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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-051 南の尾根の尽きる先


 線路を越えた翌朝。俺達は雪の吹き溜まりを掘って雪洞を作る。

 奥行きは4ユーデ、横幅が3ユーデほどだが4人が中で横になれるし、ロウソクランプを2つ点けると結構温かい。

 直ぐ外にツエルトを使って風よけと屋根を作ったから、監視番も炭を使ったコンロで体を温めることができる。

 水筒の水を飯盒に少し注ぐと、コンロの上に乗せる。

 沸騰したら、雪をどんどん入れてたっぷりとお湯を作ることにした。


「最後に、濾さないといけない。雪は埃も混じっているらしい」


「子供のころは、そのまま食べてたんですけど……。そう言われると、何となく水とは違った味でしたね」


 今思い出せば、埃のような、土のような味だった。

 たくさん食べるとお腹を壊すと、母さんが言っていたのは雪に埃が混じっていたからなんだろうな。


 雪が北西の風に乗って降っている。

 俺達が雪洞を掘ったのは、尾根の直ぐ南だから風は尾根が遮ってくれるし、屋根を付けてあるから、風が舞い込むことも無い。

 たっぷりと着こんでいるから寒さはそれほど感じない。

 コンロ傍に置いた小さなポットでお茶を作ってあるから、いつでも熱いお茶を飲めるのも良い感じだ。


「遠くに鉄橋が見えるな。あの西に駐屯地があるのだが……」


 視線を橋から西に少し移動すると煙が上がっている。暖炉の煙なんだろう。今でも中隊規模で駐屯しているに違いない。


「だいぶ叩いた気がするんですけど、駐屯地は健在のようですね」


「帝国軍の増援は3個師団らしい。倒しても倒しても補充されてくる。私達の子供の代までには終わりにしたいところだな」


 イオニアさんは結婚もしてない筈なんだけどなぁ?

 ちらりとイオニアさんを見たら、ハンズさんの笑い声がした。


「あまり笑わせないでほしいな。まあ、拠点で出会いを求めるのは難しいだろうけどね。それより、これはだいじょうぶかな?」


 タバコを取り出して、イオニアさんに見せる。

 夜は問題だろうけど、日中だし風もある。一服している姿は近くまで接近しないと分からないだろう。

 イオニアさんが頷くと、直ぐに火を点けて空に向かって煙を出している。

 たちまち拡散してしまったから、後で俺も楽しむことにしよう。

 シガレットケース以外に、初めて買ったタバコが背嚢の中に1箱入っている。


 昼を過ぎたところで、今度は俺達が雪洞で一眠り。

 今のところは帝国軍の姿がどこにもない。それほど高い尾根ではないんだが、わざわざ尾根に登るような偵察は行っていないということ何だろう。

 行軍は大変だけど、寒さだけが敵になりそうだな。

               ・

               ・

               ・

 尾根の南端に達したのは8日目の夜だった。

 突然、リトネンさん達が立ち止まる。不思議に思い駆け寄っていった俺達の前には、眼下にどこまでも広がる大地があった。


「着いたにゃ……」


「こんなに広いとは思いませんでした。これでは、地雷をどこに仕掛けて良いかわかりませんね」


「そうでもないぞ。尾根のすぐ下を見ろ。轍が見える」


 雪も、この辺りはそれほど深くは無い。

 根雪だろうが、平原のあちこちに黒い土が顔を出していた。

 そして、尾根を下ったところに何本かの線が東西に延びている。

 ひょっとして、この下に道路があってその南側は畑なのか?

