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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-151 アデレイド王国の思惑


 まともに太陽が視野に入るから、サングラスの上にゴーグルを付けても眩しいんだよなぁ。

 そんなことだから、今回はアデレイド王国軍の方が俺達を早く見つけてくれた。


 飛行船は速度を緩めずに、そのまま西に飛行する。

 俺達は指示された3番目の飛行船の左側を、同一高度で飛行することになった。


「後は付いていくだけだな。速度は前回と同じだから、4日は空の旅が続くぞ」


「のんびり付いて行くにゃ。目的地は前回と同じと聞いてるにゃ。ミザリー達は忙しそうにゃ?」


「アデレイド王国の飛行船間で無線通信が行われているんだけど、暗号通信なの。その解読に挑戦してるのよ」


「そういえば、これをクラウスから受け取ったにゃ」


 リトネンさんがバッグをごそごそさせて取り出したのは、丈夫そうな紙封筒だった。

 エミルさんに渡したんだが、中を見たエミルさんがリトネンさんに厳しい顔を見せた。


「暗号のコード表じゃない! これがあれば解読はいらないわよ。もっと早く渡して欲しかったわ」


「忘れてたにゃ。クラウスがこれが使えると言ってたにゃ」


「でも、会合地点での通信は平文だったよ。このコード表を私達が持っているということをアデレイド軍は知らないんじゃないかしら?」


 ミザリーの言葉に、エミルさんが通信機の傍に行って、何やらミザリーと相談を始めた。

 ひょっとして、俺達反乱軍に知られたくない目的をアデレイド軍は持っているのかもしれないな。

 大陸を渡るんだから、暇な時間がたっぷりとある。

 ファイネルさん達との話題が増えた感じだ。


 真っ直ぐに飛ぶだけだから、ファイネルさんはテレーザさんと交代で飛空艇を操縦する。休憩時間は俺を誘ってくれるから、船倉でコーヒーとタバコを楽しむことになる。イオニアさんもたまに一緒になるんだが、エミルさんはリトネンさん達と一緒の組だ。


「リーディルの言うことも理解できるんだが、そうなるとアデレイド軍は単なる帝国の破壊工作を目的としているとは限らないってことだな」


「帝国軍を追い出した後の大陸に覇を唱えるということか? ありえなくはないぞ。現在でもアデレイド王国は我等の大陸の中では一番大きな王国だ」


「そう考えると、破壊工作と同時に行うのは……、帝国の技術を搾取するってことか!」


「帝国の技術なら良いんですが……、敵の敵が持つ技術となると問題が大きくなりますよ」


 2人が俺の言葉に少し驚いているようだ。2人の顔が俺に向けられてくる。


「それで、リトネンがあれほど念を押したのか。リトネンの事だからそこまで考えてはいないんだろうが、ヤバいものは早めに処置したいぐらいの考えなんだろうが……」


「さすがは我等の隊長ということだ。勘で動いているようでもあるが、その勘は正しくも思えるぞ」


「前回よりもアデレイド王国の飛行船が大きくなったように見えるんですが」


 ふと、窓から見える飛行船の大きさが気になって、ファイネルさんに問いかけた。

 そんな馬鹿な、という感じで窓を見ていたファイネルさんの顔からだんだんと笑みが消える。


「確かに大きいぞ。ゴンドラの窓が上下になっている。ということは2階建て構造ということになる。ちょっと待ってくれ、他の飛行船も確認した方が良いかもしれん」


 ファイネルさんがブリッジに走って行った。イオニアさんも後ろの飛行船が気になるみたいで後部銃座に向かって行く。

 1人になってしまったから、もう1本タバコを取り出して火を点ける。

 飛行船を大きくしたということは、積載量を増やしたということに他ならない。輸送物資の量を増やすのであれば船倉に窓は必要ないだろう。

 窓が付いているのは、運ぶ人員を増やしたということになる。爆撃を終えたところで兵士を送りこんでの技術搾取ということかな?


 やがて2人が帰ってきた。改めてコーヒーをカップに注ぐと、ファイネルさんがブリッジの意見も添えて話をしてくれた。

 それによると、前の2隻は前回の飛行船と同じらしい。イオニアさんが確認した後ろの飛行船は隣と同じで大型化しているらしい。


「リトネン達が驚いてたぞ。飛行船は元々大きいからなぁ。考えもしなかったらしい。乗員を増やして運ぶ資材が多いとなれば、やはり陸戦隊を運んできたに違いない。どのような運用になるか俺達には分からんが、技術搾取を目的とすれば頷ける話だな」


「場合によっては既に先行部隊を送っているのかもしれんぞ。小型の飛行船が同行していないからな。既に帝国内の偵察は始めていると考えるべきだろう」


「俺達は飛空艇1隻だけですからね。表面上はアデレイド王国の指示を受けての帝国内の流通を破壊すれば問題は無いでしょう。敵の敵が動きだしてからが俺達の仕事になりそうです」


「そうだな。たった一隻でどうなることでもない。同盟を結んでいる以上協力はしなければならん。それに、技術搾取の現場を俺達に見せるようなことはしないだろう。離れた場所の流通経路破壊に向かわせるはずだ」


 ファイネルさんの言葉に、俺達の顔が綻ぶ。

 それは俺達の目的達成に都合の良い話だ。

                ・

                ・

                ・

 渡航は順調そのものだ。

 2日目に2本目の増槽を切り離したから、現在は艇内の燃料タンクで賄っているが、2つある燃料タンクの内、1つは満タン状態で到着するとファイネルさんが言っていた。もう1つは三分の一程度に減るとのことだから、増槽が無くとも艇内の燃料だけで片道渡航なら出来るということになる。

