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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-034 敵の狙撃手から倒す


 陣を構えて2日目の夜が明けた。

 敵も進軍ルートを探るのが目的だから、やはり見通しの良い時間帯に行動するのだろう。

 薄明が始まる前に食事を終えると、持ち場に付く。

 ここに現れないとすると、森に入って早々に東へ向かったということになるのだろうか?

 東には、第2、第3分隊が待機しているから、遭遇すれば通信を傍受できるんじゃないかな。


 昼過ぎに、オルバンが異常なしを拠点に連絡する。他の分隊も今のところ敵の姿を見ていないようだ。


「諦めた……、ということはないんでしょうか?」

「2個小隊を送って来たとすれば、一戦になるにゃ。今まではこちらが仕掛けたにゃ。あの場所で列車が転覆しないで全員が無事だったら、こっちがやられてたにゃ」


 今度は向こうが仕掛けてくるということになる。

 俺達より戦力が上だから、攻撃を受けたら拠点が殲滅しかねない。

 母さんとミザリーがいるんだから、何としても攻撃を避けたいところだ。

 だけど持久戦なら、案外帝国側が根負けしてくれるんじゃないかな?

 帝国側は食料と弾薬は豊富にあるみたいだが、3日程山を登って食料等を輸送しなめればならない。

 3日の距離を人力で運ぶとなると、俺達が補給路を断つ作戦もできるような気がする。


「私は、こっちだと思うにゃ。一番距離が短いにゃ」


 じっと待つのは退屈以外の何物でもない。たまに短眼鏡で遠くを見るんだけど、リトネンさんは双眼鏡を持っているだけなんだよなぁ。

 監視は全体を眺めるのが大事ということになるのかな?


 そろそろ日が傾いてきた。

 リトネンさんの話では暗くなるとその場で野営をするようだから、後2時間もすれば敵は動かなくなってしまうだろう。

 今回はリトネンさんの勘は外れたかもしれないな。

 

「やって来たにゃ。リーディルはこの場で待機。あの横になった石の先を移動してるにゃ」


 そう言って、体を起こさずに後ろに下がっていく。器用な動きだけど、あれなら見つからないな。

 どうやらファイネルさんとイオニアさん達にやって来たことを伝えに向かったらしい。ついでに指示も出してくるんだろう。

 

 その間は、俺が監視することになる。

 たまに繁みが動くんだけど、あれがそうなんだろう。

 最大限の注意を払って、ゆっくりと登ってきたようだ。


「どうにゃ?」


「たまに繁みが動きますが、あの横になった石から前には出ていません」


「なら問題ないにゃ。もう少しここで様子を見たから射点に移動するにゃ」


 ここから半日ほど東に向かった第2分隊も敵を確認したらしい。第3分隊はまだのようだから、明日の早朝まで待って、俺達に合流して来るかもしれないな。


 リトネンさんが繁みに隠れて双眼鏡を使っている。

 俺には未だ相手が見えないんだけど、リトネンさんには分かるのかな?


「繁みの動きからだと、4人にゃ。もう少し近付いてくれれば装備が分かるにゃ」


 確かに繁みの動きが前より近くなってきた。

 だけどあの動きだけで4人と分かるんだから大したものだと感心してしまう。


 時間だけが過ぎていく。

 このままだと偵察部隊の連中と300ユーデ(270m)ほどの距離で一夜を明かすことになりかねないと考えていた時だった。


「あいつら、猟兵部隊にゃ! 照準器の付いた小銃を1人が持ってるにゃ。リーディルは必ずそいつから仕留めるにゃ。横になった石の直ぐ後ろにいるにゃ。その右手にもいるけど、最初は狙撃兵からにゃ」


「了解です……。今銃が見えました。その右手は、少し奥ですね」


「サプレッサーが付いているから、最初の銃弾は狙撃位置がばれないにゃ。絶対に当たる距離でし止めるにゃ!」


 リトネンさんが後ろに下がると、再びファイネルさん達に知らせに向かう。

 さて、あの位置なら150で良いんじゃないか?

 照準器の目盛りを設定すると、藪から銃身が出ないように注意して射撃体勢を保つ。

 俺達の方に注意しながら、ゆっくりと動いてくる。

 真っ直ぐに移動しないで、藪や木の陰に斜めに移動しているようだ。

 この場所に俺達がいると気付くことはないはずなんだが、彼等の経験が何かを告げているんだろうか?


 動き始めた。匍匐ほふく前進をしているのだろう。

 枯れた下草から銃身だけが動いている。たまに帽子が見えるけど、俺達の帽子に良く似た帽子だ。

 次の繁みに到達する前にし止めるか……。

 移動方向に狙いを定め、彼の為に祈りを捧げる。

 下草がまばらになった場所で、標的が動きを停めて周囲を伺う……。

 

 気の抜けた銃声を聞けたのは、俺だけだったろう。

 相手はその場で倒れ、動かない。


 次の目標に狙いを付けようとしていると、リトネンさんが帰ってきた。


「やったのかにゃ?」


「ええ、右手を狙おうとしています」


「上手くやるにゃ。ファイネルが森の奥に、もう1組を見付けたにゃ」


 リトネンさんの話では、ファイネルさんの射点からなら良く見えるらしい。

 ここからだと、左手になるんだろうな。

 

「向こうはファイネルの任せるにゃ。残りを片付ける方が先にゃ!」


 右手の谷を覗いたところで、こちらに移動を始めた。

 しっかりと見ていないと見失いそうな動きだな。しっかりと訓練を受けた兵士なんだろう。


「もう少し移動すると、罠に接触するにゃ」


「あの辺りにも仕掛けたんですか?」


「リーディルの射点にたくさん仕掛けてあるにゃ。フェイネルの方は右手だけにゃ」


 視界の善し悪しということなんだろう。

 ファイネルさんは木の上だ。周囲の状況が良く分かるんじゃないかな。


 ボン!


