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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-054 開拓工事の邪魔をしに行こう


 雪がだんだん融けてくる。

 ふもとでは木々が芽吹き始める頃じゃないかな?

 春の攻勢がいよいよ始まるのか、小隊の連中が準備を始めている。

 俺達も準備を始めようとリトネンさんの計画を確認しているところに、クラウスさんがやって来た。


「おもしろい武器が運ばれてきたんだが使ってみるか?」


「重いのはダメにゃ。でも遠くに飛ぶなら使っても良いにゃ」


 そんなリトネンさんの言葉に、笑みを浮かべたクラウスさんがパンフレットを差し出した。

 どうやら武器の諸元らしい。

 書かれていた表題は、移動砲台改Ⅰ型。

 3イルム口径の砲弾を2イルム口径の砲身を持つ移動砲台で発射する代物らしい。

 砲弾の炸薬量は3イルム砲弾より少し少ないようだが、2イルム砲弾よりは5割増しに近い。問題は射程だが、1ミラル半(2.4km)だから、既存の3イルム移動砲台とあまり変わらないな。

 砲台の重さは300パイン(15kg)ほどだが、頑丈そうな鉄パイプが三角形になって後方に付いている。これで反動を吸収するのだろう。

 砲弾重量は1つ120パイン(6kg)らしい。

 操作性は従来の移動砲台と一緒ということだから、確かにおもしろそうだ。


「弾種が、榴弾と焼夷弾の2種類だ。リトネン達には都合が良いんじゃないか?」


「2台貰うにゃ。砲弾はいくつぐらい貰えるにゃ?」


「榴弾と焼夷弾を20発ずつでどうだ?」


 笑みを浮かべて2人が握手をしているけど、都合40発になるとなれは運ぶのに一苦労しそうだな。

 ハンズさんと顔を見合わせて苦笑いを浮かべてしまった。


「イオニアは、引き続きリトネンのところで良いと話を付けてある。エミルがいれば砲撃目標の諸元は求められるはずだ。荷物の運搬はドワーフ族が10人出せるそうだ。上手く騒ぎを起こしてくれよ」


「了解にゃ。でも荷物は2回運んで欲しいにゃ。最初に1回、10日後にもう1回にゃ。最初に持って行く砲弾は半分で良いにゃ」


 クラウスさんがリトネンさんに頷くと、今度は俺に顏を向けた。

 ポケットから、布包みを取り出して俺の前に置く。


「そろそろ持っていてもおかしくはないだろう。知り合いのドワーフに頼んだ品だ。長く使えるぞ」


 頂いた布包みを開いてみると、銀時計じゃないか!

