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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-185 隠匿格納庫を見付けるには


 報告書が纏まった時には、22時を過ぎていた。

 10枚ほどの戦果の写真を添えて2日後に峠の砦にやって来たクラウスさんにリトネンさんが概要を話しながら手渡した。


「大型爆弾を搭載してたら、空中軍艦を攻撃できたにゃ」


「残念だったな。その内にチャンスもあるだろう。前線に一時的な混乱を与えただけで十分だ。それにしても良く映っているな。偵察飛行船にも夜間用ピクトグラフを備え付けるよう具申しよう」


「次も同じような攻撃なら、もう1隻の飛空艇が使えるんじゃないのか? 俺達としては、その働きでやって来る空中軍艦を落としたいところだが」


「空中軍艦に対してはアドレイ王国軍が新たな兵器を投入するらしい。たぶんアドレイ王国の空中軍艦と言うことになるのだろうが……、どこで作られているのか皆目情報が来ない。リトネン達への次の依頼は、アドレイ王国の空中軍艦の格納庫がどこにあるのかをつき止めて欲しい。つき止めたなら可能な限り破壊して欲しい」


「破壊は格納庫ということにゃ? アドレイ王国の空中軍艦を破壊しなくても良いのかにゃ?」


「爆破すれば隠蔽がバレてしまう。後は帝国軍に任せれば良い」


「アドレイ王国軍の空中軍艦は1隻だけかしら?」


「1隻だけだろうな。たぶん帝国軍の空中軍艦よりも大きいだろうから、それらを複数格納できる格納庫は作るだけでも大工事になってしまう。だが1隻だけならそれほど大きくなくとも何とかなるはずだ」


 大型爆弾を落とせばそれで済みそうだな。

 だけど後を付けるとなれば、アドレイ王国の空中軍艦が出てこないと話にならない。

 俺達の今度の攻撃は、その呼び水という事だったのかな?

 帝国軍に爆撃をすれば、空中軍艦がやってくるのが分かったから、今度は偵察用飛行船で爆弾を投下しに向かうはずだ。

 帝国の空中軍艦が出動してきたところで、待機していたアドレイ王国の空中軍艦が攻撃を加えるのだろう。


「アドレイ王国の空中軍艦の位置が分かってからでないと、俺達は出撃できないぞ」


「そうなるだろうな。こちらで確認でき次第連絡するから、いつでも出撃できる状態で待機していて欲しい」


リトネンさんが『了解にゃ!』と答えると、クラウスさんが笑みを浮かべて頷いた。

 そのまま席を立って、俺達の部屋を出ていく。

 

 扉が閉まったところで、誰ともなく溜息が漏れるのは仕方がないところだ。


「待つというのが一番苦手なんだよなぁ」


「明日にでも準備を整えて、飛空艇に積み込んでおくにゃ。水も毎日入れ替えるしかなさそうにゃ。食料は保存食で我慢するにゃ」


「場合によっては昼間の出撃もありそうですね?」


「夜間もありそうにゃ。しばらくは毛布を運んでこの部屋で寝泊まりするにゃ」


 夜間だったらぐっすり寝込んでしまいそうだからなぁ。直ぐに出発など出来そうもないが、この部屋で寝ているなら問題は無いだろう。

 それにしても、あの爆弾で倉庫を爆破するのか……。中の空中軍艦だって無傷というわけにはならないんじゃないか。


 翌日から、俺達の部屋に毛布を持ち込んでの寝泊まりになる。

 リトネンさんはストーブ近くにベンチを並べて、いつでも毛布に包まっている。さすがはネコ族だと感心してしまうけど、ライネルさんがそんなリトネンさんを冷めた目で見てるんだよなぁ。


「リトネンは特別にゃ。普通のネコ族は、あれほどいつも寝てないにゃ」


「先祖に近いってことか? それなら夜は起きていそうだけどなぁ」


 ファイネルさんが首を捻っている。確かに夜でも寝ているからね。寝貯めができる体質なのかもしれないな。作戦中はあまり寝ていないようだし……。


「今度は特に目玉は無いんだよなぁ。とりあえずアドレイ王国の宮中軍艦を見付ければ、それで終わりにも思える作戦だ」

 

 リトネンさんから俺に顔を向けて、一服を始める。

 俺がコーヒーを飲みながら、一服していたからかな?


「俺には危険な任務の思えるんですけどねぇ。何といってもアドレイ王国の空中軍艦の仕様が全く分かりませんし、格納庫周辺には帝国の爆撃を予想して対空砲がたくさんありそうですよ」


「それはそうなんだが……。飛空艇の装甲をあまり過信するのもなぁ」


 飛空艇の下部装甲は1イルムだが、上半分は半イルムだからなぁ。全部銃座の窓ガラスは防弾ガラスが2重に貼ってあるらしいけど、それで弾けるのはゴブリンの小銃弾ぐらいらしい。一番最初の飛空艇には防弾シャッターが備えられていたが、現在の飛空艇にはそれが無い。

 見つからないのが一番ということになるんだろう。そうなるとアドレイ王国の空中軍艦を追跡するのはかなり上空からになりそうだ。


「おもしろい双眼鏡を頼んでおいたから、できたらリーディルに1つあげるよ」


「小型の双眼鏡を持っているんですが?」


 首を傾げながらファイネルさんに問いかけた。2つはいらないと思うんだけどなぁ。


「今持っているのは、帝国軍の士官用のものだろう? 口径1イルムで倍率は6倍のはずだ。俺が頼んだのは、口径が2イルムで倍率は2倍しかない。夜間用の双眼鏡だ」


 確か望遠鏡の対物レンズを大きくすればそれだけ集光力が上がると聞いたことがある。夜間用と言われる双眼鏡はだいたいが口径2イルムはあるからなぁ。それでも倍率は6倍以上あるはずだ。あえて倍率を押える目的はあるんだろうか?


