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育ててくれたオネェな彼に恋をしています  作者: 空乃智春
本編:後日談(アカネ視点)
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【17】新しい夢

前回に引き続き、R15回。最終話となります。

「おはよう、アカネ」

 目を覚ませばトールがわたしを見つめていた。

「おはようございます、トール」

 まだ寝ぼけた頭で返事するわたしの頬を、トールが蕩けるような顔で撫でてくる。


 あぁ、幸せだとその手の感触を味わうようにうっとりと目を細めれば、トールが口付けをしてくる。

 額にじゃなくて唇に。

「ん……ふっ、あっ……トール?」

 目と鼻の先にあるトールの端正な顔が、可笑しいと言ったように笑う。


「なんで驚いてるの? 昨日あんなにしたのに」

「えっ……あっ」

 言われて目の前のトールが、わたしが子供によく知っていたトールと違うことに気付く。

 歳は変わらないけれど、髪は短くて。

 何よりもわたしを見る目が、あの時とは違う意味で甘い。


 見ればトールは裸で、わたしも同じだった。

 朝の光と白いシーツの色が爽やかな中、見下ろした自分の体に淫らな赤い跡がいっぱいついてるのを見て、かぁっと熱が顔に集まる。

 体がだるくて、腰が重かった。


 いつも優しくて女の人よりも女の人らしいトールが、昨日はそうじゃなくて。

 男らしくてかなり意地悪で……翻弄されてしまった。

 思い出せばどうしても体の奥が熱くなる。


「アカネったら可愛いから、とまらなかったわ。ゴメンね?」

 謝ってるトールだけど、あまり誠意はなくて。

 むしろわたしが悪いのよと言いたげだった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 トールがフレンチトーストを作ってくれて、それを裸のままベッドの上で食べる。

 普段だったらトールが絶対にさせてくれないこと。

 なんだか甘やかされている。

 特別な気がして、悪戯を思いついて。

 トールがくれるトーストごと指を食んでみたら、逆に食べられてしまいそうになって、うかつな言動は危険だと昨日学んだばかりなのにと反省した。


「ねぇ、アカネ。あたしね、新しい夢ができたのよ」

 ふふっと後ろからわたしを抱きしめて、トールが笑う。

 トールは上半身裸で、触れた肌から直に体温が伝わってくるのが、少し照れくさくて――それでいて心地よかった。


「可愛いお嫁さんと子供達に、自分の作ったお洋服を着て、料理をたくさん食べてもらって……パパって呼んでもらうこと」

「トールそれって」

 振り返ろうとしたわたしの左手をとって、薬指にトールが指輪をはめた。


「サイズはぴったりね。受け取ってくれるでしょ? アカネ」

 左手の薬指を眺める。

 そこにはトールから貰った指輪。

 これが何を意味するのかくらい、わたしにもわかる。


「トールっ!」

 振り返って抱きつけば、勢いが付き過ぎてトールをベッドに押し倒してしまう。

「あたしのお嫁さんになってくれる?」

 そう言ってトールがわたしの髪を梳いてくる。

「……はい」

 涙声でうなづけば、涙でぐちゃぐちゃになったわたしの顔にトールはキスをしてくれた。


「トール、玩具で悪いんですけど。これ……受け取ってもらえますか」

 トールの上に馬乗りになって、ずっと胸に下げていた指輪を外す。

 ふわりとトールが微笑んで、左手を差し出してくる。


「あぁその指輪ね。本当は、あの時も受け取りたかったのよ?」

 そう言ってくれることが嬉しくて、また泣き出しそうになる。

「トールは、いつからわたしを好きになってくれたんですか……?」

「大人のアカネに出会った日から、もう惹かれてたとは思うんだけどね。それを抜きにするといつだったかしら」

 震える手でトールの指に指輪をはめれば、満足そうにトールがそれを光にすかした。


「多分、口紅あげた頃にはアカネをそういう意味で意識してたんじゃないかと思うのよね。ただ、大人だって、一人の女の子だって認めたらアカネがいなくなりそうな気がして……気持ちに蓋をしてたんだと思う」

