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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-085 成果は多大だけど課題もある


 500ユーデから6発の爆弾が投下されると同時に、飛空艇が上昇を始める。

 10秒ほどの時間が経ったところで、リトネンさんのすぐ目の前の真鍮製の柵に付けられた伝声管近くでブザーが鳴った。

 直ぐにリトネンさんが伝声管越しに話を始める。

 伝声管から顔を上げると、大声を上げた。


「2発当たったにゃ? 上出来にゃ。次の爆撃に備えて爆弾の装填をするにゃ!」


「2発か! リーディルが砲撃した輸送船はどうなった?」


「煙が船の横から出ている。だんだんひどくなってるみたい」


 窓から後方を眺めていた、ミザリーが教えてくれた。

 船体から4イルムほど張り出しているから、後方も少しは見えるんだろうな。


 再びブザーが鳴って、今度はドワーフ族の大きな声で高度1500が報告されてきた。

 リトネンさんの指示で大きく右に旋回が始まる。

 次は倉庫を狙う番だ。


 ブザーが鳴り、今度は爆弾の装填が終わったことが告げられる。

 リトンさんが噴進弾の装填を行うように伝えていたけど、ここに来るまでの間に終えているに違いない。


「降下開始にゃ。高度800まで下げるにゃ。ファイネルの方は軸線を合わせたところでイオニアに制御を切り替えるにゃ!」


「了解! テレ―ザ、少し左だ。風で流されるぞ」


 少しずつ右に向かうのは風の影響なのか……。案外難しいんだな。

 

 接岸している輸送船の甲板に炸裂焼夷弾を放つ。

 速度が速いから、2発目の装填を終えた時には港から離れてしまった。

 やはり手動装填を何とかしたいな。自動装填は無理でも、もう少し装填操作を簡単にしたいところだ。


 後方から大きな音が聞こえてくる。

 倉庫に保管した弾薬が誘爆したのかな?


「3イルム噴進弾の発射準備を終えたところで待機するにゃ。港はちょっと大変みたいにゃ」


 数ミラル東に移動して時計回りに回頭すると、港の惨状が見えた。

 ちょっと大変どころではない。海の上まで火が燃えている。

 たまに炎が大きく炸裂しているのは、砲弾の誘爆が続いているためだろう。


「爆弾は炸裂弾だったのですか?」


「単なる炸裂弾とも思えないな。地上攻撃用に作った新型を搭載してたのかもしれん。なんでも、広範囲を炎に包む爆弾らしい」


 ファイネルさんの説明を聞くと、焼夷弾とは少し違うようだ。ヒドラⅡの焼夷弾の主成分はリンや硫黄らしいけど、新型の方は揮発性の油をゲル状にして充填したものらしい。

 もっとも、その説明を聞いて原理を理解できる者は誰もいないようだ。

 だが、原理はどうでも威力は理解できる。目の前で炎に包まれた港を実際に目にしているんだからなぁ……。


「リトネン、噴進弾の試験は無理かもしれないわね」


「あれじゃあ、無理にゃ……。一応、試験を終えたということで帰るしかなさそうにゃ」


 後ろでそんな話声が聞こえてきた時だった。

 ブザーが2度鳴ったから、何かあったのかな?


