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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-071 燃料不足で帰路を変える


 エミルさんから貰ったイチゴ味のタバコを、火を点けないで香を楽しむ。

 呆れた表情でハンズさんが見ているんだけど、上手く襲撃を終えた後で火を点けよう。

 既に砲弾は装填してあるから、やってきたら銃に被せた布を取り外せばそのまま射撃を行える。

 ヒドラⅡに俺が取り着いたら、ミザリーが次弾を手渡してくれるはずだ。


「中々来ませんね?」


「帝国軍にも都合はあるんだろうよ。案外途中で、スタックしたんじゃないか?」


 街道なら問題はないんだろうが、生憎と帝国軍が補給路に選んだ道は畑を繋ぐ農道のような道らしい。

 普段なら牛が荷車を曳く道だ。無理すれば荷車がすれ違えるらしいが、蒸気自動車でその道を走るのは苦労するに違いない。

 少しハンドルが取られたら、たちまち畑に入り込んでしまう。

 重い荷を積んだ後輪駆動の自動車らしいが、畑に突っ込んだら自力で出られるんだろうか?

 その点、俺達の自動車はかなり走破性が良い。最初から畑を走ることを考慮しているんだろうな。


「ん! どうやらやって来たぞ。砲弾は装填しているが、荷を積んだ車両を後ろから狙うぞ」


「打ち合わせ通りに、俺は前からで……」


 直ぐに、リトネンさんが大きな声で乗車を告げる。

 運転は、何とリトネンさんだ。助手席のイオニアさんが銃架からゴブリンを取り出して、先端に手榴弾を差し込んでいる。かなり接近するってことか?


「ミザリー、車体に伏せているんだぞ!」


 ちょっと驚いているけど、言われたとおりに椅子を下りて床に座ったのを見て一安心する。そこなら後方から撃たれることは無いだろう。


 エンジンが掛かったが、車体重量があるから振動は無視できるほど小さい。


「雪で見通しが悪いにゃ。500で射撃をするにゃ」


「照準目盛りの変更は済んでます。また、合図をお願いしますよ!」


「了解にゃ。 まだ1500ほど離れてるにゃ……」


 ヒドラⅡに被せた布を取り払って、セーフティを解除する。後はトリガーを引くだけになるから、銃床を肩に付けてもトリガーには指を掛けない。


 ぼんやりとした影が近付いてきたのが俺にも見える。

 照準器で拡大された姿は蒸気自動車よりも前部がすっきりとした形状だ。

 2台目の荷台に照準を合わせる。500ユーデなら運転席付近で丁度良いはずだ……。


「700。……600。……500」


 リトネンさんの告げる声がヒドラⅡの砲声で立ち消えた。

 2両目の車体が火炎に包まれ車列が急停止する。

 急いで排莢して、ミザリーから次弾を貰って装填すると、ボルトを戻すとともに発射した。

 先頭車両の荷台から飛び降りてきた兵士が、自動車と共に吹き飛ぶ。

 榴弾だったのか……。

 3発目を撃つ前に俺達を乗せた自動車が動き出す。

 ミザリーの体を踏みつけるような姿勢になったが、どうにか3発目を3両目に放つことができた。

 最初の位置から、200ユーデも遠ざからない内に、輸送車列の積んできた弾薬の誘爆が始まる。


 ドォン! という音が聞こえてきたが身を低くして飛んでくる金属片を避けるだけだ。

 カン!と乾いた音がたまにするんだよなぁ……。こんな戦いをするなら、装甲板で周囲を囲わないと命がいくつあっても足りない気がする。


 誘爆音が遠ざかったところで後ろを振り返ると、ハンズさん達が乗った車がちゃんと付いてきている。

 ほっと一息ついたのは、車列から5ミラル(8km)ほど離れた頃だった。


 かなり車を飛ばしていたけど、少し速度も緩めたみたいだな。

 だいぶ嫌な音が聞こえてきたと車の後ろを見て見ると、座席の後ろに1つ金属片が刺さっていた。

 伏せていたおかげで助かったみたいだ。やはり、破片を避けるものは必要だろう。


 1時間程、走ったところで小休止を取る。

 ここで燃料缶から燃料を補給しておくようだ。空の燃料缶にも金属片で穴があけられている。満タンの方が無事だったのは神の御加護に違いない。


「こっちはそれほどではなかったな。位置的なものもあるんだろうけど、危なかったなぁ……」


 切り裂かれた座席の背中を見て、ハンズさんが驚いていた。

 

「とりあえずは成功なんでしょうね。焼夷弾が2発に榴弾が1発です」


「俺は焼夷弾を2発だけだった。それでもあの爆発だ。さて、これで帝国軍はどうするかだな」


 リトネンさんとミザリーが、砦へ状況報告を行っているようだ。

 それよりも、これだけ派手に攻撃したんだから帝国の追撃がこれから始まるんじゃないかな。


「次は、追撃隊との戦闘だ。まだ砲弾は半分以上残っているし、グレネード弾もたっぷりと用意してある」

「俺は、手榴弾を落としていきますよ。それだけでも効果がありそうです」


 雪の中だから、タバコが吸える。

 戦闘後だから、まだ興奮しているのだろう。それほど寒さを感じないんだよなぁ。


 15分ほどの休憩を終えると、リトネンさんが俺達を集めた。

 あまり嬉しそうではないところを見ると、問題があるってことなんだろう。


「燃料が足りないにゃ。6輪駆動はかなり燃費が悪いにゃ。このまま西回りで砦に戻るのは無理にゃ。尾根の東に戻って砦に戻るにゃ」


 途中まで燃料を積んだ自動車がやってきてくれるらしい。尾根の東はある程度反乱軍の支配地と言えるのかな?

