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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-147 自走砲を叩け


 砦を出て3時間近く経つと、前方に砲煙が霞のように漂っているのが見えてきた。

 いよいよ前線だ。帝国軍の自走砲は、前線の後方およそ3ミラルほどに布陣しているらしい。横一線に並ぶそうだから、横方向から砲撃すれば、どれかに当たりそうな気がするな。


「始めるにゃ。ファイネル、急降下しながら並んでいる横を狙うにゃ」


「端から2番目を狙うぞ。外れたら1番目か2番目には当たるだろう」


 メインエンジンの回転数が上がっていく。それに伴って小さな振動がさらに強まってきた。

 ぐんぐん速度が上がるが、まだ降下を始めてはいない。


「俺の方も狙っていきますよ!」


「上部は装甲が薄いにゃ。炸裂弾なら誘爆も期待できそうにゃ」


 上手く行けば砲弾が誘爆するかもしれないってことだな。2連装の大型銃だから、徹甲焼夷弾と炸裂弾を片方ずつに装填してある。戦車だって上部装甲は1イルムに満たないらしい。ヒドラⅡなら問題なく貫通するだろう。

 操縦席から2度ブザーが聞こえてきた。

 どうやらイオニアさんも船尾の銃座に着いたらしい。

 いよいよ始まるようだ。


「行くぞ! テレーザ急降下だ!!」


 ガクンと飛空艇の船首が下を向く。

 故障したんじゃないかと思うほどの機動だ。そのまま急角度で滑るように飛空艇が降下していく。

 直ぐに、前方に並んだ自走砲が見えてくる。前に乗っていた6輪駆動車よりも長さがある。まるで輸送車の荷台に砲架を取り付けたようにも見える。前にトラックの運転席のような場所があるからそう見えるんだろう。


 地上500mほどで水平飛行に移った。すでに自走砲の車列は目の前だ。

 最初の弾丸を放つと、フットレバーを蹴飛ばして次弾を装填する。

 狙いを定めようとした時だ。

 ドォン! と大きな炸裂音と共に飛空艇が揺れた。揺れるというよりまるで急ブレーキを掛けた感じだ。体が前のめりになって安全ベルトが腹に食い込む。

 思わずファネルさんに顔を向けると、笑みを浮かべている。大砲を撃ったってことか! それにしても凄い反動だ。

 ヒドラⅡで2発目を放っていると、今度はブザーの音が短く3度聞こえてきた。


「当たったぞ! かなり低進するな。さすがは長砲身砲だ」


「その次を放って一旦空に上がるにゃ!」


 もう1度先ほどのショックが来るのか……。

 腹に力を入れて、3度目の弾丸を撃った。


 2度目の強い反動を受けると、その場から飛空艇が急上昇に転じる。

 高度2000ユーデほどに上がると、大きく旋回を始めた。

 再び自走砲を攻撃するんだが、見えてきた自走砲の列の何両かが煙を上げている。

 どうやら俺とイオニアさんが放った銃弾も、それなりに効果はあったようだ。

 

「破壊2両、中破が3両というところかしら。ヒドラⅡでは破壊はできないようね」


「しばらくは使えないにゃ。それで十分にゃ」


  テレーザさんが自走砲の車列に飛空艇の軸線を合わせる。

 近づき、急降下に入った。照準器に最初の自走砲が入る直前に発砲する。

 早く撃たないと、あのショックがまたやってくるからなぁ。

 今度は3発目を撃った直ぐ後にショックに襲われた。だいぶ反動がきついから、何とかしないといけないんじゃないか?


 攻撃を終えたところでエミリさんが双眼鏡を片手に俺の座席に近づいてきた。座席の下から下界の眺めて戦火を確認している。


「破壊した自走砲は5両、中破が7両……。ミザリー、砦に戦火報告をしてくれる?」


「了解です。破壊5両、中破7両ですね」


「40両近くあったんじゃないか? 半分は何とかしたかったんだけどなぁ」


「爆弾より確実にゃ。また依頼があるかもしれないにゃ。その前に、砲撃の衝撃を何とかしたいにゃ」


 リトネンさんがぼやいている。

 やはりかなりの衝撃を感じたに違いない。体もそうだけど頭だって後ろから突き飛ばされた感じだからなぁ。


 自走砲を攻撃したところで今度は王都に向かうのだが、さすがにまだ日中だからなぁ。海上1500ユーデに滞空して、日が暮れるのを待つことにした。

 夕食用のお弁当を食べながら、周囲を警戒する。

 陸上からは見えないだろうけど、帝国の空中軍艦や飛行船に遭遇しないとも限らない。

 飛行船なら容易に落とせそうだけど、空中軍艦ともなると果たして3イルム砲で落とせるかちょっと不安だからね。

 3イルム砲の残弾は4発らしいけど、空中軍艦を相手にするには弾数にちょっと不安が残る。


「少し照準がズレてるが、相手は大きいからなぁ。500ユーデなら問題ないだろう。少なくとも2発は確実だ」


「爆弾が小さくなってますよ。横腹に2発、背中に1発では……」


「それでも中破以上の損傷を与えられるだろう。十分だと思うぞ」


落とせなくともしばらく出撃できないようにするだけで、十分に効果があるということだろう。


「長砲身砲の威力は認めますが、反動が半端じゃないですね」


「それが少し気になるんだ。さすがにあれだけの衝撃があるのは、どこかに問題があるかもしれないな。帰投したら工廟長に詳しく調べて貰うつもりだ」


 リトネンさん達も頷いているところを見ると、やはり問題だと思っているに違いない。

 

