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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-132 やって良いこと、悪いこと


 拠点があわただしく感じる。

 どうやら、撤収の方向で動いているようだ。

 問題はいつ帰投するかなんだが、帰投日とその前の作戦について指揮所では連j津会議が行われているらしい。

 疲れた表情のリトネンさんを、エミルさんが引き摺るようにして指揮所へと連れて行った。

 ちょっと可哀そうな気もするけど、俺達の隊長だからなぁ。

 もうちょっと頑張って欲しいところだ。


「帝都の爆撃をしての帰投になるとエミルが言っていたが、住民に爆弾を落とすのはなぁ……」


「いくら戦は非常であると言っても、やって良いことと悪いことぐらいの分別は持ちたいところだ。この大陸の連中はそれすら理解できないということかもしれん」


 ファイネルさんの呟きにハンズさんが言葉を繋げる。

 砲塔区画でタバコを楽しんでいる俺達に、コーヒーくぉ運んでくれたイオニアさんも頷いているようだ。

 イオニアさんも、今日は珍しくタバコを咥えている。


「問題は我等にその指示が下った時だ。リトネンが悩むわけだな」


「リトネンは鷹の目の薫陶を受けているからなぁ。敵は敵で容赦なしだが、住民に銃弾を撃つようなことはしないはずだ」


 軍人なら上官の指示は絶対だが、俺達は軍組織を取ってはいるが反乱軍であって軍人の自覚はあまりない。

 その辺りが非情になれない原因かもしれない。

 だけど無差別攻撃を始めたら、この戦の終着点が見えなくなってしまいそうだ。

 どこまで続くか分からない戦だが、俺達の住む大陸から帝国軍を撤退させれば良いだけだと思っていたんがなぁ。


「帰りの燃料を調達する条件になりそうだな。帝都爆撃を指示されたら、貴族街を狙おう。王侯個族の連中がこの戦を始めたはずだから、良心の呵責に悩まずに済みそうだ」


「それが落としどころ……、だろうな。次はアデレイ王国軍と共闘できるかは砦の連中が判断してくれるに違いない。空中軍艦を1隻撃沈したのだ。とりあえずは成果を示せたと言って良いだろう」


「放っておいても、もう1つの反乱勢力との戦は続きそうですね。でも、1つ心配なのは反乱勢力の方が武器が進んでいるように思えるんですが?」


 今まで黙って聞いていた俺が急に話題を出したから、3人の顔が俺に向けられた。

 かなり表情が硬いんだが、忘れていたわけでは無いんだろうな。


「そういうことか……。リーディルの危惧ももっともだと思う。反乱軍が反乱軍であるなら問題はないが、反乱軍が帝国を乗っ取る事態になったら大問題だな」


「あの爆発跡を見ればそれが分かる。空中軍艦は強力でも、それを上回る速度と高度を取れる飛行船があれば、いつでも町を破壊できるのだからな。とはいえ数は少ないのだろう。今のところ破壊された町は1つだけだ。ミザリーとエミルの無線傍受でも、他の町での異常はないようだった」


 あれは、反則も良いところだ。

 少なくとも戦とは言えない気がするな。戦をしたことがない人物による恫喝手段かもしれない。


 ん! 戦を知らない……。ひょっとして、例の反乱軍は軍人ではないのかもしれないぞ。


「もし、王侯貴族を恨んだなら軍を取り込んでの反乱軍を組織すると思いますが、まったく軍の協力が得られない場合はどんな手段で反乱を企てるんでしょうか?」


「お前も面白いことを考えるな……。そんな連中なら、爆弾を作って破壊工作に専念するんじゃないか? 飲料水に毒を混ぜるなんてこともやりそうだな。普段は民衆と同じように生活して表面を繕っているから、中々捕まえることができないぞ」


「帝都に紛れようとするのは止めておけ。風俗習慣が異なるから直ぐによそ者とばれてしまうぞ」


 その割には、俺も参加するぞ! と言い出しそうな顔をしているハンズさんなんだよなぁ。


「いや、俺もそんなことは考えてませんよ。例の反乱軍の方です。あまり姿を現さずに大規模破壊を行うのは、軍人の考えではないように思えたので……」


 3人が互いに顔を見合わせている。確かに……、という感じだな。


「あり得るか……。だとしても、貴族でもない連中が飛行船を手にできるとも思えんのだが」


「金策ならいくらでもあるぞ。一番簡単なのが麻薬の密売だな。……待てよ。確か、こっちにやってきたばかりのころに、ミザリーが密売の通信を傍受したことがあったな?」


 海賊なら裏社会での組織力もあるだろうし、非人道的な戦も行えるに違いない。

 帝国を恨んだ貴族が海賊とつながったということかな?

 今のところ推測でしかないが、そいつらが帝国を乗っ取ったら力による政治を始めそうだ。今より酷い世界になってしまうのは確実だろう。

 まだ直接交戦をしていないけど、新たな敵として認識していた方が良いのかもしれない。


 急に扉が開いて、げっそりとした表情のリトネンさんが飛空艇に戻ってきた。その後ろから、同じく表情のすぐれないエミルさんが入ってくる。


「ようやく帰れるにゃ。テレーザ達を呼んで欲しいにゃ。ここで最後の作戦を伝えるにゃ」


 とは言っても、実際に作戦内容を話してくれたのはエミルさんからだった。まぁ、いつものことだから誰も気にはしない。


「すると、帝都爆撃を行ってからの帰投になるのか?」

「アドレイ王国軍はそうするみたい。私達にも協力を求めてきたから、施設破壊を確約してきたわ。もっとも飛空艇の爆弾搭載量があまりないことは指揮所も知っているから、なるべく大きな打撃を与えて欲しいと念を押されたけどね」


