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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-078 線路を走って砦に戻る


 俺達を追っているんだろうが、帝国軍の車両はあまり速度が出ないようだ。どんどんライトの明かりが遠ざかっていく。

 その様子を、バックミラー越しに見たのだろう。リトネンさんが車を停める。


 すぐに運転席を抜け出して、後ろに走って行った。

 全く、何を考えているんだか分からないな。

 それほど間を置かずに戻ってきたけど、後席の扉を叩く音がする。


「こっちに乗らせてもらうよ」


 小銃と背嚢を座席に放り投げると、防寒服を外で脱いで乗り込んできたのはオルガさんだった。


「爆破するのか?」


「ああ、これで爆破できる。距離は半ミラルと教えられたから500ユーデほど先に移動して欲しい」


「ゆっくり向かうにゃ。射撃も期待してるにゃ」


 ミザリーが助手席に移動して、3発の砲弾をポケットに入れている。

 入れたのは……、榴弾の方だな。

 俺が2発焼夷弾を持っているから、状況に合わせて使えばいいだろう。


「出発するにゃ!」


 再び車が動き出す。今度は先程より遅く感じるから、車両故障を演出しているのだろう。どうしようもない車を乗り捨てたと帝国軍が思ってくれれば良いのだが……。

 後ろを見ると、ご丁寧に車の前で発煙筒が焚かれている。

 あれなら、勘違いしてくれるかもしれないな。


「引っ掛かってくれますかね?」


「演出もしているからなぁ。帝国軍からすれば俺達の技術は低いという認識なんだろう。無理をして故障が出ていると思っているに違いない」


 速度が落ちて、少し蛇行しているのはそれが理由か。

 さらに速度が落ちてくる。歩くほどの速さだから、みるみる帝国軍の自動車のライトが近付いてきた。


「リーディル、準備は良いかにゃ? オルガ、爆破は任せるにゃ」


「任された。俺の方でタイミングを取る」


 残してきた車が爆発しても、前に出て来るようならヒドラⅡを使えば良い。

 

 砲塔の防弾ガラス越しに状況をながめていると、残してきた4輪駆動車のライトが帝国軍の蒸気自動車に隠された。

 次の瞬間、大爆発が起こる。

 座席の下に爆薬を置いてあるとは聞いたけど、かなり積んでいたようだ。荒れ地に向かって転がる様子がライトの動きで分かる。


「先頭車両は何を逃れたようだな」


「後は俺の番ですね……」


 ほとんど停車いている状態だし、距離は500ユーデも無い。先ずは1撃して追撃を頓挫させる。


「ほう! 一発か。狙撃の腕は砦一番だと聞いたが、砲撃も巧いものだ」


「ヒドラⅡは小銃と同じように扱えますからね。移動砲台や噴進弾の方は俺では無理ですよ」


「小銃は点を狙えるが、砲弾は数門以上が連携して面を狙うんだ。ヒドラⅡはその中間に位置するに違いない」


「後ろから、やって来たにゃ。速度を上げるにゃ。適当にあしらって欲しいにゃ」


「了解!」と2人で答えたけど、かなり適当な指示だな。

 俺は残った砲弾を使って行こう。後席に乗ったオルガさんとイオニアさんはフェンリルの下部に着いたグレネードランチャーを使うみたいだ。

 小銃は撃っても当たらないだろうし、グレネード弾が尽きたら手榴弾を落とせば良いだろう。


「4台だな。追ってきた部隊とは異なるようだ。あれはこの車と同じ内燃機関を使ってるに違いない」


 蒸気機関と内燃機関の大きな違いは機関の重量と発生する動力に大きな差があるらしい。

 内燃機関を自動車に搭載することで、蒸気自動車の2倍近い速度を出せるそうだ。


「最も、軍が選ぶのは馬力の違いだろうな。おかげで4輪駆動車が実用化できたんだから」


 車の踏破性を上げるには、駆動輪を増やすことと車の重量を減らすことが重要らしい。

 駆動輪を増やすにはどうしても大出力のエンジンが必要なのだろう。

 だけど、一体何種類作ったんだろう?


 前の出撃から3カ月ほどで、この車の改造が終わったということはあらかじめ数種類のエンジンを作っていたことにならないか?

 それほど贅沢な状況ではないと思うんだけどなぁ……。


「何とか2台をやったな。残り2台だ」


「砲弾の残りは2発ですよ」


 手榴弾も3個残っているだけだ。いよいよ銃撃戦になるんだろうか?


「しっかりと掴まるにゃ!」


 リトネンさんの言葉に、その場で身を低くしてミザリーの座っている座席にしがみ着く。

 直ぐに体が斜めになってきた。ガタガタと揺れるから街道を外れたんだろう。

 やがて車がもとに戻ったけど、凄い揺れだ。

 これじゃあ、射撃は無理だ。砲塔の銃眼から後ろを見ると追っ手のライトが少しずつ遠ざかっていく。


「やはり帝国軍は4輪駆動車を持っていないようだな。帝国の技術力なら造作もないと思うんだが」


「それほど困っていないということなんでしょうね。軍事力の差が大きいですから正攻法で十分と思っているのかもしれません」


「道が悪ければ空を飛んでいける連中だからなぁ。そうなると飛行船が気になるところだが……」


「飛行船2隻に、空中軍艦が1隻落とされてるにゃ。自動車相手に出てくることはないにゃ」


 ガタガタ揺れる車内で話をすると舌を噛みそうだ。

 ミザリーがおとなしいのは、こんな中でも砦と通信をしているためらしい。


「砦と連絡が付いたよ! 『帰路は線路を通れ!』と言ってる」


「了解にゃ。後ろはまだ付いてくるのかにゃ?」


「離れていきます。やはりこの車は良いですね」


 諦めたわけではないんだろうが、どんどんライトの明かりが遠ざかっていく。

 小雪がまた降り始めたから、直ぐにあのライトも見えなくなってしまうだろう。


「これで終わりでしょうか?」


「いや、尾根沿いの道があるだろう。線路と並行して走っている街道だが、北で西に方向を変え鉄橋にへと続いてるんだ。あの道なら先回りできるかもしれんな」


 あの街道は、あちこちに地雷が仕掛けられてるんじゃないかな?

