こいつら何なんだ!
健一は、授業中何度も美智子の席を確認した。
今日、美智子は元気そうだったが、今はいない。健一同様、一輝、美由紀、彩、橋本も美智子の身を心配している。
だが、心配しても意味はないと悟り、授業に集中することにしようとした。
その時、彩は窓の外を見て驚愕する。
美智子たちは、あの撃てれた死体が入っている部屋を見た。ドアが閉まっているせいで、何も見えない。物音がしていた。
「岡田、石井」と梶尾がご指名した。
2人はゆっくり、ドアに近寄る。それ以外は拳銃を構え、2人を援護できる形にした。
石井がドアノブに手を伸ばし、今まさに開けようとした。
彩は、校門から、フラフラと入って来た男の見た。
それは、ボロボロで赤黒い染みだらけのコートを着込んで、ぎこちない動きで近寄っていた。
彩は、男の観察した。40代男性で薄毛。体格は良い。
男は、外で授業を受けている生徒たちに近寄った。
生徒たちはおびえていた。
小柄の教師が男の近寄った。追い返そうとしたのだろう。
その時だった。
石井はドアを開けた。
ドアの中は暗かった。
だが、その時、石井は何かに首を絞められた。同時に、それは姿を現す。
それは、撃たれたはずの少年だった。少年は石井の喉笛に噛みついた。
「何なんだあれ!」と岡田が言った瞬間、少年は石井の喉笛を食いちぎった。そして、石井の首をつかみながら、美智子たちの向き、人間離れした恐ろしい奇声を発した。
美智子は思わず悲鳴を上げた。同時に梶尾ファミリーの幹部全員が拳銃を撃った。
弾丸は次々と少年の体を撃ち抜いたが、少年は怯む程度で倒れることはなかった。何度も銃声が響いた。
少年―――いや、化け物は、瀕死の石井を捨てると、今度はグエンに襲いかかった。グエンのの喉笛を食いちぎろうと顔を近づける。
岡田は少年を羽交い締めした。少年は拘束からもがこうと暴れていた。
梶尾が動いた。
クローゼットから散弾銃を取りだし、構える。
「伏せろ!」
岡田は伏せる。銃声とともに、少年の頭が吹き飛んだ。
美智子は、ありえない光景を見て、朝食べたそうめんが口まで逆流しかけた。頭痛まで感じた。
「ボス、これはいったい……」
「わからん。ゾンビみたいな動きだった」
ゾンビ……そう、たしかしそうだ!人を食べるなんてまさにゾンビ!
「神様……」思わず言ってしまう。
「確かに正気の沙汰じゃないな」と矢川は頷く。
今度は、廊下から物音がした。
彩は見てしまった。男が勢いよく教師に跳びかかり、教師の喉笛を食いちぎった。思わず悲鳴を上げる。
クラス中から変な視線を感じ、笑い声までした。
「どうしたの?」と社会科教師の橘は窓の外を見た。
すると、橘の顔から血の気が引いた。
「嘘……」
窓側の席の生徒が外を見た瞬間、全員が唖然とし、悲鳴をあげる者もいる。
橘は早かった。教室の壁にある防犯スイッチを押した。何もなかったが、今頃職員室で警報が鳴り響いているはずだ。
すると、スピーカーから男性の声がした。
『学校内に暴徒が発生!繰り返す、学校内の暴徒が発生!生徒は体育館にひな……菊池先生、どうしたんですか?ちょ、やめ…来るな、来るな!うわああああああああ』
これが引き金だった。
教室内の生徒たちが我先に逃げようと、スライドドアで詰まってしまう。
「皆、落ち着いて!落ち着いて出るのよ!」と橘が警告するが、やがてはスライドドアがはずれ、生徒が雪崩のように廊下に出る。
彩も出ようと思ったが、誰かに押され、足を挫いてしまった。
「大丈夫?」と橘が駆け寄ってきた。
「だい…っ!」
「無理するな」と一輝が言い、橘は彩を背負った。
「先生、どこに逃げればいいんですか?」
橘は、真剣に迷った。
「まさか、再発するなんて……」
「?」
「何でもない、今は学校から出るのが先決よ」
「了解!」
カルロスは、対物狙撃銃で学校内を見た。
学校内でパニックが起きていた、生徒が生徒を襲い、襲われた生徒はほかの生徒を襲う。これではまるで……
カルロスは迷いなく無線を使った。
「屋上狙撃部隊より本部へ、どうぞ」
『本部より狙撃部隊へ、どうぞ』
「エリアTHS-01にて非常事態Aが発生、繰り返す、非常事態Aが発生」
『確認したか?』
「間違いなくそうだ」
『封じ込め作戦発動、全狙撃部隊はエリアTHS01を監視』
「了解」
これはまずい状況になった。
美由紀は、学校の外に出ようと持ったが、階段で詰まっていた。ヘリコプターの飛び交う音がさっきから気になっていた。
やっと降り切ったと思った瞬間、今度は玄関前で人々が止まっていた。
何してるの!早く言って!と叫ぼうと思ったが、状況を理解できたため、やめた。
学校の玄関が閉まっていた。そして外には、大勢の武装した迷彩服姿のガスマスクをつけた兵士たち、恐らく米兵が、警備していた。
「何よ!これ!」
「早く開けろ!」
