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第十七話  自分勝手なことだとしても

 それから暫くして、シェルトが学校を休むようになった。


「なんかね、王都に行ってるんだって」


 先生達用の白い花飾りを作りながら、ラブがそう教えてくれた。


「王都まで馬車でも二日だし。暫く休むことになるから、作業手伝えなくてごめんって言ってたよ」


 きっと騎士団への挨拶や住む部屋の準備なんかに行ったんだろうけど。

 シェルトなら作業を決める時に、皆に手伝えないことを話していそうなのに。

 忙しくて言いそびれてたのかな。

 シェルトのいない多目的室は賑やかだけど寂しくて。つい教室の中に赤みがかった金髪を探してしまう。

 背が高いから目立つってだけじゃない。

 皆に頼られて、周りにいつも人がいて。皆楽しそうに笑ってる。

 シェルトの周りはいつもそんな感じ。遠くから見てるだけの頃は、その光景を含めて憧れだったんだと思う。

 自然と人が集って。みんなを笑顔にしていく。

 私が目指す店のあり方。シェルトはそこにいるだけでできちゃうんだね。

 今更ながら、どうしてシェルトに惹かれたのかがわかったような気がする。

 私はシェルトになりたい姿を映してた。

 それはシェルトの在り方への憧れで。シェルト自身に憧れてたわけじゃなかった。

 だから遠目から見るだけで十分で。恋ではないと思っていたし、実際にそうだった。

 教室を見回してみても、あの瞳と目が合うことはない。

 覚えた寂しさがどんな気持ちからのものかなんて、もう私だってわかってる。




 ラブの言う通り、シェルトは数日でまた学校に来るようになった。

 元気そうな姿にほっとする。

 やっぱりシェルトがいると、教室の中が明るくなるっていうのか、皆が元気になるっていうのか。そんな感じだよね。

 よかったと思って見てると目が合った。ふっと細められた瞳にドキッとするけど、顔には出てない……よね。


「ごめんね、作業途中なのに何日も休んで」


 話し終わったのか、こっちに来てくれたシェルトに謝られる。


「皆がいるから大丈夫だよ。作業も問題なく進んでるでしょ?」

「うん。すごく進んでたからびっくりした」


 上から降ってくる嬉しそうな声。

 久し振りのその声が、私も嬉しくて仕方なかった。


「準備し始めた頃より、今の方が皆張り切ってて。せっかく一緒にできるようになったんだから、あれもこれもって止まらないみたいだね」

「うちのクラスも皆楽しそうにしてる。忙しくって残れない人も、休み時間とかにできること手伝わせてって言ってくれるし」


 シェルトと顔を見合わせて笑い合う。


「本当に。こんな風になるなんて思わなかったな」


 優しい表情で教室内を見回してから、懐かしむように呟くシェルト。


「仲良くなれたのに。もう少しで卒業なのが残念だよ」


 続けられた言葉は、浮かれる私を現実に引き戻すには十分すぎた。


「……そう、だね」


 少しずつ近付く卒業の日。

 その後はもう、王都に行くシェルトとこうして話すことはなくなってしまう。

 あの寂しさが日常になるのだと、突きつけられたような気がした。




 家に帰ってからも、今日のことを考えていた。

 変わってしまった私の気持ち。

 遠目からでも姿を見られれば幸せだったのに、今となってはそう思えない。

 隣にいるのは恥ずかしいし緊張するけど嬉しくて。

 声をかけられたりこっちを向いてもらえるのをずっと待ってる。

 テンセイシャ同士だってことを差し引いても、私にとってシェルトは特別。

 憧れで、好きで、特別な人。

 卒業して会えなくなってしまってももうただの憧れの人に戻ったりなんてしないんだって、今回のことでよくわかった。

 会えなくても。友達だと思われていても。もう私の気持ちは変わらない。

 シェルトの近くで、彼のことを知ってしまったから。

 皆への優しさの裏で悩んだり迷ったりする、等身大の彼を知ってしまったから。

 そんなシェルトだからこそ素敵だと思う気持ち。それを知ってもらいたいと思うのは、自分勝手なことなのかな。

 知られてしまうともう友達でもいられなくなるのかな。

 それでも、何も伝えないまま王都に行くシェルトを見送ってしまったら。きっと私はこの先ずっと後悔するんだと思う。

 だから。

 シェルトが王都へ行ってしまう前に。

 私の気持ちを伝えよう。




 そう決意したものの、ヒカリと友達になれて喜んでいたアオイにはなんだか申し訳なくて。

 せめてギリギリまではこのままでいようと思って、いつも通りの日々を過ごしてた。

 そんなある日――。


「マヨネ!! ちょっと来てくれ!」

「えっ? お父さん??」


 学校から家に帰るなり、大慌てのお父さんに応接室に引っ張っていかれる。

 お父さん、いつもならまだ店にいる時間なのに。それに見たことないくらいの慌て振り。

 何がなんだかわからないままの連れてこられた私に、お父さんは机の上にあった白い封筒を差し出した。

 宛名はお父さん。だから何かとお父さんを見ると、裏返してみろと示される。

 裏返してみると差出人が――って。

 どうしてシェルトの名前があるの?


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コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点]  マヨネが決心するなんて……! すごい! 応援するから頑張ってね(‘⩊‘*)♡  ヒカリとアオイ。確かにその辺りは複雑ですよね。アオイの意識が強かったら……精神的にはGL? む、難しい……
[良い点] 気に [気になる点] なる [一言] です
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