 小さな花火が炸裂した。

 驚いて体を起こしたところを狙撃する。

 

「イルマン! オットー!」

 

 鋭い声が聞こえてきた。

 どうやら、俺が倒した2人の確認を取ってるみたいだな。


 パァン!

 銃声が森に響く。

 続けて、周囲に銃弾が飛び交い始めた。俺達に感づいたに違いない。

 だが、全く見当違いに銃弾が飛んでいるんだよなぁ。次を撃ったら、気付かれてしまうだろうか?

 急いで最初の射点に移動する。こっちの方が安全だ。

 

 ドサリ! と大木の方から音が聞こえた。

 中腰になって、敵兵が藪に中から姿を現す。

 チャンスを逃すことはない。

 祈りを唱え、次の繁みに移動する敵兵に狙いを付けて、トリガーを引く。


 バシュ!

 銃声が大きくなってきた。サプレッサーの機能が低下したんだろう。

 こっちにも銃弾が飛んでくるが、まだ見当違いの方向だ。


 リトネンさが、銃を石の間から片手だけで撃ち込んでいる。あれでは当たらないだろうが、敵兵の注意を引くには十分だ。

 リトネンさんの銃口に向けて発砲しようとした敵兵が繁みの中を動く。

 銃身の位置を考えると膝射ちになるんだろう。

 その姿を繁みの中に思い描き、照準を合わせトリガーを引いた。


 バシュ!

 銃声がかなり大きい。先ほどまで見えていた銃身が藪から突き出されると繁みが大きく動く。

 やったようだな……。残ったのは?

 前方に素早く目を向けながら、ボルトを引いて次弾を装填する。

 再び静まりかえってしまった。

 人が隠れそうな繁みを1つずつ丁寧に確認してみたが、動く様子はどこにもない。


「ファイネルがやられたにゃ。少し後方に下がるにゃ」

「了解です。どこまで後退しますか?」


 リトネンさんが腕を伸ばして教えてくれたのは、ここから後方200ユーデ(180m)ほどの場所だった。

 何も遮蔽物が無さそうに見えるんだけど、あんな場所で大丈夫なんだろうか?


 ゆっくりと後ずさりながら後退を始める。

 イオニアさんが援護射撃の準備をしているとリトネンさんが教えてくれたけど、どこにいるのかも分からないんだよなあ。


 ゆっくりと下がっていると、いきなり足を持たれて後ろに引き摺りこまれた。

 50cmほどの段差がある。

 先ほどの場所からは緩い斜面にしか見えなかったんだが……。


「ファイネルが足を撃たれてるにゃ。木から落ちて背中も打ってるからまだ意識が戻らないにゃ。とりあえず偵察部隊は葬ったにゃ。拠点に戻るにゃ」


「本隊を迎撃しないのですか?」


「迎撃は谷の出入り口付近で十分にゃ。偵察部隊が迎撃されたとなれば、敵も慎重になるにゃ」


「増援もあり得ると?」


「こっちの戦力は、まだ分からないにゃ」


 偵察部隊を叩いたんだから、こっちを過大評価してくれるということなんだろうか?

 だが、結果的に敵の戦力を上げることにならないか?

 谷の出入り口は巧妙に隠されているし、中は天然の洞窟があるからなぁ。洞窟内に拠点に至る階段が作られているけど、結構長い階段だから上るのに苦労するぐらいだ。


 イオニアさんがファイネンさんを担いで行くのを、殿を務める俺とリトネンさんで見送る。

 本当に力があるんだよなぁ。見ていて感心してしまう。


「一応全員倒してるんですよね?」

「倒したにゃ。でも、後続が無いとは限らないにゃ。もう直ぐ暗くなるにゃ。それまでここで監視するにゃ」


 やがて日が落ちる。

 リトネンさんに手を引かれて、夜の森を歩く。

 この能力も感心してしまう。イオニアさんも夜目は利くらしいのだが、ネコ族には敵わないと言っていたぐらいだからなぁ。


 頻繁に休憩を取り、その都度後方を確認する。

 俺には20m先も見えないんだが、リトネンさんには200m先まで見通せるらしい。


「だいじょうぶにゃ。明け方には谷の入り口に戻れるにゃ」


「他の分隊も戻っているんでしょうか?」


「引き上げの指示が出てたにゃ。通信機は便利にゃ」


 腰を上げると、再び森の中を歩き出す。

 まだまだ夜明けは遠いようだ。

               ・

               ・

               ・

 翌日の夕暮れ前に、谷の出入り口に到着できた。

 後方を警戒しながらの行軍だから、結構時間が掛かっていたので思わずほっとしてため息が漏れる。

 ファイネルさん達は先に到着しているはずだけど、怪我の具合はどうなんだろう?

 まるで俺の兄貴のような感じで、色々と指導してくれた人だからなぁ。無事に復帰してくれれば良いんだけど……。


「ファイネルの様子は私が見て来るにゃ。明日の朝、小隊の部屋で皆に教えるにゃ」


「他の部隊でも犠牲者が出ているみたいですが、次は大部隊がやってくるんですよね?」


 俺の問いに、リトネンさんが首を捻っている。

 悩むような話なんだろうか? そもそも拠点を縮小化しているんだから、このまま穴倉に閉じこもるか、他の拠点に移動する外にないと思うんだけどなぁ。


「それも確認して来るにゃ。でも明日にはクラウスから話があると思うにゃ」


 拠点からの襲撃計画の責任者だからなぁ。拠点の上層部と相談して前後策を決めるんだろうけど、どちらを選ぶことになるんだろう?


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