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第十九話  卒業式


「あっ、マヨネ〜!!」

「こっちこっち!!」


 学校に着くなりラブとドリームに声をかけられる。

 駆け寄ってきた二人とおめでとうと言い合っていると、お互いの両親も追いついてきた。

 シェルトもそうだろうって言ってたけど、やっぱりお母さんがテンセイシャで。私に気付いて一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑んでおめでとうと言ってくれた。


「お店に行くからね」

「そうだよ。話しに行くからね」


 まだ式も始まらないのにもう泣きそうなドリームが抱きついてくる。


「ありがとう。待ってるよ」


 二人はこの街で就職するから、またすぐ会えるよね。


「そこは話しにじゃなくて買いに来てくれたらいいんだけど」


 ドリームの背中を撫でていると、上から聞き慣れた声が降ってきた。

 見上げた先には少し赤の混ざる金色の髪。


「わかってるけど!」

「もうすっかりお店の人ね」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


 蜂蜜色の瞳を細めてシェルトが笑う。

 加わった三人目のテンセイシャに、二人のお母さんは呆然と私達を見てた。

 驚かせてごめんなさい。

 先に会場に向かう両親と別れて、四人で教室に向かう。


「そうだ、マヨネ。これ渡しておくよ」


 三人とは別の教室の私。別れる直前に、シェルトが鞄から何かを渡してくれた。

 淡いピンクの布で丁寧に包まれたそれを受け取ってしまってからシェルトを見ると、開けてと無言で示される。

 そっと開けると、中には今日のために皆で作ったオレンジ色の花。紫のリボンと緑の葉が一枚ついている。


「これ……」


 緑の葉は実行委員にだけつけられているはずなのに。どうして臨時の私にまで?

 手元の花から顔を上げた私に、三人はにっこり笑った。


「マヨネはもう実行委員と同じだもん」

「皆もそうしようって」


 ラブとドリームにそう言われる。


「ふたつのクラスを繋いでくれたのはマヨネだから。受け取って」


 微笑むシェルトに重ねられて、私はもう一度手元の花を見た。

 皆で作った思い出の花。

 楽しかった思い出が蘇る。

 鮮やかな緑の葉に、私でも役に立てたんだと褒められているような気持ちになった。


「……うん。ありがとう」


 素直にお礼を言うと、三人とも嬉しそうに頷いてくれた。


「じゃあまた後でね」

「あ、シェルト、これ――」

「それもあげるよ」


 包んでいた布を返そうと思ったら、そう言い残してシェルトはさっと行っちゃった。

 柔らかな手触りのこれはただの布じゃなくてハンカチなのに。

 もらっちゃっていいのかな。




 紫のリボンをつけたオレンジの花を胸に飾った生徒達と、赤いリボンをつけた白い花を胸につけた先生達。

 祝われ、見送られて。私達は今日卒業する。

 シェルトの卒業生代表挨拶を聞きながら、今までのことを思い起こす。

 何事もなく、静かに済むと思ってた学生生活。最後の最後で今までの私の人生がひっくり返るようなことが次々に起こった。

 ヒカリの記憶を思い出して。

 百万人目のテンセイシャだから能力をもらえるって言われて。

 同じテンセイシャのシェルトと話せるようになった。

 きっとテンセイシャじゃなかったらシェルトのことを遠くから見てるだけだったんだろうな。

 特別クラスと通常クラスも仲良くなれた。

 まさか王都に行くと思ってたシェルトがうちで働くことになるなんて思わなかったけどね。

 壇上のシェルトはいつも通りの優しい声で、皆を応援するように話してる。

 いつも人を気遣って、皆が進みやすい流れを作ってくれるシェルト。

 そんな彼のように、私も困っている人の助けになれればいいなと思う。




 滞りなく式を終えて。皆で準備した卒業記念パーティーに向かう途中で、特別クラスの皆と一緒になった。

 シェルトを見つけて近寄ると、にっこり笑ってくれる。


「代表挨拶おつかれさま」

「緊張したよ」


 全然そんな風には見えなかったけど。

 並んで歩きながら、花飾りを包んでいた布はハンカチだったと話した。


「お母さんのとか、間違って持ってきちゃったんじゃないのかなって。後で返すから――」

「返さなくていいよ」


 遮られた言葉に見上げると、シェルトは私の方じゃなくてまっすぐ前を向いてた。


「僕、マヨネにあげるって言ったよね」


 髪だけじゃなく、顔まで赤みがかってるように見えるのは、私の気のせいじゃない……のかな。

 どうしよう、絶対私まで赤くなってるよ。

 見ていられなくなって、私はうつむいて立ち止まった。つられるように、シェルトも止まる。


「……あ、ありがとう」

「うん」


 すぐ隣から降るシェルトの声。

 触れそうなくらい近い腕。

 落とした視線の先に見える手と足。

 今は緊張より、嬉しさが勝る。

 二人きりだとヒカリとアオイだけど。

 それでも私、マヨネにとって、シェルトは好きな人だから――。

 視界の中のシェルトの手が動いて、私の前に差し出された。


「行こう」


 見上げると、はにかんで笑うシェルトと目が合う。


「うん、行こう」


 そっと、その手を取って。

 顔を見合わせ、笑い合って。

 私はシェルトと歩き出した。





 お読みくださりありがとうございます!

 これにて本編終了です、が。

 シェルト視点のおまけを書きましたので、よければ引き続き読んでいってくださいね。

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コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点]  そうですよね。急がなくてもいい。  だんだんと、だんだんと……(*´艸)  いつか二人とも。自然とマヨネとシェルトになって。この世界を生きてゆくのでしょうね。  引っ込み思案のマヨネ…
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