不発弾発見
美由紀は、グランドでミニ運動会に向け、他の女子高生と男子高生と一緒に大縄で遊んでいた。八の字だ。
すると、美由紀はグランドの隅っこ、いちばん大きな木で、立ち尽くしている男子生徒の姿を見た。
「ねえ、みっちゃん、あれ何?」
出番だ、さあ飛ぶぞ!という気合を入れていた美智子の肩をたたき、美由紀は尋ねる。
「ん?あ、あれは!」
「あれは?」
「たちしょん!」
つまり、立ったままおしっこしてること?
美由紀は思わず口をあんぐりする。なんてお下品な!
すると、桜井健一が気づいたのか、大声で叫んだ。
「おい!下品だぞ、そこの男子!」
その男子が気づいたのか、赤面しながら走った。その瞬間だった。大爆発が起きた。悲鳴が学校中に響く。美由紀も思わず叫んでしまう。
美智子たちは、木の後ろに隠れ、グランドの真ん中を偵察していた。
何と、学校のグランドで不発弾が数発発見されたのだ。すぐに警察隊がやってきて、あたりを封鎖したが、好奇心優生の岡田太郎に弱みを握られ、美智子、美由紀、一輝、健一、彩、橋本、ローズは強引に同行させられる。
「見ろよ、本物の不発弾だぜ」
岡田は興奮気味に、言った。
「ねえ、現場から離れようよ」と美由紀は言った。自分のみではなく、友人の身を心配していた。
「よし、お土産に一発もって帰ろう!」
そう言って、岡田は不発弾のあるグランドに走った。
岡田を止めるべく、全員が追った。
私服警官が、岡田を抑えながら美智子に聞いた。
「何だね、君たちは?」
「この子を連れ戻しに来たんです」
男三人は、岡田を取り押さえた。
「離せよ!人権があるんだぞ!」
「下らんこと言うな!さっさと戻るぞ」
「こぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!」
どこからともなく、暑苦しい声がした。
「こんなところで、何をしてるんだぁ!」
警官全員が、その方向に向いた。
そこには、ロン毛の制服警官が汗をかきながら叫んでいた。
「ここは立ち入り禁止だぞ!」
「上田君、少し静かにできんのか?」
「警部!この子たちはまだ若い!若いい日を守るのが、我々大人の仕事…いえ使命というものです!」
「わ、わかったから!」
「こうなったら、実行あるのみです」
そう言って、突然、九本の大きな杭を、円状にさす。今度は有刺鉄線を、杭につなげ、不発弾を完全に包囲した。最後に、電流を流した。
「警部殿、これで子供たちは不発弾に近寄れません!」
「上田!お前は何をしてるんだ!」
「え?」
見れば、自分と九人の生徒たちは、有刺鉄線のフェンスで囲まれ、不発弾と一緒に閉じ込められていた。
「何してるんだばかちん!」と岡田は上田に言った。「今すぐおれたちを出せ!」
「無理だ!電流が流れている!」
「「「「「「「「「はあ!?」」」」」」」」」」と九人は同時に言った。
美由紀は震える声で言った。「それって……つまり……」
「爆弾処理班が来るまで、俺たちは不発弾と一緒に過ごすことになる」
「それはないだろう!」と健一は叫ぶ。「まだ発売したばかりのレアものイチゴプリン食ってないぞ!」
「あたしの分はあるの?」と美智子がきいた。
「俺の分だけだ!」
「はあ!あんた、少しは同居人に優しさってないの!?」
「あるわけないだろう!お前とはそんなに仲が良い訳じゃない!」
「だからって、プリンくらいいいじゃない!4つもあるんだから!」
「朝昼晩夜食の合計四つ!」
「あんた、どんだけ食い意地はってるのよ!」
「お前こそ――――」
「お前たち、いい加減にしないか!」と上田はいう。
「たかだかプリンで揉め合うな!戦争の時代はな、食えるか食えないかわからない不況の時代だった。虫や雑草を取ってはそれを食う毎日だった……」
「今は今!昔は昔!て言うか、とっとと有刺鉄線どけてよ!」
「すまん、電流が流れているんだ」
「「糞爺!」」と健一と美智子は初めて同じ意見を同時に言った。
「俺にできるのは、お前たちを守ることくらいだ」
健一と美智子と上田が揉め出した。
その間に、美由紀は不発弾から極力離れて、座り込んだ。
ひどい話だ。問題児を止めに言ったつもりが、こんなことに巻き込まれるなんて。つくづくついてない。そういえば、今日の占いでふたご座は最下位。しかも爆発的な日でしょうと言われたが、このことだなんて!
