表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
60/225

J-052 輸送車列への攻撃


 薄明を迎える前に、雪が降りだした。

 リトネンさんが懐中時計を取り出して時刻を確認している。

 まだ5時を過ぎたばかりだと教えてくれたので、エミルさんがスープを作り始める。

 乾燥野菜と干し肉だけのスープだけど、干し肉にたっぷりと香辛料がまぶしてあるから、飲めば体が温まるに違いない。


 ロウソクコンロでイオニアさんが作ってくれたコーヒーをカップに注いで貰い、カップのぬくもりで両手を温める。

 雪が降る日は気温が下がらないと言われているけど、寒いことに変わりはない。


 早めに食事を終えて、荷物を纏めておく。テントは置いていくことになった。荷作りの対象外だから、風よけに丁度良い。


「やって来るんでしょうか?」


「来ないと戦線を維持できないにゃ。大戦力は、それだけ大食漢になるにゃ。クラウスの話では使える蒸気自動車の数も数も少ないみたいにゃ。故障しても修理待ちが長いという話だったにゃ」


「それなら、自動車にソリを引かせても良いように思えますが?」


「時間が掛かるにゃ。それに下手に積んだら、ハンドルを取られてしまうにゃ」


 ソリにはブレーキが無いからなぁ。

 それを考えると、十数台の蒸気自動車で毎日運ぶのが一番良いってことになるのだろう。

 午前中には東からの車列が通るはずだ。

 通り過ぎてから、襲撃地点に移動することになるんだろう。

 

 少し後ろに下がって、ハンズさんと一服を始める。

 雪で見通しが悪いから、ここでタバコを楽しむぐらいはできるだろう。


 ロウソクコンロに小さなポットを乗せると、雪を融かして水筒に入れる。

 少しは水を補給しておかないと、後々面倒だからなぁ。

 テントの中で行っているから、たまにテントに入って体を温める。


「やって来たにゃ。東からにゃ」


 低地に体を伏せて車列の通り過ぎるのを待つ。

 2台の蒸気自動車が、全く速度を落とさずに通り過ぎたから仕掛けた地雷に気付かれなかったということになる。

 雪が降ってくれたから、俺達の足後が埋もれてしまったのだろう。

 ミザリーがリトネンさんの指示に従って電文をクラウスさんに送っている。

 しばらくして、予定通りに王都を出発したとの返事が返ってきた。


「追加情報は無いにゃ。予定通り補給部隊を攻撃するにゃ。旨い具合に新雪で足跡が消えるにゃ。少し早いけど、移動するにゃ。

 地雷が炸裂してから行動するにゃ。それまではジッと耐えるにゃ。それと車列が近づいたら耳と口を塞いでなるべく隠れるにゃ。炸裂して5つ数えてから行動開始にゃ!」


 荷物を纏めた棒は俺とエミルさんが持つ。

 イオニアさんとハンズさんはなるべく身軽な方が良いし、リトネンさん達もそうだ。

 リトネンさん達も手榴弾を1個ずつ持っているようだけど、念の為ということなんだろう。

 

 転ばないように少し斜面に近い場所にある岩の裏に隠れた。

 凍った雪を重し代わりにしてツエルトを西側に張る。風を遮るだけでも寒さが和らぐ。

 3人で岩の後ろに張り付くようにしてツエルトで身を包む。

 さすがにロウソクコンロを使って暖房は出来ない。身を寄せ合って寒さを防ぐことになってしまった。


「そういえば、地雷が炸裂して5つ数えてから……、と言ってましたけど理由があるんですか?」


「理由は、空から色々落ちて来るからよ。ここならだいじょうぶでしょうけど、なるべく体を小さくしててね」


 大きな爆発ってことだからなぁ。自動車が降ってくることは無さそうだけど、荷物や破片は飛んでくるかもしれないな。

 

 やはり冬の襲撃は堪えるなぁ。

 じっとしているから余計に寒く感じるのかもしれない。


 飴玉を楽しむミザリーの両側にエミルさんと俺が座っているんだが、たまに笑み恵右さんと場所を変えて一服を楽しむ。

 風下ならミザリーに嫌われることも無いだろう。


「始まるわよ! イオニアが手を振ってるわ」


 エミルさんの腕の先には、ひょこりと雪原に顔を出したイオニアさんがこちらに手を振っていた。


 ヒュ~イ!


 岩陰から顔を出して口笛を吹く。軽く手を振るとこちらに手を振ってくれたからリトネンさんも理解してくれたに違いない。


「至近距離で地雷が炸裂するから、耳を手で覆うのよ。口を閉ざして、身を縮めなさい!」


「この岩に張り付くようにすれば良いんですね?」


「それで良いわ。銃は立て掛けておきなさい。布で包んであるから丁度良いわ」


 ファイネルさんに、雪の中での小銃の取り扱いは色々と教えて貰ったからなぁ。

 特にレシーバーの氷付きには気を付けるよう言われた。銃口もいつの間にか雪で詰まってしまうことだってあるらしい。

 目から鱗の注意点は、出掛ける前に銃を分解して油を良く拭き取っておくように言われた時だ。

 油を引いておいた方が滑りが良いと思っていたんだが、気温が下がるとその油が固まってしまうらしい。

 鉄に含侵している油で十分だと言っていたけど、今日の襲撃で撃てないなんてことになったらどうしよう……。

 腰のリボルバーに手を伸ばす。

 最悪はこれになるのかな? 2人の援護ぐらいはできるだろう。


「音が聞こえてきたわ。たぶんあれだと思うけど……」


「結構煙が出てますね。長距離輸送ができるんでしょうか?」


「旧王国軍の蒸気自動車は100ミラル(160km)と聞いたことがあるわ。輸送部隊は80ミラル(約130km)を輸送単位にしていたわよ。帝国軍もそれほど変わらないんじゃないかしら」

