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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-047 敵の増援への対処


 帝国軍の戦力があまりにも多いから、クラウスさんが『ゲリラ戦』と呼ぶ戦をすることになった。

 どんな戦になるのか、リトネンさんの解説が何時ものテーブル席で行なわれる。


「基本は待ち伏せと、狙撃にゃ。攻撃したら相手が反撃に出る前に逃げ出すにゃ。反乱軍創設時に何度も行ったけど、町の中でも行ったことがあるにゃ……」


 今回は町中は避けるだろうと教えてくれたんだが、その理由は町の住民を巻き込んでしまうからということだった。

 誰が反乱軍の兵士か分からなくなるため、帝国軍が町の住人を殺すことが度々だったらしい。

 

「山裾や、荒れ地が戦場になるにゃ。少し装備も考えないといけないにゃ」


 移動式砲台や、地雷に手榴弾が主力兵器になるらしい。手榴弾投射器は敵をかく乱するのに使えそうだ。

 

「でも私達にトラ族の兵士がいないから、手榴弾を使うことになるにゃ。仕掛けた地雷は場所が共有されるから安心にゃ」


「手榴弾投射器は役立ちそうですけど、照準器が使えなくなるんです」


「こっちなら問題ないにゃ。でも使うのはゴブリン限定にゃ」


 リトネンさんがとりだしたのは、木の棒が付いた手榴弾だった。

 使い方は、棒を銃口から銃身内に差し込んで、空砲で撃ち出すらしい。

 手榴弾の起爆用のリングが横に付いているのは、ゴブリンの着剣装置に紐を付けてリングに結ぶためのようだ。


「前のスカート付きの手榴弾より軽くなってますね?」


「それだけ沢山持てるにゃ。飛距離は150ユーデだから、ゴブリンを2人持って行くにゃ」


 その2人とは、リトネンさんにエメルさんになるらしい。

 フェンリルは接近戦対応だからねぇ。ゴブリンを使うことが多くなるということなんだろう。


 リトネンさんの話を聞いていると、猟師仲間が話してくれた罠猟のように思えてくる。

 罠を仕掛けて掛ったところで止めを刺す……。

 仕掛けた手榴弾が爆発して、敵兵が混乱しているところを狙撃する。その後は素早く立ち去るというのが俺達の戦いになるらしい。

               ・

               ・

               ・

 手榴弾投射器の訓練や、手榴弾を使った罠の作り方を練習する日々が続いている。

 その間にドワーフ族が、山裾にいくつかの水場を作ってくれた。

 ドワーフ族が荷物運搬を手伝ってくれるんだけど、今回はそうもいかないらしい。食事は一食抜くのは問題ないけど、水が無いのは我慢できないからなぁ。

 背嚢の中の荷物も、かなり削減することになった。

 予備の衣服は入れずに、ツエルトを2枚。食料は5日分のビスケットと干し杏子を飯盒の中に入れておく。固形スープを3つ貰ったけど、ロウソクコンロに固形スープと水を入れたカップを乗せておけばできるということなんだけど、本当かな?

 その他には、タオルで包んだ予備の銃弾と手榴弾。

 手榴弾だけで5個持たされてしまった。通常型だから結構重いんだよね。

 

 イオニアさんやファンネルさん達の部隊も訓練をしているようで、たまに上空で爆発音が聞こえてくる。

 飛行船対策は万全みたいだな。

 おかしな基地を設営した連中も、イオニアさん達と同じような大砲を持っているらしい。

 ヒドラシリーズは反乱軍の共通兵器に昇格したようだ。

 

