたシュートをゴールマウス隅へと放って、レオンにお膳立てされたこのチャンスをしっかり物にしたのだった。


 そんなゴールと共に試合終了の笛が吹かれ、アクシデントはあったもののイングランド代表は決勝へコマを進めた。


 得点を決め、ゴールパフォーマンスを終えた俺はラストパスを出したレオンのほうを見たとき、相当集中していたのかゾーン(極度の集中状態)に入っていて俺の視線に気づかない彼の背後に、大きなライオンの幻影が見えた気がした。


『レオはラテン語でライオンだったか。名前(レオン)に負けない活躍は、さながらライオンキングだな……』


 俺がボソッとつぶやくと、


『ふゅ~~。ガリアもそう思ったかい? レオンちゃんはこれからまだまだ成長しそうだよ』


 ちょうどゴールセレブレーションで横にいたクリステンセンさんも俺と同様にレオンを見つめてそう言った。


 代表内で最年少ながら期待以上の活躍を周囲に示し、このアクシデントで存在感を発揮した後輩に、ガリア達U20英代表は新たな未来の代表エース誕生を予感せずにはいられなかった。


本日まとめて投稿されますのでよろしければ最後までどうぞ。

よろしければブックマーク・いいね・評価もよろしくお願い致します。


『数字の見えるフットボーラー(監督編)』共々、ご覧いただければ幸いです。

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