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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-059 最後は近距離攻撃で


「最後は、工兵の屯所を攻撃するにゃ……」


 一瞬、皆の顔がリトネンさんに向いてしまった。

 攻撃は可能だろう。だが、無事に帰れる保証はどこにもない。

 少しばかり無茶が過ぎるんじゃないかな……。


「攻撃は、イオニアとハンザの持つグレネードランチャーを使うにゃ。外に飛び出して来たなら、リーディルが狙撃できるにゃ。グレネード弾を2発放ったところで後退するにゃ」


「1人2発で都合4発ということですか。4発持って行けますが?」


「さすがに4発は撃たせて貰えないと思うにゃ。暗闇に紛れて一目散にゃ。その攻撃の間に、この辺りに地雷を仕掛けるにゃ。爆薬と信管あるからエミルに任せるにゃ」


「トラップですか。了解です」


 地図を広げて、リトネンさんが俺達の行動を説明してくれた。

 湿地の葦原伝いに近付いて、逃げる時には北西方向に逃げるということだ。

 

 テリーザさんやミザリーはエミルさんの手伝いということらしい。俺達が近付いても銃弾は勘弁してほしいな。


「近づいたら笛を2回吹くにゃ。急に撃たないで欲しいにゃ」


 リトネンさんも念を入れて確認しているほどだからね。


「戻る途中に移動砲台を仕掛けておきたいですね。まだ襲撃が終わっていないと思わせることができそうです」


「良い考えにゃ。頼んだにゃ」


 待てよ? グレネードランチャーはハンザさんがフェンリルの銃床に付けてあるだけだったんじゃないか?

 不思議に思っていたら、イオニアさんが運んできた袋から変わった銃を取り出した。

 ピストルのようだけど、口径が1イルム半はありそうだ。

 

「それってグレネードランチャーなんですか?」


「その通りだ。小型だが結構反動が大きいぞ」


 折り畳みのストックが付いているから、肩に保持して撃つんだろう。

 だいじょうぶなのかと、余計に不安になってしまう。


「そう心配するな。人間族でも撃つ奴はいるぐらいだからな。フェンリルが5丁にドラゴニルとゴブリンがあるなら、逃走しながらでも反撃はできるだろう」


 エミルさんが手榴弾3つを三角巾で包んでいる。途中に仕掛けるのかな?

 それにしてもだいぶここにいたからなぁ……。

 作戦全体が1か月ぐらいに思っていたんだが、既に半月は超過している。


「食料は、外に出しておくにゃ。次に利用する時には腐ってるし、中に置いとくと野犬が住み着きかねないにゃ」


 ハシゴには4日分の食料と、水筒が1つ。後は着替えに衣服と、ツエルトだ。ミザリーの分も積んであるけど、ミザリーは通信機を背負っているからね。それぐらいはしてあげないといけないだろう。

 水の容器や布バケツはハンズさん達が背負ってくれる。移動砲台も背負うことになるから、今は荷が少なく見える。


 今回は夕暮れを過ぎたら行動を開始する。

 干拓工事の場所までは、少し迂回することになるから、3時間程歩かないといけないらしい。

 攻撃を22時にすることで、どうにか朝日が昇る前に森へと逃げ込めるんだが、果たしてうまくいくのかどうか……。


 早めに夕食を取って、食器を袋に入れてテリーザさんが背嚢の中に入れている。

 喉が乾いたら、水筒のお茶を飲むことになりそうだ。

 口の中で飴玉を転がしながら、日が暮れるのを待つ。

               ・

               ・

               ・

 リトネンさんがトンネルから外に出て素早く周囲を確認する。合図の笛の音が聞こえたところで、トンネルから出て土手近くに集合した。

 まだ西には夕暮れの残照が残っているけど、既に周囲は暗くなっている。

 

