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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-168 任務は終えたけど、まだ何かするみたいだ


 飛空艇は北東に向かって飛んでいく。

 第1巡航速度ということだから、飛行船より少し遅く感じるほどだ。

 峠の砦の燃料備蓄量は、それほど無いらしいから、普段から燃料節約に心掛ける必要があるらしい。

 まだ夕暮れには早いだろうけど、既に山麓地帯だ。夕日に照らされた飛空艇を見る者がいるとも思われないし、地が黒だからなぁ。夕日を反射するにしても飛行船のような銀色塗装よりは遥かに小さいだろう。


「このまま進むと、目標地点までは数時間かかるぞ」


「それで十分にゃ。ミザリーは敵の交信に注意して欲しいにゃ。追跡隊なら夜は休むはずにゃ。その時に状況を知らせるはずにゃ」


「現在地を報告するかも……、ということですね。了解です!」


 ミザリーが聞き逃しても、自動記録装置が通信記録を残してくれるだろう。

 ファイネルさんがテレーザさんに操縦を任せて、俺を手招きしてくれた。

 リトネンさんに顔を向けると、頷いてくれたから倉庫で休憩しよう。先は長そうだからね。


 給湯室でポットを温めようとしたら、すでに電熱器の上にポットが乗っていた。カップ2つにコーヒーを注いで倉庫に向かうと、イオニアさんが新たに据え付けられた銃座の具合を確認していた。テーブルにカップが乗っているところを見ると、イオニアさんがポットを温めておいてくれたんだろう。

 ファイネルさんにカップを渡して、シガレットケースからタバコを取り出す。

 火はファイネルさんが点けてくれた。


「可動範囲があまり広くはないが、操作しやすい銃だ。地上や甲板の銃兵対応と考えるべきかもしれん」


 椅子代わりの木箱に腰を下ろして、イオニアさんがテーブルのカップを取る。

 一口飲んだところで、タバコを取り出した。

 換気用の窓があるから倉庫内に煙がこもることはないし、倉庫が1ユーデ半ほど奥に広がっているからかなり広く感じる。

 主機の点検用に小さな扉があるが、倉庫の奥は棚が作られているらしくいくつもの扉があった。


「あの爆弾収納筒はどうしようもなかったようだな。まぁ、壁に貼り付いた感じだから邪魔にはならないだろうが……」


「飛空艇の切り札となれば仕方ないだろう。それより、棚の右手は降下時の備品類が収められていたが、右手は銃弾と手榴弾が詰まってたぞ。手榴弾は手持ちと同じ品と、少し大きなものだ。投げられないことはないが、遅延時間が15秒、どう考えても扉を開いて落とすということになるんだろうな」


 イオニアさんの言葉に、ファイネルさんが席を立って棚の中から手榴弾を取り出した。俺達が持っている手榴弾の2倍以上あるんじゃないかな?

 確かに投げられそうもない。


「500ユーデほどで落とせば丁度良さそうだ。下から銃撃されても威力は落ちるだろうが、身を乗り出すのは控えた方が良いだろうな」


「これなら1つで貴族館を丸焼けにできそうだ。全て焼夷手榴弾だというのもおもしろい」


 ファイネルさんが手榴弾を棚に戻して、再び腰を下ろす。

 案外早く使うことになるかもしれないな。先ずはどんな物か、リトネンさんが試しそうだ。


 小窓から外を見ると、すでに日が落ちている。

 倉庫の中は天井に小さなランプが付いているからそれなりに明るいのだが、明かりが外に漏れているに違いない。

 灯火管制が行われると赤色灯が付くんだが、あれだと手元が見えるぐらいの明るさになってしまう。

 目的地近くになったら、早めに灯火管制が行われそうだ。


 俺達3人がブリッジに戻ったところで、ミザリー達が休憩に入る。

 ライネルさんが扉の直ぐ横に付けられた梯子を下りてきた時には驚いたけど、垂直ハシゴの上方に、小さな座席があった。そこに座って半球状の窓から周囲の監視を行うらしい。

 イオニアさんが身軽に上って行ったから、俺は前方に集中して監視をしよう。


「現在この辺りを飛んでるわ。進路140を保って飛んでくれない?」


「了解だ。高度が下がっているようだが?」


「地上の焚火を探せと、リトネンが言っていたわよ。リーディルも注意して見ていてね」


ファイネルさんとエミルさんが飛行航路について確認していたんだが、俺にも話が飛んできた。片腕を上げて了承を告げると、直ぐに扉を開ける音が聞こえてきた。

 焚火なら暗くても、分かるに違いない。

 左右をゆっくりと眺めながら、監視を続ける。


しばらくすると、通信機の自動記録装置がカチャカチャと動きだした。

 直ぐにファイネルさんが倉庫とつないだ伝声管で伝えると、ミザリーがブリッジに入ってきた。

 

「例の通信だ。……ファイネルさん、エミルさんを呼んでください」


 直ぐにエミルさんがブリッジに飛び込んできた。通信が終わっても解読に少し時間が掛かるようだ。

 

