表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
209/225

J-178 要望は夜でも使えるピクトグラフ


 峠の砦に帰投途中に、アドレイ王国軍の通信を幾つか傍受することが出来た。

 王都防衛部隊の活躍により帝国軍に空中軍艦が撃墜できたという報告と、王都の給水施設への導水が途絶えたことに対する調査部隊の派遣に関わるものだった。

 直径1ユーデを越える鉄管だからなぁ。かなりの量を王都に供給していたに違いない。

 だけど王都の給水施設に水を送る導水管は1つではないらしいから、断水にはならないようだ。


「王宮内は今頃大騒ぎだろうな。少なくとも通常の3割程王都への導水が止まったんだからな。断水させる区画と水野供給を止める工房を決めるのに苦労するんじゃないか?」


「住民優先ではないんですか?」


「そうとも限らないにゃ。武器を作る工房を何とか維持しようとするに違いないにゃ。だけどそんな工房程水を多く使うにゃ」


 戦争中だから、少しは我慢させるということになるのかな?

 住民の不満が増しそうな話だけど、案外それを狙っているのかもしれないな。

 さすがに一旦停止させたら、再稼働に数カ月掛かるような工房は稼働率を低下させるにしても停めるということにはならないだろう。


「これで任務は完了にゃ。空中軍艦が1隻減ったから、少しは攻撃が緩むに違いないにゃ。それにアドレイ王国の兵站に打撃を与えることが出来たにゃ」


「まあ、小さな打撃だがなぁ。工房を爆破した方が確実なんだが……」


「それは帝国軍に任せれば良いにゃ。私達は、ネチネチと虐めに徹するにゃ」


 それはそれで何かなぁ……。

 心情は分かるけど、言葉に出すとそうなるのかな? あまり誇れるような話ではないように思えるんだけどねぇ。


「アドレイ王国軍の通信を傍受……。3つの部隊が調査に向かったようです」


「了解にゃ。飛行船を使えばすぐに分かるかもしれないけど、どうやら地上部隊が向かったみたいにゃ。原因が分かるのは早くても明日になるにゃ」


 嬉しそうな声でリトネンさんが話してくれた。

 多分砦でも通信傍受はしているはずだから、俺達の戦果はクラウスさんにも伝わっているに違いない。

 峠の砦に戻ったら、報告書だけまとめておけば良いんじゃないかな。


 空が白んできたから、飛空艇の高度を下げて東の山脈に隠れるように低空で帰投する。

 巡航速度で向かうから到着する頃にはすっかり夜が明けてしまうだろう。

 現在でも地上200ユーデ付近を飛行しているんだが、更に高度を落とすんだろうな。


 峠の砦に近づいたところで、通信を送り広場の偽装を解いて貰う。

 谷を縫うように東から砦に接近して、最後は鉄橋を飛び越え峠の砦の広場に着陸した。

 私物を入れた背嚢を背負って飛空艇を下りると、ドワーフ族の連中が自走車で飛空艇をブンカーに収容するために作業を始めたようだ。


「9時近いから、朝食を先に頂くにゃ。そしたら一眠りして夕食後に私達の部屋にゃ」


「報告書はその時に纏めれば良いわね。飛空艇についての意見はファイネル達がまとめるのよ」


「了解だ。火器担当としての意見で良いな。リーディルとイオニアにも手伝ってもらおう」


 改めて改良するようなところがあるのかな?

 一眠りしながら考えれば良いか。


 食堂で朝食を取り、その足でシャワー室に向かう。

 さっぱりしたところでベッドに入ると、直ぐに睡魔が襲って来る。

 ヒドラⅡの改良点は……、考えるうちにどうやら眠ってしまったようだ。


 いつものようにミザリーが扉を叩いて起こしてくれた。

 先に食堂に行ってもらい、衣服を調えて顔を洗ったところで食堂に向かった。

 夕食のトレイを受け取り、テーブルを眺めると直ぐにミザリーが手を振って場所を教えてくれる。

 思わず笑みを浮かべて頷くと、ミザリー達が夕食を取っているテーブルに向かった。


「上手く空中軍艦を落とせたみたいね」


「それは、ファイネルさんの腕が良いからだと思うよ。大型爆弾を命中させたのもファイネルさんだし、その後で砲弾を撃ち込んだのもファイネルさんだから」


 最初から猟兵部隊ではなかったようだけど、狙撃の腕も良いからなぁ。

 敵の動きを見越して爆弾を投下するのも、砲弾を撃ち込むのも狙撃に繋がるところがあるのかもしれないな。


「お兄ちゃんは、鉄橋の下に潜り込んで導水管に爆弾を仕掛けたのよ。小さな鉄橋だけど、あれでは導水管だけでなく鉄橋も壊れたと思う。しばらく機関車は走らせられないんじゃないかしら?」


「調査部隊を派遣したらしいけど、復旧までにはかなり時間が掛かりそうね。地上部隊なら1個分隊で10日は掛かる破壊工作よ」


 母さん達の話を聞いていると、やはり飛空艇は便利だな。

 10日の作戦が半日も掛からないんだからね。となると、次も似たような作戦になるのかな?

 

 夕食が終わると、ミザリーは母さんとお茶を楽しみ始めた。

 俺は一足先に俺達の部屋へと向かう。

 あそこなら、コーヒーカップ片手にタバコを楽しめるからね。さすがに食堂でタバコを吸うわけにはいかないだろうな。


 リトネン一味の看板が下がっている扉を開くと、ストーブ傍に小さなテーブルを移動して、ファイネルさんとイオニアさんがチェスを楽しんでいた。

 イオニアさんの後ろからライネルさんが盤面を覗き込んでいるけど、ライネルさんもチェスをするのかな?