 よく見ると、パッチワークのようにあぜ道が作られているのが見えた。

 かなり遠くに、林があるが双眼鏡で見ると人家も見える。


「さすがに帝国軍も、自分達の税収を支える畑には立ち入らないようですね」


「仕掛けるのは、明日の夜にゃ。今日はゆっくりと休むにゃ」


 ハンズさんと顔を合わせて小さく頷いた。これでソリを引くのは終わりになる。

 2日前から雪洞を掘るほど雪が積もっていない。

 おかげでテントを使うことになったんだが、尾根から少し下りた場所の窪みで野営を行う。

 テントもツエルトも白だから、下から見上げたぐらいでは俺達の存在は分からないだろう。

 

 炭を使ったコンロも、周囲をツエルトで囲んで料理を作ることができる。

 もっとも、スープとお茶を作るぐらいだけどね。

 

 昼間に周囲を双眼鏡で監視する。

 尾根のすぐ下を、10台を超える車列を作って東へと補給物資が運ばれて行った。


「もう直ぐ日が傾きはじめますが、補給部隊にしては遅い時間ですね」


「たぶん、王都から出発してるにゃ、それにここから、東に20ミラルも進めば次の町にゃ」


 片道5時間というところかな。

 それにしても蒸気自動車の運転席なら暖房があるに違いない。羨ましくなってしまう。


「やはり、護衛は前と後ろにゃ。間に11台の輸送車を挟んでいたにゃ」


「贅沢な輸送ですね。今夜取り掛かって明日に襲撃ということで良いですね?」


「それで良いにゃ。問題は、どこで見張るかということになるにゃ……」


 仕掛けた地雷が良く見える場所で、その後の襲撃が容易に行えるとともに逃げやすい場所……、ということになるんだろうなぁ。

 問題は尾根伝いに逃げるか、それとも麓を歩いていくかの選択だ。

 尾根伝いは時間が掛かるのが問題だ。それに鉄橋の駐屯地から尾根の上には会談で直ぐに上がれる。待ち伏せの合う可能性が極めて高いし、南からの追撃隊と挟撃されかねない。

 かと言って尾根のすそ野を歩くのも危険性が高い。

 何と言っても軍用列車の通り道だし、途中に待ちあってあるぐらいだ。


「グレネード弾はいくつあるにゃ?」


「即応弾が3発、背嚢に3発です。ハンズも同じです。

 

「なら、この尾根の先端が良いにゃ。良い具合に岩が転がり落ちてるにゃ」


 道路を作る時に切り崩したんだろう。

 切り崩した後の措置がいい加減だから、斜面から岩がいくつか転がり落ちている。

 自動車の通行に支障が無いということで放っておくんだろうな。

 

 7人なら何とか隠れられるかな?

 テントを使えば雪だまりに見えそうだ。


 たっぷりと食事を取り、水筒にも水を入れておく。

 食事が済むと、ソリから食料や炭、それに食料を下ろして、食料等は布で包んでおく。

 今夜使う品も1つに纏めて布で包んだが、この布も白だから隠れるには都合が良い。

 準備ができたところで、4人はテントの中で一休み。

 俺は、リトネンさんやテリーザさんと一緒に周辺を監視する。


「蒸気自動車の横幅は8フィーデ(7.2m)ほどある。間隔を2倍に取るだろうから15フィーデ前後になるな。それが12台となれば……」


「23フィーデが12並ぶことになりますから……」


 雪の上に棒を並べて足していく。面倒な足し算だけど、気晴らしには丁度良い。

 計算すると、およそ280フィーデ(約250m)ほどになる。持ってきた地雷は12個だから、ちょっと足りないんじゃないか?

 

「およそ20フィーデ間隔で並べれば良いようだ。歩幅は2フィール半(約75cm)ほどだから24歩ってところか。1,2歩ぐらいなら誤差ってことになりそうだ」


「前方の車が通過した時に合わせて爆破するとしても、300ユーデはここから離れないといけませんよ!」


「近くでは爆発に巻き込まれかねん。400ユーデ近くは離れることになりそうだ。さすがに車列の間隔があいても、そこまで長くはならんだろう。車が爆破しなくても急停止するだろうから、グレネード弾を撃ち込むぐらいは簡単だ」


 炎上してない車両にはグレネード弾を撃ち込んでいくのかな?