 鎖は付いていないけど、縁に付いた突起を押すと蓋が開き、文字盤と3本の針が見えた。

 秒まで表示するんだから、かなりの値段に思えるんだが……。


「功績を考えれば安いものだ。上にも話をしてあるから安心して貰って欲しい」


「ありがとうございます。大事にします!」


 欲しいとは思っていたんだが、結構高いんだよなぁ。銀貨20枚ぐらいの品が売店に並んでいたけど、俺の収入は月に銀貨1枚だからねぇ……。


「良い物を貰ったな。俺はこれだが、襲撃で手に入れたものだ」


 ハンズさんが取り出した時計は戦利品ということになるんだろう。

 ミザリーが物欲しそうな顔をしているから、機会があったら戦利品を見付けてみよう。帝国軍なら俺達より装備が贅沢だからねぇ。


 出発はまだ未定らしい。とはいえ工事がいつ始まるか分からないから、準備だけは早々にしておくように言い付けてクラウスさんが帰っていった。


 1か月前後の作戦になるらしいから、衣服だけで、普段の倍を用意する。

 衣服用の布包みと、私物の布包みをハシゴの下の段に置いて、その上に食料と弾薬を乗せる。

 食料は5日分で弾薬が2回戦分だ。ミザリーの背嚢にはそんなに入らないから、衣服の包を俺が背負うことにした。


「ツエルトと薄手のブランケットは必要にゃ。野戦用の医薬品はエミルが調達してきて欲しいにゃ」


「水の容器は?」


「3個用意して貰うにゃ。20パイン(10ℓ)だから、2日以上持つにゃ。出来れば3日持たせたいにゃ」


 湿地帯だから水ぐらいは確保できるかと思ったけど、泥水のような代物らしい。

 森の出口付近にある井戸で汲むことになりそうだ。

 ついでに個人用の水筒も使えば、3日おきに汲みに行けば問題ないと思うな。

 

 お茶の葉やコーヒー、ついでに酒も用意するらしい。たまにワインを飲むのも良いかもしれない。

 ミザリーは沢山飴玉を買い込むだろうし、俺もタバコを2箱買い込んでおこう。

 あのトンネルの中ならタバコが楽しめそうだ。


 ツエルトに少し大きめの水筒とワインを入れた水筒2本、それに何が入っているのか分からない革袋を1つ入れて棒を通しておく。

 これは俺とハンズさんが運ぶんだが、イオニアさんとエミルさんも同じような包みを作っている。あっちは何が入っているんだろう?

 

 荷作りが終わると、1日数発の射撃訓練を行う日々が続く。

 300ユーデ(270m)での射撃を行っているが、かなり弾着が収束してきた。

 やはりドラゴニルは遠距離射撃向きだな。


「こっちが強装弾で、こっちが焼夷弾にゃ。上手く使うにゃ」


 リトネンさんが5発ずつのクリップを4個渡してくれた。強装弾なら、400ユーデ(360m)の距離でも300ユーデの照準目盛りが使える。

 これなら照準目盛りの最大値で600ユーデ(540m)の狙撃でも、3発撃てば1発ぐらいは当るかもしれない。

               ・

               ・

               ・

 すっかり雪が消えて、拠点の周囲にも草木が芽吹きだした。

 ダミーの村落の畑にも野菜の種を蒔いたみたいだけど、飛行船でまた爆弾を落とされないかと心配してしまう。

 皮のジャンパーを羽織って、小隊の部屋にミザリーと共に入ると、テリーザさんが俺達を手招きしている。

 何時ものテーブルに近付くと、不思議なことにリトネンさんが座っていた。

 雨でも降らないと良いんだけど……。


「これで全員にゃ。明後日出発することに決まったにゃ。武装は、リーディルがドラゴニル、イオニアはゴブリン、ハンズはフェンリル改を持つにゃ。後は全員フェンリルにゃ」


 ミザリーも銃身の短いフェンリルを貰ったようだ。ストックは真鍮製のパイプなんだけど使う時にはくるりと半回転させて固定させる仕組みだ。

 2パイン(1kg)ほど軽量化されているらしいが、150ユーデ(135m)程度なら結構的に当てていたようだ。


「これも運んでいくにゃ!」と渡された木箱には手榴弾が10個入っていた。

 スカート付きだから、ゴブリンの先に発射機を付ければ100ユーデ(90m)は飛ばせる優れものだ。

 さすがにハンズさんの持つフェンリルの銃床部分に取り付けられたグレネードランチャーよりは、飛距離や狙いの正確さは落ちてしまう。でも、遠くに飛ばせるなら十分だと思うな。


「俺達の荷作りは、ほとんど終わってるんだよなぁ」


「嗜好品でも買い込んでおくんだな。最低でも1か月は戻れんぞ」


 俺とミザリーは既に買い込んでいる。改めて買い込むことも無いだろう。

 ハンズさんが席を立って部屋を出て行ったが、行先は売店だろう。タバコとワインを追加する気なんだろうか?


