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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-035 帝国軍本隊への備え


 帝国の拠点攻撃部隊の先駆けになる偵察は、帝国軍の猟兵部隊と言われる俺達と似た部隊だったらしい。

 偵察部隊への迎撃に参加した俺達反乱軍の兵員数は、2個分隊と俺達7人の総勢27名だったが、2人の戦死者と6人の重軽傷者を出したようだ。

 2人は10日程で復帰できるようだが、4人は社会復帰に1年以上掛るとクラウスさんが小隊全員を集めて報告してくれた。

 ファイネルさんの原隊復帰は、残念ながら絶望視されているようだ。

 大腿貫通だけど、骨を砕かれているらしい。片足切断ともなれば、山野の行軍は無理に違いない。


「10日程で大部隊がやってくるだろう。この拠点を失うわけにはいかぬから、籠城しての迎撃戦になる。

 拠点への侵攻ルートは3つある。南の谷の洞窟に北の出入り口、そして村の南斜面だ。

 谷の洞窟は第3分隊、北の出入り口は第4分隊、村の南斜面は第1、第2分隊が担当する。

 総務から10人、ドワーフ族から20人の支援を受ける。

 ドワーフ族は半分ずつ、谷と北に分ける。総務の10人は俺と一緒に南斜面を担当する。

 良いか! 偽装ブンカ―の銃眼からの攻撃に徹するんだ。あの銃眼からでは、敵も手榴弾を投げ込めんからな。

 数カ所のブンカーを使えば1つのブンカーに爆薬攻勢をかけることも出来んだろう。

 たっぷりと銃弾を運んで、明日から待機してくれ。

 戦闘がどこから始まるか予想できんから、常に2人以上見張りを立てておいてくれよ。

 全体の指揮は俺が執る。連絡は電話が使える。『0』番が南斜面。谷は『1』番、北は『2』番だ。

 以上、質問はあるか? ……無いようなら、準備を始めてくれ!」


 がやがやと兵員の話し声が聞こえる中、クラウスさんがリトネンさんを手招きしている。

 俺達は別の任務ということかな?

 さすがに、外に出ることはないんだろうけど……。


 何時ものテーブルに座ると、リエランさんが俺達のカップにお茶を注いでくれた。

 ありがたく頂いて、一口飲む。


「面倒なことになってしまったな。防御は固いが、何せ兵員数が少ない。ブンカーの銃眼から攻撃するだけでは、何時まで経っても拠点の周囲を囲まれたままになるぞ」


 イオニアさんが悲観た口調で呟いた。


「谷や北は隠蔽ブンカーがたくさんあるし、洞窟内にもあるのよ。そう簡単に洞窟には入ってこれないわ」


 テリーザさんが俺とオルバンに顔を向けて教えてくれたのは、俺達が知らないと思っての事だろう。


「南斜面は俺達が屋外射撃の訓練をしている場所でしょう? あの下は崖になってるんじゃないですか」


「それほど高さは無い。川から3ユーデ(2.7m)ほどだ。水量のあまりない川だから、川筋を辿って来れるだろう。馬蹄型の岩山に、いくつかブンカーが作られている。そこで待ち伏せということなんだろうが、もう1つの役目は村を取り囲む崖からの侵入に対処することだ。この部屋も閉じなければならんだろうな」


 直径400ユーデ(360m)ほどの穴の底に村がある。

 崖は20ユーデ(18m)以上の高さがあるように見えるが、ロープを使えば下りてこれそうだ。

 そんな連中の迎撃も、南の斜面に配置される連中の任務になるんだろう。


「私達は、ここになるにゃ」


 拠点の配置図をテーブルに広げたリトネンさんが指を差した場所は、岩山が馬蹄形に形づくられた左手の先端だった。

 崖下の谷底ではなく、崖の中腹に作られたブンカ―らしい。


「谷の入り口付近も、南の斜面に近付く連中も監視できるにゃ。狙撃位置としては最適な場所にゃ」


「見張りと狙撃を担当するのですか?」


「見張りが7で狙撃が3にゃ。これから出掛けるにゃ。ブンカーの鍵は受け取ってあるにゃ」


 普段は使われていないということなんだろう。

 他のブンカーも同じようにカギを掛けているんだろう。用意はされていても未だ使われたことが無いという事かもしれない。


 リトネンさんに連れられて、地下1階の通路をしばらく歩いて行くと、通路が鉄製の扉で塞がれている。

 カチャリとカギを外してイオにかさんが力任せに開けた先には、10ユーデ四方の部屋があった。

 薄暗いが、外から光が入っているようだ。

 よく見ると2方向に細い隙間が開いている。隙間は高さが2イルム(5cm)、横幅は3ユーデ(2.7m)ほどの横に長い溝のような構造だ。隙間が下方に開いているのは見通しを良くするためだろう。


