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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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★ 09 帝国の闇 【 帝都の凶報 】


「まさか、お妃様が崩御されるとは……」


「それでもお世継ぎは無事にお生まれになった。帝国の為と思えば一度に王子と王女がお生まれになったことを喜ぶべきだろう。

 乳母の手配は済んでいる。問題は皇帝陛下だな……」


「悲しみが強いのだろう。未だに閉じこもったままだ。食もほとんど取っておらぬ様子。体が体だから数日は持つだろうが……」


「既に3日目だ。5日目になれば、少し乱暴な手で臨むことになる。そうでもしないと死んでしまうとのことだ」


「寝所に押し入ることになるが、それは仕方があるまい。強化兵を使えば他に漏れることも無いだろう」


 それにしても……。亡くなったのが昼間であったなら、陛下と同じ措置が出来ただろう。

 だが発見された時は、すでに死後硬直が始まってからだった。

 華奢な体に双子だからなぁ。妻も可哀そうだと、もらい泣きをしていたぐらいだ。

 計画が少し狂ってきたが、まだ修正することは可能だろう。

 帝国の新体制の基本計画書に、印とサインを頂いておいて本当に良かった。最高会議には諮っていないが、これで言いわけもできる。


 周囲も気に掛け始めた。

 早めに実行した方が良さそうだな。

  

 皇帝の寝所を訪ねる。

 まだ20時を過ぎたところだ。遅い見舞いになるが、私の地位なら問題はあるまい。


 何度か近衛兵に足を停められたが、クリンゲン卿が心配しておられたことから、私が足を運んだと答えると、そのまま通してくれた。

 皇帝陛下の覚えが良いというのは案外助かる。


 寝所の扉前に立った近衛兵に、言葉を掛けたいと話をすると、扉の前を開けてくれた。


「陛下、私です。皆が心配されております。他には誰もおりませぬ。1度、1度で良いですから、お顔をお見せ願えないでしょうか……」


「ケイランドか……。我に構わず職務をこなすが良い。1つ頼みがある。生まれた子供達の名だが、妃が既に決めていた。ウイナリーにフローレンよろしく頼むぞ……」


「ウイナリー殿にフローレン様ですね……。了解です。陛下、くれぐれもご自愛ください。明日もまたご訪問いたします」


 がっくりと肩を落として、近衛兵に向き直る。


「よろしく警備を頼む。それにしても、ウイナリー殿にフローレン様か……。良い名前だな」


「今夜警備担当であったことが誇らしく思えます。誰よりも早く王子殿下と王女殿下の名を知ることが出来ました」


「あまり知らしてくれるなよ。それなりの順序を経ることが必要なのだ」


 私の言葉に、2人が敬礼をして答えてくれた。

 これで1つが片付こうとしている。残りは2人だけだ。

               ・

               ・

               ・

 翌日。宮殿の奥で1発の銃声が起こった。

 クリンゲン卿の部下が急いで私現場へと連れて行く。

 そこで見たものは、国王陛下の自殺した姿だった。


「まさかこれほど心に痛手を負っておいでだったとは……」


「宮廷医師でも、これではどうすることもできまい。銃弾が反対側に飛び出したようだ。形だけということで、女性用の拳銃を持っていただいていたのだが、こんな事なら銃弾を抜いておくべきだった」


 いくら何でも、それでは意味をなさないだろう。

 覇道を進める帝国の皇帝陛下が武器を持たぬのもおかしな話だ。


「直ぐに棺を用意して欲しい。血だらけの御遺体でははばかりもあろう。博士を呼び、御遺体の化粧をすることは構わぬな?」


「ああ、そうしてくれ。それが終わったら、こちらに来て欲しい。遺言書が2通あるのだ。私と卿、それに最高会議に向けてだ」


 我等に何を残してくれたのだろう。

 同行してきたケリーに後を頼んで、クリンゲン卿と別室に向かった。

 心を落ち着けるためにワインを頼み、クリンゲン卿が渡してくれた封書を開く。


『我が親愛なる2人に帝国を託す。

 子供達の養育はケイランドに託す。王子が長じて軍に興味を持ったなら、クリンゲンが応えて欲しい。

 万が一、皇帝を継ぐ者として相応しくなければ、それなりの措置を2人に託す。

 帝国の将来への危惧は、ケイランドの考えが相応しく思う。

 世界に1つの帝国となったなら、後は転がり落ちるのではないかと我も悩んでいたが、ケイランドのような考えに至らなかったことを恥じ入るばかりだ。

 あの貴族達の反乱時に、我を救ってくれたことを2人に感謝する。

 妃を私に引き合わせてくれたことを2人に感謝する。

 願わくば、2人の子供達が安心して暮らせる世の中になることを、

 その為に、帝国を2人に託す』


「託されてしまったな……。遺書など無くとも、我等はそれを望んでいる」


「これは、公表すべきだろうか?」


「最高会議で、皆に見せれば良いだろう。これは我々への指標だ。彼等に託されたものではない」


 博士に任せれば体の中を綺麗にしてくれるだろう。機械の体だから体重がかなり重い。遺体を運び出す時に知られては不味い。

                ・

                ・

                ・

 最高会議の席で、もう1つの遺書を開封する。

 私が読み上げ、それを静かに貴族達が聞いている。

 この意味を理解しているのだろうか?