「このガラス割れないぜ!」
「強化ガラスか!」
「開けてください!」
拡声器で拡大された滑らかな日本語が聞こえた。
「ここはNBCプロトコルに指名されました。こちらの調査隊が中に入るまで、自分たちの教室に待機してください、繰り返します」
大勢の生徒が罵った。
美由紀はわけがわからず、近くの壁に掛けた。
「どういう意味かしら」
「そんな……」
彩を背負っている橘が絶望的な表情を浮かべている。
「先生、NBCって何ですか?」
「核兵器、生物兵器、化学兵器の3つを合わせたものがNBC兵器と呼ばれているの」
「じゃ、つまり……」
「ここはそれに汚染された可能性のある建造物ということ」
すると、ここは危険ってこと?そんな………
「先生、どうすれば?」
「無理に外に出ちゃ駄目、たぶん射殺命令が出てる」
「射殺……!」
武装してるわけだ。
「ここにいても仕方ないわ、他の出口を探すか、言われた通り待機しなきゃ」
「でも、殺人が起きてんですよ?!」
「出れば死、残っても死、皮肉だな」と一輝は呟く。
美智子は、吐き気を感じながら、外の物音に恐怖を感じた。
今度は、知らない誰かが、ドアを開け、廊下に出た。
すると、その知らない人は、何かに足を引っ張られ、連れていかれた。
「くそ!安田が連れていかれた!」
岡田も続いて廊下に出た。その瞬間、岡田の顔から血の気が引いた。
「こいつら何なんだ!安田が食われた!食われてる!」
すると、今の叫びで目を覚ましたかのように、石井の体が痙攣し始めた。
「ボス、石井が!」
「くそったれ、何が何だか!」
石井がたちあがった。
「石井、無事か?」
すると、石井が振り返る。その両目の虹彩が、赤く染まっていた。石井は奇声を発した。
「撃て!こいつもゾンビだ!」
「許せ!」
グエンが拳銃で石井に撃つが、石井はいくら撃たれても、死にそうな気配を感じさせない。
「逃げろ!」
矢川は美智子の腕を引っ張り、廊下に出た。石井が、あの凸凹コンビのやせ型のほうを襲い、肩に噛みついた。
「わあ!誰か、助けろ!」
だが、グエンは石井に発砲し続けたが、それ以外は廊下に出た。
「グエン、逃げるぞ!」
「こん畜生!」
グエンは逃げた。廊下の奥で、安田という少年が、あの首を撃たれたマスクに食われていた。ついに、美智子が吐きそうになった。
「吐く暇あんなら、逃げろ!」
全員、マスクの少年とは逆方向に走った。
奥のマスク、中の石井とやせ形が、全員を追いかけ始めた。奇声を発しながら。途中で何人かが振り返って、発砲する。
だが、怯む程度で誰も死ななかった。
美智子は手錠を掛けられているせいで、うまく走れない。
あの狂った3人組が、疲れることなく追いかけてきた。
走れ、走れ、走れ!
そして階段に出た。全員何も言わず、階段を駆け上がった。
やがて、階段から近くの部屋に入り、ドアを閉めた。
だが、あの3人組がドアを開けようと叩いてきた。岡田、梶尾、グエンがドアを抑えた。
「何か、棒を!」
矢川は、近くのパイプを取り、渡した。岡田はそれを閊え棒にした。ドアは開かなくなる。
「あれは何なんだ!いったい何なんだ」まっさきに岡田が口を開く。
「いくら撃っても死なない、連中ないったい……」
「最後の審判だ」
アフロのデブが言った。志木って名前らしい。
「何?」
「見ただろ?連中は殺意に満ちて、銃弾では死なず、片手でドアを開ける。連中は悪魔に取り付かれたんだ。最後の審判を実行するために」
岡田が笑った。
「ありえない。悪魔なんて存在しない」
「いや、連中の目を見たろ?赤く光ってる、悪魔に取り付かれた証拠だ」
確かに目が赤かった。それは誰も否定しない。
美智子は部屋を見渡した。
理科室なのか、化学薬品がたくさんあった。美智子の通う高校は大きい。
梶尾は口を開く「準備しろ、連中が去ったら、学校から出るぞ」
全員が拳銃を装填した。
「待て」と矢川は口を開く。
「お前さんたちは数が減った。ここは結託しないか?」
「ふん、お前たちはデブに女、使えるのはお前くらいだろ?」
「外の状況が分からないのか?」
「どういう意味だ?」
「窓から見ればわかる」
「?」
「軍隊がここを封鎖した」
「何?」
「米軍がこの学校を封鎖した」
全員が窓の外を見た。確かに米軍が封鎖していた。
「くそ!ここから出られないのか!」
「表向きはな」
「どういう意味だ?」
「俺は脱出ルートを知ってる。俺はみんなを脱出させられる」
「嘘じゃなかろうな?」
「ならいい。学校を彷徨ってるといい。俺はこの2人を連れて、脱出する」
梶尾は考え込んだ。
「結束すれば、案内するのか?」
「ああ、だが武器と薬が必要だ」
「武器はさっきの部屋にある。薬は勝手に探せ」
そう言って、梶尾は自分の拳銃を矢川に渡した。
「裏切るなよ?それが仁義ってもんだ」
「ああ」
美智子は、まだ吐き気を感じている。




