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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-058 シャワーと洗濯


 トンネル生活が10日過ぎた。

 最初の砲撃から2日後の昼に、2発の砲弾を放ったのだが少し目標から離れた場所を狙ったようだ。

 さすがに作業にかりだされた住民に被害を与えられないからね。

 前回よりやや南に位置しているのは工事が東側から進められているためだろう。

 2発とも湿地に落ちたに違いないが、3イルム砲弾の着発信管は鋭敏らしいから発射位置の土手からも炸裂して土砂が舞い上がるのを見ることができた。


 前回と同じように、俺とリトネンさんが残って偵察隊がやって来るのを待っていたんだが、1時間を経過してもやってこなかったんだよね。


「今夜、砲撃するということですか?」


「4発残ってるにゃ。撃ち尽くしたところで森に行って食料と砲弾を補給するにゃ」


 そういえば、10日後に運んで欲しいと言ってたな。

 律儀な連中だから、ちゃんと運んでくれたに違いない。


「そうなると、場合によっては朝早くにトンネルに向かうことになりますね?」


「さすがに森からここまで日中に歩くのは勇気がいるにゃ。森で日中を過ごして、夜に移動するにゃ。ついでに体が洗えるにゃ」


 体が洗えると聞いて、ミザリー達の目が見開いた。

 女の子だからねぇ……。長くシャワーも浴びてないんだよなぁ。


「浴びると言っても、井戸の水ですね?」


「簡易シャワーを頼んでおいたにゃ。布バケツにシャワー口が付いてるだけにゃ」


 上から水が落ちて来るなら、シャワーと言っても間違いではなさそうだ。

 ちょっと冷たそうだけど、直ぐに体を吹いて着替えるなら風邪などひかないだろう。


 そんなことで、襲撃の準備とシャワーの準備をする。ついでに洗濯ができるとエミルさん達が喜んでいた。


 ハシゴに洗濯ものをたっぷりと入れた布袋を背負って、深夜にトンネルを出る。

 ミザリーは何時もの背嚢に食器を入れている。

 帰りには、砲弾と食料が増えるんだよなぁ。ハンズさんは水の容器を2つも持って行くようだ。

 土手の西側を南に向かって歩き、最初の砲撃地点を過ぎてさらに進む。


「この辺りで良いにゃ。エミリ、諸元の観測をするにゃ!」


「了解。ちょっと待っててね」


 エミリさんがコンパスを使って観測している間に、イオニアさん達が2イルム移動砲台を組み立てている。

 最初の砲弾をセットし終えたのを見計らって、次弾を2人に手渡した。

 これで俺の荷物が軽くなる。

 南へと移動すると土手に伏せて街道の南を監視する。


「発射準備は良いかにゃ? それじゃあ、2発を続けて撃つにゃ!」


 リトネンさんの指示で、4発の砲弾が飛んで行った。

 何時も見て思うんだけど、砲弾の後ろから火炎が見えるんだよなぁ。本来の砲弾は砲弾だけが飛んでいくのだが、この3イルム砲弾は砲弾の後ろに付く装薬のカートリッジが砲弾と一体化しているとのことだ。

 それで炎が噴き出して飛んでいくとのことだが、それでも砲弾と言えるのかな?