 この会議が、帝国を16年間支配するということを……。


 遺書は簡潔だった。

 3行しかない。


 1行目は、王子が成人するまでの施政の裁可は、この会議で諮ること。議長はクリンゲン卿が務めることになる。

 2行目は、王子が成人するまで、宰相を私が勤めるということだった。

 3行目は、先代皇帝が始めた帝国の拡大政策をそのまま進めるようにとのことだが、これは誰もが望んでいることだろう。


「もう1つ、遺書がある。私とクリンゲン卿に宛てた遺書だが、やはり皆に見せた方が良いだろう」


 取り出した遺書を、先の遺書と同じく会議室の皆に回覧する。

 重責を担って、彼等は本来の仕事を行うことができるだろうか? 皇帝陛下がいないことを良いことに、悪事に手を染めるやもしれん。

 調査局の監視を今まで以上に強めねばなるまい。


「私からは以上になる。質問があれば答えるが……」


「1つ、よろしいですか。世界に帝国だけとなった時を案じておられたようですが、これはどういうことでしょう? すばらしい世になると私には思えるのですが……」


「文官貴族としてはどうかと思う質問だが、答えねばなるまい。

 王国が興り、最盛期を過ぎれば停滞期を経て没落する。これは今までの歴史を紐解けば直ぐに分かることだ。

 何としても、これを避けねばならない。これが皇帝陛下の願いだった。

 私が、試案を陛下にお見せした時に、目を輝かせていたのを今でも覚えている。

 簡潔に言うと、帝国の緩い分割になる。王国をいくつか作ることで、皇帝陛下はそれら国王を指揮することで帝国を維持する。

 王国の興亡は起こるであろうが、その上に位置する皇帝陛下の地位は変わらぬだろう。

 そんな世界をどのように作るかという試案であったのだ」


「栄枯盛衰は王国に留めるということですか?」


「極端ではあるが、そう考えてくれれば結構だ。帝国の優秀な貴族を国王に任じて統治を任せる。その統治が上手く行かぬ場合は瓦解する前に統治者達を入れ替えれば良い。

 それはこの最高会議の役割だと私は思っている」


 この中には、国王になりたいという貴族もいるに違いない。だが、その統治いかんでは簡単に排斥されることを知らしめねばならない。

 だが、国王達の上に自分達が位置していると知れば、果たして名乗り出る貴族がいるかどうか……。


「とはいえ、急に事を始めようなどとは考えてはおらん。そのような体制に移行するのは、大陸内の統一が終わった後のことだ。

 それまで皆でじっくりと議論を重ね、帝国の繁栄を永代に続ける体制を考えようではないか!

 先代皇帝陛下は、世界の統一を目指しておいでだったが、その後の事は一切口にしなかった。お亡くなりになった皇帝陛下はその後を考えてはおいでだったが、生憎それを形にすることは無かった。

 だが、私の素案を読んで、絶賛して頂けたことは確かだ。

 その素案を元にこの場の皆で考えれば、皇帝陛下が望まれた体制を作ることも可能だろう。

 あえてお願いしたい。

 子供達の将来を明るい世界にするため、私に協力して欲しい」


 私が頭を下げた時だった。ガタンと音がする。その音が次々に広がっていく。

 やがて拍手が起こり、頭を上げると全員が私に向かって席を立ち拍手を送ってくれていた。

 協力してくれるということだろう。

 これで、次の計画を進めることができそうだ。

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               ・

「宮殿内は、最高会議の結果を見れば問題は無いだろう。軍はそうもいかないところが辛いところだ」


「軍内部の地位が問題になるのだろう? 軍の規模を縮小することになるからな。反対するのは当然だし、場合によっては士気にも影響が出るに違いない」


 最高会議を終えて、執務室に戻った私のところにクリンゲン卿が訪ねてきた。副官がいるところを見ると、公式になる。

 私も隣に秘書を置き、書記官を読んで議事録の作成をお願いする。


「軍を離れても、それに近い地位を与えることで満足できると思っている。現在、犯罪の取り締まりは王都は近衛兵であり、地方の領地はそれぞれの貴族が私兵を使って行っている。

 ここで問題になるのは、犯罪に対する処罰が一様でないことと、罪を犯した領地から離れるとそれを取り締まる者がいないということだ。

 これでは統一したとも言えんだろう。

 犯罪に対する捜索、法の下での罪の判断、刑の執行……。一元化したいとは考えないか?

 その人員に軍から離れた人材を使いたい。

 帝国内であれば、罪人をどこまでも追いかけられる。少しは枕を高くできると思うのだが?」


「新たな部署という事か……。しかも優秀な人材で無ければ問題も出てくるだろうな。なるほど、見掛けは縮小だが、いざとなればそのまま軍に編入することもできそうだ。

 文官貴族連中も喜んでくれるだろう。自分達の嫌な役目が1つ減るのだからな」


「案外収入が減る貴族もいるかもしれんぞ。とは言っても表立って反対はできまい。反対すれば裏取引をしていると言っているようなものだ」


「何時頃に作るのだ? やはり、この大陸の統一を持ってということになるのか」


「時期はそれで良いが、法の整備は早めに行いたいところだ。卿のところでその辺りの人選が出来ないか? もちろん法を作ることになるだろうから、文官貴族の中で使えそうな人物を2人程送ることになるだろうが」


「先ずは素案作りということか。最高会議での審議もいるだろう。作戦会議の席上で諮ってみよう。1か月程時間をくれないか」


 既存の委員会や、会議が色々あることも問題だ。

 ある程度と撃たせねばなるまい。中には派閥会議に似た委員会もあるようだ。

 一度帝国内の委員会を全て確認する必要があるかもしれない。

 委員会の設立理念と乖離した委員会は早めに潰しておこう。


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