「大きな建物を破壊すれば良いってことか。それなら貴族街に落とせば問題ないな」


「問題はあるぞ。俺達の出発がアデレイ王国軍が出発して2時間後ということだ。追跡部隊対策だろうが、場合によっては空中軍艦との一戦がある。すべての爆弾を投下すれば空中軍艦を落とせないだろうに」


「アデレイ王国軍の飛行船が逃げる時間を稼げれば十分にゃ。飛行船も真っ直ぐにアデレイ王国に帰投するわけでは無いにゃ。何度か大きく方向を変えると言っていたから、空中軍艦相手に一撃離脱を何度かすれば目的を果たせるにゃ」


「ちょっと待ってくれ。それって増槽を付けた状態で行うのか? 焼夷弾を括り付けた状態で戦闘するなんぞ、命がいくつあっても足りないぞ!」


「増槽は1つにゃ。水の運搬容器5つに燃料を入れて砲塔区画に運び入れるにゃ。空中で給油すれば良いにゃ。それと飛空艇に帆を付けるにゃ。上手い具合に上空には風があるにゃ。西風を捉えて海を渡れば良いにゃ」


 艇と言うぐらいだから船になるんだろうけど、空を飛ぶ帆船になるのか。

 他の飛行船からその姿を見てみたいものだ。


「風が無ければ、低速で補助エンジンを動かすということですか。時間は掛かりますが帰れそうですね」


「だが、飛空艇内とはいえ砲塔区画の側面装甲は銃弾を弾く程度だ。空中軍艦を相手に一撃離脱をするのは、かなり無茶だぞ」


 ファイネルさんの言葉に小さく頷いているけど、多分やるんだろうな。

 でも、相手が来なければまったく問題はないだけどね。


 出発は3日後になるらしい。

 翌日は上部銃座銃架を使って高さ6ユーデほどの帆柱が作られた。帆桁もあるから、かなり本格的だな。ある程度は進行方向を制御できるかもしれない。

 帆はテントの布を使って軍属の小母さんが作ってくれた。

 ロープと滑車を使えば1人でも帆を上げられそうだが、これはハンズさんが行うらしい。

 安全帯をしっかりと結んでおけば、銃座からの作業はそれほど危険はなさそうだ。


「なんとも奇妙な飛空艇になってしまったな。砦の連中の笑い話になりそうだ」


「無事に帰れるなら、笑い話でも十分だ。それに空飛ぶ帆船など、おとぎ話でしかなかったからなぁ。それを動かせるとは思わなかったぞ」


 ファイネルさんの嘆きに、ハンズさんが答えている。ハンズさんの方は肯定的な感じだな。

 ハンズさんが老人になった時に、孫を抱いて「お爺さんは、昔を飛ぶ帆船に乗ったことがあるんだぞ!」と自慢話をしている姿が目に浮かんでくる。

 結果良ければ全て良し、ということだろう。それまでの経過を無視できる。


 食料と飲料水の積み込みを終えると、たくさんあったテントが畳まれていく。

 明日やってくる予定の飛行船に積みこめない荷物はログハウスの中に保管しておくそうだ。

 食堂も畳まれてしまったから、飛空艇内の給湯室で簡単なスープを作り、ビスケットのようなパンを浸して食べる。

 エミーさんと王女様も自軍に戻ったから、ちょっと艇内が静かになった気がする。


「明日は出発だが、爆撃の飛行船が飛び立ってから2時間後に出発で良いんだな?」


「それが約束にゃ。帝都上空に向かい、その後西に向かうにゃ。帝都上空で30分経っても空中軍艦が現れない時には、それ以上待つことはしないにゃ」


 時間差は2時間半か……。飛行船なら60ミラル以上帝都から離れているはずだ。

 追跡は難しいだろうな。


 帝都爆撃の朝。朝食を終えて外に出てみると、大勢の兵士が荷を纏めていた。

 補給物資を運んでくる飛行船だが、今回は拠点の撤収が目的だ。

 燃料と爆弾だけを運んでくるに違いない。

 俺達の飛空艇は、増槽を含めて燃料は満杯だし、短い翼の下にも爆弾が4発吊り下げられている。

 出掛けるのを待つだけだ。

 一服しながら様子を見ていると、山影から飛行船が現れた。

 係留綱が下ろされると、兵士達がろくろを巻いて着底させている。

 爆弾と燃料容器が下ろされると、作業に関わらない兵士達が飛行船へと乗り込み始めた。


「やはり大きいですね。帝国の飛行船よりも大きく見えます」


「輸送特化だからなぁ。それにしても爆弾をだいぶ運んできたようだぞ。燃料もあれでは余るんじゃないか?」


 余った品は、残しておくのだろう。今年中には、再び戻ってくることになりそうだからね。

 作業を見ている俺達のところに、エミリーさんがカゴを持って走ってきた。


「艇内で食べてください。また会えると良いですね」


「こっちこそ、お願いしたいぐらいだよ。ミザリー達と組めば、もっと帝国の情報を調べることが出来ただろうからなぁ」


 カゴの中身は果物だった。夏の果物だから杏のようだ。干し杏よりもはるかにありがたい。

 爆撃用飛行船に向かって歩き始めたエミーさんに手を振ると、とりあえず1個食べてみることにした。

 酸っぱいけれど、やはり干した杏よりも味が良い。みずみずしいからそう思うのかな?


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