「ファイネル、進路を130にしてくれない。ご丁寧に、現在地を教えてくれたわ」


「そりゃ、ありがたいな。距離は?」


「ここから35ミラルというところかしら? 1時間チョイね」


「リーディル、皆が戻ってきたら、一服ぐらいは出来そうだ。引き続き監視は頼んだぞ」


「だいじょうぶですよ。それにしてもだいぶ近い場所でしたね」


 移動が容易な場所だったのだろう。たまに広い荒地もあるからなぁ。森の中だと、そうはいかないはずだ。

 となると、案外荒地で野営をしている可能性もありそうだ。

 逃げる方は、さすがに荒地の真ん中で野営なんて出来ないだろうが、追う方ならそれも可能だ。

 山にかなり入っているから、野犬というよりオオカミが群れていそうにも思えるけど、小隊規模の追手ならオオカミの被害に会うことも無いだろう。


 皆が戻って来たところで、軽く一服に出掛ける。

 イオニアさんは、そのまま上方監視を続けるみたいだな。


「リトネンさんの事ですから、焚火に向かって爆弾を落とせ位は言いそうですね」


「良い目標だからなぁ。2発落とせば全滅だろう。周囲を旋回しながら生き残りを探して、倉庫の機関銃で倒せば良い。試験飛行だからなぁ。楽な作戦で良かったよ」

 

 これだけだと食料を3日分も搭載した意味がなくなりそうだ。

 その後の進路が問題だな。真っ直ぐ西に向かうなら前線に行けるんじゃないか?


 ブリッジに戻ると、直ぐに座席のベルトを締める。

 弾倉の弾丸種別を確認終えたところで、前方を見据える。


 座席の下には、ブランケットを畳んだ上にライネルさんがちょこんと座っているから、万が一にも見落とすことはないんじゃないかな。


「ファイネル、高度を上げるにゃ。高度1000ユーデで爆撃は出来るかにゃ?」


「問題ないぞ。高度500と1000で爆撃照準器が使える」


「なら高度1000ユーデで行くにゃ。そろそろ見えると思うにゃ」


 何時の間にかリトネンさんがライネルさんの隣に座っている。

 前方やや下を見据えてしばらくした時だった。小さな明かりが見えた。

 

「2時方向に明かりです!」

「あれにゃ? かなり遠いにゃ。ファイネルのところからも見えるかにゃ?」


「しっかり見えるぞ。軸線を合わせる!」


 飛空艇の進路がゆっくりと右に動いていく。


「軸線合わせ完了。爆弾の固定装置を開放。……何時でも落とせるぞ!」


「目標はあの焚火にゃ。2発同時に落とせばそれで終わりそうにゃ」


 焚火に近づいていくと、どうやら焚火が2つある。

 軸線は2つの焚火の真ん中のようだから、このまま真っ直ぐに進んでいく。


「投下まで、あと5秒……3、2、1、投下!」


 飛空艇は巡航速度を維持したままだから、主機のエンジン音は相手にも聞こえているはずだ。

 上を見上げている兵士もいるけど、飛空艇が真っ黒だからなぁ。夜空に溶け込んで分からないんじゃないかな。

 

「もう直ぐ着弾だ!」


 ファイネルさんの声がして間もなく、後方に閃光が走った。

 数トリム離れたところで回頭し、高度を下げて盛夏の確認を行う。既にイオニアさんは倉庫で待機しているから、側面に付けた機関銃で地上を掃射するはずだ。

 上空300ユーデの高度を保って焚火の跡を確認する。大きな穴が2つ繋がったような炸裂跡を見えた。あれで助かった兵士がいるとは思えないな。


「動く気配はまるでないにゃ。ファイネル、イオニアに掃射後の状況を聞いて欲しいにゃ」


 伝声管を使ってファイネルさんがイオニアさんと話をしていたが、直ぐに大声で「変化なし!」と伝えてくれた。


「進路45、高度このまま。森の近くに着地するにゃ」


明日の朝再度確認するのかな? 振り返ると、ファイネルさんが首を傾げていた。

 「攻撃終了!」とリトネンさんが宣言したところで、皆が動き始める。

俺が銃座を下りると、すかさずリトネンさんが上って来た。

 とりあえず、お弁当でも摘まもう。

 ハムサンドだとエミルさんが教えてくれたから、コーヒーと一緒に頂くのが楽しみだ。

 ファイネルさんが席を離れると、テレーザさんがライネルさんを呼び寄せ、操縦席に座らせた。

 操縦方法を教えるのかな。急に傾くようなことが無いと良いんだけどね。


 倉庫に行ってバスケットに入ったサンドイッチを頂く。カップには携帯食料で作ったスープが入っている。

 具は少ないけど、香辛料が効いているんだよね。


「やはり帰投する考えは無いみたいだな。とは言っても爆弾は落ちしてしまったから、残っているのはこの大型爆弾だけなんだが」


ファイネルさんが体を後ろに回して、爆弾格納筒をポンポンと叩いた。

元は巡洋艦の砲弾らしいからなぁ。威力はあるんだろうけど1発だけだし、何といってもそれを格納しているのは帝国軍の空中軍艦を沈める為だ。

峠の砦に帰れば何個か用意されているだろうけどね。


「オルバンが、依然と違って空中軍艦が艦隊を組んでいると言ってましたよ。今までのように投下できるかを試すということでは?」


「それもありそうだな。だが空中軍艦はアドレイ王国の爆撃に参加しているらしいぞ。ここからだと……、巡航速度で半日以上は掛かるはずだ」


 飛空艇の2つの燃料槽が満タンであるなら、海を渡ることさえ出来る。

 狙うとしたら爆撃前か、それとも爆撃後になるのか……。


「森の近くで待機するのは、連絡待ちということになるんだろう。とはいえ、この塗装だからなぁ。昼間はかなり目立つと思うぞ」


 空を飛ぶなら目立つに違いない。だけど昼間の森ではそれほど目立つとも思えない。昼間はゆっくりと睡眠を取って、夕暮れを待っての出撃になるんじゃないかな?


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