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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-187 空中軍艦対空中軍艦


 アドレイ王国軍の空中軍艦の後方、高度差プラス1500ユーデ、距離は10ミラルに俺達の飛空艇が位置する。

 やはり大きいなぁ。ブリッジ前後の上部甲板に2連装砲塔を備えているんだから、まるで海上の軍艦そのものだ。

 砲塔の装甲板はその大砲の直撃を跳ね返せると聞いたことがあるから、厚さが数イルムほどあるに違いない。そうなると船底や舷側それに上部甲板にブリッジまでもが分厚い装甲板に覆われている可能性もありそうだ。

 ブリッジや甲板、それに舷側の丸窓から漏れる明りで空中軍艦の姿が良く見える。

 足元で、エミルさんがスケッチを取っているのは、ピクトグラフで上手く写らなかった時の為なんだろうな。

 リトネンさんが、気が付いたことをエミルさんに告げているから、結構詳細なスケッチができるに違いない。


「全く、どんな頭の連中が作ったのか考えてしまうにゃ。まるで普通の軍艦が空に浮かんでいるようにゃ」


「帝国軍も気が付いたみたいね。接近速度が遅くなってきたわ」


「砲撃戦では分が悪いと考えてるんじゃないか? となると、上空からの爆撃を先行するってことも考えられるぞ!」


 機動力の問題もあると思うんだけどなぁ。見る限りにおいて帝国軍の空中軍艦の数倍は大きいからねぇ。それだけ船体重量もあるだろうし、搭載しているジュピテル機関も2個ということは無いだろう。数基を搭載しているなら同調を取るのは至難の業に思えるし、推進用のプロペラの数は5基だ。少し大きいプロペラを使ってはいるのだろうが、鈍重感があるんだよなぁ。


「爆撃を行うようなら、北に向かって移動するにゃ。補機の暖機をしておいたほうが良さそうにゃ」


「だな……。直ぐに始めるぞ」


 銃座の下から、ファイネルさんが操縦席に向かう。

 テレーザさんと会話しながら、早速補機の暖機の準備を始めたようだ。


「リトネンさん。飛空艇の高度が同じならば、帝国の空中軍艦の高度が上がってきてますよ!」


「本当にゃ! ファイネル。直ぐに移動するにゃ! 北に10ミラルほど離れて様子を見るにゃ。帝国軍の空中軍艦が左回頭をしたなら、更に距離を取るにゃ!」


「了解! テレーザ右回頭、北に10ミラル移動するぞ!」


 ゆっくりと飛空艇が移動を始める。

 3つの空中軍艦の距離は10ミラルにも満たない。お互いの船体を確認できる状況になっているはずだ。

 やはり砲撃戦を最初から行わないということなんだろう。爆弾は軍艦の主砲を改造したものが原型だからなぁ。

 何発か爆弾を受けたなら、さすがの重装甲を誇った空中軍艦でも損害を受けるに違いない。


 飛空艇新たな位置に移動したところで、左に回頭を始める。

 正面に3つの空中軍艦の姿が見えるところで回頭が停止した。双眼鏡で眺めると帝国軍の空中軍艦がアドレイ王国軍の空中軍艦より500ユーデほど上空に達したことが分かる。相対距離は5ミラル程だ。


「主砲の仰角が上がったにゃ! 船底を狙うつもりにゃ」


「高射砲を受けても大丈夫な装甲が施されていると聞きましたが?」


「高射砲の直撃を防げても、あの主砲はどうかにゃ? どう見ても6イルムほどの口径がありそうにゃ」


 高射砲の口径は3イルムほどらしい。高度を得るために大きな砲弾を使えないという事らしいが、数イルム程度の距離で詩かも高度差が500ユーデほどなら、軍艦に搭載する長距離砲でも十分ということなんだろう。

 砲弾1発の破壊力は10倍以上あるんじゃないかな。


 アドレイ王国の空中軍艦から砲炎の閃光が走る。

 斜め上空に差し掛かった帝国軍の船底に炸裂炎が広がった。

 低い砲音と炸裂音が聞こえてきたが、さて状況は……双眼鏡で覗くと帝国軍の空中軍艦の船底から煙が噴き出しているようだ。


「やはり撃ち抜けたみたいにゃ」


「だが、それほどの痛手もなさそうだぞ。あれは2重底かもしれないな」


「装甲板を2重に貼ってあるってこと?」


「2イルムの装甲板なら撃ち抜けるだろうし、枢要部も破壊されているはずだ。だが、今のところ飛行に変化は無いようだ」


 銃座の下の3人の声が聞こえてくる。ファイネルさんもやって来たみたいだな。

 それにしても2重底とはねぇ。


「同じ場所にもう1発当たったなら深刻な事態になるだろうが、そんなことはめったに起こらないだろうな」


「次は帝国の攻撃にゃ。爆弾がアドレイ王国軍の空中軍艦にどれほど効果があるかが分かるにゃ」


 さらにアドレイ王国軍の主砲が帝国軍の空中軍艦に選定に命中する。

 距離が近いからだろうけど、砲塔内の兵士達の腕も良いのだろう。


 都合3射を受けた帝国軍の空中軍艦が、アドレイ王国軍の空中軍艦の頭上を越えようとした時、船底の装甲板が開き、爆弾が投下される様を双眼鏡で捉えることができた。


 次の瞬間、アドレイ王国軍の意空中軍艦が炸裂炎で包まれた。

 さらにもう1隻の空中軍艦がアドレイ王国軍に爆撃を加えていく。


 炸裂煙が少しずつ晴れていく中、アドレイ王国軍の空中軍艦の姿が現れる。

 双眼鏡で確認する限り、何か所からか煙が噴き出している。上部甲板の装甲板は2重ではなかったようだ。


「この飛空艇の大型爆弾よりも小さい爆弾だな。とはいえ巡洋艦の砲弾並みには違いない。もう少し近付ければ甲板の損傷が分かるんだが……」


「偵察は任務を越えるにゃ。アドレイ王国軍の空中軍艦の隠匿格納庫を探すのが任務にゃ」


 そうなんだよなぁ。気にはなるんだけどね。

 まだ煙が出ているけど、後部の砲塔は無事なようだ。帝国軍の2隻目の空中軍艦に砲弾を放っている。

 

