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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-027 帝国軍の夜間攻撃


 何時ものテーブルに6人が座り、今日はクラウスさんと総務の人間も同席している。

 お茶を飲みながら俺達の話を一通り聞き終えたところで、小さく頷いていた。


「お前達が見た巨大な芋虫が新兵器で間違いないだろう。それにしても破壊まで行って来たとはなぁ……。

 できたか? ほおう、こんな形か……、これでどうだ? 違ってるところはあるか?」


 テーブルに総務の人が描いた絵を広げる。

 うん、だいたいこんな形だったかな。


「この貨物車のこの辺りに砲弾を詰めてたにゃ!」


「先端はもっと丸かったように思います」


「ここのヒレはもっと幅があったな。竹トンボのハネはこんな感じだったが根元は膨らんでたぞ」


「直径は15ユーデ(13.5m)以上あったにゃ。全長は150ユーデを越えてたにゃ」


「最初の銃弾はここに当てたんです。リトネンさんが布張りだと言ってました」


 修正や、追記がどんどん行われる。

 しばらくして落ち着くと、総務の人が再び描いた絵を見せてくれた。


 全員が頷くのを見て、クラウスさんが頭をかきだした。


「こんな兵器だったとはなぁ。空で動くのを見たという者がいたんだが、誰も本気にしなかったそうだ。

 リーディルが言うように風船と同じように何らかのガスを入れて浮いているんだろう。だが一旦空に上がったら、撃ち落とすこともできないかもしれん。銃弾を真上に向かって撃ったらどれぐらいまで上がるかはドワーフ族に確認してみるが、あまり期待できそうにないな。だが焼夷弾が有効だと、分かっただけでもありがたいところだ。しばらくは休養して欲しい。大変だったらしいからな」


 クラウスさんが総務の人と一緒に小隊室を出て行った。残った俺達は、とりあえずゴブリンの掃除をして時間を潰す。

 リトネンさんが居眠りを始めたところで、イオニアさんが小声で訪ねている。


「王都で盗賊をしていたのですか?」


「盗賊はしてないにゃ……」


 良かったと笑みを浮かべながらファイネルさんと笑みを浮かべる。ファイネルさんも疑っていたみたいだな。


「盗賊じゃないにゃ、義賊をしてたにゃ!」


 危うくゴブリンを床に落とすところだった。ファイネルさんもゴブリンをとりあえずテーブルに置いて、リトネンさんの言葉に耳を傾けるみたいだな。


「王都は見た通り貧富の差が激しいにゃ。貧しいところは本当に酷い暮らしにゃ。貧民街の教会には捨て子が無かった月は無いにゃ。教会も貧しいけれどちゃんと育てていたにゃ。そんなところに富を還元する仕事をしてたにゃ」


 誇れる仕事ではないけれど、教会にとってはありがたかったに違いない。リトネンさんが義賊に拘るのは、それを誇っているんだろう。

 でもそうだとしたら、何時兵隊になったんだ?


「演習場に忍び込んで食料を頂こうとした時に、見つかってしまったにゃ。逃げることはできなかったにゃ。あんなに銃の上手い人は初めてだったにゃ。観念して今までの事を話したら、箱に一杯の食料を恵んでくれたにゃ。

 その後で私の身元引受人撫でしてくれたから、兵隊になれたにゃ。兵隊の給与は教会に渡したにゃ。そしたら私より前に教会に寄付してくれた人がいたことが分かったにゃ」


「良い人に掴まりましたね。前科がかなりあったはずですから、警邏に届けられたら縛り首でしたよ」


 まあ、そうだろうな。

 前科が3つあれば一生涯重労働だと聞いたことがある。前歴の数知れずではねぇ。


「でも、そんな兵隊なら、それなりに名が知られてるんじゃないですか?」


「悪名が高かったにゃ。あまり他の兵隊と一緒にいなかったにゃ」


「余計分からなくなってくるなぁ。弱い者いじめをする奴なら大勢いそうなもんだけど」


 皆の話を聞く限りでは軍隊は余り良い場所ではないらしい。だけど反乱軍は元軍隊が主流の筈だ。

 皆親切にしてくれるんだよなぁ。


「敵を簡単に殺し過ぎるということで、あまり近寄る人がいなかったにゃ」


「残酷に! なら悪名でしょうけど……」


「まさか! いや、それなら偉業と言うべきだ」


「それが私がここにいる理由にゃ。ネコ族は1度受けた恩は忘れないにゃ」


 イオニアさんは思い当たる人物にたどり着いたらしい。大きなため息を吐くとテーブルから離れて行った。


 残った俺達は互いに顔を見合わせるんだけど、思い当たる人物にたどり着けないんだよなぁ。

 ここは、リトネンさんの過去を少し知ったことで満足しておこう。

               ・

               ・

               ・

 数日が過ぎた時だった。クラウスさんが小隊の全員を集めて話を始める。

 どうやら敵の新兵器についての情報共有が出来たらしい。

 とりあえずは焼夷弾の量産化を進めたとのことだが、あまり当てにはできないだろうとのことだった。


「ここも目標として選ばれている可能性が高いそうだ」

ダミーの村は諦めるとしてもここも至近弾が無いとは言えない。小隊の部屋自体を、谷近くに移動することになったぞ」


 ドワーフ族が洞窟の岩盤を、現状の部屋ぐらいの大きさに掘ってくれたそうだ。

 引っ越しと言うことになるんだろうけど、かなり荷物がありそうだな。


 1日掛かりで引っ越しを終えると、お祝いと言うことで食堂でワインを頂く。カップに半分だけだけど、俺って成人してるはずなんだけどなぁ。


「これで、一安心にゃ。あんなのが飛んで来たらたまらないにゃ!」


 そんなこんなで盛り上がっていたんだけど、その夜地震のような地響きで目が覚めた。

 母さん達に逃げ出せる準備をお願いして、階段を登って行ったのだが夕食を食べた食堂が跡形もない。

 あの空飛ぶ芋虫が襲ってきたってことか!