「兄さんは、あのスキットルを持って行くの?」


「そうだよ。母さんがくれた品だからね。中身も入ってるし」


「私は編み物の袋を入れたの。ミトンぐらいは編めそうだもの」


 退屈しのぎということなんだろうな。

 案外編み物は正解かもしれない。とはいえ、珍しい物でも見たような顔をしているリトネンさんとイオニアさんはそんな趣味は無いみたいだ。


 2日後。朝食を母さんと一緒に頂くと、手を振って別れた。

 今生の別れというわけではないが、万が一の事態もあり得る。いつも、ミザリーだけは戻ってこさせようと決意が、この時に心の奥から湧いてくる。


 小隊の部屋に入ると、リトネンさん以外が揃っていた。相変わらずだけど、何となく何時ものリトネンさんを思い出して納得するんだよなぁ。


「ハァ、ハァ……。揃ってるにゃ? それじゃあ、出掛けるにゃ。ドワーフ族の連中は北の出入口にいるはずにゃ」


 装備を身に付け、ハンズさんと棒に通した荷物を持つ。荷作りした時よりも大きくなってる気がするんだけど、ワインを追加したのかな?


 岩をくり抜いた通路を通って、北の出口に出る。

 出口手前にあるちょっとした広場に、ドワーフ族の若者が10人待機していた。

 俺達を見て荷を担ぎ上げたけど、背嚢3つ分もありそうな大きな荷物をハシゴに乗せていた。その上にさらに大きな水筒を乗せているんだから、本当に力持ちの種族だと思ってしまう。


 森の出口に着いたのは、翌日の夕暮れだった。

 森の中の子の枝にドワーフ族の運んでくれた荷物を下げて、先ずは自分達の荷物を南に向かう街道の途中にある排水路に運ぶ。


 排水路に到着したところで、ハシゴの荷を下ろして再び森に向かう。

 重量のある水の容器はイオニアさん達が背負い、俺達は食糧を運ぶ。

 コンロは炭を使うものを用意したようだ。ロウソクと違って火力があるから、料理も短時間で仕上がるに違いない。

 3回目は、移動砲台と砲弾を運ぶ。

 トラ族と人間族の4人で運ぶことにしたが、さすがにミザリーではねぇ。リトネンさん達と一緒に留守番役だ。


「それにしても、監視部隊の自動車すら現れませんね」


「やはり、籠っているんだろうな。監視に出掛けて、俺達の狙撃を受けたら堪らんと思ってるのかもな」


「そんな連中が開拓を始めるのもおかしな話だな。指揮系統が異なるのかもしれない」


 トンネルの入り口から300ユーデ(270m)ほど離れた場所から、土手を川に向かって下る。

 川岸を少し歩いて、再び葦の中に分け入った。

 紐を張っておいたから、紐を巻き取りながらの帰還になる。夜の葦原だから、紐を張っていないと、トンネルの入り口が全く分からないんだよなぁ。


「ご苦労様にゃ。とりあえず、ここで様子を見ることになるにゃ。これを使うと、もう少し長く伸ばせるにゃ」


 リトネンさんが1フィール半(45cm)

ほどの茶色のパイプを渡してくれた。何ん位使うんだろうと思っていると、同じようなパイプを背嚢から取り出して潜望鏡に取り付けている。

 潜望鏡の先端をクルクル回して外すとパイプをねじ込み、再び潜望鏡の先端を取り付けた。

 延長できるってことかな?

 同じように潜望鏡を取りだして先端を外す。なるほど簡単に延長できるな。

 これなら葦原から潜望鏡を出して周辺の監視が上手く出来そうだ。


「この布を巻き付けて葦を数本回りに着ければ完璧にゃ!」


「使えそうですね。ありがたく使わせてもらいます」


「クラウスの話では、拠点の南の尾根を崩し始めたらしいにゃ。蒸気自動車や馬車を使って土砂を埋めるなら、今頃は湿地の南東部に作業員の宿舎を作っている最中にゃ」


 ここから見えるようになるまでは、かなり時間が掛かりそうだな。

 


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