 手榴弾も3個持って行くと言ってたけど重くは無いんだろうか。俺は焼夷弾を1つ持ってるだけなんだけど。


 午後に入ると、俺達が体を休める。

 今夜は忙しそうだから今の内に良く眠っておこう。


 ミザリーに起こされたところで、出来あがっていたスープにビスケットのようなパンを浸して食べる。今夜は厚切りのハムを焼いた切り身がスープに入っている。

 たくさん食べてたくさん働けということなんだろうけど、久しぶりのハムに笑みが零れる。


「昨日見付けた岩のところから西に向かって地雷を敷設するにゃ。昨日通った車列は前と後ろに兵を乗せていたにゃ。間に11台いたけど、たぶん数は一定じゃないと思うにゃ。

 全部で12台と考えれば、車列の長さが……」


 リトネンさんが首を傾げ始めた。

 急に計算すると頭がこんがらかるのかな?


「昼前にハンズさんと計算してみました。12台とするなら車列の長さは280フィーデ。俺達が持ってきた地雷の数が12個ですからおよそ24歩間隔に仕掛ければ車列をカバーできそうです」


「ありがとにゃ。……という事にゃ。最後の地雷を仕掛けた位置から100ユーデ離れた位置で、イオニアとハンズは待機するにゃ。

 先端の岩陰には私とテリーザ、真ん中は残ったリーディル達になるにゃ。しっかり隠れて、耳を押さえて目と口を閉じておくにゃ。銃撃は、爆発が終わった後で十分にゃ」


 近くで地雷が炸裂するし、自動車の中にも銃弾が搭載されているってことだ。

 立ち上がったら、誘爆で飛んでくる銃弾に当たりそうだ。

 崩れた斜面から転がり落ちている岩は、リトネンさん達のところだけではないだろう。

 岩の後ろに隠れながら狙撃することになりそうだ。


 簡単に作業分担が決まったところで、野営地を後にする。

 下まではソリに荷物を積むことになったが、ソリは岩陰にでも隠しておけるだろう。少なくとも撤退時には必要ない品だ。


 尾根に真っ直ぐに下りずに、少し南側の斜面を滑り降りる。

 冬でも緑の葉を点けている繁みが結構あるから、繁みから繁みへと伝う様に下りて行く。どうにか下りると、雪の深さがそれほどでもない。

 スノーシューを脱いで、背嚢に紐で結んでおく。ミザリーのスノーシューも同じように結んであげる。


「穴掘りをしてくれ!」


 ハンズさんからツルハシを受け取ったが、片手で扱う小さなものだ。

 エミルさんが背嚢からスコップを外しているから、手伝ってくれるのかな?


 リトネンさんの指示する位置に、最初の地雷を仕掛ける。

 リトネンさんが隠れる岩から30ユーデも離れていないけど、だいじょうぶなんだろうか? ちょっと心配になってしまう。


「後は24歩ずつ西に穴を掘ってくれれば良いにゃ」


 既に、ハンズさんが次の穴を掘り始めている。

 少し離れた位置で、テリーザさんとミザリーが周囲の監視をしているけど、早めに仕掛けた方が良いだろう。

 地表から4イルムほどの深さに直径12イルム(30cm)ほどの深さに掘れば良いらしい。地雷はそれより小さいってことなんだろう。

 とはいえ、手榴弾30発分を越える炸薬が詰まっているし、地雷の上面にはリンを含んだ樹脂があるらしい。炸裂はさぞかし派手なものになるんだろうな。


「今回は電気信管にゃ。2つ同時に使えばどちらかで起爆するにゃ」


「それで、電線を次の地雷に結んでるんですね?」


 地雷の端子に電線を結びつけると、その上にロウソクで溶かしたバターを掛けている。簡単な防水処理ということなんだろうな。

 2時間程掛かって、どうにか12個を道路に埋め込んだ。

 被害半径10ユーデ(9m)程度らしいから、雪の轍を外さないようにやって来るなら十分破壊することができるだろう。


「地雷の上に雪を掛けとくにゃ。電線も隠れるようにしておくにゃ」


 作業が終わると、早めに街道から離れる。

 隠れる場所は、尾根の西側だ。

 前線に荷を運んだ蒸気自動車の車列がやって来るのは、東側からになる。

 西からやって来るのは、5時間以上走ってくる車列だから、周囲の監視もおざなりだろう。


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