第十五話 百万人目の転生者
わたしの前に立つ女神様。
優しい笑顔に張り詰めてた気持ちが緩んでいくようで。ちょっと落ち着けたかな。
「女神様は見てたんだろうけど。マヨネがわたしに気付いてから今まで、色々あったよ」
私もこうして女神様達からいろんなことを聞いて。
特別クラスの人達だけじゃなくて、同じクラスの人達とも前以上に話すようになったから、マヨネの周りも賑やかになったよね。
「わたしはホントにフツーのなんにもできない女子高生で。マヨネもおとなしくて引っ込み思案の女の子だから。できることなんてほとんどないけど」
シェルトみたいに知らないうちに皆の背中を押すことも、さり気なく気遣うこともできない。そんなただの女の子だけど。
「それでも。葵とシェルトが喜んでくれたみたいに。誰かの話を聞いて、一緒にどうしたらいいか考えられたらいいなって。そう思ったの」
女神様はなんにも言わないで話を聞いてくれてる。
見守るような笑顔は最初っから変わらないね。
「うちは商売してるからね! 何か便利なもの思いついたら商品化もしやすいし、おんなじことで困ってる他の人にも使ってもらえるかもしれないよね」
これに関しては、本当にお父さんに感謝だよね。
マヨネの知識が多いのも、ちっちゃな頃から仕事を手伝ってるからだし。
「だからね、気になったら話しかけて。相手の話を聞けたらいいなって」
たったそれだけのことだけど。
それがどんなに難しいことなのかは、マヨネとしての記憶がある今ならよくわかるよ。
わたしは考えるより身体が先に動くタイプだから。
あっと思ったらもう動いちゃってる時があるんだよね。
まぁ、それでいっつも失敗してるんだけどね。
そんなわたしと、考えすぎて動けなくなるマヨネと。おんなじ魂だなんて信じられないけど。
「マヨネに足りないのは話しかける勇気で。わたしに足りないのは落ち着いてちゃんと考えること。でもね、女神様。これってわたし達のどっちかはできてるんだよね」
全然違うってことは、相手にないものを持ってるってことなんだって。
昨日、わたし達自身のことをいっぱいいっぱい考えて、そう気付いた。
「転生者を導くなんてことはできないけど。すぐ傍の困ってる人の話を聞くくらいにだったら、わたし達の頑張りだけでもなれると思うから」
わたしを見つめる女神様。
わたしがなんて言うつもりなのか、もうわかってるよね。
「だからね。能力はいらないよ」
女神様がふふっと笑った。
「なんだかあなた達らしいわね」
「そうかな」
「ええ」
こっちにおいでと手招きされたから、またケーキでも出してくれるのかな、なんて思って近付いたんだけど。
すっと女神様の顔が目の前に来て。
至近距離で見ても肌白くてキレイだしソバカスどころか毛穴のひとつも見当たらないなぁなんて考えてたら、おでこに何かが当たる感触が。
女神様? 今わたしにデコちゅーした?? なんで???
「女神の祝福をあなたに」
あわあわしてるわたしに、女神様はにっこり笑顔でそう言った。
「能力はいらないって……」
「能力じゃないわ。祝福よ」
確かに違うけど! じゃあ祝福ってなんなの?? ただちゅーしただけ??
「たいして効果はないわ。ほんのちょっと周りとのタイミングが合うくらい、かしら」
「なんの?」
「色々よ」
女神様、イタズラしたときみたいに楽しそうに笑ってる。
周りとタイミングが合うって……大縄上手に跳べるとか、皆がお腹すいた時に自分もすいてるとか、そんなことかな?
よくわからないけど、きっとわたしを助けてくれることなんだよね。
「ありがとう、女神様!」
「どういたしまして。それでね、祝福をあげたんだから代わりにちょっと手伝ってほしいのよ」
「えっ?」
ニコニコしてる女神様。
あの笑顔、そういうことだったの??
問答無用で渡しといてからそんなこと言うのってズルくない?
そんな顔して女神様を見るけど、女神様は全然気にした様子もなくて。
簡単なことよ、って軽く言う。
「あなたの手の届く範囲でいいから。転生者たちの話を聞いて、できることをしてあげて」
いくらわたしがニブくてもわかる。
それって、相手が転生者ってだけで、わたし達がしようとしてたことと同じだよね?
「たまにはボーナスもつけるわよ。ここでのお茶会なんてどうかし――」
「やる!!」
この世界にもケーキはあるけど、女神様の出してくれるケーキは元の世界のやつっぽいから普段食べるのより断然美味しいんだよね!
女神様、なんかすっごく笑いながら、お願いねって言ってくれた。
女神様がちょっと白くぼやけてきた。
今日はもうおしまいかな。
たまにはお茶会してくれるって言ってくれたけど。きっと女神様とも暫く会えないんだろうな。
ちょっと寂しいかも。
「ありがとう、女神様」
「私こそ。ありがとう」
でも、また会えるから。
それまでわたしにできることを頑張るね。
「そうそう。ひとつ訂正しておくわね」
わたしを見つめる女神様。ぼんやりとだけど、とっても優しい顔をしてくれてるってわかる。
「百万人目があなたで本当によかったわ」