「こっちのはもっと広いにゃ」


 リトネンさんが壁から石を引き出しているのを見て、慌ててイオニアさんが手伝っている。引き出した石の厚さは1.5フィール(45cm)ほどもありそうだ。

 ぽっかりと四角い穴が開いたところから谷の入り口が良く見える。


「あっちにもあるにゃ。あっちは南の斜面を横から見ることができるにゃ」


 部屋にはテーブルとベンチ、それにテーブルにしか見えない木製の寝台が置いてある。仮眠も考えているんだろう。


「焚き火はさすがに無理ですね」


「炭を使うコンロが使えるにゃ。あの枠を使って黒い布を二重に張れば、ロウソクランタンの明かりは無視できるにゃ」


 リトネンさんの話では、明日からここに詰めることになるとのことだから、必要な品を今日中に揃えて、2回に分けて運ぶと俺達に伝えてくれた。

 食事も自分達で作ると言っていたから、携帯食がメインになりそうだな。


「高さの変えられる椅子が欲しいですね。中腰で監視を続けると腰を痛めそうです」


「木箱を探すにゃ。何個か運んでおけば色々と使えそうにゃ」


 さて、戻って資材を探すことにしよう。

 ちょっとした改造もしたいから、大工道具も欲しいところだ。


 小隊の部屋に戻ると、早速皆があちこちに出掛けて行く。

 俺は木箱の調達だな。3個は欲しいところだ。

 小隊部屋を抜け出して倉庫に向かう。

 弾薬や携帯食料を入れていた木箱が残っていたはずだ。

 

 倉庫に入って行くと、隅にあった程度の良い空き箱を見付けて小隊の部屋へと運んでいく。

 4つは多かったかもしれないけど、困ることは無いだろう。

 ついでに飲料水の運搬容器も見付けたので運んでおいた。20パイン(10ℓ)ほどの容器だから、水筒10個分以上の容量がありそうだ。


 しばらく待っていると、皆が戻ってくる。

 持ち寄った品を確認しながら、俺とイオニアさん達トラ族の女性2人で運ぶことになった。

 リトネンさん達は、まだまだあちこちから運んでくるものがあるらしい。イヌ族のテリーザさんとトラ族のオルバンはお手伝いということになるのかな。


「飲料水は明日担いで行こう。先ずはこっちからだな」


「ホウキと雑巾もいるんですか?」


「暮らす前は掃除が基本だろう? ベッドやテーブルに塵が積もっていたぞ」


 女性だからだろうな。俺は気にしないんだけど……。


 カゴを背負ったり、バケツを持ったりで大掃除に出掛ける出で立ちなんだよなぁ。

 周りに人がいないから、気にはならないんだけど、今から籠城戦が始まるとはとても思えない格好だ。


 ブンカーの片隅に荷物を置いて、再び小隊の部屋に戻る。

 真っ先に目に付いたのは、四角い金属製の容器だった。表示を見ると銃弾を詰めた箱のようだが、色違いで3つもテーブルに乗せられている。


「ゴブリン用の38口径弾とフェンリルの40口径弾にゃ。イオニアはゴブリンの狙撃銃を使うにゃ。それに、これを使ってみるにゃ」


 何か玩具のように見える拳銃を取り出したんだが、口径だけで1イルム半はありそうだ。


「グレネードランチャーですか!」


「帝国の品だから、弾丸だけは返して上げた方が良いにゃ」


「そうですね。借りたものは、返さないと泥棒になってしまいます」


 2人の会話を聞いて、オルバンと顔を見合わせる。

 殊勝な会話に聞こえるけど、帝国軍に向かって撃て! ということだよな。

 ものは言いようだということが、良く分かる会話だ。


 グレネードランチャーの射程は300ユーデ(270m)近くあるらしい。あのブンカーは高台に位置しているから、最大射程はそれ以上になるはずだ。

 手榴弾より軽い銃弾だけど、炸裂するから敵にとってはかなり厄介なものになるはずだ。

 音が小さなグレネードランチャーを敵よりも有利な位置で使えるなら、かなり有利に防衛戦ができるんじゃないか。


 もう1度荷物背負ってブンカーに向かう。

 イオニアさん達が掃除を行い、俺とオルバンで銃眼の後方にカーテンを二重に張った。

 埃がゆっくりと銃眼に向けて流れている。

 これだと、煙も銃眼から出るんじゃないかな?


「だいじょうぶにゃ。その為に炭を使うにゃ。それにここなら毒ガスも入ってこないにゃ」


「毒ガスですか! そんなものまで戦に使うんですか?」


 リトネンさんの話では、かつての大規模戦闘で使われたらしい。

 黄色いガスを吸い込むと、咳が止まらなくなるということだった。そして数日後に血を吐いて無くなるということだから、肺を焼かれたのだろうと言って話を終えた。

 それで、この拠点にこんな対策をしているのだろう。


「毒ガスを使うのはこの地形では難しいにゃ。自分達にも被害が出かねないし、風で拡散してしまうにゃ」


「ガスマスクも用意していると聞いたのですが?」


「あるにゃ。他の分隊は準備しているにゃ。ここは必要ないにゃ」


 毒ガスは重い気体らしい。地面近くを這うように広がるということだから、この高台では必要ないってことなんだろう。


「これを持たされたんですが、どこに接続すれば良いんでしょうか?」


 オルバンが革製の四角いバッグを持ち上げて聞いてきた。


「あの四角い箱に端子があるにゃ。接続して連絡してみるにゃ。やり方は分かるのかにゃ?」


「教えて貰ってます。拠点内は無線が使えませんからね」


 オルバンが革製の箱から電話機を取り出してテーブルに乗せると、電話機から壁に取り付けられた金属製の箱に電線を引いていく。

 あの電話で状況を伝えるんだろう。

 オルバンはテーブルが定位置になりそうだ。


「小銃と背嚢は置いて行っても良いにゃ。明日の朝食を取ってからは、ここでしばらく暮らすことになるにゃ」


 鍵は掛けておかないということだから、朝食を終えたら直ぐに来よう。

 結構眺めが良い場所だ。他のブンカーから比べると一番良い場所じゃないかな。


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