 冬が近づくと、新たなスモックが俺達に配られた。

 布が二重になっているから、結構温かい。茶色と緑の縦縞模様は子供の落書きに見えなくもない。裏は灰色と白の縦縞だ。


 そろそろ雪が降るんじゃないかというある日の事。

 小隊部屋に入ってきたクラウスさんが俺達を集めた。

 いよいよ始まるのかと、皆が覚悟を決めてストーブ近くに集まる。


「全員揃ってるな。今朝早く帝国の船が王都に到着したらしい。続々と船がやって来ると伝えてきたからいよいよ始まるぞ。

 東の拠点と、東の王国からの義勇軍は南の平野部沿いに進む連中を相手にするそうだ。

 俺達は旧王国の西を完全制圧する動きに対しての妨害工作に専念する。

 先ずは、東に向かう現用列車の足止めだが、これは第2小隊が実施するそうだ。

 俺達の小隊は北西の町に向かう連中を相手にする。

 先ずは地雷を仕掛けるぞ。第1、第2、第3分隊で行う。第4分隊は拠点防衛の為に残留だ。

 リトネン達は、俺達が仕掛け終えるまで橋の東を確保して欲しい。

 既に町には街道の通行禁止を伝えてあるから、橋に仕掛けをしても構わんぞ。2時間後に出発する。準備を急げよ!」


 テーブルに戻ると、直ぐに棚から背嚢と小銃を取り出してテーブルに乗せる。全員の水筒がテーブルに並ぶと、まだ空の水筒にエメルさんがお湯を入れてくれた。

 4パイン入る水筒にも入れて貰って、背嚢の中に仕舞いこむ。

 テリーザさんと一緒に弾薬箱から、銃弾と手榴弾を貰ってくる。

 射撃訓練で消費した分を補給するだけだから、それ程多くは無い。

 手榴弾は2種類だ。ミザリーも小さいのを1つ、装備ベルトのポーチに入れている。

 

「準備が出来次第出掛けるにゃ。私達は早めに出掛けて橋を確保するにゃ」


「終わりましたが、そうなると水が心配ですね?」


「水場が直ぐ近くにあるにゃ。それと、これが今日の食糧にゃ」


 ハムを挟んだパンがカゴに入っていた。10個以上ありそうだな。昼食と夕食はこれで済ませるってことだろう。

 三角巾でパンを包むと、背嚢の中に入れておく。

 装備ベルトを着けて、帽子をかぶり背嚢を背負った。ドラゴニルを肩に掛けると、テーブルから離れる。


 次々と俺の傍に皆が集まってくる。最後はリトネンさんだったが、俺達を1人ずつ確認して、小さく頷いている。


「それじゃあ、出掛けるにゃ!」


 小隊室を出ると、北口に向かって歩き出す。

 既に連絡が行っているのだろう。途中の鉄柵が2つとも開いていた。


「変な基地造りで、道が出来てるにゃ。このまま道に沿って西に向かうにゃ」


「帝国軍が動き出したら厄介ですね?」


「大所帯だから、直ぐには動けないにゃ。入念に作戦を練ることになるにゃ」


 入念ねぇ……。要する作戦が直ぐにはまとまらないということかな?

 基本作戦は出来ているんだろうけど、ここにいる帝国軍との調整もあるだろうし、状況具合では作戦も換えなければなるまい。

 纏まるまで、帝国軍は動かないということかな? 

