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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-077 正面突破


 座席横にある銃眼から外を見ると、南東方向の夜空が赤く染まっている。

 かなり大きな火災になっているようだ。

 前回と同じ砲撃諸元だとエミルさんが言ってたけど、12発の噴進弾を2斉射したのだ。前回の攻撃の倍を超えているし、今回は一回り大きな4イルム噴進弾も混じっている。

 倉庫群だけでなく、ひょっとしたら停泊していた輸送艦にも延焼しているのかもしれない。


「車のライトは、後ろの3台だけだよ」


「王都の消火を優先してるのかもしれませんね」


「それでも、偵察部隊は出すはずにゃ。動きが鈍いにゃ」


 直ぐに追ってくるかと思ってたんだが、攻撃終了から30分ほど経過しても帝国軍に動きが見えない。

 ちょっと拍子抜けした感じなんだが、とりあえずリトネンさんはミザリーを使って砦への状況報告を行い始めた。


 長文の通信だけど、ミザリーが慣れた様子で右の太腿にベルトで固定した電鍵を叩いている。

 

 やがて返信が届くと、バインダーを膝に置いてメモ用紙に電文を書きだした。

 あのライトのチカチカが意味を持っているとはねぇ。何度も目にしてるんだけど、俺には魔法のように思えてしまう。


「返信です!」


「ありがとうにゃ! ……クラウス達も出掛けたみたいにゃ。向こうに目が行ってくれると、少しは楽になるにゃ」


 あっちの車両は4連装が主体だからなぁ。数台で一斉射撃を咥えたら、何も残らなくなってしまいそうだ。

 帝国軍が混乱している隙を突く形になるんだが、次の攻撃カ所は水門から2時間程先らしい。


 小休止を取った時に、改めて南東の空を見た。

 先ほどよりも広がっているように見える。さすがに火災の炎を見ることはできないが低い雲が赤く染まっている。


「少し風が出てきたな。また降り出すかもしれん」


「あまり降ると、砲撃諸元が観測できないかもしれませんね」


「その時は地図を使うだろう。エミルならだいじょうぶだ」


 一服を終えて車に乗り込む。

 相変わらず荒れ地を走っているけど、イオニアさんの話ではそろそろ海が見えて来るらしい。


 目的地に到着したのは、小休止から30分ほど経ってからだった。

 小雪がパラつきだした中、エミルさんが砲撃諸元を確認している。かなり遠くに輸操船が3隻停泊しているのが、船窓の明かりで分かる。

 かなり大きな船だな。


「あの船を狙いたいな。リトネン、構わんだろう?」


「2斉射目なら、良いにゃ。最初は市場を狙うにゃ」


 4イルム砲弾なら輸送船を破壊できると考えたのかな?

 大破できなくとも、火災を起こせれば殊勲賞ものだ。

 カリンさんが喜んでいるから、上手く当てることができれば良いんだけどね。


「砲撃準備終了です!」


「砲撃は先程と一緒にゃ。リーディル、もう3本砲弾を用意しとくにゃ。場合によっては敵の偵察部隊に撃ち込むにゃ!」


 砲弾3発を余分に持ってきたからそれを使うってことか。

 大急ぎで荷台から木箱を下ろして砲弾を擁しておく。


「燃料を補給しました。30パイン容器1個が残ってますが、使わずに済みそうです」

「エンジンを起動して、マスクを掛けるにゃ」


 燃料の心配は無さそうだな。

 この3個の砲弾も使わずに済ませたいところだ。


 砲撃を開始したのは日付が変わる0時丁度だった。小雪が舞っているけど、双眼鏡では輸送船と、市場がはっきりと見える。

 敵襲を警戒しているのだろう。あちこちにライトが付いているから、市場の中に積み上げた荷揚げ品が良く見える。


 リトネンさんの合図で、一斉に噴進弾が放たれる。相変わらず凄い噴煙だ。

 発射後、直ぐに次弾を発射機に装填する。

 2射目は、一斉射撃ではなく各車がバラバラで放ったが、市場は既に火災を起こしている。

 3弾目を装填すると、イオニアさんが急いで目標諸元を変更している。車体前方500ユーデにしたところで、セーフティの解除レバーと発射レバーに紐を付けて銃眼から中に放り込んだ。

 筒先にも布を被せているけど、筒先の布は運転席横の銃眼から紐を引くことで外せるみたいだな。


「やったぞ! 輸送船1隻はあれで片付いたな」


 ハンズさん達が大声で騒いでいる。

 漁港を見ると、市場近くに停泊していた船から火の手が上がっている。

 上手く行けば、隣の輸送船にも飛び火しそうだ。


「さて出発にゃ! 今度は帝国の連中が押し寄せて来ないとも限らないにゃ!」


 多分来るだろうな。

 ここでの砲撃はしっかりと漁港から見えたはずだ。

 その上、ここからだとどうしても帰りに通る場所が限られてくる。

 途中にあった石橋だ。

 本流は水門から西に流れているらしいが、王都の中を流れる運河は、破壊された水門から伸びている。

 横幅8ユーデに満たない石橋だが、それを押さえられると面倒だ。

 

 全員が車に乗車すると、直ぐに走り出した。

 遅れるだけ帝国軍の石橋封鎖が厄介になるからだろう。


 今度の運転はリトネンさんだ。ネコ族だから雪明りの中でも遠くまで見えるんだろうな。ライトを点灯せずに走っている。

 隣にはミザリーが座っている。銃眼からフェンリルを撃とうなんて考えているようだけど、銃を水平にしてトリガーだけを引いてくれるだけで良さそうだ。

 足元の木箱の中からヒドラⅡの砲弾を3発ポケットに入れておく。

 