 爆撃を終えた帝国軍の空中軍艦がゆっくりと回頭を始めた。こっちに近づいてきたから、大急ぎで距離を取る。


「次も爆撃をするのかな?」


「いや、さすがに無謀だろう。距離を取って帰投するんじゃないかな」


 ファイネルさんの言う通り、大きく回頭した帝国軍の空中軍艦がアドレイ王国軍の空中軍艦から距離を取りそのまま南西方向に去って行った。


「帝国軍の通信です。暗号文ですから解読に時間が掛かります!」


「了解にゃ。たぶんアドレイ王国の宮中軍艦に関わるものにゃ。さて、これで終わりかにゃ? いよいよ私達の任務が始まるにゃ」


アドレイ王国軍の空中軍艦がゆっくりと西に向かって回頭を始めた。

 まだ甲板から煙を出しているから、甲板直下の区域に被害が出ているに違いない。


「高度2000で後を追うにゃ。10ミラル程離れて航行するにゃ!」


「了解……。それにしても、よほど自信があるんだろうな。まるでお祭りのように明るいぞ」


 おかげで見失うことは無いだろう。煙も飛空艇の高度には上がってこないようだ。

 

「アドレイ王国軍の通信です。暗号文ですから、解読に時間が掛かります」


「コーヒーでも飲みながらのんびり解読するにゃ。0時を回ってるから、軽い食事をついでに取るにゃ」


 リトネンさんが、ミザリー達を連れて船倉に向かった。

 残ったのは、ファイネルさんにイオニアさんと俺の3人だ。まあ、いつも先に休憩しているからねぇ。たまには先に取って貰おう。


 銃座から降りてテレーザさんが座っていた操縦席に座る。イオニアさんは前部銃座に座り、双眼鏡でアドレイ王国の空中軍艦を眺めている。


「どちらの空中軍艦も厄介な存在になってしまったな。撃墜はかなり難しいかもしれんぞ」


「武装の強化ということになりそうですね。帝国の空中軍艦ならまだしも、アドレイ王国軍の空中軍艦を落とすのは至難の業です」


「だよなぁ……。ほら!」


 ファイネルさんがポケットから飴玉を取り出して渡してくれた。

 包み紙を解いて口に放り込む。途端に口の中にハッカの刺激が広がった。


「丸窓を狙って焼夷弾を撃ち込んでも大した被害は出ないだろうな。かといって3イルムの砲弾を丸窓に撃ち込むなど不可能に思える。やはりリーディルの言う通り、武装強化、腹に抱いている大砲を大型化するしかないんじゃないか?」


「それができれば良いんだが……、この飛空艇では現状の口径3イルム対戦車砲が良いところだろう。大砲の発射時の反動を飛空艇が受けきれないだろうな。とりあえずはドワーフ族の連中に話をしてみるが、2イルム近い装甲板を撃ち抜くには口径4イルム以上は必要だろうな」


 イオニアさんも現状の飛空艇では無理と思ったんだろう。

 やはり爆弾を使うしかないんだろうか?

 飛空艇なら機動力は空中軍艦を凌ぐからそれほど難しいとは思えないんだけど、1発だけだからなぁ。それに前後に2つある砲塔からの攻撃をかわすことが必要になって来る。

 何とか、船底は無理でも側面位は撃ち抜きたいところだ。

 そんな時、背中の方から、カタカタという音が聞こえてきた。


「あれ! 自動記録装置が動き出しましたね」


「どっちだろうな? 記録が終わったら船倉に持って行った方が良いかもしれんぞ。ついでに一服してこい。俺達はついて行くだけだからなぁ。朝方なら問題だろうが、夜明けまでは4時間ほどある」


 それほど長くない通信だったようだ。

 長いテープを適当に巻き取って、ブリッジを出ると船倉へと向かった。


 船倉区画に着くと、皆でお茶を飲みながら木箱に載せた籠の中のお菓子を摘まんでいる。

 隣に空の籠があるから、食事は終わったのかな?


「ミザリー、自動通信機のテープだ。先ほど動き出したんだ」


「ありがとう! これは帝国軍の暗号ね。ここで解読するわ」


 テープを受け取ると、鉛筆で時間を記入している。2、3分の誤差は無視できるんだろうな。


「来たついでに一服させてください」


「良いわよ。こっちの隅なら、あの換気用の窓が煙を吸いだしてくれるわ」


 エミリさんの隣に向かうと、空き箱に腰を下ろす。

 タバコを咥えると、エミリさんが火を点けてくれた。エミリさんも一服を楽しむつもりらしい。


「それで暗号通信の内容は?」


「『強力な敵の空中軍艦に遭遇。船底装甲を破られた……』という内容ね。たぶん帝国はしばらく空中軍艦を出して来ないんじゃないかしら? 出したとしても、数は少ない筈よ」


「本国で大幅な改造……、もしくは新型の製作を始めるかもしれないにゃ。あれでは大人と子供の喧嘩にゃ」


 全数を引き上げる、ということにはならないってことかな?

 今後の対応が難しくなりそうだな。

 やはり俺達の飛空艇も改造するだろうけど、ファイネルさんの話からすればこれ以上の武装強化は難しいらしいからなぁ。


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