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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-139 飛空艇の改造が終わったらしい


 日課の射撃訓練を終えて俺達の部屋に帰ってくると、ミザリーとエミルさんが壁にメモを張り付けて眺めていた。

 時折2人で相談して新たなメモを書き込んでいるんだが、メモ用紙の色を変えているようだ。

 何段かに分けて張り付けてあるけど、赤味がかったメモ用紙は一番下に張り付けてある。


「何を始めたんだ?」


「たくさん帝国軍の通信を傍受したでしょう? 時系列に並べてみて、何か分かるか調べてたんだけど……。どうやら、帝国軍も反乱部隊の拠点を掴めずにいるようね。それに私達が帝国領内に拠点を作っているのをまだ知らないみたい」


 そんなことまで分かるのか?

 思わず一緒に訓練をしていたイオニアさんと顔を見合わせる。

 もっとも、俺にはそんな頭を持ってないからなぁ。

 カップに温くなったお茶を注いで、先ずは一服だ。


「リトネンは作戦会議に出ているが、まだファイネル達が帰ってこない。それはクラウス殿も知っているはずだ」


「各部隊の指揮官が集まる会議でしょう? 特に作戦を割り振られなくとも、会議に出ないとリトネンさんの立場も悪くなるでしょうからね。テレーザさんが一緒ですから、会議で眠ることもないでしょうし……」


 自由奔放な人だからなぁ。今日だって、テレーザさんに引き摺られるようにして部屋を出て行ったけど、そんなに会議が嫌なんだろうか?


「ファイネルも飛空艇を西の砦に運んでから1か月は経つんじゃないか? 『改造だ!』と言って出掛けたが、どこを改造するかをリトネンも知らんようだ」


 ファイネルさんも、それなりだな。多分航続距離を延ばすための改造だろうとは思うんだが、そうなると燃料貯槽の増設ということになる。前に一度、飛空艇の全長を長くして燃料の搭載量を増やしている。あまり大きくすると機動に制限が掛かるんじゃないかな?


「西の大陸から帆走して帰ってきましたからね。それを何とかしようとしてるんじゃないでしょうか? これ以上の武装強化は機体重量の増加に繋がりかねません」


「口径4イルム噴進砲が最大ということか……。その上は6イルムになるのだろうが噴進弾の装填を素早く行うのは無理かもしれんな」


 どんな改造をしたとしても、現状より性能が向上するなら問題はないはずだ。

 そのために居住環境が悪くなるようだと困るんだけどね。


「私達のところでも北東の町が攻撃を受けたらしい。滞空監視網を充実させたらしく住民の被害は100人程度で済んだらしいが……、非戦闘員である住民を攻撃するのは軍としてどうかと思ってしまう」


「次に俺達が同じことをするなら、ますます一般住民の被害が出そうです」


「まったくだな。終わりのない戦になってしまいそうだ」


 恨みの連鎖になってしまったら、そう簡単に終えることができないだろう。

 だからと言って、俺達が今までのような戦を続けたのでは、ますます被害が大きくなりそうだ。

 帝国軍は大陸間の物資輸送で戦線を維持しているんだから、その輸送路を断てば自滅しそうに思えるが、今では大きな船団を組んで上空には空中軍艦を配置しているらしい。

 高高度から行う飛行船の爆撃では、輸送船段に限定的に被害を与えるだけのようだ。

 飛行船は攻撃に弱いからね。空中軍艦と対等に戦えるような船を作れれば良いのだが、俺達の飛空艇を量産化することができないらしい。

 アデレイ王国でさえ量産化ができないような代物をよくも作ったものだと感心してしまう。


「複数の飛行船を使って輸送船団を攻撃しているらしいけど、どうやら帝国軍の輸送船団は海上だけではないようだ。海中を進む船すらあるらしい」


「輸送量を半減させるまでには行っていないと?」


「たぶんな……。食料は重税を課せばどうとでもなる。戦線を少し後退させてはいるようだが、その分空中軍艦による攻撃が多くなったらしい」


 戦術の変更ということになるんだろうか?

 前線を縮小しているような話も聞くが、戦自体は今までと違って広範囲に影響を与えているようだ。

 帝国はいまだに飛行機を実用化していないようだが、飛行機よりも強力で頑丈な空中軍艦を擁しているからに違いない。

 飛行機と比べて、飛行時間、爆装、武装、装甲……、いずれも空中軍艦の方が上だ。飛行機が優れているのは、速度と機動性ぐらいじゃないのかな?

 

「それを考えると飛空艇の改造は燃料搭載量の増加というより武装強化ということになるんでしょうが、これ以上の武装強化は難しいと思うんですよねぇ……」


 イオニアさんが諦め切った表情で頷くと、再びミザリー達の作業に目を向ける。

 端の方から2人で話をしながら、また違った色のメモを張り付けている。

 あの作業は何時まで続くんだろう?

