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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-023 王都へ行こう


 鉄道は帝国によって管理しているらしいのだが、その理由は軍用列車の優先運航を図るためらしい。


「さすがに軍用列車に乗るのは無理だが、いまだに一般市民が乗れる便はあるんだ」


 クラウスさんの話では、植民地の住民対策の1つとして鉄道による物資の輸送を認めているらしい。

 かつての王国時代に比べれば遥かに少ないらしいが、皆無ではない。

 ほとんどが貨車と客車を連結した列車らしいが、物資の輸送が主目的であるなら仕方のないことなんだろう。


「さすがに客車は無理だ。客車はたまに臨検があるからな。だが貨物車両は臨検でも扉を開けるだけらしい」


「問題は乗り方にゃ。昼間に堂々と乗れないにゃ」


 帝国軍からすれば俺達はお尋ね者らしい。密告すれば銀貨1枚、捕えれば金貨が貰えるということだ。

 たまに欲に目がくらんだ連中が密告するらしいが、密告した者はその後直ぐに報復されるらしい。


「東から穀物輸送を行う列車は、町以外でも臨時停車するんだ。その場所がここだ」


 クラウスさんが指差した場所は、俺が住んでいた町から南西に20kmほどの場所だった。

 

「木材の積み出しかにゃ?」


「ああ、木材は貴重らしい。帝国に持って行くようだな。貨車は炭と焚き木だ。暖房で石炭が使えるのは町の半分もいないだろう」


「王都は集中暖房があると聞いたにゃ」


「旧王国時代なら貴族街と税金をたっぷり納める商人達が対象だったが、今では王宮と帝国からやって来た貴族、それに帝国に組みした上級貴族のみだ。おかげで辺境に住んでいた連中が大忙しだ」


 王国時代より稼げて平和に暮らせるなら問題は無いように思えるけど、そうはいかないらしい。

 木材の伐採量を決められているらしいのだ。

 大きな丸太1本の代価が薪1束と同じというのもなぁ……。

 

「おかげで俺達に協力してくれる。もっとも見て見ぬ振りをしてくれるだけだけどな」


「十分にゃ。貨車に乗り込んで、そのまま王都に向かうにゃ」


 木材の積み込みにかなり時間が掛かるから、そのすきに貨物車に乗り込もうということらしい。

 

「後は向こうの無垢材置き場で下りれば良いにゃ。あの辺りは良く知ってるからだいじょうぶにゃ」


「リトネンが暮らしていた区画だ。案内人も必要ないだろう?」


 うんうんとリトネンさんが頷いている。

 元は軍人らしいから、入隊するまで家族と住んでいたんだろうな。子供時代に散々かくれんぼをしたこともあるに違いない。良い隠れ家を知ってるんじゃないか?


「軍の演習場にも近いはずだ。帰りも貨車に上手く忍び込めれば問題ないだろう」


「それで何時出掛けるにゃ?」


「明後日で良いだろう。さすがに外套は着ていけんぞ。総務の方に連絡しておく。少しマシな衣服に帰るんだ。ゴブリンやフェンリルをそのまま持っては行けまい。偽装をドワーフに頼んである。それも明日届くはずだ」


 ファイネルさんと顔を見合わせてしまった。

 要するに、ちょっと見ただけでは反乱軍と分からないように変装するってことなんだろう。

 冬だからなぁ。王都の連中はどんな服を着るんだろう?


 翌日。リトネンさん達と総務部の管理する倉庫に向かった。

 確かに衣服が揃っているけど、新品は無いみたいだな。


「まあ、古びてた方が良いんだろうな」


 やはりファイネルさんも期待していたみたいだ。

 比較的汚れが少ないジャンパーを見付けて、羽織ってみた。少し大きいけど、これなら下にセーターを着られそうだ。

 ズボンは帆布製の丈夫そうな品を選んだ。靴は冬だからブーツで良いだろう。


「バッグも必要だぞ。背嚢を背負う訳にもいかないだろうからな」


「これぐらいかな?」


 何枚もシールの付いた旅行バッグは、かなり古びている。中のものが飛び出さないように紐で縛って使うことになりそうだ。


「おお! 良いのを見付けたな。俺はこれだ」


 帆布製の大きなバッグは船員が使うんじゃなかったか?

 昔、近所に住んでいた友人が見せてくれた本に、そんな挿絵が付いていた。


 小隊の部屋に戻って待っていると、ドワーフ族の若者がテーブルに板を乗せて帰っていった。何も言わなかったが、こんな板を誰が頼んだんだろう?


「届いてたにゃ!」

 

 リトネンさん達が帰ってきた。

 いろんな種類のバッグを持っているけど、どうやら担げるものを探したみたいだな。

 俺達のは……。


「紐を貰ってくるから、待ってるんだぞ!」


 ファイネルさんが駆けだして行った。

 やはり手に持つのは問題だということだな。


「リトネンさん。この板はどうするんですか?」


「それにゃ。 2つに割れるにゃ。そうじゃなくて横に開くにゃ」


 横に開くと空間がある。

 しかも形が出来ている。これに入れてゴブリンを運ぶってことか!


 狙撃銃を窪みに入れて見ると、綺麗に入る。サプレッサーを付けても問題ないみたいだな。


「こっちはフェンリル用にゃ。これで、小銃を持っていけるにゃ」


 リトネンさん達が板にフェンリルを入れているのを見て、帰ってきたファイネルさんが慌ててゴブリンを仕舞いこんだ。


「これを渡してくれたぞ。ハシゴと言って薪を運ぶのに重宝するらしい」


 立った2本の横棒があるだけでもハシゴと言うらしい。

 背負えるようになっているから、この方が楽に運べそうだ。


「食料は5日分にゃ。出掛ける時に2食お弁当が貰えるにゃ」


 テーブルに乗せられたのはビスケットと干し杏子だ。干し杏子以外の果物は無いのかな?