「攻撃に必要な荷だけ持って行くにゃ。帰りに回収できるから使わないものは置いていくにゃ」


 ハシゴを下ろして、ドラゴニルにフラッシュハイダーを付ければ俺の準備が整う。

 ハンズさんとイオニアさんはそのままハシゴを背負っていくみたいだ。移動式砲台は結構な重さなんだよなぁ。

 2時間程進んだところで、ハンズさん達が移動式砲台を土手の上に据え付けた。ここから目標までの距離は1ミラルほどだ。遠くに明かりが見えるのが駐屯地に違いない。


 何時ものようにエミルさんが砲撃諸元を伝えると、イオニアさん達が方位角と仰角を合わせている。

 発射弾数は2発だけだからなぁ。果たしてどんな形になるんだか……。

 

「ライトで合図を送ったら、発射して欲しいにゃ」


「この紐を引けば良いのね。だいじょうぶ、ちゃんと見ていたから。それと、この直ぐ南の街道に仕掛けを作るわ。引っ掛からなくても12時間後には爆発するわよ」


「この下なら、問題ないにゃ。土手の西を通るにゃ」


 俺達が引っ掛かっては問題だからね。

 手榴弾3発だから威力を考えてしまうな。それほど派手な爆発にはならないと思うんだけど……。


 目印は、土手の斜面に置いた俺達の荷物になりそうだな。

 準備ができたところで、リトネンさんを先頭に俺達は南へと歩き出した。


「グレネードランチャーだから、射程は200ユーデがいいところだ。イオニアと交互に放つぞ」


「最初はハンズで良いだろう。私が次を撃つ」


 照準は250にしておいたんだが、それより近距離ということか……。少し下を狙う形で行けるだろう。

 それより、グレネードが飛んでくる中を外に出る兵士がいるんだろうか?

 1個中隊らしいが、全員が銃を持って飛び出されたら困ってしまう。一応手榴弾は持って来たけど、これは焼夷弾だからなぁ。あまり威力は無いとファイネルさんが教えてくれたんだよね。


 土手越しに、たまに東の葦原を眺める。1時間程歩くと葦原というより荒れ地になってきた感じだ。背の高い草が生い茂っている。葦は湿気のある土地を好むと聞いたことがあるから、そろそろ湿地が尽きているのかもしれない。

 工兵隊の野営地の明かりがだいぶ大きくなったところで、街道を横切って東の地に出る。

 直ぐに湿地に入ったんだが、足元はかなり固い感じがするし、草丈は俺のひざちかくまである。

 歩くのに苦労はしないんだが、俺達を見付ける者がいないかと心配になってしまう。


 30分ほど進んだところで小休止を取る。

 地面に腰を下ろすと肩から上が草の上に出てしまう。駐屯地の方に目を向けると、遠くでライトが動いているのに気が付いた。

 歩哨かな? リトネンさんが双眼鏡で状況を見ている。


「2人で巡回しているみたいにゃ。柵の中を歩いているだけでは歩哨の役になってないにゃ」


「泥棒を警戒しているんでしょうね。柵の中の建物の周囲を見て回っているようです」


 わざわざ湿地の方から、攻撃にやってこないと思ってるのかな?

 ライトの明かりが無くなったのを見計らって、再び駐屯地へと足を進める。

 俺にも駐屯地の周囲の柵が見えてきた。今日は下弦の月だからそれほど明るくないんだが、だいぶ目が夜間に順応しているみたいだ。


「ここから西に回りこむにゃ。エミルが早とちりして砲弾を撃ち込んだら、私達に飛んでこないとも限らないにゃ」


「あの砲弾は眉唾ですよ。確かに飛ぶんでしょうけど、見ているだけで狙いが逸れて行きましたからね」


 思わず寒気がしてきた。射程圏内に安全な場所が無いってことなんじゃないか?


 街道を横切って、1時間半が過ぎようとしている。

 ほとんど俺達の真横に駐屯地の明かりが見えるまでになったところで、今度は駐屯地に向かって慎重に足を進める。

 

 グレネードランチャーの飛距離が最大でも250ユーデらしいからなぁ。

 近寄れるだけ近寄らないと、目標物に当たることは無いということなんだろう。

 柵から100ユーデほどに迫ったところに、雑木の切り株があった。

 切り株というよりは、何かに折られた感じがしないでもない。

 その切り株で合足を止める。

 ドラゴニルを保持することができるし、何と言っても柵からそれほど離れていない。

 柵の直ぐ向こうに、木造の大きな建物がある。

 屯所にしては窓がないんだよなぁ……。倉庫かもしれないな。


「あの建物を狙うにゃ。焼夷弾も用意しとくにゃ」


「私の初弾が焼夷弾です。ハンズが破壊した場所を狙いましょう」


「始めるにゃ!」


 シュポン!

