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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-135 帝都の惨状


 黒煙の上がる帝都を目指して飛空艇が飛んでいく。

 夕暮れが迫る中、帝都を取り巻く城壁内の広い範囲で黒煙が上がっているのが分かるようになった。


「ひでぇなぁ。焼夷弾を投下したってことのようだが、かなり燃え広がっているぞ。火の手を防ぐために大通りで区画を整理していたようだが、それを超えて延焼している」


「住民の被害も大きいに違いないにゃ……。あれは!」


 それは俺にも確認できた。大きな炎が数か所、急に空を焦がすかのように広がった。

 すでにアデレイ王国軍の飛行船は東に向かって移動しているだろうから、あの攻撃は先ほどの小型飛行船の攻撃ということになるのだろう。

 あれだけの炎を上げるとなると、8イルム砲弾を改造した爆弾かもしれない。俺達だって翼に下げていたのは6イルム砲弾の改造版だから、帝国内の反乱軍はかなり高度な技術を持っているのだろう。


「アデレイ王国軍は俺達と同じ6イルム砲弾を元にした爆弾だったはずだ。あれはそれより大きいぞ!」


「住民を殺すような反乱軍なら同盟は無理にゃ。帝国軍と共倒れになって欲しいにゃ」


 帝都の城壁に3ミラルほどまで近づいて北上する。

 黒煙が飛空艇の高さまで上がってくるから、ファイネルさんが速度を上げたようだ。

 帝都の広範囲に火事が起こっているようだけど、煙の向きを考えると西から東に延焼しているように思える。

 新たに落とされた焼夷弾は西の区画を狙ったようだな。再び火の手が東に向かって伸びているようだ。


「炎を避けて運河に飛び込んだみたい。かなりの人が蠢いてるわ」


「命からがら逃げ出した連中は助かったに違いない。家財を持ち出そうとするような連中は、炎に巻き込まれたんだろうな。どう考えても帝都の2割は焼け死んだんじゃないか?」

「まだ生きてる連中もかなりの数にゃ。ミザリーが傍受した通信は、助けを求めるものばかりにゃ」


 アデレイ王国としては報復になるんだろうが、少しやり過ぎじゃないのかな?

 それとも、この惨状すら生ぬるい攻撃を帝国軍は王都に対して行ったんだろうか?

 人の好さそうな王子様だったけど、このような残酷な一面を持ち合わせていたんだな……。


「さて、次は軍港を眺めてみるにゃ。夜だけど、高度を下げれば様子ぐらいは分かるにゃ」


「軍港までは、この高度を保つぞ! リーディル、あの飛行船は見えないか?」


「いませんね。すでに去ったのでしょう。どちらに向かったかぐらいは知りたかったんですけどね」


 後ろを振り向いて答えたんだが、リトネンさんの残念そうな表情でこちらを見ているのに気が付いた。

 偵察用だから、一戦するつもりだったのかな?


「王都から軍港へ帝国軍の暗号通信です……」

「いよいよ本格的に帝国軍が動き出したのね。少し遅いように思えるけど、それだけ混乱してたんでしょうね」


 エミルさんが席を立ったようだ。ミザリーの隣に移動して暗号解読を一緒にするつもりなんだろうな。

 さすがに帝都から20ミラルも離れると、煙りもだいぶ薄くなっている。

 再建にはかなりの時間が必要に思えるが、それによって帝国が直ぐに疲弊することはないだろう。とはいえ、俺達にとっては朗報だ。


 リトネンさんがエミルさんとファイネルさんを呼び寄せ、帰路の航路について話し合いを始めた。

 大陸間を渡ることになるからなぁ。それに、増槽が1つ足りない状態だ。

 補助エンジンだけで飛んでいくことになるんだろうが、聞けてくる話ではそれでも燃料が足りないらしい。


「計画通りに帆を張ることになるにゃ……」


「まぁ、昔は帆船で海を渡ったんだからなぁ。先人達の苦労を分かちあえると思えば良いんじゃないか?」


「高度1500程度なら、北西の風が吹いているらしいから、一旦北上してこんな感じに南東方向に移動できるわよ。


「緯度は天測で分かるにゃ。経度は時計で分かるのかにゃ?」


「一応可能よ。砦を立ってだいぶ経つから、誤差はあるでしょうけど軍港を通り過ぎた時刻を基準にすれば、天測でおおよその経度を出すことは可能だわ」


 とりあえず迷子になることはないようだ。大きな大陸なんだからどこかに到着すれば何とかなるんじゃないかな。俺達が暮らしていた元王国は、イグリアン大陸の北端だからね。海岸線を北上すればたどり着けるはずだ。


 軍港を通り過ぎても2時間ほど北上を続ける。

 俺達の王国とアデレイ王国の王都を無差別攻撃した後の帝都爆撃ともなれば、俺達の俺達がイグリアン大陸の北部からやってきたと知ることになるだろう。

 韜晦航路など考えずに帰りたいところだ。


「そろそろ軍港から2時間だ。進路を東に回頭するぞ!」


「第1巡航速度で2時間ね。次は東に……」


「増槽の燃料が切れるまでエンジンを回すにゃ!」


「了解だ! 明日の夜ぐらいまで持ちそうだな」


 ファイネルさんの話では、第1巡航速度で5日ほどで俺達の大陸に到着できるらしい。

 増槽内の燃料が1日で尽きるとなれば、残り4日の距離を帆走で進むことになる。

 砲等区画に飲料水の真鍮の容器に3つ、燃料を入れて保管してあるからそれを使って、南に下がった分を取り返すことになるのだろう。

 毎日数時間ほどエンジンを駆動して、北東に進む計画のようだ。

 