 偵察部隊を四方に派遣するぐらいなら出来そうにも思えるんだけど……。


 昼食時に拠点にミザリーが通信を送る。

 どうやら出掛ける連中は全て出発したらしい。

 今のところは、問題なく推移しているようだ。


 夕暮れが近付くと、野営地を探し始める。

 リトネンさんが見つけた場所は、大木の近くにある大きな繁みだった。

 中に分け入るとツエルトを使って簡単なテントを作る。

 固形スープで3人分のスープを作り、カップに半分ずつ頂きながら、パンを食べる。


「夜は冷えるから、スモックを着てテントで休むにゃ。休まない人達のツエルトを借りてブランケットの代わりにするにゃ」


 着ぶくれしてしまうけど、寝るだけだからねぇ。

 小さなランプの明かりで着替えをしてミザリー達が先に休む。

 最初の監視は俺とテリーザさんになった。

 さすがにこの辺りまで帝国軍は来ないだろうから、ロウソクコンロで手をあぶりながらタバコを楽しむ。

 とうとう、覚えてしまった。

 まだ、中毒というわけではないから、たまに楽しむだけだから問題は無いだろう。


 翌日は、ミザリーに起こされてしまった。

 中々起きなかったから、ぷくっと膨れたミザリーを見てエメルさんが笑みを浮かべている。

 顔を洗いたいところだが、行軍中の水は貴重だ。今夜には橋の近くまで行けそうだから、水場を楽しみにしておこう。

 お茶でビスケットのように焼しめたパンを頂く。干したアンズを3つ一度に口に入れると、酸っぱい味が口の中に広がった。


「食事が済んだら、直ぐに出掛けるにゃ。まだ朝日が昇らないから、夕暮れ前には水場に到着出来そうにゃ」


「それなら出発しましょう。俺も食事は終わりましたよ」


 カップのお茶を飲み干すと、背嚢の中に入れておく。背嚢を背負ってドラゴニルを背負っていると、リトネンさん達が西に向かって歩き始めている。

 慌てて後を追うことになったが、俺の後ろにはエメルさんが殿を務めてくれていた。


 夕暮れには未だ早い時刻に、新たに作ったという水場に到着した。ランドマークが大きな岩が2つ並んだ場所ということだったが、結構大きな岩だ。

 昔住んでいた家ぐらいはあるんじゃないかな。かなり遠くからでも場所が分かったから、ここで水がられるということは俺達にとってもありがたいことになる。

 岩の後ろに平たい石で隠された丸い穴が井戸になっていた。

 地面から4イルム(10cm)ほど石組が上がっているから、虫や土が入ることは無いだろう。

 水を汲んでロウソクコンロで沸かした後で、空になった水筒に注ぐ。

 これだけあれば3日は持つだろうな。


 まだ夕暮れにはならないということで、俺達は更に西に向かう。

 木々の間から、南の湿地が見える。いつの間にかかなり麓に近付いた感じだな。

 1時間程歩いたところで、雨水が作った深い溝で野営をすることになった。


「かなり深いですね。一応、枝を切って屋根を作りましたが……」


「帝国軍も、油断しているにゃ。ここは橋に近いにゃ。少し溝に沿って南に行けば橋が見えるにゃ」


 リトネンさんの話を聞いて、溝の中を這い進んで南に向かった。

 そろりと溝から顔を出すと、直ぐ下に街道が見える。西に目を向けると500ユーデほど先に鉄橋が見えた。前に捕虜を奪回した街道まで良く見える。

 

「明日の朝も早いにゃ。日が暮れたら、直ぐに食事を取って休むことにするにゃ」


「地雷を仕掛けるのは、明日ですよね。となると、どの辺りで待ち構えるんですか?」


「森の切れ目で十分にゃ。橋から森まで200ユーデ(180m)ほどあるにゃ。狙撃には丁度良い距離にゃ」


 分隊の方は、地雷を仕掛けて直ぐに後退するようだけど、俺達はここで1日様子を見ることになるらしい。

 結果の確認ということなんだろうけど、1日待ってやってこない時には引き上げると話してくれた。


 来るのかな?

 地雷に引っ掛かったら、俺達の追撃どころじゃないだろう。

 体を休めるつもりで、1日我慢することになりそうだ。


 今夜はミザリー達が最初の監視を行うらしい。

 早めに眠ることにしよう。明日は結構忙しそうだ。


 夜中に起こされて、空が白くなるまで監視を継続する。

 街道を走る蒸気自動車は1台も無かった。大攻勢に備えているのだろうか?


 軽い食事を取って、街道監視の敵兵が現れないことを祈りつつ、薄明の街道を西に向かって歩いて行く。

 橋がだんだん大きく見えて来るにしたがって緊張してくるんだが、橋には人影が全くない。

 街道も静かなものだ。このまま1日が過ぎてくれれば良いのだが……。


「橋に仕掛けをするにゃ! リーディル、手榴弾を出すにゃ」


「ちょっと待ってください。背嚢の中にあるんです」


 急いで手榴弾を取り出す。俺が3個にリトネンさんとエメルさんが1個ずつ。都合5個になるんだがこれでどうするんだろう?


 テリーザさん達がフェンリルを構えて、橋の東のたもとで周辺を見はる。

 俺達は橋を進むと針金で橋の欄干に手榴弾を固定し、手榴弾のリングに細いワイヤーを結び、反対側の欄干に縛り付けた。

 3カ所に取り付けたけど、これで車が通れば手榴弾が爆発するに違いない。

 手榴弾の起爆遅延時間は零秒ということだけど、これを普通の手榴弾だと思って使ったら大変なことになるんじゃないのかな?


 恐る恐るリトネンさんに聞いてみたら、手榴弾の頭のペイントとリングがまるでは無く三角だから直ぐに分かると教えてくれた。

 要するに仕掛け爆弾専用の手榴弾ということになる。

 とはいえ、間違えないとも限らないから、受け取るときに良く確認しておこう。


「これで終わりにゃ。街道の北で様子を見ることにするにゃ」


「そういえば、地雷を仕掛ける間は橋を見張らないといけないんでしたね。了解です」


 俺達は橋近くの街道の土手に移動すると、ミザリーが『準備完了』の通信を送る。

 その合図を待っていたかのように、森から街道に次々と兵士が現れ始めた。


「早く来ればいいにゃ。地雷は仕掛けられなかったけど、橋の上で車が止まってしまうにゃ。そしたら後は銃弾を撃ち込むだけにゃ」


 リトネンさんが待ち遠しそうに、橋の西を眺めている。

 どちらかというと、来てほしくないな。今来られたら、地雷を埋める時間が無くなってしまいそうだ。

 俺達の前を横切り、地雷を背負った連中が街道の南へと歩いて行く。

 2個持ってる人もいたから、ある程度の範囲に地雷を埋めるのだろう。横にきちんと1列に並べるということではないらしい。


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