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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
203/225

★ 30 帝国の闇 【 宗教改革 】


 初代皇帝に倣って、帝国の統治を12人の委員によって構成する元老院に任せる。5つの帝国軍団、5つの民生部局、それに調査局と神務局から代表者を出すことになる。

 進行と議事録は調査局で行うこととし、神務局には議決権はない。これで奇数になるから多数決で物事を決めることが出来るだろう。

 軍団の規模はクリンゲン卿に任せれば良いだろう。兵員数が50万人規模だから各軍団が3から5個師団を要することになるはずだ。

 民生局は、総務、財務、民生、産業、法務の5つに統合する。各部局の役割に応じて局を作る。

 調査局は帝国内の調査を行い、統計を作る。非合法の調査も実施できるよう、その権限を法務部局と帝国軍団内の憲兵組織との整合を図っている最中らしい。

 

「それで、各部局長の内定は済んだのかね?」


「貴族でなくとも良いとのことでしたので、閣僚が半分ほど入っています。これで帝国の統治をおこなうとなれば、民草の声を聴くことが出来ないように思えるのですが?」


「それは帝国国民会議という組織を作ることにした。元老院の統治が必ずしも帝国民衆の意思と乖離するようなことがあってはならん。統治に関わる具申を国民会議に参加する者達よって行って貰えば良い。国民会議の下部機関として地方会議を設ければ広く意見を集めることが出来るだろう。ただし、軍事を除くがね」


「軍の予算や徴兵に不満を持つ物もいると思われますが?」


「帝国の総予算の三分の一を超えることが無いよう努力しなければなるまい。徴兵は徐々に止めて徴募兵としたいところだな。戦死や戦傷者に対する恩給も考える必要があるだろう。その為の予算は貴族を廃止すればすぐに集まるはずだ」


 とは言っても、現行の貴族へ毎年送っている手当を完全に止めることは出来まい。先ずは半減、10年後に2割まで減らし20年後には無くすことで彼らが路頭に迷わぬようにしなければならん。

 帝国と国民に奉仕するための貴族であり、その為の権益であったのだがなぁ……。


「2年前の大祭を期に帝国の文官貴族は半減しております。今回の貴族制度の廃止は文官だけでなく武門貴族に及びます。軍の反対は無いのでしょうか?」


「私を含めて、全ての貴族が対象だ。例外を無くすから反対するものはいないだろう。それに下級貴族の多くが他の収入源を持っているのも都合が良い。反対の声を上げるなら、その理由を聞く耳は持っている。反乱を企てようものなら前の大祭に倣えば良い」


「それでは再度内容を調整致します。最後に、ケイランド卿からの賛意を頂けました部局長に内定結果をお知らせしてもよろしいでしょうか?」


「そうだな。早めに告げれば、それだけ人材集めも容易に行えるに違いない。とは言っても各部局の役割をもう少し調整する必要もあるだろう。その辺りは現在調整中であると明言しておいてほしい」


 次は外出することになりそうだ。

 火と風の神殿が残ったのだが、火の神殿の神官の1人がかつての古の神の研究をしているとの情報を得ている。

 彼以外にも何人かはいるに違いない。現在の神の母体となった古の神であるなら、神官達の反対は無いだろう。


 メリンダと共に自走車に乗る。

 運転はハイデマン、助手席に彼の部下が1人乗っている。私達の前を行く車はハイデマンの部下達だろう。神殿の僧兵は気が荒いらしいがハイデマン達の敵になるとも思えない。


「神官達は、私達の来訪目的を知っているのでしょうか?」


「知らないはずだ。案外、破壊された2つの神殿の再建の見通しを知らせてくれるぐらいに思っているのではないかな」


 同じ帝都内にある神殿だから10分ほどで到着する。

 4つの神殿の神官が私達を出迎えてくれた。先方としては前よりも立派な神殿を再建したいぐらいに考えているに違いない。


「わざわざ御越し下さりありがとうございます。各神殿の長老達が揃っておりますので、このままご案内いたしたいと存じ上げます」


「早くに話を進めたい。あまり神殿に足を向けていないことを恥じ入るばかりだ。案内をよろしく頼むぞ」


 私達に深く頭を下げ、4人の神官が横に並んで豪華なエントランスに向かう。大きな扉は開いており、僧兵が数人槍を持って立っている。

 神に使える輩が武器を持つなど……。やはりどこかで道を逸れてしまったに違いない。修正を図るには良い機会かもしれないな。

 