 尾根に西にはいくつかの町があるし、帝国軍の支配地であることは間違いない。

 そんな場所で燃料不足で立ち往生することになったら、直ぐに帝国軍に包囲されかねない。


「監視所があるってことだな?」


「現在地はここにゃ。北東に向かって進めば、尾根に一番近い監視所の直ぐ近くを通るにゃ」


 何事もなく通してくれるとも思えないな。


「まだ噴進弾が残ってるにゃ。真っ直ぐ監視所に向かって4発お見舞いするにゃ」


「残っているのは榴弾ばかりですから、丁度良いでしょう。走りながら放つんですか?」


 どうやらそうらしい。

 何秒かの時間差を置いて着弾位置を変えるということだ。4発撃てば1つは当たるという感じかな?

 発射距離は500ユーデ前後にするらしい。

 発射したら直ぐに左に方向を変えて逃げだすということだけど、グレネード弾で牽制すると言っていた。

 

「運転は私がするにゃ。ミザリーは隣に座るにゃ。イオニアに噴進弾の発射と、後方への射撃を任せるにゃ」


 俺がヒドラⅡで牽制するのは当然のことらしい。

 もう1台はテレーザさんが運転してエミルさんがグレネード弾を放つということだ。


「ポケットに3発ほど入れておくか。照準は目分量でするしかなさそうだな」


「さすがに発射の都度照準器で照準はできないでしょう。俺もそうします」


 要するに強硬突破ということらしい。

 右手を監視所側にするのは、噴進弾の射出用砲身を弾避けにするということかな。


「噴進弾の装填と、射程調整ができたら出発にゃ。グレネード弾とヒドラⅡの砲弾も用意しておくにゃ」


 リトネンさんの指示で、俺達は準備を始める。

 10分も掛からずに用意が終わったことを告げると、直ぐに出発することになった。

 

 車両が上げる雪煙を避けて、後ろを進んでいたハンズさん達の車が俺達の横に並ぶ。

 砲身内に雪が入るのを防ぎたいんだろうな。

 だけど再び雪が降り出したから、早めに発射して逃走したいところだ。


「目的地まで1時間も掛からないにゃ。どこでも構わないから撃ち続けるにゃ!」


「了解です!」


 ヒドラⅡの射程は1500ユーデを越えてるからね。

 少し上向きに撃てば、遠くまで届くだろう。

 ゴブリンについているような照準器が付いていたから、距離を800に合わせておく。おおよその目安は付けられそうだな。

 焼夷弾よりも榴弾の方が、炸裂時に雪を舞い上がらせるから効果的かもしれない。

 ポケットに入れた3発の砲弾を全て榴弾に換えておく。


 前方に、雪を被った建物が見えてきた。

 細い煙突はストーブ用なのだろう。何本か見えるけど、黒い煙を上げている。


「距離は1ミラルはあるにゃ。イオニア頼んだにゃ!」


「了解です。あまり近づかないようにしてください」


 監視所に近付けば銃撃を受けるだろう。接近すればするほど被弾の可能性は高まってしまう。


「噴進弾を放ったらすぐに北に向かうにゃ。しっかり掴まっていて欲しいにゃ」


 セーフティレバーを倒して、いつでも撃てるよう準備する。

 近付くにつれ監視所の様子が良く見えてきた。

 3つの建物があるようだ。それほど大きくはないが、真ん中の建物を狙ってみよう。

 真っ直ぐに向かっているから移動修正は必要ないし、距離も近いから砲弾の落下もあまり気にすることもない。狙った場所に当てられるってことだ。


 銃床を肩に付けて、簡易照準器に目標を捉える。

 既に射撃の有効範囲に入っているけど、まだ撃たずにリトネンさんに指示を待つ。


「……800。……600。……500、発射!」


 リトネンさんの合図と共にトリガーを引く。

 噴進弾の発射よりもヒドラⅡの発射が少し早かったようだ。

 直ぐに次弾を装填し用としていると、急に体が後方に投げ出される。咄嗟にヒドラⅡに掴まって体を支えたけど車が急に向きを変えたようだ。

 体を元に戻して次弾を装填すると、直ぐに監視所に向けて発砲する。

 黒い煙を上げているから噴進弾が1発以上命中したに違いない。

 3発目の砲弾は、牽制的なものだ。近くに着弾すればまだうごけないだろう。


「エミル達も付いて来るにゃ。ここまでは問題ないにゃ。もう少し先に行ったら運転を替わるにゃ」


「攻撃してきませんでしたね?」


「砲撃を受けたんだ。先ずは身を潜めて自分の安全を確保するだろうな。ヒドラⅡの砲弾は小さくとも炸裂弾だ。たぶん今頃ようやくというところだろう」


 俺達が北に向かったと確認できただろうか?

 この先には帝国軍の部隊がいないらしいが、集積所の1つを潰したからなぁ。追手が何隊か派遣されているとも限らない。


 監視所の攻撃から1時間程経つと、前方に尾根が見えてきた。

 自動車の向きが少し東寄りになる。

 尾根の東を目指しているんだが、燃料はどこまで持つんだろう?


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