 バッグには食料と装備ベルト、それにツエルトを入れておく。ゴブリンの銃弾は30発だけだ。護身用としてズボンのベルトにリボルバーを挟んでおくように言われた。リボルバーの銃弾は12発入った小箱をポケットに入れておく。

 水筒は2つバッグに入れておけば良いだろう。

 

「手袋は毛糸のものを持って行くにゃ。帽子はこれを被るにゃ」


 毛糸の帽子だ。

 深くかぶれば耳も隠れるから、このまま貰っておきたいな。


「出来たかにゃ? 出発は明日の朝にゃ。荷物を運ぶドワーフ族が同行してくれるから、明後日の昼過ぎに、馬車が拾ってくれるにゃ」


 1日半で拠点から下りるのか……。

 坂を下りる感じだから少し早いってことかな。登ってくるとなれば3日は掛かるんだけどね。荷物はドワーフ族の若者が運んでくれるから歩みも楽に違いない。


 着替えを持って、少し早めに夕食を取る。

 全員無事に帰って来れるんだろうか?

 食事が終わると、ワインで『作戦成功を祈って!』乾杯を行う。帰ってきたら『作戦成功を祝って!』乾杯できると良いんだが……。


 部屋に戻ると明日の着替えを準備する。

 拠点にいるなら、羊毛で出来た下着やズボン下はいらないだろうけど、王都での行動が夜だからなぁ。必需品ってことだろう。厚手のシャツとセーター、それに、毛糸の帽子と手袋、靴下は重ね履きしても良いようなブーツを選んである。

 バッグとゴブリンを入れた板は小隊の部屋に置いてあるから、これを着て出かければ良い。

 

 リビングで、のんびりと雑誌を読む。

 食堂の棚に置いてあるから、欲しい人は持って帰っても良いらしい。

 俺が見つけたのは、帝国がいかに偉大であるかを示す広報の役目もあるらしい。よくもこんな品を手に入れたものだと感心してしまう。

 興味を持ったのは、帝国の兵器が紹介されていたからだ。

 当然機密部分はあるんだろうけど、姿とそれがいかに強力な兵器なのかを説明している。

 かなり脚色されたものなのだろうが、姿を見ているだけでも面白いんだよなぁ。


 蒸気機人にも何種類かあるみたいで、俺が見た3脚の蒸機人は多用途に使われているらしい。

 荷役作業にも使われているとは汎用にもほどがあると思ったが、あの姿と動きを考えれば、元々は荷役作業用の機械だったのかもしれないな。それを帝国は兵器に換えたんだろう。

 船もかなりの種類がある。港に行ったことがないから想像できないんだが、全長が200mを越える船なんて想像すらできない。

 結構面白く読んでいると、母さん達が帰ってきた。


 ストーブに火を点けてお湯を沸かしていたから、直ぐに母さんがお茶を入れてくれる。


「明日出発するよ。今度は王都なんだけど、リトネンさんが王都で暮らしていたらしいから心配はいらないよ。誰かを倒すのではなく、帝国の新兵器を探すのが目的だからね」


「そういうことなのね。最近、急に電信が増えたの。何かあるんじゃないかと思っていたけど……」


 電信は電波と言う伝達手段で行われるらしい。アンテナと呼ばれる電線を高いところに張るだけで通信ができる優れものなのだが欠点もある。

 第三者に通信内容が知られてしまうのだ。

 あちこちの町に電信局はあるんだが、そこでの通信は常に通信内容が記録されているぐらいだ。不審な電信を行えば直ぐに逮捕されてしまうらしい。


 母さん達の電信は暗号化されているらしく、送る内容も受信内容も全く意味をなさない内容らしい。

 通信部の責任者とその副官のみが解読できるとのことだ。

 通信が急に増えたから、母さん達には疑問だったんだろうな。


 ミザリーは「お土産はいらない」と言っていたけど、それは欲しいということなのかな?

 だけど、買い物なんて出来そうにないんだよなぁ。


 翌日。着替えを済ませて3人で食堂に向かう。

 ジャンバー姿の俺を見て、2人が笑みを浮かべているのは似合ってないってことかな?


 トレイを動かしながら料理を乗せてもらう時、パンを1つ余計に貰っておいた。夜食に丁度良いからね。


「必ず帰ってくるのよ!」

 

 そう言ってくれた母さんとミザリーをハグしながら、涙を拭いてあげる。

 さて、食堂でおやつを買い込んでおくか。飴玉ならどこでも楽しめるからね。


 ロウ紙に包まれた飴玉を10個買い込んで支払いをする。

 銅貨3枚だから案外安い。


「試したの?」


 売店のお姉さんの問い掛けに、一瞬何のことかわからなかった。


「まだ、試してないんだ。ケースを貸して頂戴。もう少し入れてあげる」


 シガレットケースを渡すと、前とは違った色のタバコを3本追加してくれた。


「レモン味なの。でも無理に試しちゃだめよ」


「ありがとうございます!」と礼を言ったけど、俺を喫煙者にしたいのかな?

 1本ぐらい試しておかないといけないのかもしれない。ファネルさんはたまに喫煙しているところを見たことがある。

 クラウスさんは喫煙者に違いないし、小隊内にも多いんだよなぁ。


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