「そんな前から?」

 思いがけないトールの告白が嬉しい。

 嬉しすぎて、夢じゃないかと思うくらいだ。


「でも、完全に自覚したのは……アカネがヴィルトから貰った薬で大人になった時ね。何もなかった、なんていったけど。お嫁さんにしてくださいなんて迫られて、あたしの全部が欲しいなんて言われて。押し倒されて、簡単に落ちちゃったから」

 くすくすと思い出すようにトールが笑う。


「キスまでして、アカネからも返してもらって。自分の気持ちを自覚して、想いが通じ合ったとおもったら、七歳の姿に戻って全部忘れてるんだもの。結構ショックだったのよ?」

「そ、そんなことまでしてたんですか……!」

 エルフの薬を飲んで大人になった時の記憶はわたしの中から消えていて、それが物凄く悔しい。


「何でわたしは覚えてないんでしょう……」

「まぁいいじゃない。あの時の可愛いアカネも、告白も。ちゃんと全部あたしが覚えてるんだから」

 くるっと体勢を入れ替えられて、トールがわたしの上に覆いかぶさる。

 この体勢だと、トールのわたしとは違う肩幅とか、男の人だなとわかる胸板とかがよくわかってドキドキとしてしまう。


「アカネ、愛してる」

「……っ!」

 不意に男の人の声で言うから、心臓が跳ね上がったようにうるさくなる。


「育てた子を自分で、なんてちょっと背徳的で男のロマンだけど。最初から好きな人なら……育てて自分好みになるのは当然なんだよな」

 ふっとトールが笑って、キスをしかけてくる。


「アカネの存在全部が、俺のためにあるっていう気がする。最初からこうなるためにアカネは、俺の前に現れてくれたんだ」

 出会えてよかったと、トールが呟いた。


 現実の世界でお母さんはわたしを捨てて、ひとりぼっちで。

 そう言ってくれる人は、誰ひとりいなかった。

 幼いわたしはいる意味なんてなくて、誰にも必要とされなくて。

 でも、そんなわたしを――トールは愛してくれて、大切にしてくれた。

 出会えてよかったと思っているのは、わたしのほうだ。


「トールがいなければ、わたしはここにいないです。わたしの全部は、トールがくれたものでできてるんですよ。だから全部全部、トールのものです」

 ぎゅっとトールの頭を抱きかかえる。

 この気持ちが少しでも伝わるように。


「全くアカネは、どれだけ俺を喜ばせるんだろうな?」

 目を細めてトールは微笑んだかと思えば、耳を食んできた。

「んぁ!」

「人が大切にしたいから自制してるのに……いつだって、その決意を崩しにくる」

 まるで肉食の獣を思わせるような光が、トールの目には灯っていて。

 楽しそうで少し意地悪な笑い方で、わたしを見ていた。

 

 トールの体の重みが重なると、ふわりとバニラの香りがして。

 甘くて落ち着く香りのはずなのに、その香りにドキドキと心臓が高鳴る。

 重なる唇や、触れてくる手が熱くて、体がまた熱を持っていくみたいだった。


「んぁ、トールっ」

 抗議するように声をあげれば、くすりとトールが笑う。

「アカネは俺のものなんだろ? なら、それをもっといっぱい味合わせて」

 嬉しそうに言うトールは、今までとは違う顔。

 娘のアカネだったときには見れなかった、少し甘えてくるようで意地悪なトールの一面。

 答えるようにキスを返せば、体全部でトールが好きだと伝えてくるから嬉しくなる。

 

「愛していますトール」

「俺も」

 そうやってトールが返してくれることが、想いが届いたことが嬉しくて。

 生まれてきてよかったと、心の底から思った。

「R15&お月様甘々企画」によって選ばれた、トール&アカネの「R15」話はこれにて終了です。読んでくださった方ありがとうございます!

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「育てた騎士に求婚されています」
前作。ヴィルトが主役のシリーズ第1弾。
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