「吃驚しただろう? 口径が同じでも倍率を上げるとそれだけ視野が暗くなるんだ。あえて2倍にしたのはそれが理由だよ」


「要するに今よりも地上を明るくしてみることができると?」


「まあ、そういうことだ。今持っている双眼鏡と上手く使い分けるんだな」


 なるほどねぇ。リトネンさん達の眼に近くなるのかな?

 次の作戦までに貰えれば良いんだけどなぁ。

               ・

               ・

               ・

 クラウスさんがやって来てから10日ほど過ぎたある日の昼下がり。

狙撃訓練を終えて俺達の部屋でくつろいでいると、通路を走って来る足音に気が付いた。

全員が扉に目を向けると、バタンと扉が開きシグさんが飛び込んできた。

息を調えながら部屋を見渡し、リトネンさんを見付けて走っていく。リトネンさんは眠そうな顔をしながらエミルさんの話を聞いていたんだけど、途端に目をシャキンと見開く。


「出撃したのかにゃ?」


「先ほど連絡がありました。反乱軍には連絡が無かったそうですが、移動観測班がアドレイ王国の空中軍艦を確認したそうです」


「位置と進行方向は分かるのかしら?」


「移動観測班からの連絡は1240時。前線の南東およそ20ミラル。進行方向は西北西とのことです」


 およそ1時間前だな。今から出掛けて間に合うのか?

「砦には出撃すると連絡して欲しいにゃ。直ぐに出掛けるにゃ!」


 既に準備は出来てるからね。全員が席を立って我先にと部屋から走りだした。

 ミザリーも賢明に走っているけど、この中では一番足が遅いんだよなぁ。

 広場に着いた時に驚いたのは、まだ飛空艇が引き出されていなかったことだ。

 ライネルさんが急いでドワーフ族の工房に走っていく。

 その間に俺達で広場の偽装の網を脇に退かしておこう。


 自走車が飛空艇を引き出してくると、俺達で梯子を掛けて飛空艇に乗り込んだ。

 梯子は飛空艇の中にもあるんだけど、自走車に搭載された梯子の方が斜めに掛けられるから乗りやすいんだよね。

 前部銃座に腰を下ろして前を見ると、自走車がブンカーに戻っていくところだった。

 後ろではファイネルさんとテレーザさんが忙しく発進準備を始めている。

 俺の下に、クッションを持ってやってきたのはライネルさんだった。上部監視席に着いたのはイオニアさんのようだな。

 双眼鏡を取り出して、座席の脇のフックに掛けていると主機の機動に伴う小さな振動が伝わってくる。


「主機の暖機を始めた。油圧は正常……。冷却水温度はまだ上がらないな」


「ジュピテル機関起動……。同調装置に異常なし」


「冷却水温度上昇中……。正常値までもう少し掛かりそうだが、暖機はこれで十分だ」


「なら、出発にゃ! ミザリー連絡にゃ!」


「了解です! ……送信終了。……返信来ました。『健闘を祈る』以上です」


 ミザリーの報告が終わらない内に、飛空艇がふわりと浮き上がった。そのまま500ユーデほどに上昇すると、東南東に向かって速度を上げていく。


「リトネン進路はこのままで良いのか? このまま進めば前線の上空に出るぞ」


「すこし南に進路を変えるにゃ。高度は2000ユーデまで上げるにゃ。飛行船や空中軍艦を見付けたならさらに高度を上げるにゃ」


「偵察用飛行船に思わせるんだな。了解だ。リーデル、良く監視してくれよ」


「了解です。俺だけじゃなくライネルさんもいますから安心してください」


 アドレイ王国の空中軍艦と遭遇するのは前線近くになってからだろう。この飛空艇で昼間に動くのは初めてなんじゃないか? まっくろな塗装だからなぁ。かなり目立つようにも思えるけど、日光を反射することはなさそうだ。案外目立たないかもしれないな。


 発進後1時間ほど経ったところで、休憩に入る。

 銃座を下りると直ぐにリトネンさんが座席に着いた。

 ファイネルさんはテレーザさんに操縦を任せたようで、一緒にブリッジを出るとコーヒーをカップに注いで倉庫に向かう。

 木箱にカップを置くと、座席を壁から引き出して先ずは一服だ。

 

「忘れるところだった。これが例の品だ」


 ファイネルさんが取り出したのは、今までの双眼鏡より二回りも大きな双眼鏡だった。

 

「結構大きいんですね。でも重さは……、そうでもないです」


「今使っている望遠鏡より少し重いぐらいのはずだ。倍率が低いから対物レンズと接眼レンズの距離が小さいんだ。横幅はあるけど奥行きが無いだろう? それで軽く出来たようだな。昼間はさすがに使えんだろうけど、夜は役立つに違いない」


「ありがとうございます。お礼はワインで良いですか?」


 俺の言葉にファイネルさんが笑みを浮かべる。

 それで十分ということかな? 例の金貨もあることだから良いワインを贈ってあげよう。


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