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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-152 物流破壊に出掛けよう


 俺達の最初の任務は、西の丘陵地帯の偵察と軍需工場を発見次第破壊することらしい。

 西の丘陵地帯までの距離は、約800ミラルほどになる。到着するまでに1日掛かるから、丘陵地帯を北に1日進んで帰投することになるらしい。都合3日ということなんだが、燃料の方は途中で空中軍艦と戦っても問題ないとファイネルさんが自信を持って説明してくれた。

 前回のようにアデレイド王国からの飛空艇乗員は無かったのが嬉しいところだ。

 ある程度自由に行動を行うことが出来るだろう。


「なにも見つからなければ線路でも破壊してくるにゃ。物流に影響を与えられるにゃ」


「爆弾は翼の下に4個搭載している。重砲の砲弾の改良型だから、それなりに使えるだろう。大型爆弾はよほど大きな工場でも無いと落としたくはないな。あれは空中軍艦用だ」


 その辺は臨機応変ということになるんだろうな。

 だけど小型の飛行船が増えたというのが気になるところだ。


「もし、帝国の飛行船と遭遇したら、落としても良いのかしら?」


「小型がかなり増えたと言ってたにゃ。たぶんヒドラⅡで落とせるにゃ」


 積極的に狩るという事らしい。

 どんな飛行船なのか興味があるけど、飛空艇のような機動は得られないはずだ。

 気になるのは飛行船の武装だ。さすがに爆弾を積んではいないだろうが、俺達と同じぐらいの銃を搭載している可能性もある。


 夕食の時間が来ると、少し遅れて食堂へ向かう。

 たっぷりと厚着をしたんだが、外に出た途端に体がブルッと震えた。

 風が体温を奪っていくのが分かるほどだ。

 300ユーデ程先の食堂のテントがだいぶ遠くに見えるんだよなぁ。

 

 少しとろみの付いたスープは香辛料が効いていた。味が濃いから黒パンを漬けながら頂く。

 食事が終わると、薄いコーヒーを飲みながら干し杏を口にする。


「あの寒さの中に出るのは考えてしまうな」


「あまり無理は言わないでおきましょう。これなら帝国軍もやってこれないでしょうからぐっすりと眠れますよ」


 一服を終えたところで、食堂を出て格納庫に向かう。

 格納庫に着いた途端、全員がストーブに集まるのは仕方がないことだろう。

 お茶のポットを乗せているのは、寝る前に体を温めるということに違いない。


 俺とファイネルさんはストーブから少し離れた場所にベンチを移動して一服を楽しむ。さすがに外で一服しようなんてことは出来そうもないからね。


「飛空艇内の温度計を見たんだが、この格納庫内は数度を保っているようだ。あまり寒いとエンジンオイルや冷却水が凍ってしまうからな。零下10度までは凍らないように薬液を混ぜてはいるんだが、やはり気温は高い方が安心だ」


「艇内の温度が低くても、あの防寒服を着れば暖かいんじゃないですか?」


「嵩張って動き辛いが、ブリッジ内だけだからなぁ。高度5千ユーデでも快適だと言っていたが今夜試してみるか」


 エミルさんが渡してくれたカップを受け取って一口飲んでみると、ジンジャーの香りと味がした。


「寒い時にはこれが良いらしいの。たっぷりと買い込んできたからね」


 確かに温まる。これを飲んであの防寒服を着たなら、汗をかいてしまいそうだ。


 銃座を利用してハンモックを作る。

 床にかなり近い場所だけど、これなら落ちても大きな怪我しないだろう。

 高高度用防寒服を着用して、ブランケットに包まると結構暖かい。あのお茶が効いているのかもしれないけど、これなら安眠できそうだ。


 翌日。頭を撫でながら着替えをして外のストーブに向かう。

 ミザリーに起こされたにはいつものことだが、体を起こした時に銃座に頭をぶつけてしまった。

 おかげですっかり目が覚めたけど、まだジンジンしてるんだよなぁ。


「良い音を立ててたぞ。帽子を被って寝た方が良いかもしれんな。リトネン達は毛糸の帽子を被っていたぐらいだ」

 

「今夜からそうします。とにかく痛かったですよ」


 笑いながら、ファイネルさんがコーヒーの入ったカップを渡してくれた。

 朝食は、夕食の帰りに貰って来たらしい。出来合いのスープではないようで、エミルさんとミザリーが野菜を刻んでいる最中だった。


「昼食も兼ねているらしいぞ。さすがにパンを焼くことはないが、ストーブで温めれば少しは柔らかくなるんじゃないか」


「外に出ないで良いなら、ありがたいですね。朝食を終えたらヒドラⅡの手入れでもして過ごします」


「今日は休みだからなぁ。ここでイオニアとチェスでもして過ごすよ。エミルにはまだ勝てそうもないからなあ」


 野望は持っているらしい。俺も後ろで見ながら覚えてみようかな。


 朝食は野戦食と同じだった。干し肉と乾燥野菜のスープにビスケット、最後にミザリーが取り出したのは、干しブドウじゃないか!

