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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-166 新たな仲間と次の任務


 俺達の暮らすかつての物資集積所は『峠の砦』と名を着けることになった。集積所よりは隠匿基地のような名前になったけど、ここは峠ではなくて谷に近いんじゃないのかな?

 ファイネルさんが言うには、相手を混乱させるためらしい。それに俺達は反乱軍でも一部の人達にしかその存在が知られていないらしいから、反乱軍内での混乱はないに違いない。


「あれから1カ月も過ぎたんだが、相変わらず次の作戦が降りてこないな。もう直ぐ飛空艇の改造も終わりそうだから、前回同様に試験飛行を兼ねた作戦でもクラウス殿は考えているのかもしれんぞ。……そうだ! リーディル、ドワーフの工房長からこれを預かってきたぞ」


 ファイネルさんがバッグから布包みを取り出して、俺の眼の前で開いてくれた。

 見た瞬間、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。

 見事な宝石箱だ。片手より少し大きいぐらいだけど、やはりドワーフ族の細工は見事という外に形容のしようがない。

 持ってみるとズシリと重さが伝わる。黒くて緻密な木材で作られ、縁取りが全て銀だ。蓋は透かし彫りの銀細工が彫刻を施した板の上に取り付けられてあった。二重の彫刻だから奥行きがあるんだよなぁ。題材は泉の傍にたたずむ少女なんだけどね。ミザリーに見せたらすぐに『頂戴!』と言われそうな気がするな。

 蓋を開けると中は赤いベルベット生地で貼ってあった。小さな鍵が2個入っていたから、この宝石箱の鍵に違いない。鍵を掛けたら鍵をどこに置いたか忘れそうだからなぁ。このままこの中に入れておこう。


「思った以上の品なんですが、本当に貰っても良いんでしょうか?」


「報酬はあの宝石で十分だと言ってたぞ。俺も初めて見た時には驚いたんだが、どうやらずっと前に作った品の細工を再度やり直したらしいな。1カ月でその銀細工は無理だと思うよ」


 ポケットにたっぷりと詰め込んで来たからなぁ。帝国金貨もあるんだけど、あれは数枚を残して、再度ドワーフ族に無理を聞いて貰う時に使ってしまおう。出来れば換金して欲しいところだ。

 宝石箱を布に包んでバッグに入れると、一旦部屋に戻って宝石箱を棚に置いてきた。


 テーブルに着く前に、ストーブからコーヒーをカップ2つに注ぎ、ファイネルさんと一服を楽しみながらゆっくりと味わう。


「それにしても、どんな形になるんでしょうね」

「基本は俺達が出した改造案の通りだ。後は工房に任せることになるんだが、俺が言った時にはシートが被せてあったな。最終調整をしている最中ってことかもしれない。そうだ! 塗装をやり直したらしいぞ。リトネンが指示を出したらしいんだが、更に迷彩を施すことになるんだろうな」


 飛空艇は上半分が森林迷彩で下が灰色だった。

 あれで十分に思えるけど、リトネンさんはどんな指示を出したんだろう? 感性が俺とはだいぶ違うからなぁ。ちょっと心配になってきたぞ。

 さすがにピンク色ということにはならないだろうけどね。


 昼食を取ろうと食堂に行った時だった。リトネンさんがやってきて、昼食後は俺達の部屋に集合との指示を受けたんだが、いよいよ新たな作戦ということかな?

 食後のお茶を適当に済ませて、早めに部屋に戻る。

 どうやら皆も俺と同じ考えのようで、俺がコーヒーのカップと灰皿をテーブルに置いているところにぞろぞろと部屋に入ってきた。

 ミザリー達は紅茶だからなぁ。コーヒーを注いだカップを用意したのはファイネルさんとイオニアさんだけだ。

 最後に入ってきたのは、リトネンさんだが俺達の様子を見て、紅茶を自分で用意して席に着く。


「だいぶゆっくり出来たにゃ。もうすぐクラウス達がやって来るにゃ。さっき工房に寄ってきたら、明後日には飛空艇を渡せると言ってたにゃ。どこに爆弾を落とすか楽しみにゃ」


「やっぱり爆撃ってことかしら? 飛行艇の改造で爆弾は数を減らしたんでしょう?」


「翼下は4個が2個になったにゃ。でも爆弾を大きくするように言っておいたにゃ。重砲の砲弾を改良して2倍の炸薬を詰め込んであるにゃ。焼夷弾もそれなりに大きいにゃ」


 思わずファイネルさんと顔を見合わせてしまった。まあ、形を変えたことには変わらないが、今度の爆弾の方が大きいということなんだろうな。


「新しい仲間が増えるにゃ。4輪自走車の運転をしていたらしいから、飛空艇の操縦を教えてやって欲しいにゃ。ネコ族だから夜間飛行を任せられるかもしれないにゃ」


「今度は男なんだろう?」


 ファイネルさんの問いに、リトネンさんが首を傾げている。

 そういえば、名前も言わなかった。肝心なところが抜けてるんだけど、1人増えるなら役割分担も見直さないといけないかもしれないな。


「ダメじゃない!」とエミルさんに叱られているのは、まぁ、いつものことだ。


「今度は上部に観測窓が付くにゃ。イオニアの交代要員でもあるにゃ」


「長時間の監視はさすがに辛い。助かるよ」


 上空監視と操縦を担当することになるのか。ファイネルさんとテレーザさんで交代しながら飛空艇の操縦をしているけど、2人ともイヌ族だからなぁ。夜間視力は俺よりも良いけれど、ネコ族の人達には適わない。

