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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-064 狙撃は脅威の高い順で


 全員が揃ったところで、谷の出口を目指す。

 集合場所を谷の出口にしておいた方が良いように思えるんだが、そうもいかないようだ。

 何時ものように、線路近くまではドワーフ族が荷を運んでくれる。今回は食糧と水だから2人が大きな荷物をハシゴで背負っている。


 3日目の昼近くに森が切れてきた。

 ここで食料と水をドワーフ族から受け取り、明後日の総攻撃を待つことになった。


「仕掛けるのは明後日の夜明けで良いんですね?」


「第一小隊が陽動の砲撃をしてくれる筈にゃ。その音に紛れて近付くにゃ」


 砲撃と砲弾の炸裂音が、俺達のブンカーへの接近を掩護してくれるということだな。前よりは容易に思えるんだが、さてどうなるかだ。


「イオニアとハンザが手榴弾を投げ込むにゃ。階段は私とリーディル。南はエミル達3人にお願いするにゃ」


 全員がリトネンさんに顔を向けて大きく頷く。

 少し森の奥に戻って、夕食を作ることになった。

 明日は体を休めて、夜に備えよう。一晩中起きていることになりそうだけど、ブンカーが手に入れば、その中で休むこともできそうだ。


 翌日。夕焼けが山を照らし始めたところで、俺達は行動を開始する。

 先ずは線路を横切らなくてはならない。

 ブンカーの銃眼から見えなくなるような位置まで一旦西に向かって線路を横切った。

 後は尾根に登るだけだ。

 南に向かって斜めに登っていく。

 尾根の直ぐ西に着いた時には21時を過ぎていた。


 ゆっくりとブンカーに向かって移動する。

 先頭のリトネンさんが足を止めたのは、茶筒型のブンカーが見えたからだろう。

 俺にはよく見えないから、距離は200ユーデほど離れているに違いない。


 ゆっくりと背負ってきたハシゴを下ろす。

 ドラゴニルを肩から下ろして、手榴弾がポケットに入っていることを確認した。


「しばらく待つにゃ。外には誰もいないけど、援護射撃の1発をブンカーの直ぐ傍に落とすと言ってたにゃ」


「もう少し離れていた方が安全じゃないですか?」


「距離が近いから、それ程外れないにゃ」


 確かに距離は1ミラルほどもなさそうだ。とはいえ、あの砲弾の散布界は結構広いからなぁ。

 とりあえず、200ユーデほど離れていれば安心ということなんだろう。


 じっと待つのは退屈だ。さすがに一服はできないから、飴玉を口の中で転がしているんだが、これで2個目なんだよね。

 熱いコーヒーが飲みたくなってきたな……。


 やがて、少しずつ空が白んできた。

 じっとリトネンさんが時計を見ているのは、陽動砲撃の時間を確認しているんだろう。砲撃開始は4時丁度ということらしい。

 懐中時計を持っていても、この暗さでは分からないからなぁ。

 たぶん、そろそろ始まるに違いないと思うんだが……。


 ヒュルヒュルルル……。


 何かが近付いてくる音が聞こえた。


「伏せるにゃ!」


 リトネンさんの鋭い声に、ミザリーに覆い被さるように身を伏せた。

 

 ドオォン! という炸裂音が脳を揺さぶるように近くで聞こえ、俺の背にパラパラと土砂が降ってきた。


「皆、無事にゃ? 始めるにゃ!」


 リトネンさんの声が遠くから聞こえるんだが、俺の直ぐ横にいるんだよな。

 耳がおかしくなってるのかな?

 とりあえず、ミザリーを起こしたところで、エミルさんにミザリーの体を向けると、肩をポンと叩く。

 頷くのを確認したところで、ドラゴニルを握るとリトネンさんの後に続いた。


 俺が階段方向に銃口を向けると、リトネンさんはブンカーに向かって合図を送っている。

 既にハンズさん達はブンカーに取り付いているのだろう。


「ブンカーはハンズとイオニアに任せるにゃ。階段とその周りに注意するにゃ」


 リトネンさんの言葉が終わらない内に、ブンカーから爆発音が2度聞こえてきた。直ぐにハンズさん達が扉の前に姿を現す。

 ハンズさんが扉が開くことを確認すると、再び手榴弾をブンカーの中に投げ込んだ。

 爆発で扉が開くと、直ぐ中に飛び込んでいく。


「危険は無いのでしょうか?」


「ブンカーの直径は8ユーデも無いにゃ。手榴弾なら1発でも十分にゃ。3発使ったなら、中の兵隊は生きていないにゃ」


 やがて、イオニアさんがこちらに走ってきた。


「ブンカー内の制圧完了です。5名いましたが、全て排除出来ました」


「了解にゃ。エミル達に伝えて、ブンカー内に待機にゃ。帝国軍の兵士は早めに外に出しておくにゃ」


 死人と一緒というのも考えてしまうからね。

 明るくなったら埋葬してあげよう。

 彼等にだって、西の大陸での生活はあったに違いない。


「テリーザ、ここを頼むにゃ。私はブンカーに向かうにゃ」


 身を低くして移動してきたエミルさん達に気が付いたリトネンさんが指示を出す。

 俺の隣にテリーザさんが身を潜めると、南東方向にフェンリルの銃口を向ける。


「こっちは私が見るから、階段方向をお願い!」


「了解です。でも誰も上がってこないんですよねぇ……」


 何度も3イルム砲弾の炸裂音が下から聞こえてくるから、移動できない状況なのかもしれないな。砲撃が止んだら上がって来るかもしれないが、今のところ砲撃が止む様子は無さそうだ。

 一体どれだけ砲弾を運んできたんだろう?