 干し杏と違って酸っぱくないし、甘味が格別だからなぁ。

 手の平に分けて貰って、1粒ずつゆっくりと味わう。


 テントの屋根がバタバタと揺れているんだよなぁ。

 ミザリーが不安そうな表情で上を見てるんだけど、潰れることはないだろう。しっかりとロープを張っているようだから、吹き飛ばされる心配も無さそうだ。このテントが飛ばされるような時には、他のテントだって被害にあいそうだし、そうなると今期の帝国領内攻撃は失敗になってしまう。

 そんなことが無いように、しっかりと設営されているに違いない。


「ちょっとした吹雪ってことか? 夜までには止むんだろうが、今夜出撃何だろう?」


「午後に、ドワーフ族の連中がやって来るにゃ。翼下の爆弾装架はファイネルが立ち合って欲しいにゃ」


「それぐらいはしないとな。前と同じなんだが、落とそうとした時に落ちないなんてことがあったら問題だ。ちゃんと見ておくよ。そうなると……、燃料補給もしてくれるんだろう?」


「一応、伝えているにゃ。たぶん一緒にやって来るにゃ」


 飛空艇内に入ってもすることが無い。食事を終えても、皆ストーブの周りで暖を取る。

 広い格納庫にストーブが1つだけだから、少し離れるとかなり寒い。

 こんな状態で空を飛んだら、かなり寒そうだな。

 一応、暖房装置が取り付けられているらしいが、あまり過信しない方が良さそうだ。


 朝食のスープを温め直して簡単な昼食を取っていると、自走車のエンジン音が聞こえてきた。慌てて昼食を片付けていると、格納庫のテントの入り口が大きく開いた。

 途端に寒気が格納庫内に入って来る。

 俺達が急いで防寒服を着ていると、2台の自走車が爆弾と燃料タンクを乗せた台車を飛空艇の傍に止めた。

 自走車からドワーフ族の男性が下りて来たけど、防寒服のフードを深く被っているから、顔がまるで髭で出来ているかのように見えてしまう。でも、あの髭なら暖かいんじゃないかな。


「重砲砲弾の転用爆弾が4つに、燃料じゃ。補給と爆弾装架を手伝ってくれ!」


「俺が担当だ。どっちを先にする?」


 ファイネルさんがドワーフ族の連中と相談を始めた。

 後は任せておけば良いってことかな。

 とりあえず入り口を閉じておこう。少しは寒さが和らぐだろう。

 イオニアさんと一緒に入口を閉じたところで、ストーブから少し離れて一服を始めた。

 2時間は掛からないだろうけど、これで飛空艇の方は準備完了となる。

 いよいよ今季初めての出撃だ。どんな冒険になるんだろう?

 帝國側も俺達の存在に気付いているはずだから、それなりの迎撃態勢を作っているかもしれない。

 あまり低空で飛ぶのは止めた方が良いのかもしれないな。

                ・

                ・

                ・

 深夜0時に、俺達は拠点を出発した。

 依然と違って暖気運転を入念に行い、翼の左右のエンジンも10分程度の暖気を行った。

 主機の冷却水を2つの補機にも循環させることで、エンジンの氷付きを防止しているらしい。冷却水がエンジン内で氷結してしまうとエンジンを壊してしまうとファイネルさんが教えてくれた。


「水は氷ると膨らむんだ。シリンダーにヒビでも入ったらエンジンが動かないし、そんな状態で燃料を送ったら火事では済まなくなりそうだ」


「案外脆弱なんですね」


「蒸気機関から比べると内燃機関は複雑なんだ。馬力はあるんだけどなぁ。それに大型が出来ないから、軍艦は今でも蒸気機関を使っているぞ」


「俺がリーディルの歳のころには内燃機関なんて無かったからなぁ。リーディルが俺の歳になったころには、まったく新しい動力機関が出来るかもしれないぞ」


 技術は日進月歩という事らしい。

 俺達に役立つ技術なら良いんだけど、兵器の開発も同じらしい。

 世の中は、俺達が考えるように上手くは進んでいかないんだろうな。


「全く地上が見えないわね。高度を少し下げた方が良いんじゃない?」


 いきなり銃座の下から声がした。

 どうやら、銃座下の窓でエミルさんが地上監視をしていたらしい。


「このまま進むにゃ。北風で少し南に流されているみたいだけど、朝になれば現在位置が掴めるにゃ。帝国通信の傍受は相変わらずかにゃ?」


「かなり広範囲で積雪被害が出ているみたい。線路の除雪に関わる通信が殆どです。皆平文ですから、軍の通信は今のところありません」


 イオニアさんがミザリーの隣に座っているのも珍しいな。

 地図に何やら書き込んでいるのは、救援を求める町を確認しているのだろう。

 ミザリー達の話を聞く限りでは、帝国北部は結構な降雪量だったに違いない。


「まだ3時だからなぁ。除雪車が動くのは夜が明けてからだろう。どんな除雪車か楽しみだな。どれ、テレーザ操縦を頼んだぞ。リーディル、後ろで一服してこよう」


 ファイネルさんの誘いに、銃座を下りて倉庫に向かう。

 途中の給湯室で、コーヒーを2カップ作って持っていく。

 折りたたんだ椅子を引き出して、ファイネルさんが一服を始めていた。コーヒーを渡すと笑みを浮かべて受け取ってくれる。


「やはり熱いコーヒーは格別だ。ここもだいぶ暖かくなっては来たが、ブリッジほどではないからなぁ」


「どの辺りを飛んでいるのか皆目見当がつきませんね。西の丘陵地帯に何か目印があると良いんですけど」


「何か所かあるんじゃないか? もっとも軍の施設とは限らないかもしれないけどな」


 地上に何も見当たらない場合は、天測ということになるらしい。

 エミルさんが結構詳しいから、この大陸で迷子になることはないと思うんだけどねぇ……。


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