 次は夜間の行動が増えるということになるんだろうか……。


 テーブルに広げた地図を皆で見ながら、次の作戦について考える。

 帝国軍にアドレイ王国軍それに反乱軍の通信がある程度傍受できるから、南西の戦線の状況やアドレイ王国軍と帝国軍の爆撃箇所まで分かるようだ。


「やはり帝国軍の自走砲を潰す任務かもしれないわよ。表面上同盟関係を結んでいるなら、仇例王国軍にとって一番厄介なのは自走砲じゃないかしら?」


「いやいや、やはり飛行船だろう。爆撃で町や村の被害が大きいようだからな。飛行機を使っての迎撃が上手く行っていないらしい」


「飛行時間が2時間にも満たないのであれば、かなり近づいてからでないと迎撃に向かえんからな。要所に観測班を設けているようだが、夜間に高度を上げて向かってくるなら下からでは確認できんだろう」


 飛空艇であれば上空待機も可能だから、飛行船の迎撃辺りが怪しそうだ。自走砲なアドレイ王国軍の飛行船でも爆撃は可能だろう。


 トントンと入り口の扉が叩かれる。

 扉が開き入って来た人物はクラウスさんとオルバンそれにネコ族の女性だった。


「早速地図を開いているな。さて飛空艇の引き渡しが近々ということだから、さっそく次の任務について説明したい。それとリトネン部隊に1名を増員するぞ」


 クラウスさんが一緒に入って来たネコ族の女性に目を向けると、女性が小さく頷いて俺達に顔を向ける。


「ライネルにゃ。反乱軍の威力偵察部隊にいたにゃ」


「リトネンにゃ。同族が増えると助かるにゃ」


「にゃ」が増えたから賑やかになりそうだ。不思議なことにネコ族の男性は語尾に「にゃ」が付かないんだよなぁ。

 

「後はリトネンに任せるぞ。それで今度の任務なんだが……」


 どうやら爆撃ではなさそうだ。向かう先が南東の山中だからなぁ。


「おおよその位置は、今言った通りだ。王女を追うアドレイ部隊を殲滅して欲しい」


「後でアドレイ王国軍ともめる事にならないのかにゃ?」


「反乱軍の飛行船は全て帝国軍の対応に回している。これはアドレイ王国軍も知っているはずだ。さらに拠点の北に作った飛行場の飛行機では、爆撃は出来るだろうが索敵を行いながらの攻撃は不可能だ」


 部隊を潰滅させた相手を、アドレイ王国軍に分からないようにするということになるのかな?

 そういう意味では、反乱軍の軍籍から外れた俺達ならば都合が良いということになる。

 だけど、飛空艇の技術を持っているのは反乱軍だけじゃないのかな? 


「最初の飛空艇を修理したらしい。反乱軍はもう1つ飛空艇を所有しているのだが、「この飛空艇の運用についてはアドレイ王国軍と密に調整している。さすがに自分達で破壊したと信じている飛空艇が健在だとは思うまい」


「ある意味囮ってことにゃ。でも飛空艇をちゃんと運用出来るのかにゃ?」


「何度か前線への爆弾投下を行っているし、王国軍の空中軍艦との空中戦も経験しているぞ。経験を積めば腕も上がるだろう。それにだ。反乱軍の規模では3隻目を建造することは出来ないとアドレイ王国軍は考えているようだ。実際そうでもあるのだが」


「王女を保護することは任務に入っていないんですか?」


「それは別の索敵部隊に指示を出した。リトネン達は追跡部隊の殲滅だけで十分だ」


「了解にゃ。それで追跡部隊が使っている通信機の周波数は幾つにゃ」


「0910で交信している。暗号コードは王国軍と同じで、例の長文暗号を使っている」


 うんうんとミザリーが頷いているから、飛空艇内の通信機の1台をその周波数にあらかじめ設定しておくに違いない。


「以上だ。殲滅が出来ない場合は通信機だけでも破壊して欲しい。それで王女の逃走は楽になるはずだ」


 最後に「頼んだぞ!」と言って俺達の部屋を出て行った。

 クラウスさん達は相変わらず忙しそうだな。


 カップを回収して、改めミザリー達がお茶のカップを配ってくれた。

 先ずはライネルさんに、リトネンさんが俺達の名と役目を一通り紹介する。


「場合によっては飛空艇を下りて行動することもあるにゃ。その時は狙撃部隊として行動するにゃ。第1狙撃手はリーディルでバディが私にゃ。第2狙撃手はイオニアになるから、バディをお願いするにゃ」


 ネコ族の夜間視力に期待するということかな。

 

「第1狙撃手はだいぶ若いにゃ」


「腕は確かにゃ。200ユーデ先をヘッドショットするにゃ」


 リトネンさんが笑みを浮かべて俺の腕を語ってくれたんだけど、何恥ずかしくなるなぁ。


「鷹の目の後継は本当だったにゃ!」


 エメルさんが驚いて俺の顔見ている。

 そんな噂が流れてるのかな? 噂なんて半分も本当じゃないからね。案外、良いプロパガンダとして使われているのかもしれないな。


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