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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-053 攻撃の2番手は飛行機らしい


 雪の降る夜の荒れ地を、何度も休憩を取りながら歩き続ける。

 行きはソリを曳いていたから、それに似比べれば遥かにましだ。それに尾根よりは風が強くない。


 夜半に雪が止むと、月が雲間から姿を現した。

 既に5ミラル(9km)近く移動しているに違いない。リトネンさんは迷わず先を進んでいるけど、山裾には町があったはずだ。

 さすがに今夜中には着かないだろうが、町で一休みなんて考えていないだろうな?


「もう直ぐ夜が明けるにゃ。ここから少し山に向かうにゃ。それほど上にはいかないから安心するにゃ」


 一瞬、尾根を目指すのかと思ったからな。皆が目を丸くしていたんだよね。

 上を目指すという意味が分かったのは、空が白み始めた時だった。

 前方にこんもりした雪の山が見えたんだが、近付くとそれが山小屋だと分かった。


「こんな場所に山小屋ですか?」


「山の木を伐り出したり、炭焼きをしたりしていた人達が使っていた小屋にゃ。今は誰も住んでいないし、この季節なら雪が屋根と壁の代りをしてくれるにゃ」


 小屋の扉はなくなっていたから、小屋の中にも雪が積もっている。

 屋根も壁もかなり朽ちているから、来年には潰れているかもしれないな。だが、この季節なら十分に使える。雪洞よりは遥かに立派だ。


 ツエルトを広げて座ればお尻も濡れることは無い。

 コンロに炭を熾して小さなポットを乗せる。先ずはお茶ということになるのかな。


「ここで夜を待つにゃ。交代で休めば今夜も北に進めるにゃ」


「よくこんな場所を思いつきましたね……」


「尾根を歩いていた時に見つけたにゃ。それに尾根に大きな木が無かったというのもあるにゃ。大規模に伐採すれば、ふもとにいくつかの小屋があるのは当たり前にゃ」


 ふもとを歩いていればその内に見つかるってことかな?

 とりあえずは、隠れ家を見付けた感じだ。

 お茶を飲んで体を温めたところで、食事作りをエミルさん達が始める。

 荷台から、軍用パンを2つ頂いてきたらしい。その他にもバターやハムを頂いてきたようだから少し贅沢な食事ができそうだ。


 食事ができるまで、周囲の見張りをハンズさんと行う。

 ふもとから高台に位置しているし、周囲に高い木々も無いからかなり見通しが良い。

 短眼鏡で周囲を除いていたら、イオニアさんが俺のところにやって来た。


「何時も短眼鏡を使ってるからな。これは結構良い品だぞ」


 ポケットから取り出したのは、小さな双眼鏡だった。

 輸送部隊の誰かが所持していたのだろう。手に取って見るとかなり軽い。これって真鍮製じゃないのかもしれない。


「ありがとうございます。でも良いんですか?」


「もう1つ同じものを手に入れた。ハンズは口径の大きなものを見付けたようだが、小さな方が使い良いからな」


 トラ族の人なら、大口径を選ぶだろう。それだけ解像度が高いからなぁ。だが、俺にとっては軽い方が優先される。

 新しい双眼鏡を使ってみる。

 やはり短眼鏡よりは使い易い。短眼鏡は後で背嚢に入れておこう。オルバンにあげても良さそうだ。


「一面の雪原ですよ。全く人影がありません」


「そうだな……。そうだ! 雪原の監視はゴーグルを付けて行うんだ。長く双眼鏡を使うことが無いように気を付けるんだぞ。雪原の監視で目を傷める監視兵が多いからな」


 イオニアさんの忠告を、かつて誰かに聞いたことがある。

 礼を言って、双眼鏡を仕舞いゴーグルを付ける。

 目を傷めたら、治しようが無いらしい。イオニアさんの忠告も、そんな兵士を見たことがあるからなんだろう。


 女性達に先に食事を取って貰い、その間は俺とハンズさんが監視を継続する。

 腰を下ろして、交代でタバコを楽しむ。

 小屋の影なら風を受けないだけ暖かだ。


「全く人気が無いな。小屋の中で料理をしても煙が出ないから安心ではあるんだが……」


「今夜は再び北に向かうんでしょうね。同じような小屋を辿っていくことになるのでしょうか?」


「案外そうかもしれないぞ。だが、町をどうするかだな。さすがに近くの小屋には住民がいるはずだ」


 今でも炭焼きは続けているらしい。前に王都に行った時だって、炭や焚き木の束が貨車に積まれていたぐらいだ。

 やはり尾根かな? いくら何でも町にはいかないだろう。


 食事が終わったテリーザさんとイオニアさんに、監視を交代してもらい小屋に入った。

 小屋の中が暖かだ。

 スモックを脱いで壁に吊るしておく。

 ストーブの傍に腰を下ろすと、大きなパンの切り身に分厚くバターが塗ってあった。

 ハムの切り身をストーブで温めながらゆっくりと味わう。

 ありがたいことに、カップに半分のワインまで出てくる。


 ミザリーは小屋の隅で、ツエルトに包まっていた。

 かなり疲れていたんだろうな。ゆっくりと休ませてあげよう。


「夜まで、ここで休むにゃ」


「今夜もふもとを北に向かうのですか?」


「追っ手次第だけど、たぶんその方が安全にゃ」


 あれだけの被害は帝国軍としても無視はできないってことかな。だけど、先ほどまでは追っ手の姿どころか人影すらなかったんだけどなぁ。


 さて監視を替わってあげないと。俺達は昼から休ませてもらおう。


 スモックを着て小銃を肩に掛ける。

 小屋から出て、イオニアさん達と交代すると、小屋の南壁近くに身を屈めてゴーグルを掛けた。

 北壁はハンズさんが担当してくれる。たまに尾根を見上げれば周辺監視は万全じゃないかな。


 昼を過ぎた時だった。

 空からブ~ンという音が聞こえてくる。1つじゃないな……、どこからだ?