「リーディルも来てたのか。リトネンさんから緊急招集があったぞ!」


「この件でしょうね。一度部屋に戻ってから行きます」


 急いで部屋に戻って母さんに食堂が無くなったことを話すと、かなり驚いている。慌てて別のカバンまで用意を始めたから、急いで止めさせた。


「もう何も起こらないみたいだ。明日の朝食は期待できそうもないけどね。俺の方は何かあるみたいだから、部隊の部屋に行ってくるよ」


 母さん達は、せっかくだからとお茶を飲んでまた眠るみたいだな。明日の通信部は大忙しいに違いない。


 何時もの服に着替えて、リボルバーをベルトに差し込みジャンパーを羽織る。

 拠点の中の武装は最低限にするよう言われてるけど、場合によっては、その場で撃ち合いになるかもしれないといつも言われてる。

 あの攻撃に呼応して帝国兵士が攻め込んでくることだってあり得る話だ。


 階段を下りて、新しい小隊の部屋に向かう。

 部屋に入ると、かなりの人数が集まっている。ファイネンさんが俺を見て手を振っているから、とりあえず俺達の使っていたテーブルに付くと、テリーザさんがお茶を入れてくれた。


「絶対に、あれがやって来たに違いない。1つだけだと思ってたんだが、もう1つあったみたいだ」


「ここが分かったなんでしょうか?」


「空から見ればすぐわかるに違いない。山奥の村に偽装しているけど、明かりの数が多かったのかもしれないな」


 イオニアさんは余り不思議に思わないようだ。

 やはり帝国軍は、反乱軍の拠点潰しに力を入れ始めたと言うことになるのだろう。


「皆、集まってくれ! 状況説明を行うぞ」


 クラウスさんがやって来て、俺達に話を始めた。

 どうやら偽装した村が更地になってしまったらしい。畑もあったのだがそれも無くなったということだ。

 地下1階はあちこちが崩れているらしい。中でも食堂の被害は甚大だということだった。


「居住区は、棚が倒れたぐらいで済んだようだな。被害は大きいが人的被害がないことが何よりだった。北と谷の出入り口をとりあえずは固めることにする。あの攻撃と連動して帝国軍が攻め込んでこないとも限らない。

 俺達の担当は、谷の出入り口。洞窟内で待機して欲しい。2時間交替で、第1分隊からだ。何かあれば、リトネン達が出向く。別命あるまで、この体制で行くからな」


 あんなのがいくつもあったらたまらないな。それに爆発がもっと大きければ居住区画にまで被害が出ていたところだった。

 この拠点が、洞窟を利用した拠点で良かったと思う。


「ここで待機にゃ。銃をテーブルに乗せて装備ベルトを付けておけば十分にゃ。銃弾が足りなければ貰っておくにゃ」


「1マガジンを頂いてきます。他は?」


「俺とリーディルは1クリップで十分だ。それとビスケットがあったら、今の内に腹ごしらえをしたいところだな」


 フェイネルさんの言葉に頷くと、先ほどまで集まっていたテーブルに向かった。箱がいくつか乗っているからその中に弾丸が入っているのだろう。


 待機だからお茶を飲んで時間を潰す。

 リトネンさんはいつの間にかテーブルの上に乗り出すような姿勢で寝ている始末だ。

 テーブルに上に小銃を置いてあるから、その跡が顔に付くのは間違いあるまい。


 俺達から離れて、換気口近くで一服をしていたファイネルさんが帰ってきた。何かをお手玉してたんだけど、俺の前に1つ卵ほどの大きさの物体を置いた。


「1個やるよ。これも手榴弾なんだが、爆発威力はほとんど無い。その代わり周囲を火事にするんだ」


「火事ですか?」


 詳しい話を聞くと、黒い卵の中にリンを混ぜた樹脂が入っているらしい。上部に突き出た金属棒を貫通している針金を引き出して、金属棒を固いものに叩きつければ5秒後に爆発するとのことだ。

 針金はセーフティのようだ。引き出しやすく丸いリングが付いている。


「襲撃時に使う焼夷弾なんだが、洞窟内で使えば明かりの代わりになるはずだ」


「本当に危なくないんですか?」


 一応火薬を使っているんだよなあ。洞窟が崩れることはないのかと心配になってしまう。


「さすがにそのまま持っていれば大火傷では済まないし、持つ手は無くなるぞ。被害半径は2ユーデ(1.8m)と言われてるから、この中で使うには丁度良い」


 それ以上離れれば即死することは無いってことなんだろうな。

 あまりー重い物でもないし、礼を言ってポケットに仕舞いこんだ。


 見張りを交代するために第2分隊が部屋を出て行った。

 あの爆発から3時間は経過しているだろう。まだやってこないということは地上部隊と連携した攻撃ということは無かったのかもしれない。

 とはいえ、このまま1日はここで待機となりそうだ。


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[一言] 親への恩を子に返すかな?w
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