 

 案外短いんだな。

 蒸気自動車の前照灯が見えてきた。そろそろ隠れることにしよう。

 ミザリーを岩に押し付けるようにして、その上に耳を塞いで覆いかぶさった。

 エミルさんも岩に体を押し付けている。


 耳を押さえていても、少しは外の音が聞こえるし、10台を超える車列の振動が岩にも伝わってくる。

 だんだんと大きくなって、一際大きくなった音が何度か通り過ぎる。


 ドオォォォン! と炸裂音が耳をつんざいた。

 岩からミザリーが跳ね飛ばされて、俺に当たる。


 炸裂したら、5つ数えるんだっけ!

 ゆっくりと数を数えると、小銃に撒いた布を外して岩の傍から状況を見る。


 蒸気自動車が横転したり、ひっくり返っているのが見えた。

 素早くボルトを操作して初弾を薬室に送り、セーフティレバーを倒す。

 うめき声が聞こえてくるが、車から出てくる人影がない。

 

 炸裂音と銃声が左右から聞こえてくる。

 リトネンさん達が、兵員を銃撃しているんだろう。爆発は荷台に手榴弾を振り込んだのかな?


 よろよろとガラスの破れた窓から兵士が這い出して、東に向かって小銃を構えようとしたところを狙撃する。

 素早く次弾を装填していると、岩の反対側からエメルさんが運転席目がけて銃撃をしている。

 ここはエメルさんに任せておこう。


「後を頼みます!」


 街道の端を屈みこむようにしながら西へと移動する。

 自動車の間から南に向かった逃げ出す兵士を狙撃していく。

 途中でイオニアさん達と合流すると、何台かの荷台をハンズさんが素早く確認して行った。


「食料ばかりですね。銃弾も運んでいると思ったのですが」


「手榴弾は回収したんでしょう?」


「十数個ありました。焼夷弾は6個だけでしたよ」


「リーディル、周囲の監視をお願いするわ。私達は荷を爆破してくるから」


 そう言って、イオニアさん達葉西に走っていった。

 北側にはエミルさんとミザリーがいるから、南側に移動するか……。

 最初に位置前戻ると、南で監視すると伝えて車列の南に向かった。


 雪原に敵兵が倒れている。

 俺が撃ったのは2人だけだったから、リトネンさん達が倒したのかな。

 車列を眺めていると、西の横転した自動車が爆発した。

 イオニアさん達は、派手にやってるようだ。


 数台西の自動車のドアが開き、よろめくように出てきた兵士を素早く射ち倒す。

 まだ生きてる兵士がいたんだな。

 あのままでも息絶えただろうけど、なるべく早く痛みを無くしてあげるのも慈悲に違いない。

 彼等に天国の門が開かれんことを切に願う……。


 20分もしない内に、テリーザさんが俺の名を呼んでいるのが聞こえてきた。

 急いで返事をすると、ゆっくりと自動車の間から北に出る。

 全員の銃口が俺に向けられたのには驚いた。直ぐに銃口を下ろしてくれたけど心臓に良くないな。


「全員無事にゃ? 雪がまだ降っている内に逃走するにゃ!」

 

 リトネンさんが先頭になって歩き出したけど、尾根を目指すのではなく裾野を沿いに歩くつもりのようだ。

 ハンズさんが笑みを浮かべて下を指差した。

 棒に括りつけた荷物があったから、俺と一緒に持って行くということなんだろう。

 片手で棒を持って歩き始めたけど、イオニアさんの背嚢にも大きな荷物が乗っているようだ。


「少し戦利品を頂いてきたぞ。どうせ野犬に食べられてしまうだろうからなぁ」


「途中で軽くなるなら歓迎しますよ。ワインもあったんですか?」


 前を歩くハンズさんが笑い出した。

 あったということなんだろう。何本頂いてきたんだろう?


 30分ほど歩いたところで休憩を取る。

 既に襲撃地点は見えなくなってしまった。

 だいぶ雪激しくなってきたから、俺達の足跡は埋もれてしまうに違いない。

 

 夕暮れ前に少し尾根に向かって斜めに上り始める。

 雪の深い場所を探して、簡単な雪洞を作り食事の準備を始めた。


「食事が終わったら、また下に戻るにゃ。雪が深そうだから、出発前にスノーシューを付けとくにゃ」


「今夜は歩くと?」


「なるべく早く離れた方が良いにゃ。尾根を探せば痕跡ぐらい見付けられるから、追っ手から早く離れた方が良いにゃ」


 リトネンさんの指示で、ミザリーがクラウスさんに通信を送り始めた。

 2日続けて輸送隊の通過時刻がさほど変わらないと伝えている。ひょっとして、次の攻撃を行うってことなんだろうか?


「さすがに次の攻撃に向かうのは命がけになるにゃ。でも邪魔されずに攻撃する方法もあるにゃ」


「飛行機ですか?」


「4機もあれば車列を爆撃できるにゃ。輸送用の蒸気自動車がなくなれば、帝国軍は困るに違いないにゃ」


 困るというどころではないんじゃないか?

 食料や弾薬が王都にあっても、輸送手段が無いのではどうしよも無い。

 馬ソリを使う手もあるだろうが、輸送量は自動車の十分の一程度まで減るに違いない。

 それに速度だってそれほどでないだろう。

 1日3食が1食になるようでは、帝国兵士の士気の低下に繋がるんじゃないかな。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