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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-164 解読できない暗号


 夕食後に部屋で一服を楽しんでいた時だった。

 トントンと扉が叩かれたので、皆が一斉に扉に視線を向ける。

 入ってきたのは、オルバンだ。

「こんばんは!」と挨拶をした後で、用向きを伝えてくれた。


「ここの新たな住人を連れてきました。今、娯楽室で簡単な概要説明をしているところです」


 ミザリーが笑みを浮かべているのは、ようやく母さんと会えるからに違いない。


「ところでこの集積所に娯楽室なんてあったのか?」


「あれ? 夕べ説明しませんでしたか。ブンカーに入って通路を左、最初の扉を開けると娯楽室なんです。娯楽室と言ってもボードゲームがいくつかあるぐらいで、元は会議室だと聞いてます。それと、皆さんが必要な品は『事務室(1)』に常駐する事務員に告げれば購入できますよ」


 皆が呆れた表情をしてるんだよなぁ。

 そんな部屋があるなら、この部屋にいるよりはそっちに行った方が良さそうだ。

 扉に表示板が無かったから、気が付かなかったのかもしれないけどね。


「それじゃあ、また!」と言ってオルバンが部屋を出て行った。

 オルバンは砦で仕事があるんだろう。忙しそうだけど、クラウスさんに色々使われているようだ。


「リトネンさん。この集積場の責任者は誰になるんでしょう?」


「言ってなかったかにゃ? 私にゃ。でも責任だけで、多分事務員が代行してくれるにゃ」


 集積場の総人数が小隊規模だからということになるのかな?

 思わずファイネルさんと顔を見合わせて溜息を吐く。

 決して責任者に向いてないとは言わないけど、それは部隊の指揮能力であって、集積場の運営能力があるとは思えないんだよなぁ。


 翌日。いつものようにミザリーに起こされる。

 扉を叩くのは近所迷惑になるだろうからと、鍵を1つ預けたのがいけなかったかもしれない。ブランケットの上から、文字通り叩き起こされた。


「さあ、早く着替えて顔を洗ってきて! 母さんも一緒なんだから」


「なら先に食堂に行ってても良いよ。直ぐに向かうから」


 通路に出ると、母さんが笑みを浮かべてハグしてくれた。


「お帰りなさい。落とされたと聞いた時にはびっくりしたわよ。でもあの通信が来たんで安心したわ」


「世の中は複雑だと良く分かりましたよ。今回は上手く行きましたけど、あまり人前に出ることが出来ないようです」


「それでも、ちゃんと生きて帰ってきたんですからね。まだまだ戦は続きそうだけど、終わらない戦は無いはずよ」

 

 母さんが腕を解いてくれたんで、手を振ってシャワー室に向かう。

 早めに食堂に行かないと、ミザリーに小言を言われそうだからなぁ。


 食堂に入ると、トレイを持ってカウンターの小母さんから朝食を出して貰う。

 いつもの献立だけど、野菜の種類が変わっていたり、干し杏ではなく新鮮な果物が載せられることもあるんだよなぁ。

 今回はいつもの干し杏だった。気を取り直してカップにコーヒーを注いで母さん達が座るテーブルに向かう。


「この基地の通信は母さんが行うの?」


「前部で4人よ。12時間交代になるからゆっくり出来る時間も出来るわ。通信量が増えれば休んでいる人を呼び出すの」


 常時1人が通信機の前にいるということになるのかな?

 反乱軍との通信と帝国軍やアドレイ王国軍の通信傍受の2つの仕事をこなすらしい。

 通信機だけで4台もあるけど、自動記録装置が備えられているらしいから、1人でも問題ないらしい。戦の状況が、かなり分かるんじゃないかな。


「次の作戦はまだなんでしょう?」


「飛空艇を改造すると聞いてるから、それまでは無いんじゃないかな。場合によっては地上の作戦に参加することもありそうだけど」

 

 6輪車を使うようなことにならないと良いんだけどね。

 気になるのはアデレイ王国だ。前回と今回では俺達の扱いがかなり違っていた。

 やはり何らかの政変、もしくは王国軍の上部に何かあったと考えるべきなんだろう。


「帝国軍の暗号や帝国内の反乱軍の暗号をミザリー達は解いたんでしょう? この暗号が解けるかしら? 私も何度か挑戦したんだけど、やはり頭が固くなってるのか、上手く解けないの」


「おもしろそうね。帝国領内で傍受した通信記録の分析をしようかと思ってたけど、貸してくれない?」


 母さんがミザリーに渦巻き状に巻いた紙テープを手渡している。通信の流れ方向は紙テープの要所に矢印があるから、方向を間違えることはないらしい。

 それなら、通信記録の分析は俺が手伝ってあげるか。

 最初は時間軸に沿ってメモを並べるだけだからなぁ。黒板に貼って行けば良いだろう。


ゆっくりとコーヒーを飲み終えたところで、母さんと別れて俺達の部屋に向かう。

 既にエミリさんとイオニアさんがのんびりとお茶を飲んでいた。

 さっきコーヒーを飲んだばかりだからなぁ。

 窓際のベンチに腰を下ろして、一服を楽しむ。

 

「これを母さんから借りたんだけど……」


 さっそくエミリさんに紙テープを渡している。


「どこの暗号かしら? 帝国軍も変えたけど、すでにコードの解読は済んでいるわ。ミザリーのお母さんが解読できないとなると、アドレイ王国軍になるのかしら?」


あっちでは、クラウスさんから頂いたコード表で全て解けましたよね。となると……」


 良い暇つぶしになるに違いない。

 

