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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-082 試験飛行は輸送船の爆撃


 練兵場の中央に向かって、俺達を乗せた飛空艇が自動車によって移動して行く。

 牽引車は4輪駆動かと思っていたが、後輪は左右とも3本のタイヤが付いている。

 かなりの自重と馬力があるに違いない、歩くほどの速度で飛空艇を動かすんだから。


 ほぼ中央に移動したところで、牽引車が停止すると、飛空艇の前輪に繋いだワイヤーを解いて走り去っていった。

 いよいよ飛空艇が動き出すのか!


「リトネン少尉、後の士気はお願いします」


「了解にゃ。ミザリー、東の砦に連絡して試験飛行を行うと伝えて欲しいにゃ」


「了解! ……返信があります。『可能であるなら、爆弾の投下試験をBA2、AC8にて実施すること』以上です」


「この辺りですね。海上ですよ!」


「敵の輸送船にゃ。倉庫を破壊したから直接近海に移動しているにゃ。早く潜水艇を量産しないと大変なことになるにゃ」


 エミルさんが、地図を持ってリトネンさんに場所を教えているようだ。

 海上となると、確かに爆弾の投下訓練に丁度良いのかもしれない。上手く当たれば良いんだけどね。


「ファイネル、上昇にゃ。高度500mで南に移動するにゃ!」


「高度500。繰り返す高度500まで上昇!」


 リトネンさんの指示に、ファイネルさんは操縦席に設けた伝声管に向かって声を張り上げた。

 直ぐに、「高度500了承!」という声が小さく聞こえてくる。

 どうやら飛空艇の全ての動きをここで制御することはできないようだ。

 『ジュピテル』と言う重力中和装置と上飛空艇の上部の前後に着いたプロペラ、それに後部のプロペラの駆動は機関室の制御ができる爆弾区画で行われるらしい。

 翼の両端に付いているプロペラは、このブリッジで行われるのだろう。


 不意に体が重くなる感じがしたと思ったらゆっくりと飛空艇が空荷向かって上昇を始めた。

 最初はゆっくりだったが徐々に上昇する速度が速くなる。小さな振動が伝わって来たけど、上部に設けたプロペラを駆動するエンジンの振動かもしれないな。


「高度500を確認! 翼端のエンジンを起動……。左エンジン起動……、右エンジンの起動を確認!」


「飛空艇、右に旋回しながら前進をします。……後部主機のエンジン起動。巡航速度で南に向かう! 繰り返す後部主機のエンジン起動。巡航速度を維持!」


「後部主機を起動、巡航速度までエンジン回転数を上げる……」


「これで、南に向かえます。主機の身での巡航速度はおよそ毎時50ミラル。翼端の補機を使うことで60ミラルまで上げられます」


「自動車の倍以上にゃ。あまり遅くなると砦に帰るのが夜になるにゃ。補機も動員して巡航速度を維持するにゃ」


「それなら、翼端のプロペラを使うぞ。テレーザ、これがスロットルだ。この『巡航』位置で毎時10ミラルが追加される。『上昇』位置なら、上の主機を回さずに高度を上げられる。その上の『低速巡航』で毎時5ミラル。『戦闘機動』なら毎時20ミラルだ」


「そうなると、リトネンの指示ならこの『巡航』位置、毎時10ミラルの追加ね!」


 カチャッと音がしたから、スロットルレバーを切り替えたんだろう。

 翼端のプロペラの回転は同じように見えるけど、角度が真直ぐ上ではなく前方に傾き始めた。


「そういう事にゃ……。翼のプロペラの推進力の向ける角度が変ることで、速度が増すにゃ」


「もう1つ、スロットルがあるんですが、それはプロペラの回転数を変えるんです。今は巡航時に合わせてあります」


「中々おもしろい仕掛けにゃ。上の主機が2つ壊れても帰って来れるにゃ」


 補機というのはそういうことなんだろうな。それだけ安全だとも言えるんだけど、俺には、この飛空艇の装甲も気になるところだ。

 目の前の防弾ガラスはどう見ても1イルムを越えているし、座席が取り付けられた船体も叩いてみたんだがかなり固い。少なくとも6輪駆動車よりも装甲板の厚みがありそうだ。


「振動はあるけど、気にするほどではないのね。地図の細かな文字も読めるんだもの」


「エンジンが船体の外に付いてるからだろうな。さすがに推進用プロペラの主機は船体内だが、最後尾だからね。このまま真っ直ぐ南で良いんだろう? 

 それなら、今の内に、コーヒーでも作ってくれないかな」


「出入口の左側ね。了解よ! ミザリー、手伝ってくれない?」


 エミルさんに声を掛けられたミザリーが嬉しそうに俺達に顔を向けながら席を立った。

 使い初めということだろう。

 電気でお湯を沸かすらしいが、ミザリーにも使ええるんだろうか?