 何とも気の抜けた音なんだよなぁ。2秒ほど経過すると、ドコン! と音を立てて炸裂した。

 直ぐにイオニアさんが焼夷弾を放つ。

 焼夷弾が派手に炸裂して辺りに火の手上がる。


 やはり何人かが飛び出してきたようだ。

 彼等に祈りの言葉をつぶやくと、トリガーを引く。

 素早くボルトを操作して次弾を装填すると、次の目標に向かって放つ。


 イオニアさん達が各自2発のグレネードを放ったところで、俺達葉急いでその場を後にする。

 後を振り返らずにそのまま街道を目指して走っていく。

 5分ほど駆けたところで、全員がいることをリトネンさんが確認したぐらいだ。

 少なくとも500ユーデは離れたに違いない。

 ライトで照らしても俺達の存在を確認することはできないだろう。


 水筒のお茶を飲んで一休み。ここからは走らずに歩いて街道を目指す。

 時刻は22時を過ぎた辺りだ。これなら日の出前に森に入ることができそうだな。


 街道の左右を確認して素早く街道を横切り、土手の西に入る。

 これで、捜索隊が自動車を出してきても俺達を見付けるのは苦労するに違いない。

 リトネンさんが、土手の上に上がって北に向かってライトを点滅させる。

 気が付かないのかな?

 直ぐに移動砲台から砲弾が発射されるかと思っていたんだが……。

 しばらく歩いて、再びリトネンさんがライトを点滅させると南に向かって飛んでいく砲弾を見ることができた。

 あの砲弾はやはり問題だな。発射位置がおおよそ特定されてしまいそうだ。

 

 ミザリー達と合流して一安心。ちょっと休憩を取りながら、移動砲台をイオニアさん達がハシゴに縛り付けている。

 時刻は1時を過ぎたばかりだ。

 ここまで来れば一安心ではあるけど、早めに森に行った方が良いだろう。

 リトネンさんを先頭に、再び歩き始める。

 

 薄明が過ぎ去る頃に森に入り、大きな石のところで荷を下ろした。

 だいぶ歩いたからなぁ。今日はここで野営ということになりそうだ。


 ミザリー達が周囲を監視する中、最初に眠らせて貰った。

 3時間程寝たところで起こして貰い、食事を取る。

 簡単なスープにビスケットのようなパン。無性に腹が減っていたから何よりの御馳走に思える。

 食後のコーヒーには砂糖が入っている。ちょっとした贅沢だな。


「やはり追っ手が来ないな。エミルが時限信管付きの手榴弾を仕掛けたから今日の10時には爆発すると教えてくれたんだが……」


 既に10時は過ぎているから、俺達が寝ている間に爆発したのかな?

 距離が離れているから、それ程大きな爆発音にはならなかったんだろう。


「だいぶ派手に燃えてましたけど、何が入ってたんでしょうね?」


「拠点に付けば教えてくれるだろう。住民を工事に駆り出しているからなぁ。それに燃えた建物は1つじゃないぞ」


 4発の中の2発が焼夷弾だったらしい。

 俺が倒した敵兵は4人だったはずだ。被害の大きさはさほどではないのかもしれないが、敵に与える心理的な影響が大きいとハンズさんが教えてくれた。


「どこからやって来るか分からないんだからなぁ。それにあの砲弾も良い動きだ。砲兵隊からはクレームが付くかもしれないが、俺達にだってどこに当たるか分からない代物だ。どこに逃げたら安全かが分からなくなるだろうな」


 夕暮れ前にはミザリー達も起きてきた。

 皆で食事をして、再び体を休める。今度はもう少し長く眠らせて貰えそうだ。


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