「3つあるのね……。どれも長文ではあるんだけど……。先ずは、クラウスのコード表で解いてみましょうか」


「やはり数字暗号なんですか?」


「文字も混じっているの。ちょっと複雑ね。でも作ったということはそれを解読する手段もあるという事よ」


 俺達を惑わすダミー通信なんてことは無いだろうけど、エミリさんが首を傾げているのはやはり初めて見る暗号ということになるんだろう。


「それにしても長いわね。文字を使っていないところはクラウスのコード表で置換できるけど、まったく意味を持たないわよね」


「1つおき、2つ飛ばしでもないですね。電信で100文字近いのは打つ方も聞く方も大変だと思いますよ」


 今度は升目に文字を並べだしたようだ。

 そんな手法もあるってことなんだろうな。確かに退屈凌ぎには良いかもしれない。


 一服を終えたところで、部屋の隅に積み上げられている荷物の整理を始める。

 荷物を入れた袋毎に、前の部屋に会った棚の番号が木札に書かれて結わえてあったから、自分の棚の番号を見付けて新たな棚に入れていく。

 ドラゴニルもちゃんと運んでくれたようだ。定期的に手入れをしていたんだが、今回は持って行かなかったからなぁ。

 荷物を整理したところで、ドラゴニルの分解清掃を始めた。


「おっ、早速やってるな。俺もゴブリンの手入れでもするか……。そうだ! リーディルの依頼は、ドワーフ族が喜んで引き受けてくれたぞ。かなり凝った品が出来るんじゃないか。1カ月は待って欲しいと言ってたな」


「ありがとうございます。それで飛空艇の方は?」


「あっちも問題ないらしい。塗装までやり直すそうだ。ついでに尾翼にシンボルを描くと言ってたが、どんなシンボルになるか楽しみだな」


 あまり変なシンボルじゃないと良いんだけどなぁ。

 そこは担当するドワーフの感性ということになるんだろう。

 

 昼食前には全員が部屋に揃う。いつもの通り最後はリトネンさんだった。

 昼食を皆で一緒に取ると、ファイネルさんと一緒に娯楽室に向かうことにした。

 4つのテーブルと2つのソファー。明り取りの窓が3つもあるけど、窓をよく見ると鎧戸が付いている。鎧戸の外は迷彩が施されているに違いない。


 窓際のソファーに、部屋の片隅に置いてあったポットからコーヒーを注いで持っていく。砂糖も2つ入れたから、美味しく頂けるに違いない。


「しばらくは退屈しそうだな」


「そうでもないですよ。リトネンさんから射撃場を作るよう言われましたよね。これを飲んだら出掛けましょうか?」


「そうだったな。2人用で良いだろう。あまり草や藪を掃えないだろうから、的を張る板だけで良いんじゃないか?」


 狙撃用の的だから、大きく作る必要もないだろう。

 縦横1ユーデほどの板を作れば良いはずだ。50ユーデ、100ユーデ、200ユーデの3種類を作れば良い。

 300ユーデを1つ作っておこうかな。長距離狙撃も練習しておくに越したことはない。


 コーヒーを飲み終えたところで、ドワーフ族の工房を尋ねると、工房長が少年を2人出してくれた。

 俺達を信用していないわけでは無いだろうから、少年達の仕事を作ってあげたということになるのかな?

 他者の考える製品を形にすると言うのは、簡単なようで結構奥が深いらしい。射撃場の的作りは最初の仕事にもってこいということなんだろう。


 夕暮れ前に俺達の部屋に帰ってきたけど、結局場所を指示しただけだったからなぁ。なんか、的を作ったという実感が無いんだよね。

 

 皆で夕食を取ると再び部屋に戻る。

 直ぐに寝られるわけでは無いし、前の部屋のように母さん達と一緒にお茶を飲む事も出来ないからなぁ。まあ、娯楽室なら3人でお茶を飲むということも出来るんだけど、結構人が多い場所でもある。

 ファイネルさんとイオニアさんのチェスを見物していると、ミザリー達の声が聞こえてきた。


「全く、これって暗号なのかしら? 3桁数字に文字が入る時もあるけど、置換しても文にならないわ」


 おもしろそうだな。ちょっと覗いてみよう。

 ミザリーの後ろから、テーブルに乗った文を覗いてみる。升目にきちんと書いてあるから、それがコード表で置換した文になるのだろう。

 

「ア」・「フ」・「タ」・「ス」・「リ」・「ノ」・「ヲ」・「ク」・「レ」・「?」・「サ」・「ル」・「ガ」・「?」・「ム」・「テ」・「セ」


 なるほど意味が分からん……。

 やはりコードが違うということなのかな?


「これ以外の通信も置換してみたんですか?」


「3つ置換したわ。でも皆同じで、こんな感じになってしまうの。『?』のある所はコード表に無い文字を入れた場所なんだけどね」


「新たなコード表を手に入れないと……」なんて言っているけど、コード表を沢山作ると混乱してしまうに違いない。ましてや現行のアデレイ王国軍のコード表でほとんど置換することが出来るのだ。

 そうなると、この文章から特定の法則に従って文字を抜き出せば良いんじゃないか?


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