「どうだ、リーディル。そこは眺めが良いだろう?」


「眺めが良いというか……。最初は怖かったですよ。足元でさえガラス張りですからねぇ。空に浮かんでいる気がします。シートベルトをしっかり結んでいます」


 鉄の枠で支えられたガラスの半球が俺を中心に作られているようだ。その大きさは飛空艇の直径と同じだから、リトネンさんやミザリーの席からも前方を見ることができるんだろうが、一番前の俺にとって最初は恐怖そのものだった。

 少し落ち着いてきたのは、慣れたということなんだろう。


 もう少し、この位置に乗る人間の心情も設計に反映して欲しかったと考えてしまう。


「早く慣れることだな。だが、そこに座れない連中もいたことは確かだ。ヒドラⅡの銃身は少し太くなっているぞ。装薬を1割ほど増やしているからな」


「狙いは、敵の空中戦艦ですか……。さすがにヒドラⅡなら貫通するでしょう」


「貫通力を上げたのかにゃ?」


「試験では300ユーデで2イルム厚の装甲板を撃ち抜いたと聞きました」


「なら、リーディルはその位置で問題ないにゃ。防弾ガラスの厚さは1イルム半にゃ。銃弾なら貫通することはないにゃ」


 ドラゴニルで強装弾を放ったら、撃ち抜けるんじゃないかな。

 だけど、手帝国軍の空中戦艦は大砲を持っている。

 地上に向けて撃ち出すようだけど、空中でも使えるだろう。俺達が大きな空中軍艦モドキを作らずにこの飛空艇を作ったのは、同じような船だったら帝国軍に勝てないと思ったからに違いない。

 翼端のプロペラは機動性を上げるためなんだろうな。

 

「コーヒーを持って来たわ。おもしろい蓋が付いてるのね」


「いろんな場所に電気を使っているからだろうな。零してショートさせないようにとのことだと思うぞ。だが、良いこともある。冷めにくいんだ」


 エミルさんからコーヒーを受け取る。取っ手が無いのは2容器が二重になっているんだろう。

 問題の蓋だが……、飲み口部分の穴を横にスライドさせることができるようだ。

 反対側に、小さな穴が空いているけど、針で突いたような穴だから、そこから零れることは無いだろう。


「座席の横にドリンクホルダーが付いてるぞ。そこで少し冷ますんだな」


 アームレストの横に丸い金属製の輪がある。上に向いていたから、横に倒してカップを入れてみる。……なるほど、落ちないようだ。

 これなら、水筒を置いておく必要もなさそうだな。


 しばらくして、ミザリーが自分のカップを持って入ってきた。

 どうやら、爆弾区画にいるイオニアさん達にコーヒーを運んでいたらしい。

               ・

               ・

               ・

「尾根の南端が見えてきたにゃ。ファイネル、この飛空艇の爆撃高度はいくらになっているにゃ?」


「500に1000、それに1500で爆撃照準器がセットできるはずだ。爆撃速度は巡航時の毎時60ミラル。速度は丁度60ミラルだが、高度を変えるか?」


「せっかくだから、敵の集積所にも落としてから海上に向かうにゃ。集積地は少し変えたと思うけど、それ程大きく位置を変えてない筈にゃ」


「現在地はこの辺りか……。それなら進路220度で1時間というところかしら」


「進路を変えるぞ! テレーザ、やってみるか?」


 ファイネルさんの話を聞いて嬉しそうに操縦桿を握り、進路を変え始めた。

 自動車のハンドルのようなものを握ってるんだが、あれで進路を変えられるんだな。

 下の景色がゆっくりと左に流れていく。この高さなら尾根にぶつかることも無いだろう。


「ファイネル。ここからイオニアを呼べるかにゃ?」


「リトネンの前にある伝声管で呼べるぞ。伝声管の横に付いているボタンを押せば、爆弾区画でブザーが鳴る仕組みだ」


「これにゃ!」


 直ぐに使ってみるようだ。直ぐに話を始めたから使い方は理解したみたいだな。


 直ぐにブリッジの扉が開き、イオニアさんが入ってきた。

 リトネンさんが席を離れ、エミルさんのところに3人が集まって相談を始める。

 さて、どんな結論になったんだろう。


「了解です。直ぐに爆撃準備に入ります!」


 イオニアさんがブリッジを出ると、笑みを浮かべたリトネンさんが席に着いた。


「ファイネル。高度1500にゃ。なるべくこの飛空艇を知られないように爆撃するにゃ」


「高高度ってことだな。……『機関出力上昇、高度1500。高度1500だ!』


 小さく了承する声が伝声管から聞こえてきた。

 イオニアさんお声は聞こえなかったけど、ドワーフ族は大声の持ち主が多いのかな?


 やがて、地上の光景がどんどんと小さくなっていく。少し飛空艇の前部が上がったようにも思える。


「操縦桿を引くことで、飛空艇の飛行時の角度を変えることができる。それにより上昇下降の速度が速まるんだ」


 ファイネルさんは忙しそうだな。テレーザさんに操縦方法も教えないといけないんだから。


 どうやら高度1500に達したらしく、飛空艇の姿勢が通常に戻った。

 今度は地上を広く眺められるから帝国軍の集積所を早く探さないといけないだろう。

 この船で一番偵察が良くできる場所は俺のいるこの位置に違いない。背嚢から、双眼鏡を取り出しておこう。


 前面の防弾ガラスで、下の光景が歪んで見えるかと思ったが、案外視界は良好だ。

 双眼鏡で地上をながめると、帝国軍の車両が時折見える。この辺りは前線に近い位置だから、帝国軍の動きも活発のようだ。


 やがて、前方右手にいくつものログハウスが見えてきた。かなり規模が大きいな。

 蒸気自動車が列を組んで停まっていいるし、数台が東から移動している様子も見える。

 

「リトネンさん。右手に集積所が見えてきました。距離はおよそ30ミラル。進路を右に15度修正してください」


「ファイネル、進路変更にゃ!」


「了解! テレーザ右に15度だ。船首方向から15度右だぞ」


「だいじょうぶ。それぐらいは理解できてるわ……。進路変更完了!」


「軸線上に乗りました。ほとんど真っ直ぐです」


「なら、イオニアに連絡にゃ! ……こちらリトネン。集積所を軸線上に修正完了。後はイオニアに任せるにゃ!」


 今度は「了解!」というイオニアさんの声が聞こえてきた。かなりやる気を出してるみたいだ。上手く当たってくれれば良いんだけどね。


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