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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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★ 31 帝国の闇 【 貴族制度の廃止 】


 神殿の神官達との調整を終えた5日後。今度は貴族を相手に貴族制度の廃止を正式に伝えることにした。

一代貴族については文書で送れば済むのだが、永代貴族ともなればそれなりに理由を説明せねばなるまいし、廃止後の彼らの暮らしも考えねばならない。

 参内貴族は2千人程いたのだが、王宮での銃撃事件、更には帝都へのロゲルト攻撃により数を減らしていることは確かだ。

 ロゲルト被害を免れた帝都の劇場に、本日貴族が集まる。集まるのは文官貴族だけになる。武門貴族は、暮らしに不自由するであろうが、衣食住に問題は無いとクリンゲン卿が言ってくれた。派手な暮らしが出来ずとも家族が仲良く暮らせるならそれで十分だろう。とはいえ、現在は戦の最中でもある。万が一にも当主が死傷するようなことがあれば、当主が仕官として在任したものとして俸給を支給することになるだろう。それぐらいの蓄えは国庫に積まれている。

 問題は文官貴族達だ。彼ら一人一人に役割を与えているのだが、それを全くこなそうとしないのだからなぁ。現在の地位と役職は世襲制だと公言するぐらいだから困ったものだ。

 とはいえ、彼らの役職と地位は皇帝陛下が与えたもの。簡単に彼らが手放すとも思えないが、唯一の救いは初代皇帝陛下の国造りの指針に書かれている言葉だ。その役目を担えないと判断された場合は、地位と役職をとりあげるとある。

 帝国には皇帝陛下はいないが、戒厳令下にあることは間違いない。戒厳令発令時の軍の最高指揮官であるクリンゲン卿であるなら、彼らから地位と役職を取り上げることが可能になる。

 

「ケイランド卿、そろそろ出発しませんと……」


 メリンダが私を呼んでいる。あまり待たせるのも良くないだろう。そろそろ出掛けるとするか。


 軍の自走車に乗り込んで、庶民街の一角にある劇場へと向かう。

 劇場に到着すると、直ぐに私の周囲をハイデマンの部下がとりかこむように護衛をしてくれる。

 あらかじめ2個小隊の兵士が劇場内の要所に控えているし、桟敷席は全て閉鎖して腕の良い狙撃兵が不審人物を即座に射殺するべく待機しているはずだ。

 保身の為なら、何でするような連中だからなぁ。

 出来るなら全員を島流しにしたいところだ。


 出迎えてくれた劇場の支配人が、何度も私に頭を下げるのには困ってしまった。


「クリンゲン卿からの指示の通りに設えました。拡声器を用意しましたから聞き取れぬということはないはずです」


「ご苦労。帝都の災害時には難民を受け入れてくれたと聞いた。これはささやかだが感謝の印受け取ってくれたまえ」


 金貨10枚を包んだ紙包みをメリンダが責任者に手渡すと、また頭を何度も下げてくる。

 さて、早速始めるか……。


 舞台の袖から中央に歩いていくと、厚いガラスの仕切りが客席と私の間にあった。防弾ガラスということかな? 

 ありがたく友の行為を受けることにしよう。

 演壇の上に伝声管のような物が置かれている。たぶんこれが拡声器ということになるのだろう。

 懐から要点をまとめたメモを取り出せば準備完了だ。

 観客席を見ると、かなりの人数が入っている。当主だけではなくお付きの者もいるのかもしれないな。未だに派閥闘争は行われているらしい。


「帝国永代貴族の諸君! 私は皇帝陛下より宰相に任じられたケイランドである。今回未曽有の惨事が帝国に下りてしまった。

あの惨事により幼帝が2人とも崩御している。皇帝亡き後の帝国を維持するため、私はいくつかの決断を下した。すべては円滑なかつての帝国への復帰の為であり、これには諸君達の協力が是非とも必要になる……」


 全てではないが状況は正確に伝えねばならない。

 幼帝が崩御したことを初めて知ったような顔をしている者達は、今まで何をしていたのだろう。


「帝国の新たな統治は皇帝を頂点とした12人の委員会で決定する。委員会の下に委員を補佐するための部局を設置し、その部局は生き残った官僚が占めることになるだろう。

これまで帝国内の貴族には、武門貴族と文官貴族の2つが存在した。武門貴族は皇帝陛下の命によりここまで帝国を拡大してくれた。これは誰もが認めることである。

 しかるに、文官貴族はどうか……。初期の文官貴族はその能力を使い、帝国内の暮らしを豊かにするべく努力したことは確かだろう。だが今の諸君達は一体帝国の為に何を成したのか?」


 彼らにも考える時間は必要だろう。演題の上の水差しからグラスに水を注ぎ口を潤す。


「これを成しえた。またはこれを行いつつあるという人物がいたなら幸いだ。明日、私の元に来てくれ。時間を空けておこう。

 そのようなことがまるでないと言うなら、これからの話をしっかりと聞いて欲しい。

 戒厳令司令官の名において、帝国の貴族制度を廃止する。廃止に当たって路頭に迷う者も出るに違いない。5年間は現在の支給額の半分を支給する。以上だ! 質問があれば答えよう」