「さて、テレーザに任せて一服してくるか! このままのんびりと海上から王都に近づくんだからな」


 ファイネルさんが操縦席を下りたところで、俺も銃座から下りて後に続く。

 王都まではまだまだ距離があるようだ。それにリトネンさんの作戦では夜中の襲撃だからね。

 お弁当は早々に食べてしまったけど、夕暮れがどうにか始まったところだ。

 作戦開始までは数時間ありそうな感じだな。


「操船は前の飛空艇より容易になったんですか?」


「そうだなぁ……。船尾に垂直尾翼を付けたから今までよりは操縦桿が利く感じがするな。前は左右のエンジンの回転数を変えていたようなところがあるからな。確かに急旋回ができるのは良いんだが、巡航している時にそんな事をすればそれだけ燃費が悪くなってしまうんだよなぁ」


 小さくとも役立つってことらしい。

 元々は補助エンジンをカバーする目的だったらしいが、それだけではと付けた垂直尾翼らしいんだが効果はあるようだ。


「それより、狙撃で屋根に下りる時には、このハーネスを付けるんだ。ベルトのリングにカラビナが付いている。それをこのウインチのワイヤーに付けてあるリングに通せば足元のアブミを踏み外しても落ちることはない。

 両手を離しても安全だが、引き上げる途中で狙撃しようなんて考えるんじゃないぞ」


 便利そうな代物だ。確かに両手が使えるけど、やはりワイヤーを持っていた方が安心できる。それに不安定な姿勢では狙撃なんて無理じゃないかな。

 一服を楽しみながら、たまに窓から外を見る。

 さすがに海上で帝国軍の飛行船に出会うことはないだろうが、万が一ということだってあり得るからね。船尾方向は船尾銃座に誰もいないから、死角になっているのが唯一の問題だろう。上部銃座もこの飛空艇には無いんだよなぁ。


「船尾方向については操縦席で見ることができるぞ。潜望鏡のような代物が上下に付いているんだ。もっとも近くまで接近しないと分からないだろうけどなぁ」


 タバコを2本楽しんだところでブリッジに戻る。

 俺達が帰ったことを知って、今度は女性達がブリッジを出て休憩をするようだ。

 テレーザさんの席に座って見ると、なるほど頭の上に2つの鏡がある。左手が船尾下方方向で、右手が上方のようだ。

 計器やスイッチレバーの位置は、前の飛空艇とさほど変わりがない。スロットルレバーが3つあるが。手前の1つは補助エンジンのスロットルなのだろう。半分ほど惹かれた位置でロックしてある。その上にある2つは停止位置だから、短い翼の両端にあるエンジンに違いない。


「前の飛空艇とあまり変わらんだろう? 何度か乗ったらリーディルにも操縦させてやるからな」


「楽しみに待ってます。ところで、このスイッチ類は前の飛空艇にはありませんでしたけど……」


「それが3イルム長砲身砲の照準装置とトリガーだ。上に付いているレバーで仰角が変わる。照準鏡は、トリガーの上にある小さな覗き窓だ。600ユーデに照準が合わせてあるから、距離に応じて十字線の位置を変えることになる。照準鏡の下にあるダイヤルで合わせられるが、相手が大きからなぁ。近ければ少し下を、離れていれば上を狙えば当たるぞ。自走砲への砲撃もそんな感じで行ったんだ」


「左右に少し角度が変えられれば良いんですけどねぇ」


「まぁ、無いもの強請りってやつだな。軸線が合えば問題はないさ。テレーザの腕は確かだからな。それに近づけば目標は大きくなるってことだ」


 問題ないってことなんだろう。確かに自走砲を破壊してるんだからね。

 ファイネルさんと、そんな話をしながら時間を潰す。

 どうにか太陽が沈んだところだから、まだ空は明るい。

 時間は19時を過ぎているんだが、夏だから日が長い。王都に近づいてはいるんだろうが、かなり海上に出ているみたいで、東に見えたはずの黒々とした陸地が見えない。そろそろ東に向きを変えた方が良いと思うんだけどね。


 リトネンさん達が戻ってくると、東へと進路を変える。

 エミルさんの話では、1時間もすれば王都の明かりが見えるということだ。

 

「再度、作戦を確認するにゃ。私とリーディルをここにある3階建ての貴族の館の屋根に下ろすにゃ。その後で港の倉庫を爆撃して、20分後に私達を回収するにゃ」


「それほど距離が無いな。倉庫上空で停止して爆撃すれば良いか……。ワイヤーの先端に印を付けなくても大丈夫か?」


「布を巻いておけば良いにゃ。このハンカチを結んでおけば分かるにゃ」


 地図を広げてファイネルさんと話していたリトネンさんが、最後にポケットから取り出したのは、古びた三角巾だった。


「リトネン、いったい何時洗った三角巾なの?」


「洗ったことは無いにゃ。数年前に拾ったにゃ」


 エミルさんが呆れた声でリトネンさんに注意している。

 どうやら前に王都に出掛けた時に拾ったらしい。屋根裏にあったんだろうけど、銃を掃除するために持っていたみたいだ。

 だけど……。ひょっとして俺達が負傷したら、あの三角巾を取り出して治療するに違いないだろうな。

 やはり、エミルさんが言うように、1度は洗った方が良いと思うんだけどねぇ……。


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