「……これでどうだ? クイーンが逃げられないぞ!」


 勝ち誇ったような表情でファイネルさんがイオニアさんに告げると、ポケットから煙草を取り出して火を点ける。

 ストーブのポットから、砂糖2個を入れたカップにコーヒーを注いでファイネルさんの隣に腰を下ろした。

 勝負が着いたのかな?


 しばらくジッとイオニアさんが盤面を眺めていると、ルークを動かした。


「チェックメイトだ。クイーンだけに注意を向けていたのでは、キングの守りがおろそかになるぞ!」


ファイネルさんの顔から笑みが消えて、目が見開かれる。

 どうやら、本人も理解したということなんだろう。


「負けたか……。今夜は勝てたと思ったんだがなぁ」


 可哀そうだから、席を立ってファイネルさんのカップにコーヒーを注いであげた。

 ちらりとイオニアさんに顔を向けると笑みを浮かべてカップを差し出したから、同じようにコーヒーを注いであげた。

 ライネルさんは飲んで無かったのかな?

 俺達がコーヒーを飲み始めると、棚からマイカップを持ち出して、自分でコーヒーを入れて帰ってきた。


「空中軍艦を撃墜したぐらいだから、今日はついてると思ったんだけどなぁ……」


「付いていたのは、ファイネルだけではないってことだろう。私も炸裂孔に手榴弾を落とせたんだからなぁ」


 互いについていたってことかな?

 なら勝負はいつも通りってことになりそうだ。


「中々皆が集まらないにゃ」


「もうしばらくは掛かりそうだ。最後は間違いなくリトネンだろう」


 俺達は慣れてきたけど、ライネルさんはちょっと戸惑うところもあるかもしれないな。


「待ってるのもなんだから、報告書を作るわね。確認することもあるから、皆集まってくれない」


 エミルさんの一言で、コーヒーカップと灰皿持参でテーブルに向かった。

 テーブルを2つ合わせてあるから長辺に2人掛けのベンチを2つ並べられるし、短辺にも1個ずつ置いておける。

 エミルさんの隣にミザリーとテレーザさんが座り、反対側に俺とファイネルさんそれにイオニアさんが座る。

 ライネルさんはストーブに近いベンチに1人で座った。


 筆記用具を棚から既に運んでいたようだ。

 すらすらとペンを動かしているようだけど、たまに自分の手帳を見ているのは、行動時間を確認しているのかな?

 エミーも手帳を広げて、アドレイ王国の通信を傍受した時間と内容をたまにエミルさんに教えている。


「簡単にまとめたわ。後は、今回の作戦における課題点になるんだけど……」


「特に無いなぁ……。強いて言うなら火力不足ではあるんだが、これ以上飛空艇に色々と積み込むのも考えてしまうところだ」


「俺もないですね。そうだ! 要望は聞いて貰えるんでしょうか? アデレイ王国軍から貸して貰ったピクトグラフが欲しいですね。戦果の確認にも使えますし、敵の様子も上空から撮影できるでしょう」


「それは難しいかもしれないぞ。何といっても真っ暗だからなぁ。ピクトグラフは昼しか撮影出来ないんじゃないか」



 俺の言葉にファイネルさんが首を傾げた。

 エミルさんも、頷いているところを見ると同じ思いのようだな。


「でも……、要望としては悪くないわよ。今回撃墜した空中軍艦も拠点を襲撃した形と少し違っていたんだけど……、気が付いた?」


「両舷にエンジン付きのプロペラが出てましたね。拠点にやって来た空中軍艦は両舷に飛び出したプロペラを回すためのシャフトが船内に伸びていました」


「ほう……」感心した声を上げながらファイネルさんが俺に顔を向けた。


「その通りよ。たぶん外にもあるんじゃないかな。帝国も空中軍艦の改良を続けているということになるんでしょうけど、そんな改良がどこまでなされているか、それによる性能向上はどの程度なのかは、飛行船の設計者ならある程度分かると思うの」


「そういうことか! なら、是非とも夜間でもはっきりと映るピクトグラフが欲しいところだな」


 俺の方をポン! と叩きながらファイネルさんが呟いた。

 だけど、そんな便利な品があるんだろうか?

 とはいえ、要望だからね。なくとも作戦上は問題ないだろう。


 バタン! と扉が開き、リトネンさんが飛び込んできた。

 エミルさんの冷たい眼差しにも動ぜずに、相手ベンチに腰を下ろすとミザリーからお茶のカップを受け取って、直ぐに飲み始めた。

 ここまで走ってきたのかな。半分ほど飲むと、ほっとした表情をしている。


「エミルが既に始めてたのかにゃ? どこまで進んでいるにゃ」


「終わったわよ。リーディルが面白い要望を出してくれたから、報告書の最後に書き込んでおいたわ」


「これにゃ……。おもしろいにゃ。案外あるかもしれないにゃ」


 暗闇で写せるピクトグラフがあるなんて思えないんだけどなぁ?

 タバコに火を点けながらリトネンさんに顔を向ける。


「こんな発想が、発明に結び付くにゃ! 今すぐに用意できないかもしれないけど、光学品を扱う工房の連中なら大喜びにゃ」


 要するに新たな開発課題ということになるのかな?

 ピクトグラフは明るいところで使用するというのが常識だとしたら、今回の要望は

常識改変あるいは発想転換ということになるんだろうな。

 でも、本当に出来たら結構便利に使えるんじゃないか?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