              ・

              ・

              ・

「ファイネル達が5日後に帰ってくるにゃ。そしたら、飛行船狩りを行うにゃ」


 長い作戦会議を終えて戻ってきたリトネンさんが、疲れ切った表情で呟いた。

 俺達がテリーザさんに顔を向けたのは、これ以上の情報はリトネンさんから得られないと思ってのことだ。

 お茶のカップを手に腰を下ろしたテリーザさんが、困ったような顔をしてリトネンさんを見ている。


「簡単に言うと、リトネンの言う通りなんだけど、作戦空域の半分がアドレイ王国になるの。アドレイ王国の領空内に入ったら、1時間毎に位置を知らせることで敵味方識別を行うらしいわ。入る時と出る時も連絡は必要でしょうね」


「ん? 飛行船を攻撃するのか。空中軍艦では無くて?」


「口径3イルムの長砲身砲を搭載した飛行機を、アデレイ王国が開発したらしいの。飛空艇と飛行機を合体させたような代物らしいけど、それなら空中軍艦を落とせると考えているみたい。課題もあるらしいけどね」


 課題は飛行時間らしい。両翼にエンジンを2つ付けたような機体は従来型よりもかなり大きいらしい。飛行時間は3時間程度で大砲も1門だけということだから、数機による攻撃を計画しているらしい。果たして結果はどうなるんだろう?


「3イルム口径の大砲とはねぇ。噴進弾と違って弾速が速いでしょうから、確かに空中軍艦の装甲を打ち抜けるでしょうけど。でもそれなら飛行船にも有効なんじゃない?」


「飛行船は無理みたい。高度を稼げないみたいね。飛行船による爆撃は、当初より高度を増しているわ。現在は3000ユーデ辺りを飛行しているみたいなの。飛行機を確認したら、さらに高度を上げるらしいわ」

 

 与圧した区画を持っているんだろうな。

 飛空艇は与圧されていないから、あまり高く飛べないんだけどね。

 ん? それなら俺達だって飛行船と叩掛けないように思えるんだけど……。


「それができるように改造しているみたいなの。だけど、艇内を与圧するようなことは出来ないと思うんだけど……」


 銃座だってあるし、噴進弾の装填用のハッチだってある。砲塔区画にある窓は開けることだってできるからなぁ。

 小さな区画を作って、そこだけ与圧するような場所さえない。

 どうやって、高度を上がられるようにするんだろう?

 

 翌日からは、地図を広げて作戦空域の確認と、地上の目標物について皆で確認する。

 北の山脈からいくつもの尾根が西に向かっているから、見誤りもあり得るだろう。

 良く晴れた日に、一度飛んでみて地上の目標を見極めないといけないだろうな。

 でも、そんなことは作戦をしながらでも出来そうなんだよなぁ。

 ファイネルさん達が帰ってきたら、直ぐに出かけないといけなくなりそうだ。


「結構似た尾根が続いているのよねぇ……。この峰とこの峰の位置関係で現在位置を確認できそうだけど、いつも晴れているとは限らないし夜ではどうしようもいないわ」


 4000ユーデを超える峰なら確かに目印としては有効だろう。先端が尖っているのも良い感じだ。

 雲の上に出られるなら、300ミラルほど離れていても飛空艇の位置確認はできるらしい。月明りなら夜でもなんとかなりそうだけど、さすがに曇天の夜にはそれも不可能だろう。

 そんな時には、コンパスと飛空艇の速度と経過時間を計算して求めることになるのだろう。どれぐらいの誤差になるか分からないけど、何度も試してみれば良いと思うんだけどね。帝国領内で作戦行動を取っていた時も、現在位置はきちんと把握できていたし、なんといっても大陸間を10日ほど掛けて渡ってきたんだから。


 そんなことで日々を過ごしていると、ファイネルさん達が帰ってくる当日になった。

 到着時刻は昼過ぎになるらしい。

 簡単な昼食を終えると、北の広場の木陰に腰を下ろして飛空艇の到着を待つ。


 1時間ほど待っていると、イオニアさんが尾根から顔を出した飛空艇の姿を見付けてくれた。まだ20ミラルほど離れているようだ。

 到着には、もう少し時間が掛かりそうだな。


 ドワーフ族の若者が、赤く塗られたバトンを持って広場の中央に立つ。

 彼の誘導に従って、ゆっくりと飛空艇が下りてくる。

 地上100ユーデほどで、艇内に格納された着陸ギヤが顔を出す。

 1つの着陸ギヤには、直径1フィール半ほどの車輪が2対取り付けられている。主翼の付け根とブリッジのやや前方よりの3か所にあるんだが、自力で車輪が回ることが無いから、装甲自走車を改良したような頑丈な牽引車が広場の端に待機している。


 ゆっくりと舞い降りたようだが、着陸ギヤのダンパーがガクンと沈みこんで元に戻る。

 直ぐに側面の乗降口が開き、ファイネルさん達が下りてきた。


「出迎えとは嬉しいね」


「出迎えもそうですけど、どちらかというと改造の方に興味がありました。どこも改造していないように見えるんですが?」


「そんなわけないだろう。よく見るんだな」


 ファイネルさんの言葉に、再度飛空艇を眺める。牽引車に引かれて、ブンカーに移動していく飛空艇の形は変わっていないように見えるんだよなぁ……。


「翼を付けたのか!」


「さすがにマストよりは、近代的だろう? 船体にぴったり張り付いているから目立たないが、左右の翼を広げれば大海原を渡った時の帆の大きさより風を受ける面積が大きいんだ。翼の開き具合や角度も変えられるから、少しは速度を出せるんじゃないか」


 俺の肩をポン! と叩いて笑みを浮かべている。

 新たな翼は、鳥の翼というより甲虫の羽のようだ。斜め上方に展開されるのだろう。せっかく取り付けたマストは撤去してある。

 だけどそれだけじゃないんじゃないか?

 先ずは、俺達の部屋に移動してからだ。ゆっくりと改造の中身を教えて貰おう。


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