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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-073 6輪駆動車の改良点


 砦に到着した時にはすっかり朝になっていた。

 背嚢と小銃を下ろして、車両を駐車場のドワーフ族に預ける。

 とりあえず俺達部隊の部屋に向かって荷を下ろすと、皆で食堂へと向かった。


 暖かなスープに焼き立てのパン……。何時もの朝食なんだが、作戦帰りだからなぁ。これが一番欲しかったものだ。

 部屋でジャンパーを脱いできたんだが、砦の中だからセーターで十分だ。それだけ体が冷え切っているんだろう。

 食事が終わったところで、ワインが配られる。カップに半分だから俺には丁度良い。

 

「今日は、ここで解散にゃ。ゆっくる休んで欲しいにゃ。私も、報告は明日にするにゃ」


 さすがにそれは不味いんじゃないか?

 だけどリトネンさんだからなぁ……。一応、作戦は成功してるし、途中で何回か通信機で報告も行っているからに違いない。


 皆で同時に席を発つと、ミザリーと共に俺達の部屋へと向かう。もう母さんは起きているはずだ。

 部屋の扉をトントンを叩くと、中から母さんの返事が聞こえた。

 扉を開いて俺達2人を見た途端、顔に笑みが浮かぶ。

 直ぐにミザリーが飛びついてハグしている。


「帰ったの?」


「さっき到着して、朝食を食べたばかりなんだ。これからシャワーを浴びて一眠りするよ」


「帰ったら、詳しく教えてもらうわ。そろそろ出掛けないといけないの……」


 俺達の着替えを出してくれたんだけど、それぐらいは俺達だって出来るんだよなぁ。早く食堂に行かないと、朝食抜きになりそうだ。


「のんびり部屋にいるよ。夕食は一緒に食べられそうだ」

 

 俺の言葉に小さく頷いて、母さんが出掛けて行った。


「とりあえずシャワーでしょう? その後は部屋で寝てるの?」


「サロンで少し時間を潰してからにする。まだ寝られそうにないからね」


 先ずはシャワーを浴びよう。

 ミザリーと一緒にシャワー室へと向かい、中で男女別の区画に分かれる。

 互いに部屋の鍵は持っているからだいじょうぶだ。


 衣服を脱いで、先ずはぬるま湯からかな……。

 じっくりと体を馴染ませたところでシャワーの温度を上げる。

 やはり熱いシャワーは最高だな。


 私服に着替えると、洗濯物を一度部屋に置いてサロンへと向かう。

 お茶をカップに注いで窓際のベンチに腰を下ろす。

 タバコに火を点けようとしていると、横からライターが延びてきた。


 ありがたく使わせてもらって差し出した本人に顔を向けると、そこにいたのはクラウスさんだった。


「ご苦労だったな。リトネンは成功だと言って帰ってしまったんだ」


 俺から詳しい話を聞きたかったということかな?

 とりあえず、集積所への砲撃から定期便への攻撃、弾薬輸送車列への攻撃、最後に監視所への砲撃について報告することになってしまった。


「成功したのは、あの車もさることながらリトネン達の部隊の資質が優れていたからなんだろう。それで追加することはあるかな?」


「一言では言えないぐらいなんです。雪の降る中でしたから、その対策もありますがある程度纏めたいと思ってます。俺個人としては、防弾性能を増したいですね。これは運用にも関係するんですが、あまり重くするのも考えてしまいます」


「なるほど、リトネン達が運用するには中途半端ということか……。確かにまとめてくれるなら丁度良い。明日にでもオルバンを向かわせよう。出来れば長所と短所、それを踏まえた改良案としたい」

 

 量産するのかな?

 かなり燃費が悪いんだけど、飛行機よりはマシということなのかもしれない。それとも、燃料の増産体制が整ったのだろうか?

 それなら、飛行機の飛行時間を伸ばした方が良いと思うんだけどね。


 クラウスさんが席を離れたところで、俺も部屋に戻る。

 先ずは一眠りだ。ぐっすり眠れそうだけど、夕食時には母さんが起こしてくれるに違いない。

               ・

               ・

               ・

 夕食を取ってから再びベッドに入って眠ったから、今朝は少し頭が痛い。

 寝すぎたに違いない。食堂の売店で買い込んだ頭痛薬をコーヒーで飲んでみた。

 俺達部隊の部屋に着いた時には、だいぶ良くなってきた。

 頭痛薬が効いたのか、それとも濃いコーヒーが効いたのか……。


「「おはようございます!」」


 扉を開けて挨拶すると、窓際で外を眺めていたイオニアさんが「おはよう!」と挨拶してくれた。


「何時も早いですね。イオニアさんだけなんですか?」


「さすがに2日目だからなぁ。もう少し寝ていたいと思っても、朝は早起きしてしまうんだ」


 さっきコーヒーを飲んできたばかりなんだけど、ミザリーがお茶を用意してくれる。

 小さな薪ストーブに火が入っているから、部屋の中は暖かだ。

 革のジャンパーを脱いで、椅子に後ろに掛けておく。

 

「昨日、クラウスさんに会いました。簡単に状況報告をしたんですが、自動車について利点と欠点、それに改良案を低減して欲しいと……。まとめをするためにオルバンをここに送ると言ってました」


「だろうな。あの2台だけだったからな。たぶん、数台で遊撃隊を組むのだろう。今回の襲撃は、その為の実践でもあったに違いない」


 俺の話を頷きながら聞いていたイオニアさんだが、やはり思うところは一緒のようだ。


「実際の戦闘についても俺の見た感じを述べたんですが……。それを聞いたクラウスさんは「中途半端」と言ってました」


「クラウス殿もそう思うのは無理はない。私もそうだからな。たぶんハンズも同じだろう。エミルやテレーザはどんな印象を受けただろう?」


「私は1つだけだよ。あの大きさなら無線機を付けられると思うんだけどなぁ」


 何時も俺達の話を聞いているミザリーが、珍しく意見を言った。

 そんなミザリーを見て、イオニアさんが笑みを浮かべて頷いている。


「それも悪くないな。数台が離れて行動することもあり得るだろうし、1つの攻撃目標に対して十字砲火を浴びせることも出来るだろう。交信ができなくとも合図を送ることと、その了承を伝えるだけで十分だ」


 どんな合図があるんだろうかと、少し考えてしまった。

「攻撃」に「攻撃停止」、「前進」に「停止」と「後退」……。10個もないんじゃないか?