 回廊は全て大理石だ。横幅だけで10ユーデはあるし、長い絨毯が奥に向かって敷かれている。1ユーデほどの円柱が、アーチ状の屋根を支えるように回廊の両側に並んでいるから、確かに創玄な作りではあるだろう。

 真っ直ぐ進めば火の女神像が安置されている礼拝所なのだろうが、案内の神官が、立ち止まった場所は、回廊の半分ほどの位置だった。

 豪華な扉がそこにはあった。


「こちらです。……少しお待ちください」


 神官が軽く扉を叩くと、一歩中に入り私達の到着を告げているようだ。

 ガタリ、と音が聞こえてきたから待っていた神官達が椅子から立ち上がったのだろう。


 案内してくれた神官が大きく扉を開いて、私達に頭を下げる。

 神官に小さく頷き返して、部屋の中に足を踏み入れた。

 中に待機していた神官が、私を席に案内してくれる。左手壁に火の神を描いたタペストリーが飾ってあるところを見ると、そこが上座ということになるのだろう。立派な椅子が3つ並んでいたが、案内されるままその椅子に座った。

 隣にはメリンダが座り、私の背後にはハイデマンとその部下が立つ。


 椅子の横にずらりと並んだ神官の顔ぶれを見る。各神殿の長老達だな。私より20年は老いている顔付だ。長老の隣には若い神官もいる。長老の付き人というところかな。


「座ってくれたまえ。神官殿達は帝国人民の心の平穏を司るのが使命の筈。私は実務をこなしているだけであり、ある意味神官殿達の仕事の方が帝国の安寧に重要であるかもしれない」


 私の言葉に、長老達の緊張した顔が緩むのが分かる。

 来訪目的を色々と詮索していたようだが、そのような考えは得てして物事を悪い方向に捉えがちだ。

 女性神官が私達にお茶を運んできた。10人が座るテーブルだから、それほど時間も掛からない。扉の手前で踵を返すと、私達に深々と頭を下げて会議室を出て行った。

 お茶を一口飲み、早速用向きを伝えることにしよう。


「帝都に対する攻撃で大勢の市民が被害を受けた。神殿の被害もかなりのものになってしまったが、即座に被災者救援に努力して頂き感謝に絶えない。帝国軍により被災者の仮住いや簡易食堂、就職斡旋所も形になってきている。とはいえ、それまでの被災者の衣食住それに彼らの心の支えとなった神官達にはいくら感謝しても足りないと思う……」


 その場で神官達に深々と頭を下げる。

 ちらりと上目使いに彼らを眺めると、笑みを浮かべている者もいるようだ。

 私が彼らの蓄財を取り上げようとしているでも思ってもいたんだろうか?

 

「私の調査によれば帝都の4つの神殿の内、土と水の神殿が瓦礫となっている。2つの神殿の長老殿には、さぞかし憂いを深めておられるに違いない。だがこれは信仰心が足りぬというわけでは無く、明らかに敵の攻撃によるもの。その攻撃を防げなかったことは帝国軍の手落ち、私の状況監察が甘いと誹りを受けるのは仕方のないことでもある」