「やって来たにゃ! でも石橋は越えられそうにゃ」


 天井のハッチを空けて図ん報をながめると、遠くに2つ並んだライトがいくつも見える。

 あれが、兵員を運ぶ蒸気自動車だとすれば3個分隊ほどになりそうだ。


「強硬突破で行くんですよね?」


「そうにゃ。ヒドラⅡに砲弾を装填しとくにゃ!」


 6輪駆動車は小さな旋回砲塔が付いている。

 体を使って動かすことになるんだが、ヒドラⅡの銃床を梃代わりにして回すことができる。

 砲塔に取り付けられたヒドラⅡの架台は左右15度に動くし、上には60度近く銃口を上げられる。

 三分の一イルム厚ほどの鉄板で出来ているから、銃弾なら跳ね返せるに違いない。


「水門の方に火が燃えてるよ!」


 ん! ミザリーの声に、俺とイオニアさんが銃眼を覗く。

 確かに燃えてるな。


「地雷を踏んだということでしょうか?」


「1台ではなさそうだ。2台は確実だな。となると、前方から来るのは増援部隊ということになる」


「だいぶ近付いてきたにゃ。連中に噴進弾をお見舞いして左に進路を変えるにゃ」


 そうなると早めに右手にヒドラⅡを動かしておこう。

 立射になるんだが、架台に設置されているから照準に問題はない。


「距離800……、今にゃ!」


 既に保身の覆いとセーフティは外されていたんだろう。リトネンさんの言葉と同時に3本の炎が前方に延びて行く。

 先頭車両が炸裂して炎を上げると、直ぐ後ろを走っていた蒸気自動車が衝突した。

 殿は、慌てて急ハンドルを取ったのだろう。燃え盛る蒸気自動車の隣に横倒しになってしまった。


 横転した蒸気自動車の底にヒドラⅡの砲弾を発射する。

 炸裂弾だけど、自動車を不意飛ばすほどの威力は無い。殿を走ってきた6輪駆動車の発砲と同時に炎が広がる。

 ハンズさんは焼夷弾を使ったに違いない。

 次は焼夷弾を使うか……。ポケットの中の砲弾から焼夷弾を選んで次弾装填を行っておく。


 急に方向を変えるから、慌ててヒドラⅡに掴まるようにして体を支える。

 ミザリーはドアに頭を打ったのかな? 頭を撫でているようだ。


「後続、付いてきます!」


「後は出来るだけ引き離すだけにゃ!」


 さらに速度が上がる。チェーンを巻いているんだから、あまり速度を上げて欲しくはないんだが、今回はそうもいっていられない。

 ちらりと後ろを銃眼越しに眺めると、ハンズさんがヒドラⅡで攻撃しているのが見えた。

 ここからではなぁ。後ろに3台いるから、下手をすると同士討ちをしてしまう。

 前方だけに集中するしかなさそうだ。


「少なくとも5台の蒸気自動車を破壊しましたから、敵の被害は3個分隊ほどになるかと」


「まだまだ次があるにゃ。このまま北に向かうにゃ」


 荒れ地を通り過ぎて、北西の鉄橋に続く街道に出たようだ。

 これで揺れは少なくなるはずだけど……、、前方で待ち構える部隊となると、開拓を進めている工兵部隊になるんじゃないか?

 工兵部隊が攻撃することは、滅多に無いと聞いていたんだけどなぁ。


 破壊した自動車の炎が見えなくなったところで、小休止を取る。

 俺達は自動車から降りて体を伸ばす。リトネンさんは運転手たちを集めて相談中だ。


「この先に町がある。今度は俺達が前になるだろう。まだ噴進弾が残っているからな」


「敵は全滅したんでしょうか? 1発も銃弾が当たりませんでした」


「こっちは何発か当たったぞ。やはり殿は危険性が高いな。もし殿になったなら、防弾ガラスを銃眼に付けておくんだ」


「了解です。十分に気を付けます」


 厚さ半イルムほどのガラスなんだが、銃弾を跳ね返せるんだろうか?

 まあ、どちらかと言えば士気を低下させないようにとの配慮に違いない。拳銃弾ならともかく、小銃弾を跳ね返すことはできないんじゃないかな。


 タバコを踏み消して、車に乗り込む。

 今度は俺達が殿のようだ。


 ゆっくりと車が動き出した。

 防寒服を脱いで、動きやすい恰好にしておく。車内は結構暖かだ。前の襲撃時と比べると天国に思える。


「カレン達も4イルム砲弾を装填していたにゃ。何事も無ければ、開墾している工兵部隊にお見舞いして帰るにゃ」


「無駄にはならないようですよ。南にライトが見えます」


「ほんとにゃ……。そうなると、これが使えるにゃ」


 手榴弾が10個入った金属ケースを、リトネンさんがシートの裏から取り出している。

 窓から次々と落としていくのかな?

 狙撃して援護してあげよう。


 車内中央に立って、ヒドラⅡの銃口を真後ろに向けておく。まだ砲弾の装填は早いだろう。木箱から、砲弾を2個取り出してポケットに入れておく。


 北に向かう街道を走っているんだが、追っ手の速度が思ったよりも遅く感じる。

 4輪駆動車化と思ってたけど、どうやら通常の蒸気自動車のようだ。雪が無い状態でも、速度は時速20ミラル(32km)程度だからなぁ。

 このまま追い付かれずに、町の傍を通り抜けられそうだぞ。


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