「何にゃ? ……それなら都合が良いにゃ。任せたにゃ。上手くやるにゃ。高度300で向うにゃ。

 ファイネル、190度に回頭するにゃ。高度300で輸送艦隊に接近して噴進弾を試すにゃ!」


「了解。進路変更190度……」


 今度は左に回頭を始めた。

 港で補給しようと北上してきた小型の輸送船を叩くのだろう。

 港にも小型の輸送船が何隻か停泊していたから、2つの艦隊で輸送していたのかな。今度の艦隊を攻撃すれば、帝国軍の輸送が半減どころでは済まなくなるだろう。

 ヒドラⅡにも砲弾が装填されているから、狙える船があれば炸裂焼夷弾をお見舞いしよう。


「前方に船団を発見。左に5度進路を修正して下さい!」


「了解……。あれだな。……軸線に乗ったぞ」


「操縦を爆弾区画に変更……。イオニア、軸線に乗ったにゃ!」


 発射装置が左右に移動できないから、照準調整を飛空艇の向きで変えないといけないのが最大の課題だろう。

 迅速な作業を行うには、全てブリッジで行えるようにすべきだと思うな。


 高度300というのは、かなり海が近くに見えてしまう。

 このまま進めば、輸送船の舷側を通り過ぎるような錯覚に陥ってくる。


「リーディル。右手の輸送船を叩くにゃ。ハンズは左を狙うと言ってるにゃ」


「了解です。この速度ですから2発は無理ですよ。炸裂焼夷弾を使います!」


 速度は毎時70ミラルらしい。上空にいる時よりも速度感があるのは、直ぐ下にうねる海が見えるからに違いない。


 近付いてきた輸送船に向かって狙いを定め、砲弾を発射する。

 直ぐ下で噴進弾が炎を上げて前方に飛んで行った。

 自分の放った砲弾の結果を確認する間も無く、輸送船に炎が上がる。

 噴進弾の砲弾も炸裂焼夷弾だったようだ。


「左の輸送船の舷側より発煙を確認!」


「右手輸送船の甲板より炎を確認。ハンズの方も当てたようね」


「高度1000に上昇と同時に来たに回頭。西の砦に帰るにゃ」


「進路変更確認! 巡航速度を維持。……高度1000に変更!」


「高度1000に変更!」


 一連の指示と復唱がブリッジ内で行われる。

 左回りで大きく進路が変わる。左手から王都がみえたが、相変わらず港の方向で炎が上がっている。

 復旧にはかなりの日数が掛かるんじゃないかな。

 その復旧は王都の住民が動員されるんだろうけど、少なくともタダではないはずだ。

 それだけ帝国を疲弊させられるに違いない。

 直接的な損害だけではなく、帝国の経済にも少しは打撃を与えたんじゃないかな。


「このまま進むと、尾根の砲台が動きそうです」


「ミザリー、クラウスに帰還すると伝えるにゃ。光信号で『R1』を送ると伝えるにゃ!」


「了解!」


 直ぐにミザリーがカタカタと電鍵を動かし始めた。

 首を傾げながらファイネルさんに顔を向ける。


「リベリャン(反乱)の1番ってことじゃないのか?」


「中々考えてますねぇ。識別信号として誇れそうです」


 俺達の会話を聞いて、エミルさんが笑い出した。


「そんな高尚な考えはないはずよ。リトネンのことだから、『R1』は『リトネン一味』に違いないわ」


「クラウスに教えておいたにゃ。さんざん考えていたけど、最後に笑って頷いてくれたにゃ」


 思わずファイネルさんと顔を見合わせてがくりと頭を下げる。

 良くも悪くもリトネンさんってことだな。

 でもあの看板を知らない人達には、ファイネルさんが言った略称だと思ってくれるに違いない。

 少なくとも、飛空艇の横に『リトネン一味』と描くことが無いよう注意しておこう。


「尾根が見えてきました。まだ、30ミラル以上離れています」


「砦から西北西100ミラル付近よ。この辺り……」

 

 エミルさんがバインダーに挟んだ地図を持って、リトネンさんに現在地を教えている。


「返信を受電しました。『尾根付近は1500を維持。『R1』の赤色信号を発信のこと』以上です!」


「了解にゃ。ファイネル1500まで上昇するにゃ。尾根の直ぐ南の街道を越えたら『R1』を発信するにゃ!」


「了解、……高度1500に上昇!」


「高度1500了解!」


 爆弾区画から復唱が返ってきた。ゆっくりと飛空艇が上昇を始める。


 街道上空を通過したところで、ミザリーが発行信号を出し始めた。

 ちゃんと確認してくれるかなぁ……。高度1500ならとりあえずは安心できる高度なんだが、ヒドラⅡの改良も行っているだろうから、あまり安心も出来ないんだよねぇ。



 恐々としながら尾根を眺めているが、特に砲炎が上がる様子もない。

 尾根を越えると直ぐに砦なんだけど、飛空艇は一旦砦を通り過ぎて高度を落としながら右周りに回頭を始めた。

 どんどん高度が下がる。

 峡谷を通り越して、高度100ユーデほどを保って砦の北の広場上に来ると、ゆっくりと広場に降り立った。


 ほっとして座席のベルトを外す。

 背嚢を戸棚から取り出して爆弾区画に向かい、開いていた側面の扉から外に出た。


「後はドワーフ族に任せるにゃ。私達の部屋に行ってクラウスを待つにゃ」


 リトネンさんの指示を聞いたところで、俺達はリトネン一味の部屋に向かう。

 これからはファイネルさんも一緒になる。

 義足だけど、歩くのに支障は無いようだな。

 ドワーフ族の2人は、飛空艇の整備を行うんだろう。


 背負ってきた背嚢を戸棚に入れると、テレーザさん達が小さなストーブに火を焚いてポットを乗せる。

 先ずはコーヒーということかな?


 俺達は窓を開けて、タバコに火を点ける。

 男性が増えたからちょっと嬉しくなる。今まではハンズさんだけだったからね。


「戻ってくれて嬉しいです。また一緒に作戦ができますね」


「地上は無理だが、飛空艇なら何とかだ。とりあえずテレーザを指導するよ。本来ならヒドラⅡか噴進弾の発射機を担当したかったんだがねぇ……」


「最終照準を爆弾区画で行うのは、問題があるぞ。全てブリッジで行うようにできないのか?」


 イオニアさんが、俺達の中に入って問題点を上げる。

 俺もそうだけど、他の2人も同じ思いだったようだ。神妙な顔をして頷いている。


「爆撃もできるし砲撃も出来る……。少し盛り過ぎだな。やはりどちらかに特化すべきだろう」


「思い切って、爆弾投下装置を撤去しても良いんじゃないでしょうか? あれを撤去すれば、2連装の4イルム噴進弾発射機を搭載できそうに思えるんですけど。

 爆弾は、左右の翼の下に下げても良いように思えます。6発は下げられそうな翼ですよ」


「それも良いなぁ。2連装と言わずに、3イルム噴進弾なら3連装も可能だぞ。将来は帝国軍の空中戦艦を相手にするのは間違いない。爆弾よりは噴進弾の方が有利だろう」


「こんな形ってことかしら?」


 俺達の話を聞いて、エミルさんが概念図を描いている。


「中々良いんじゃないか! 俺としてはこの頭上のプロペラも廃止したいところなんだよなぁ。翼を前後に付けて、翼端のプロペラを4つに増やせば、屋根にヒドラⅡを付けられるぞ」


 全周旋回が出来るならかなり有効だろう。地上砲撃は出来ないけど、飛行船や空中軍艦にはかなり使えそうだ。


「問題は、相手次第ってことだろうな。出て来なければ宝の持ち腐れだ」


 それもある。あまり多用途になり過ぎるのも困るけど、特化が過ぎても問題だ。

話がはずんでいる俺達に、ミザリーが飲み物が出来たと声が掛かる。


 先ずはコーヒーを頂こう。

 女性達は紅茶らしいけど、やはりコーヒーが一番だな。


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