 何度か帝国軍も地雷を踏んでいるはずだから、追ってくるとは思えないんだけどねぇ。


 右手に線路が見えてくると、リトネンさんが無理やり車を線路に乗り上げ、左の線路を跨ぐようにして走行を始めた。

 おかげで車が左に傾いているけど、問題なく進んでいるんだからこの6輪駆動車はかなり頑丈なんだろう。


「さすがに追ってこないな。やはり尾根を警戒しているんだろう」


「この尾根を押さえたということは、戦略的にもかなり優位になるんでしょうね」


「帝国の侵略は頓挫したままだ。王族や貴族の連中にもう少し骨があるなら、もう少しマシになっているんだろうが……。まぁ、これで良かったのかもしれん」


「旧支配体制が私達に干渉してこないと?」


 イオニアさんが俺達の会話に加わってくる。

 王族も貴族も、王国の属国化によって日和見な連中が帝国に尻尾を振っているとは聞いたけど、俺達解放軍の優勢が伝えられたら何らかの行動に出るんじゃないかな?

 

「帝国に支配を譲ったような連中だからなぁ。骨のある連中は家族ごと処刑されたようだ。俺達の上の連中もその辺りの事は良く知っている。手を握ろうとする腕を伸ばしても、もう一方の手には拳銃を握っているに違いない」


「でもそうなると、王国開放の後はどうなるのだろうか? 国家体制を確立していないと、東の王国に飲み込まれかねないぞ」


「その辺りが一番難しいところなんだろうな。とりあえずは軍政を執って、緩やかに共和体勢に以降することになるとおもってるんだがなぁ」


 王国に戻すことはないということか……。

 共和国というのがどんなものかは知らないけど、一番偉い人は誰になるんだろう?


「周辺諸国が黙っているとは思えないけど……」


「ああ……、自国内に飛び火することを恐れるだろうな。だが、戦後復興を考えると一番いい手だとは思ってるんだ。王侯貴族の煌びやかな暮らしに、どれだけ予算を取られるかと思うとなぁ」


 貧富の格差を無くそうといことか?

 さすがに、それは難しいだろう。だが理想としては悪くない。

 人間なんて、能力にさほど差があるとも思えないし、ましてや神に選ばれた青い血なんて言葉があるけど、実際に青い血を持っていたなら化け物じゃないのか?

 選民意識に凝り固まった連中が、支配層にいなくなるだけでも俺達が頑張る価値があると思えてくる。


「俺達は、田舎の町で暮らしてましたから、あまりその辺りの事は良く分からないですね。でも、俺達が収めた税金を無駄使いされるのは問題です」


「だろう? それがない世界にしたいところだが、生憎と政治には不正が付きまとうんだよなぁ。その辺りは厳しくして欲しいところだ」


「ある程度は、潤滑油のようなものだろう。でも度が過ぎるとなれば問題だ」


「それをいかに防ぐかは重要だろうな。反乱軍内でも、大なり小なりあるようだぞ」


 俺もクラウスさんに色々と貰ってるんだけど、これもその中に入るんだろうか?

 だけど、賄賂って目上の人に送るものだよなぁ。

 俺に目を掛けてくれるのは、父さんとの付き合いがあったからだろう。そういう意味では、親戚の子供という立場なのかもしれないな。


 とりあえず、追っ手は来ないようだ。

 右手の尾根の上では、ファイネルさん達が南西を睨んでいるだろう。

 ここまで来れば、安心だな。 だけど、線路を走るのはこれっきりにして欲しいところだ。

 斜めのガタガタ道を走るのは、車にも乗ってる人間にも絶対に良くないことに違いない。

                ・

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                ・

 襲撃を終えて数日が過ぎると、何となく次の作戦が早く来ないかと思ってしまう。

 リトネン一味の部屋には、リトネンさん以外が全員揃っている。イオニアさん達がここにいるのは、6輪駆動車の改造の為に運転操作訓練ができないためのようだ。ミザリーが是非とも動かしたいと言っているけど、俺としては無線機の操作だけで十分だと思うんだけどなぁ。


「これで冬季の作戦は終わるのかしら? 今度は雪が無くなるし、地面も凍っていないから今までのように車を動かすことはできないかもね」


「帝国の蒸気自動車よりはマシだよ。この間俺達を追い掛けてきた連中は内燃機関の自動車を使っていたが、結局途中で断念してるからなぁ」


「本当に面白いわねぇ……。帝国の技術力なら簡単だと思うんだけど」


「現場が欲しがる物と、部屋で戦略を練る連中が欲しがる物は一致しないということなんだろうな」


「その点、俺達は無理を言ってもある程度は叶えて貰えるからなぁ。だけど、次の改造って何なんだ?」


 車庫のシャッターが閉まっているから、様子を見に行くのも考えてしまう。

 行けば「邪魔だ!」の一言だからなぁ。

 ドワーフ族の技術は優秀なんだけど、ある意味職人芸なところもある。

 仲間でワイワイ言い合いながら改造してるに違いない。


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