すると、彩が自分に抱きついてきた。
「美由紀さん、怖いです…!」ぎゅっと制服をつかんできた。
美由紀は優しく頭をなでる。「大丈夫よ、きっと助かる」
すると、隣に誰か座ってきた。一輝だ。
「栗山君、どうしたの?」
「何も。高橋と桜井はあの警官と揉め合ってるし、橋本はオタクばかりの話をするし、岡田は問題児だし」
なるほど、自然と自分の隣に座っただけだ。
「ねえ、あなたは怖くないの?その、死が」我ながら馬鹿らしい質問だった。こんな時は、楽しい会話をして、少しでも気分を良くすべきなのに。
「いや、怖くない」
「え?本当?」
「実は、俺はキリスト教に入信してるんだ。だから、7つの美徳を遂行しようと心がけているし、7つの大罪は犯してないし」
7つの大罪といえば、デヴィット・フィンチャー監督作品の『セブン』が有名だったかしら?あれはショッキングになれていない自分にとってはかなり衝撃的な映画だった。
すると、一輝は一息ついた。
「実のところ、死後の世界が本当にあるかが不安なんだ。そこを踏まえて、さっきの台詞は無し。本当は怖い」
美由紀は微笑む。やっぱり人間、〝死〟という誰にでも訪れる公平な運命には恐れをなすんだ。自分だって、怖い。今まさに死と隣り合わせだ。
「くそ、こんな時のために、宗教学じゃなくて爆弾構造を勉強するべきだった」
思わず笑う「爆弾なんて、勉強したがる中学生いる?」
「作りたいと思うやつがいれば、可能性は否定できない」
「でも、宗教を勉強していたの?」
「そうだ。キリストを信仰してるが、イスラムと仏とユダヤはある程度知識がある」
「ヒンドゥー教は?」
「何?ヒンディー?」
「ヒンドゥー」
「知らん」
ユダヤは勉強するのにヒンドゥーは勉強しないの?と思わずにはいられない。
すると、後ろで聞いたことのある声がした。
すると、突然上田の声が大きくなった。
「警部殿!」
「何だ?」
「俺は爆弾に詳しい。俺に任せてください」
「馬鹿言うんじゃない。爆弾処理班が後5分でくるんだ。それまでの辛抱だ」
すると、上田は警部の忠告を聞かず、不発弾4発に近寄り、1発を持ち上げた。
「逃げろ!」
警察が一斉に逃げだす。ておい!
上田は専門家らしい顔になった。
「これは原子爆弾だ。ウランやプルトニウムなどの原子核が起こす核分裂反応を使用した核爆弾で、初めて実用化された核兵器でもある。水素爆弾を含めて「原水爆」とも呼ばれる」
そんなわけないだろうと美由紀は叫びたかった。原爆は広島と長崎に落とされたきり、後は落とされていないはずだ!と言いたかったが、声に出なかった。
「みんな下手に動くな。爆発すれば、家族が死ぬ」
お前が死ねと美由紀、彩、一輝以外の全員が目で言った。
美由紀は彩と手をつないだ。どうせ死ぬんなら、あっさり死にたい。
美由紀は思わず、一輝のシャツの握る。もはや、怖くて何かに頼りたかった。
「お前、電流は耐えられるか?」
「え?」
「俺が肩車して、有刺鉄線を越えられるか?」
「たぶん、無理」
「だよな」
完全に万策尽きた顔をした。美由紀は、ただ、一輝のシャツを握る。
「俺の後ろに居ろ。爆発をまともに受けるよりはマシだ」
美智子は、恐怖というより、悲しみと怒りを感じた。自分は何も残さずに死ぬのか……
すると、健一は、言った。
「俺の後ろに立て」
「え?」
「俺の後ろに居ろ。少しは生存率が上がる」
言われたとおり、後ろに移動した。
「畜生、どうせなら、お前とプリン食いあって、意見を出し合いたかったな」
「え?」
「何でもない。気にするな」
すると、岡田は叫んだ。
「俺のせいだ!俺のせいでみんな……すまない!ごめんよ」と言って、号泣した。
ここにいる全員が死を覚悟した。もはや、避けられない運命だ。きっと、死神は若い魂をいっぱい手に入れられて、満足するだろう。
上田は、爆弾を落としそうになった。全員がまずいと思った。だが、上田が即座にクッションになったため、爆発には至らなかったが、寿命が縮まった。
すると、映画で見るSATを輸送する車と、米兵が乗ったハンヴィーが多数、校門から入ってきた。あの警部が駆け足で近寄った。
「朗報だ!警察とアメリカ軍の爆弾処理班がついたぞ!助かったぞ!」
全員が安堵の息をもらす。そして反省した。今度は弱みを握られても、絶対に危険物には近寄らないと。
その後、9人は無事に助かり、不発弾は処理された。もちろん、9人は警察のお叱りを受けたが、上田が解雇処分を受けると知ったとき、可哀そうだとは思ったが、自業自得だとも思った。
この日、9人の絆は深まった。
町はずれのコンビニ。アルバイトの男性は、いつもどおり、床をモップ掛けした。
イヤホンで音楽を聴きながら、掃除をしていると、突如、小さな揺れを感じた。
「何だ?強盗か?」
そう言って、レジからベットを取ると、外に出た。
すると、外には【それ】が居た。
男は恐怖のあまり、コンビニに戻ったが、それは窓を割って侵入してきた。
次の瞬間、男の首は消えていた。