 私達の手落ちと思わせおけば良い。

 私達は神ではない。万全の策等存在しないのだ。


「帝都に4つの神殿……。長年帝都の住民はその姿に馴染んで来た。住民達も、いずれかの神殿の神に祈りを捧げていたと思う」


 一旦話を切って、お茶を頂く。

 長老達も私がこの部屋に入ってきた当初とは顔色が別人のようだ。私に期待が込められているのが肌で感じられるほどだ。


「帝国宰相である私は決断をした。土、水、火、風の神殿を1つの神殿に統一する」


 ガタリと椅子が鳴り、長老達の眼が見開いた。

 かなり衝撃を受けたに違いない。心臓が止まらなければ良いのだが……。


「それは、なにゆえの判断でございましょうか? 我等神殿の教義は民の安寧を測ることに変わりはありませんが、それぞれに違いがございます」


「1人の長老が声を絞り出すようにして私に問いかけてきた。数人が頷いているところを見ると、同じ思いを持っているのだろう。


「なぜに教義が変わったのか……。神官殿達はそれを考えてことはないのか? 初代皇帝陛下がこの地に帝国の建国を宣言した時の神殿は1つであったそうだ。その神殿が分かれて行ったのはなぜか……。答えて頂きたい」


「それは……、最高神が我等を導くために水の女神を遣わされたからです」


「それを証明するものはあるのだろうか? 帝国の書庫にはしっかりと記録が残されていたぞ。異端の輩とな! 

総本山とも言える神殿から次々と分派が出来たようだ。それは第7代皇帝陛下の時代。分派しても民の心を平穏に保つための努力をしたのなら問題はない。だが事もあろうに民衆の改宗を武力で迫り、新たな宗派同士で争そう始末。

第8代皇帝陛下が各宗派の過激派を処刑したのは仕方のないことだろう。その時の裁判記録も残されていた。まったく盗賊とさして変わらんな。捕縛者全員を火刑にしたそうだが、それを大勢の民衆が見物に来たそうだ。口々に「悪は滅びる!」と声を出していたとも記録にある。

4つの神殿が聖人として女神像の両側ある神官像の中に、同じ名があるぞ。台座に刻まれた年代が処刑年代と同じであることは確認済みだ。皇帝陛下の名の元に、極刑を科した罪人を聖人として庶民に崇拝させているのは、未だに帝国に対してその実権を握ろうとしている証に私は思えてならん」


 神官達の顔色が青を通り越しているように見える。

 ガクガクと震える者もいる始末だ。


「恐れながら申し上げます。当時の裁判記録がどのようなものであったのか分かりませんが、当時の事ですから風聞や捏造もあったのかと……。かの神官達は、自分を陥れようとする者達の魂の安寧を祈りながら、あえて極刑を受けたものと……」


「同じ仲間であるなら、そうなるであろう。家の財宝をことごとく持ち去られ、娘を連れ去られ、子供を生きたまま暖炉に押し込む輩をな。今の答えが4つの神殿の総意なのであろう。

裁判記録を見て私は1つ残念に思った。なぜに僧兵を解散させなかったとな。神殿が金貸し業を営んでいることは調べが付いている。その取り立てに僧兵は無くてはならない存在という事らしい。

帝国と庶民から集めた寄付金の用途も神殿任せになっていたことも反省すべき事項ではある。

 さて、ここで私から長老達への指示をはっきりさせよう。

 1つ。4つの神殿を火の神殿に統一する。風の神殿は参加を免れているが、これは帝国学院として使うことになる。

 2つ。僧兵を解散せよ。解散することで路頭に迷う僧兵がいたなら帝国軍に組み入れることにする。

 3つ。神殿の出納記録を開示すること。これは今後も続く。出納記録に不備がある場合は税を扱う役人同様の処罰を与える。裏に流れる金次第だから清貧を心掛ける神官殿達であるなら問題はあるまい。

 4つ。新たな神殿組織を早急にまとめ、私の元に提出せよ。期日は15日だ。末端の村の教会の神官まできちんと整理することだ。後に調査を行い異なっていた場合は担当者を偽造文書作成の罪で裁くことになる。以上だ!」


 さて、帰るとしよう。

 まだ呆然として私が席を立ったのも気が付かないほどだ。

 このままそっとしておけば良い。

 伝えたいことは伝えたし、若い神官がしっかりと私の言葉をメモに書きとっているのを確認している。


 部屋を出ると、ここまで案内してくれた神官が立っていた。

 来訪時と違って顔に敵意が見えるが、武器を取らなければ問題は無いだろう。

 たとえ取り出したとしても、ハイデマンが始末をするだけだ。


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