 

「あれだ! 反乱軍の飛行機だな」


「これで少し楽になりますね」


「確かに……、だが、最初の攻撃をしたのは飛行機ではないことぐらいは帝国軍にも分かるだろう。これで、戦況が少し変わるんじゃないか?」


「そうだと良いですね。でも、帝国軍の軍事力は奥が深いですからねぇ」


 ハンズさんが、苦笑いを浮かべている。

 分かってはいるんだろうな。だが、ここで少しの間戦線の膠着を招くことができる。

 連日厳しい戦をしている俺達の仲間達にしばしの休日を与えられることは、俺達の勝利への一歩であると信じたいところだ。


 飛行機が編隊を組んで南に向かっていく。4機だけだけど、爆弾は2つぐらい積んでいるんだろう。

 車列を襲って数台を頓挫させるぐらいはやってくれるんじゃないか。

 立ち上がって手を振りたいぐらいだけど、ここはジッとして彼等を見送ろう。


「燃料をバカ食いすると聞いている。今回の攻撃だけで1回の輸送分ほどの燃料を使ったに違いない」


「使用頻度が少なくとも、帝国軍に効果的な戦果を挙げられるなら、それだけの価値があると思いますが」


「費用対効果ということか? まあ、それには同意するがなぁ。南東部の戦線では活躍しているらしいぞ。敵の砲列へ爆弾を落としているらしい。それに蒸気機人への攻撃も野砲より効果があると聞いている」


 野砲の照準はかなり外れるらしいからなぁ。野砲は1個小隊単位で8門の口径3イルム(75mm)砲で攻撃をするらしい。

 ある意味、面で制圧ということになるんだろう。

 イオニアさんの話では、500ユーデ(450m)以内で無いと当てるのは困難らしい。近距離まで蒸気機人を引き寄せて、分隊単位の2門で同時に攻撃すると言っていたけど、それでもかなり外れると言っていたぐらいだからなぁ。


「燃費は悪くとも、対抗できる兵器が出来たんだ。南東の戦線は膠着状態になるんじゃないかな」


「数百ユーデの距離で塹壕を作っての対峙ですか? 消耗戦になりそうですけど」


「だからこそ、今回の攻撃が生きて来るんだ。1回の輸送分が無くとも、それほど困るとは思えないが、運ぶ手段がなくなるのは問題だろう?

 じわじわと効いてくるはずだよ。それを狙っての飛行機による輸送部隊攻撃だ」


 小屋の影に入って、2人でタバコを楽しむ。

 ハンズさんのライターで火を点けたんだが、俺も買った方が良いのかな。

 

 昼を過ぎると、だいぶ北に雲が出てきた。

 今夜も雪になるような感じだが、移動するには都合が良い。


「それにしても、人影がどこにもありませんね」

「雪の日に外に出るのは、子供と罠猟師ぐらいじゃないのか? リーディルは罠はやらなかったのか?」


「生憎と、教えて貰ってなかったんです。家の中で木地師の真似事です。粗削りをすればそれなりに食べていけましたから……」


 1日に20個作って5メルの収入だった。

 贅沢をせずに春を待ちわびる日々だったな……。


 イオニアさんとテリーザさんが小屋から出てくる。

 見張りを交代し、小屋に入ると炭のコンロ近くに座って体を温める。

 お茶を飲むと、体の中から温まってくる。

 さて、日が落ちるまで眠らせて貰おう……。

                ・

                ・

                ・

 昼はツエルトや雪洞の中で休み、夜に移動する。

 簗裾野町近くまで進んだところで、今度は夜に雪原を北西に移動することになった。

 俺の住んでいた町の南を通って湿原に入ると、真っ直ぐに北に向かった。

 冬でも無ければ通らないような場所だから、ある意味安全かもしれない。

 とはいえ見通しが良い場所だから、夜でも周囲の監視に手を抜けないんだよなぁ。


 湿原には枯れた葦がたくさん生えているから、その中にツエルトで風よけを作って身をひそめる。

 夜の監視では、リトネンさんから貰った潜望鏡のような代物が役に立つ。葦の上にそっと出して周囲を伺うんだが、1度蒸気自動車の車列の黒い煙が見えただけだった。


 帝国軍の輸送部隊を襲って8日目に、湿地帯を出て森に入ることができた。

 とりあえず一安心。後3日も歩けば拠点に戻ることができるだろう。


 ハンズさんと一緒に持ってきた食料は、半分ほど無くなってしまった。

 背嚢に入れた食料はまだ手を付けていないから、森に入って最初の野営地で包みをばらして背嚢の上に乗せて運ぶことになった。

 それにしても、だいぶ頂いてきたようだ。大きなハムを1つ貰ったんだけど、部屋で食べても良いと言われたんだよなぁ。

 ミザリーも砂糖の箱を貰って嬉しそうだ。


「もう少しの辛抱にゃ。これで、今期は出撃は無いと思うにゃ」


 リトネンさんの言葉に、皆が苦笑いを浮かべる。

 確かにそれが一番ありがたいけど、帝国軍との戦の最中だからねぇ……。


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