 途端に客席が騒然となった。

 これまでの暮らしが出来なくなるし、働こうなんて気が無いのかもしれないな。嘆かわしい限りだ。


 ハイデマンが私のところに、椅子と灰皿を持って来てくれた。

 長くなると考えたのだろう。ありがたく椅子に座り、パイプに火を点ける。

 客席の騒ぎがだいぶ治まってきたな。それぞれの派閥が場を納めようとしたのだろう。そうなると、派閥の数だけ質問が来るということになりそうだ。


 騒ぎが治まると、客席中央付近から片手が伸ばされた。

 パイプを演台に置いて椅子から立ち上がると、一人の男性が立ち上がった。

 顔が良く見えないが、顔を合わせたことがあるに違いない。


「ログニアルです。卿は先ほど貴族制度を廃止すると言いましたが、卿にその権利があるのでしょうか? 仮にも我が家は7代皇帝陛下より貴族に列せられた、自他ともに認める古参貴族なのですが?」


「過去はどうでも良いのだよ。新たな帝国に必要な人材は、自らの仕事に責任を持てる人材だけだ。ログニアル卿は先代より称号を引き継いで後、帝国にどのような成果をもたらしてくれたのかね?」


 途端に顔を赤くするようでは、何も行っていないということだろう。

 既得権益等妄想以外の何物でもない。いつの間にか自分の物だと思っていたようだな。


「バーネルンと申します。私から1つ確認したいのですがよろしいですか?」


 立ち上がった人物に片手を差し伸べた。


「貴族には領地を持つ者と持たぬ者がおります。領地を持つ者は、それを返上しないといけないのでしょうか?」


「貴族領は、その働きにより皇帝陛下が下賜下物。それを取り上げることは出来ん。働きによって得られた対価でもあるからな。領地を持つ貴族は帝国から給付金を得ることが出来ない。これはこれまでも同じこと。

ただし、税の半分は国庫に納めることになる。税の半分が金貨10枚に満たぬ場合は国庫に納める必要はない。収穫量に応じての課税は廃止する。税に不正が起きぬよう、今後の税は全て売り上げ金に課税する。また、各領地の税が適切であるかを専門の機関を作って調査するつもりだ」


 何度か笑みを浮かべて頷いていたが、最後は顔を青くしている。

 民衆に重税を課すようであるなら、厳しく罰せなければなるまい。

 

 帝都の貴族館の処遇についての質問もあったが、それは彼らへの手向けとして渡してあげよう。先のロゲルトの被害を受けた貴族達へは一括金貨5枚を給付する。

 元の館は無理でも、庶民なら十分に大きな家を購入できるだろう。それに館は瓦礫になったが土地は彼らのものだ。たぶん商人達売ることになるだろうが、金貨5枚以上の価値はあるはずだ。


「言い忘れていたが、収入は5年後に皆無になる。その後どのように暮らすかを給付が続いている間に考えることだ。人より優れた才能があると自負するなら、私のところに自分のこれまでの実績を記載し送ってくれ。じっくりと評価して、新たな統治の一部を任せるに足りるか評価しよう。長くなったがこれで終わりにする。これ以後は新たな帝国に貴族はいない。以上だ!」


 演題のパイプをポケットに入れて、退席しようとした時だった。

 ターン! という甲高い銃声が轟き、客席にざわめきが起きる。

 愚かな選択だったな……。

                ・

                ・

                ・

「やはり襲われたか……」

「卿の事前手配のおかげで助かったよ。これで最後にして欲しいところだ」


 クリンゲン卿が私に苦笑いを見せる。

 まだまだ続くということなんだろうか?

 

「周囲にいた貴族を拘束して尋問した結果では、他にも卿を狙う輩がいるようだ。あまり外に出ぬようにしてほしい」


「駐屯地内なら、問題は無いだろう? 散歩位はさせてほしい」


「それなら問題ない。兵士達の周辺調査は今でも継続している。それで、卿に方はとりあえず外出する要件は無くなったのだろう?」


 卿の問いに、大きく頷いた。

 強いて言うなら商会ギルドとの打ち合わせがあるのだが、ギルドの会頭それに随行が1人ということだからこの部屋で十分対応できる。


「何とか再来年には、新たな帝国を作ることが出来そうだ。とはいえ、初年度は課題も出てくるだろう。それを乗り切れば帝国は安泰だよ」


「新たな政庁は今までとだいぶ異なるが、あれで良いのか?」


「新たな帝国は対外的な軍事と帝国内の統治を分離する。軍の総本部は卿に任せるよ。神皇帝となる皇帝陛下の宮殿は建設が遅れているようだが、それは諦めねばなるまい」


 神殿よりも荘厳にという注文に工廟の職人達が努力してくれている。給金を弾めば早く出来るとは限らない。職人の培った技を存分に使って、彼らが自ら納得できるものに仕上げてくれれば十分だ。


「宮殿に併設して元老院を作ることになっているのだが、場合によっては新たな帝国を宣言するよりも完成が後になってしまいそうだな?」


「その時は政庁の会議室、もしくは軍の総本部の会議室を借りるさ。出席者は12人だけだからね」


 小さく頷いているところを見ると、クリンゲン卿もそれで十分だと思っているに違いない。

 何とか、ここまで来た感じだ。

 新たな統治に関わる法令の整備を進んでいるし、官僚達をどの部署に配属させるかについても、各自の能力を加味してメリンダ達が進めている最中だ。

 人材不足と嘆いてるが、私に少し考えがある。何とか出来るかもしれないな。


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