 前回は酷かったからなぁ。帆を掲げて帰ることになるとは思わなかった。


「U」字状の拠点に到着しても、半日以上上空で待機することになってしまった。

やはり大型飛行船で運んできた人員や荷物を下ろすのに手間取っているみたいだな。ファイネルさんが言っていたように、先行部隊が来ているようで、既に大きなテントがいくつも並んでいる。

 季節が季節だからテントは二重構造になっているのだろう。テントから突き出した煙突から薄く煙が上っているからテントの中に小さなストーブがあるのかもしれない。


「前回のように、飛空艇内で暮らすのは難しいですよ。下手したら全員が凍死です」

「たぶん、あれが格納庫だろう。やはりアデレイド王国は何度かここにきてるのかもしれないな。飛行船の係留塔も出来ているし、格納庫の前に離着陸場も出来ている。3つあるから小型飛行船も格納するのかもしれないぞ」


 格納庫の中なら少しは暖かいかな?

 とは言ってもテントなんだよなぁ。ストーブがあるなら、少しはマシかもしれないけどねぇ……。


 荷を下ろした飛行船が東に向かって去っていく。

 いよいよ俺達が着陸する番になる。地上からの誘導に従ってゆっくりと離着陸場に下りていく。着陸のショックは小さなものだ。飛空艇を下りずに待っていると、自走車が船尾にワイヤーを結んで格納庫に運んでくれた。

 

 自走車に乗った兵士が手を振るのを見て、ファイネルさんが手を挙げて応えている。

 どうやら固定も完了したらしい。

 

「指揮所から通信が入ってきました。代表者の出頭を指示しています」


 ミザリーの声に、嫌そうな表情をリトネンさんがしているんだよなぁ。

 これもいつもの事だから、嫌がっているリトネンさんをエミリさんが連れ出して行った。


「リーディル、外で一服して来ようぜ。寒いから防寒服を着るんだぞ」


「そうですね。どれぐらい寒いかも経験しとかないといけないでしょう」


 

 ファイネルさんと一緒に防寒服を着て飛空艇を出てみた。

 テントの中だから薄暗いけど、寒さはそれほどでもない。格納庫の端にストーブがあった。ポットを乗せられるから、携帯食料のスープを温められそうだな。


「石炭ストーブのようだな。はるばるここまで石炭を運んできたようだ」


「隣に薪も積んでありますよ。併用して使えということでしょうか?」


「先行した連中が運んできたのかもしれないな。さすがに石炭で全てのテントの暖房は無理だろう」


 ストーブの近くに置いてあったベンチに座り、ここで一服することにした。さすがにテントの外に出るのはねぇ……。一服を終える頃には体が冷え切ってしまうだろう。

 リトネンさん達は大丈夫かな? 指揮所が近くにあるとは思えないからなぁ。

 待てよ……。俺達も、食事は食堂で取ることになるから、夕食時には皆で寒空の下を歩かないといけないんじゃないか。

 たっぷりと厚着をしていった方が良さそうだ。戻ってきたら、このストーブで温まったところで飛空艇に入ろう。


「簡単なテントなんでしょうけど、やはり寒さを防いでくれますね」


「エンジンが動いているなら暖房は可能なんだが、停止している状態ではなぁ。ありがたい話だと思うよ。これなら厚着をしてブランケット2枚で眠れるだろう」


 それでも寒い時には、飛空艇の外に小さなコンロを置いてお湯を飛空艇の中に循環させると教えてくれた。

 砦の部屋暖房の小型版だと思えば良いのかな? 専用の配管が設置されているらしいから、コンロに載せたタンクとパイプで接続することが出来るらしい。


「最後の手だな。だけどコンロの火を絶やさないようにしないといけないから、たまに外に出て燃料となる薪や石炭を入れないといけないぞ」


 今度は、作戦の度に焚き木を集めることになりそうだな。アデレイド軍にしても、焚き木をそれほど用意できたとも思えないからね。


「ここに居たにゃ! 今後の作戦を聞いてきたにゃ。1日休んで明後日には出発にゃ」


 リトネンさんが俺達を手招きしながら話してくれた。

 だいぶ温まったからね。飛空艇に入って話を聞いてみよう。


 ブリッジ後方の床にリトネンさんが大陸の地図を広げた。

 色々と書き込みがあるから前回使った地図を持ってきたんだろう。


「さすがに無差別攻撃は見送るようにゃ。アデレイド王国はこの大陸に飛び地を作ろうと考えているみたいにゃ。ここを拠点に平野部へ足を延ばすことを考えてたにゃ。その場所は……」


 尾根に隠れた小さな村のようだ。

 少なくとも200ミラル程離れているけど、飛行船なら数時間の距離だからなぁ。


「村? それを拠点にするのか」


「20戸ほどの開拓村と言ってたにゃ。野菜が作れれば主食は運んで来れるにゃ。それに何と言っても、これが決め手らしいにゃ」


 村の直ぐ傍に川がある。地図を辿っていくと、結構山の奥まで続いているな。それにいくつもの支流が流れ込んでいる。


「水力発電ですか!」


「大型工房を維持できるにゃ。爆弾や砲弾をこっちで作れるにゃ」


「帝国側に上手く隠せると良いですね」


「それにゃ! 帝國の小型飛行船の数が増えたと言ってたにゃ」


 多分小型飛行船だけでは無いだろう。地上でも監視体制が充実しているんじゃないかな。

 となると、いつものように攻撃目標に向かって真っすぐに飛んで行ったら、空中軍艦が待ち構えているなんてことにもなりかねない。

 進路をこまめに変えて、目的地を相手に悟らせないようにしないといけないみたいだな。


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