 ミザリーのように電鍵で信号を送れるのであれば問題は無いだろうが、10個ぐらいの合図なら俺でも覚えられそうだ。


「良い案ね。リトネンにちゃんと教えておかないと……」


 急に扉が開いて、皆が入ってきた。

 食堂辺りで合流したのかな? オルバンまで一緒に入ってきた。


「今日は、今回の襲撃の反省にゃ。あの自動車について話を纏めるようにクラウスに言われたにゃ」


「俺が記録しますから、皆さんで気が付いたことを話してください。利点、欠点、改良点の3つに分けてくださると助かります」


 改めて、テレーザさんとミザリーがコーヒーを作ってくれるようだ。

 少し席を後ろにずらして、ハンザさんとタバコに火を点けながら皆の意見を聞くことにした。


 女性5人だから、色々と厳しい注文が付けられている。

 賑やかだからしばらくは傍観していよう。

 俺とハンザさんが、尾根で休憩している時に話していたことと同じような事を皆も思っていたようだ。


「防弾と言っても、どの程度を考えてますか?」


「小銃弾を弾ければ良いにゃ。鉄板の厚さは三分の一イルム(8mm)程度で十分にゃ」


「銃眼も欲しいわね。それほど大きくはいらないわ。場合によっては塞げる構造にしたいわね」


 ハンズさんと顔を見合わせてしまった。

 俺達は五分の一イルム(5mm)程度と考えていたんだが、それ以上ということは更に接近戦を考えているってことなんだよなぁ。


「この部隊の女性達は過激だからなぁ……」


「割を食うのは俺達ですよ。そうなると、ヒドラⅡに防護鋼板が欲しいですね」


「追加しておくよ。そうでもしないと良い的になりかねないからな」


 燃料容器の個数も1個追加する考えのようだ。

 無線機については、オルバンも頷いているぐらいだから通信士から見ると欲しい物なのかもしれない。


「こんなところですか? ハンズさん達から追加することがありますか?」


「1つ追加したい。噴進弾の発射筒をもう1本増やせないか? 2台で6発なら、目標近くで装弾しないで済むと思うんだが」


「そうですね……。改良点に追加しておきます。リーディルさんの方は?」


「2つある。1つは、いっそのこと、自動車全体を装甲化しても良いのではないか。もう1つは、ヒドラⅡの発射速度を更に上げたいんだ。小銃と同じようなレシーバ―を持っているなら、ゴブリンではなくフェンリルのような機構にして欲しい。

 少なくとも、倍の砲弾を放てるだろ」


「ファイネルさんからも、似た話を受けました。やはり単発では次弾の発射までに時間が掛かると……」


「待ち伏せなら現状でも十分だが、強襲するとなると問題だ。ファイネルさんの方は会合時間が短いから、その話が出たんだろうな。有効射程に入っている時間が短いということなんだろうね」


 現場の意見が必ずしも反映されることは無いだろうが、一応提言しておかないと変わることはない。

 2時間程、俺達から意見を聞いてオルバンが部屋を出て行った。

 砦の上層部は、どのように俺達の意見を纏めるのだろうか?

 クラウスさんのことだから、聞くだけは聞いたということにはならないと思うのだが……。


「ヒドラⅡがフェンリル並みね……」


 その光景が目に浮かぶのだろうか? エミルさんが俺に笑みを向けている。


「噴進弾を3発もおもしろそうにゃ。改良しないなら、私からドワーフ族に頼んでみるにゃ」


「バランスが悪くなるんじゃありませんか? ハンドルを取られるようなら事故を起こしかねませんよ」


「その時は砲身を切り詰めるにゃ。前に飛ぶなら問題ないにゃ」


 接近するってことかな? 

 ヒット・エンド・ランのような形になるんだろうか?

 敵の拠点襲撃は、俺達部隊の対象外のように思えるんだけどなぁ。


「次の作戦は、帝国軍の集積待ちということになるのでしょうか?」


「たぶん別の任務になるにゃ。クラウス達は尾根の南端に監視所を設けようとしているみたいにゃ。その邪魔をされたくないのが本音みたいにゃ」


 尾根の南端から南は高台がないからなぁ。巧くつくれば状況把握が容易になるだろう。分隊規模ではなく、自衛できるような施設であるなら尾根を目指せば俺達の安全が確保できそうだ。

 そんな監視所の工事を敵に悟られたくないということで、色々な計画を立案しているってことだな。


「輸送部隊の攻撃は容易かもしれないけど、あまり攻撃すると海上輸送に変ってしまうにゃ。反乱軍の潜航艇はだいぶ数を減らしているにゃ」


 潜航艇の探知が容易化したということなんだろうか?

 電池と電動機を使う潜航艇は、速度も遅いし何言っても長距離の航海ができない代物だ。

 何時も潜望鏡で岸が見える範囲での作戦になっているらしい。


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