 移動砲台を素早く畳んで、イオニアさん達がトンネルに向かって走り出した。

 重い移動砲台を一旦トンネルに置いて、ハシゴを担いでくるらしい。


 リトネンさんとエミルさんが先行し、テリーザさんとミザリーがその後に続く。殿は俺だけど、相変わらず偵察隊はやってこないんだよなぁ。

 今回の攻撃も、帝国軍の駐屯地からかなりズレたに違いない。

 とは言っても、向こうにとってはいい迷惑に違いない。何時飛んでくるか分からないし、着弾地もかなり広範囲になっているはずだから目標が何処かも分からないはずだ。


 1時間も経たない内に、イオニアさん達が合流した。

 俺の後方に位置して、後方警戒を替わってくれる。


 橋の手前300ユーデほどの位置で、リトネンさんが立ち止まる。

 山裾の街道はかなり地雷を仕掛けたらしいから、帝国軍の偵察部隊も通行しないはずだが、俺達の姿を見られるのは問題だ。


 橋の西側を入念に確認したところで、リトネンさんが街道を横切り森の手前に走り抜けた。

 直ぐにエミルさんが後を追うと、リトネンさんが森の中に入っていく。

 10分ほど経ったところで、俺達を手招きしてくれたので順番に街道を横切って森に入っていく。


 30分ほど森を進むと大きな岩が急に眼の前に現れた。

 夜だからなぁ。森の中だからかなり暗いんだよね。

 井戸の傍に、木箱が3つ置いてある。

 直ぐに蓋を開けて中を確認すると、砲弾が12発も入っていた。

 ハシゴに砲弾の入った箱をイオニアさん達が乗せ換えている。

 エミルさん達は、炭を使ったコンロでコーヒーを作り始めた。ネルの袋を使った物ではなく、ポットで直接コーヒーの粉を煮出しするようだ。最後にネルで濾すんだろうな。


 砂糖の入ったコーヒーを飲みながら、街道方向に目を向ける。

 とはいえ、俺は夜目が効かないからなぁ。一応監視はしてるんだけど、かなり近付かないと俺には分からないに違いない。


「リーディルよりはマシだぞ。変わってやるから、一眠りしておけ。明日はリーディルでも十分に監視が務まるからな」


「そうします。目の前に銃を突き出されないと俺には、無理ですからね」


 笑い声を上げるハンザさんに後を託して横になる。

 ミザリーはリトネンさんと拠点と通信を行っているらしい。

 単調な電鍵のリズムが俺を眠りに誘う……。

               ・

               ・

               ・

「すると、帝国軍は帝国から派遣された代官の指揮下には入ってないということですか?」


「政治と軍事を別に考えているにゃ。間違いではないと思うけど、全く協力する気が無いみたいにゃ」


 軍は王国の防衛が任務だからねぇ……。帝国軍の場合は攻撃ということになるんだろうが、征服地の政治は全く関与しないということらしい。

 とは言っても治安維持には関わっているようだけど、軍事作戦の円滑化や情報収集を目的にしているようだ。

 リトネンさんの元の職業である盗賊の取り締まりは、適当に行っているようだ。


「俺達の行動は余り軍に影響を与えないと?」


「代官に任命された連中にとっては、かなり影響があるみたいにゃ。帝国を離れてやって来る代官は私腹を肥やすのに忙しらしかったらしいけど、この頃は前みたいな厳しい取り立てを行わなくなったみたいにゃ。

 その代わり、自分達の成果を帝国に持ち帰ろうと努力しているみたいにゃ」


 征服した土地がいくら広がっても、代官達の成果にはならないということなんだろう。だが、税が増えることは代官達の成果になるのだろうから、将来を見据えた開拓事業に力を入れるわけだな。

 それが俺達の妨害にあっているわけだ。

 代官の管轄なら軍は動かないということだから、一方的な嫌がらせになっているってことかもしれない。


「工兵の連中に着弾したら面倒ですね」


「当たらない方が可能性が高いにゃ。でも近くには着弾してるかもしれないけど……、それは彼等に運が無かった場合にゃ」


 狙ったカ所に当てる方が難しい砲台だからなぁ。

 確かに運が左右されるに違いない。


「洗濯が終わったから、今度はシャワーを浴びるわよ。奥にやってきたら銃弾が飛ぶからね」


「味方に当てられたら、母さんにお詫びのしようがありませんから、南を警戒してますよ。でも周囲には監視を置くんでしょう?」


「2人交代で見張りに立つわ。西が心配だものね。それじゃあ……」


 小さな焚き火を作っているんだが、森の中の風が煙を拡散させてしまう。それに枯枝が豊富だからなぁ。あまり煙も立たないんだよね。


「まあ、覗こうとするには勇気がいるだろうな。だが、リーディルは若いんだから少しは挑戦しても良いんじゃないか?」


「ゴブリンとフェンリルの銃弾が飛んできますよ。それは挑戦というより、命知らず以外の何ものでもないです」


 そんな話をしながら、タバコを楽しむ。

 本当にこの辺りには帝国軍がやってこないんだよなぁ。

 街道から30分ほど奥に入った森の谷間だから、街道を通っても気が付くことは無いだろう。やはり帝国軍は南東の戦線に全力を注いでいるように思えてくる。


 女性達がシャワーを浴びた後は、俺達の番になる。

 布バケツには20パイン(10ℓ)ほどの水が入るようだ。もう1つの布バケツに水を汲んでおけば2回は浴びられるってことになる。

 裸になって水を入れたバケツをロープで引き上げると、シャワー口に付いた紐を引く。

 紐を引いている間は、シャワーが出るみたいだ。

 石鹸で頭から体を一緒に洗ったところで、再度シャワーを浴びて泡を洗い流す。

 あまり浴びていると体が冷えてしまうから、これで終わりにする。

 久しぶりにさっぱりした感じだな。

 衣服を着替えて、焚き火の傍に戻ることにした。


「髪が濡れてるよ。早く拭き取って、洗い物を出して頂戴!」


 ミザリーに洗濯物を渡しておく。全員がシャワーを浴びた後でもう1度洗濯をするみたいだな。


 夕暮れ前に食事を取り、明るい内に荷物を纏めておく。

 今度は少し重くなってしまう。砲弾4発と水の容器を1つ。しっかりと荷作りしてハシゴに結わえ付けた。

 運ぶ重量だけで、俺の体重の半分ぐらいはありそうな感じだ。

 無理をしないでゆっくりと運んで行こう。


 深夜になったところで、街道を南に進んでいく。

 やはり車両の通行は無いようだ。

 だけど誰が見ているとも限らないから、土手の西を歩いてトンネルへと向かう。


 トンネルに付くと直ぐに荷を下ろして、いつでも逃げ出せるように背嚢の中身を整理する。

 

「12発ですか……。少し数を増やしてみますか?」


「最後にたっぷりと振舞うにゃ。明日は2発で良いにゃ。焼夷弾と炸裂弾を1発ずつにゃ」


「拠点の方から、情報は?」


「開拓地に確認された兵士は全て工兵という事にゃ。主力は南東で変わらないにゃ。あれだけ撃ち込んでも被害は怪我人が数人ということらしいにゃ」


 運が悪い人はどこにでもいるもんだな。

 でも、怪我なら後方に移送されたに違いないから、ある意味幸せかもしれない。

 

「水も運んできたから、しばらくはおとなしくしてるにゃ。次に出掛ける時には、森に行って水を汲んで帰るにゃ」


 まだ水は2つの容器に入っている。

 1つ無くなるのに1日ちょっと掛かるから、出掛けるのは明後日になりそうだ。

 とりあえず、横になろう。ずっと起きていた感じだからなぁ。


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