 テレーザさんとミザリーがブリッジを出ていく。

 夕食抜きだったからなぁ。スープを作ってくれるんだろう。ビスケットにコーヒーだけではちょっと味気ないからね。


「明日の午後にマストを立てるぞ。夜間作業はちょっと危険だろうからな」


「帆はマストを立てれば直ぐに展開できるのかにゃ?」

 

「帆桁に丸めてある。紐を解けば良いとドワーフの連中が教えてくれた。風向風速計も明るい時に使っておきたいからなぁ」


 ファイネルさんも心配なんだろうな。上部銃座から飛空艇の屋根に上って作業をするらしいのだが、安全帯を結んでおけば足を滑らせても飛空艇から落ちる心配はないようだ。


 ミザリーがスープが出来たと知らせてくれたので、交替しながらの食事が始まる。

 俺は最初に頂くことになった。ファイネルさんは後の組だ。飛空艇の操縦をしているからねぇ。テレ-ザさんに先を譲るらしい。


 カップにスープを入れて貰い、ビスケットのような固いパンをスープに浸して食べる。その外には、干した杏子が3つと個人用のカップに半分ほどのワイン。

 あまり体を動かさないから、これで十分なんだろうけど、ちょっと足りない気もするなぁ。

 後でコーヒーを飲んでお腹を満たそう。


「追ってくる連中はいないようだ。だが、あの惨状だからなぁ」


「前方も注意していますが、先行したアデレイ王国の飛行船の姿も見えないですよ」


「2時間ほどの時間差があるなら当然だろう。それに回頭した時刻は私達より早いはずだ」


 周囲に敵すらいない状況では不安が増してくるようだ。

 ミザリーが心配そうな顔をして、俺の隣で残ったスープを飲んでいる。

 俺も全く不安がないわけでは無いが、果たして帝国軍の空中軍艦はおってくるのだろうか?

 あれだけの惨状だ。どちらかといえば民衆を沈めることを優先するだろう。報復を考えるのはそれを終えてからになるんじゃないかな?

 住民の衣食住を整えるだけでも、膨大な資材が必要になるはずだ。近隣からなら自動車も利用できるだろうが、遠方となると鉄道もしくは飛行船になる。鉄道線路はあちこち爆撃して破壊しているからなぁ。飛行船や空中軍艦を使った物資輸送が行われるはずだ。

 その話を皆にしてみると、ハンズさんが感心した口調で、肯定してくれた。


「かなりアデレイ王国軍の地上部隊が頑張っていたからなぁ。小型飛行船を使った破壊活動は今後増えると思うぞ。彼らは単純に線路を破壊しただけじゃないようだ」


 線路を枕木に留める太い釘を緩めることで、何度か通る内に脱線させることも出来るらしい。

 鉄道網が発達しているとなれば、線路に打たれた釘の数は膨大なものになる。

 釘の緩みをいちいち確認すること困難な話だ。帰って爆破されていた方が明確だから修理もしやすいことになる。


「面白い作戦ですね。いつ脱線するか分からないとなれば安心して利用することもできないでしょう」


「まぁ、低速で数両ならば問題はないだろう。だが重量物を多く運べば脱線する可能性が出てくる。アデレイ王国は、帝都破壊をかなり前から考えていたかもしれないな」


「問題は、これが両国にどんな影響を与えるかだ。帝国としても現状の戦を続けるとは行かぬだろう。一気に戦の炎が拡大しそうに思えてならない」


 互いに町や村を爆撃し合うのだろうか?

 犠牲者がどんどん増えて、戦争継続が困難になるまで戦が続くというのも考えてしまうな。

 だが、一般住民を殺戮するような戦を始めたなら、それを終えるのはもっと苦労しそうにも思える。

 停戦交渉をするとしても、その見返りを互いに要求し合うだろうからね。


「ますます終わりが見えなくなってきたな。単に俺達の大陸から帝国軍を追い出すだけでは済まないかもしれんぞ」


 ハンズさんの言葉に俺達が力なく頷く。

 戦は拡大するってことなんだろうな。反乱軍も進駐してきた帝国軍相手の破壊活動を主体とする戦から、反撃に移ってきたからなぁ。

 残ったワインを飲みほしたところで、俺達の休憩を終えることにした。

 ファイネルさんがお腹を空かして待っているんじゃないかな。


 夜間は俺達男性3人とエミルさんで当直に着く。

 朝までだから、ファイネルさんも俺に操縦を替わってもらいたまに一服を楽しんでいる。

 操縦といっても、羅針盤で進行方向を一定に保つだけだ。あまり操縦桿を動かす必要もないから、操縦席に座って羅針盤を眺めるだけで十分だ。

 エミルさんが当直に入っているのは、帝国軍の無線の傍受が目的らしい。たまに通信機から聞こえる信号音をメモに残しているところを見ると、帝都の混乱はまだまだ続いているのだろう。


「救援要請の通信が減って、部隊間の連絡が多くなってきたわ。少しずつ混乱が収まっている感じね。空中軍艦が西から兵士を中隊規模で運んできたみたい」


「新たな王国が動き出すんじゃないか? 帝国の混乱は俺達にとっては歓迎すべきことだが、さすがに明日の夜には通信を傍受できなくなるかもしれないぞ」


 地上からなら最大でも200ミラルほどらしいが、2000ユーデほど上空にいる飛空艇からなら1000ミラル近く通信を傍受できるらしい。

 どんな些細な通信でも、メモに残しておけば反乱軍の本部が上手く活用してくれるに違いない。

 エミルさんとミザリーが作った膨大な通信メモが反乱軍へのお土産になるのだろう。


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