 今回は単なる砲撃ではなく、砦の奪還が目的だ。ありったけ撃ち込むつもりなのかもしれない。


 既に朝になっている。俺の目にも周囲が良く見えるから、かなり監視が楽になってきた。

 ちらりとブンカーを見ると、ハンズさんとイオニアさんが帝国軍の兵士を外に運び出していた。

 東に移動しているから、その辺りに埋葬するのかな。穴掘りは一段落してからになるんだろうけど、今のところは状況に変化なしだ。


 朝日が昇って来たところで砲撃が途絶えた。

 いよいよ総攻撃が始まるんだろう。ブンカーの中にいたリトネンさん達も外に出てきた。


 俺の隣にも、ハンズさんが飛び込んできた。テレーザさんのところにイオニアさんが行ったみたいだな。ミザリーとテレーザさんは少し後ろに下がったみたいだ。


「俺なら、砦から真南に逃げるんだがなぁ……」


「わざわざ尾根には向かわないと?」


「山歩きはそれほど進まないからな。ふもとならそれなりに歩きやすい。こんな時なら、短い時間でどれだけ遠くに行けるかの判断がいるんだ」


「反撃を考えるなら、こっちに来るにゃ。逃げ難いけど、追ってくる方だってそれほど進めないにゃ。途中で隠れながら追っ手を攻撃することもできるにゃ」


 リトネンさんの戦い方は、何時もそんな感じだったな。

 ハンズさんの言葉とリトネンさんの言葉は、状況に応じて使い分けるということになるんだろう。

 さて、敵兵はどう出るんだろう?


 下の方から手榴弾の炸裂音が聞こえてきた。

 いよいよ総攻撃が始まったに違いない。

 身を潜めて藪の間から、九十九折りの階段を眺めることにした。


 銃声の音が途切れることがない。下はかなりの激戦になっているようだ。

 ここからなら支援攻撃も出来そうだけど、リトネンさんはジッと階段付近を眺めているだけなんだよなあ……。


「来たにゃ! 10人ほどにゃ。狙撃して止まったところで、グレネードを打ち込むにゃ!」


「目盛りは200です。射程に入ったところで狙撃します!」


「200というと……。あの辺りか。こっちも準備は出来てるぞ」


 長い階段だからなぁ。ここから下に2つ目の階段の折口になるんだが、折口は少し広くなっている。

 一休みができるようにだろうか? それとも階段を作る時の資材置き場にしていたのかな。


「やはり戦は高い位置を取った方が有利だ。ここからなら十分にグレネードを撃てる」


 ハンズさんが安心した口調で呟いているけど、双眼鏡で登ってくる兵士の装備を見て、思わず舌打ちが出る。登ってくる兵士の1人が持っているのは、間違いなくグレネードランチャーに違いない。

 こちらから届くのなら、相手からも届くと考えねばなるまい。

 狙撃は偉い連中からと思っていたが、脅威の順番でも良いはずだ。

 後ろから4番目だな……。

 次の折口を過ぎれば200ユーデ以内になるはず。

 ゆっくりとドラゴニルを目標に向けて、敵兵達が階段を登って来るのを待つ。


【……かの者に天国の門が開かれんことを……】


 祈りを終えると同時にトリガーを引く。

 乾いた銃声が周囲に轟くと、グレネードランチャーを持った兵士が階段を転げ落ちた。

 頭部貫通だから間違いなく即死したはずだ。

 貫通した銃弾が後ろの兵士に当たったらしくその場に倒れ込んだ。

 敵兵達が慌てて斜面にへばりついたところに、ハンズさんの放ったグレネード弾が炸裂した。

 よろよろと動く敵兵を、1人ずつ確実に止めを刺す。


「先ずは、終了だな。次もやって来るんだろうか?」


「準備は必要ですよ。それより敵兵がグレネードランチャーを持っていたのを見た時には冷や汗ものでしたよ」


「リーディルが狙わない時には、私が倒そうと思っていたにゃ。ちゃんと優先順位が分かっているなら一人前にゃ」


 あまり褒められるのもなぁ……。

 狙撃の順番は、脅威が優先と覚えておこう。


 しばらくそのままでいたんだが、次の連中はやってこないようだ。

 案外、背後からなんてことも考えられるのでブンカーの3方向を監視することになってしまった。

 

 下の銃声は何時の間にか収まったようだ。

 ミザリーがメモをリトネンさんに渡しているから、何か通信が入ったに違いない。


「皆、その場で聞くにゃ! 下の砦は反乱軍が奪取したにゃ。敵は西に敗走したらしいけど、一部は尾根に向かったらしいにゃ。

 このブンカーに2人増援が来るから、しばらくこの場を守ることになるにゃ。

 リーディル、白いリボンを銃に付けた2人だから、狙撃したらダメにゃ!」


 さすがに帝国軍のような制服を着てないなら狙撃はしないんだが、一応目印があるなら分かりやすいな。

 片手を振って、了解を告げておく。


 しばらくして2人連れが重そうな荷をハシゴに背負って階段を登ってきた。

 ゴブリンの銃身に包帯を巻いて下げているから、あの2人に間違いなさそうだ。

 リトネンさんにやって来たことを告げて、再び周囲を見はることにする。


「援軍の2人かにゃ?」


 リトネンさんの大声に、階段を上がってきた兵士が片手を上げた。


「そのまま上がってきて欲しいにゃ。ブンカーの中で待ってるにゃ」


 ハンズさんを連れて、リトネンさんがブンカーに入っていく。

 全員を連れて行かないのは、まだ周辺の雲行きが怪しいからだろう。


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