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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-110 軍港攻撃


 横幅20ユーデ、長さ50ユーデほどの倉庫が4棟毎に区画されて並んでいる。

 かなり規模の大きな倉庫群は、軍港の反対側に直径200ユーデほどもある広場が作られてあった。1つの倉庫群と隣接する倉庫群とは20ユーデほどの横幅を持った通りを挟んで設けられている。

 明らかに火災対策ということに違いない。

 爆弾を投下しても、消火活動が適切に行われるなら、1区画の倉庫群だけに影響を限定できるということだ。


「面倒な作りだにゃ……。リーディル、炸裂焼夷弾を離れた倉庫に打ち込むにゃ」


「了解です。巡航状態なら、3回は放てるでしょう」


 イオニアさんやハンズさんもいるからなぁ。広範囲に1イルム半の炸裂焼夷弾を放てるに違いない。


「ファイネル。爆撃の後は輸送船への砲撃にゃ。回頭して攻撃を続行するにゃ」


「了解。……イオニア、反転して噴進弾を輸送船に放つぞ。再装填は任せたからな!」


 嬉しそうに、砲塔区画にいるイオニアさんに伝声管で話をしている。

 さて、だいぶ近付いてきたぞ。左手奥を狙うか……。


 飛空艇が高度を下げる。

 爆撃だけでなくヒドラⅡ改の砲撃も行うとなれば、高度500ユーデほどが望ましいからだろう。


 斜めに倉庫群に突き進む感じだな。

 倉庫群の真ん中を爆撃するかのように、高度を下げていく。


「リーディル。高度500で水平飛行に移る。いつでも発射してかまわんぞ!」


「了解。もうすぐですね……」


 落下する感じが突然消えた。同時にトリガーを引いて、左手前方の倉庫に炸裂焼夷弾を叩きこむ。

 炸裂する炎を見ながら、右足で装填レバーを蹴りつけて、次弾を焼く室に送り込んだ。

 数十は倉庫が並んでいるから、適当に奥の倉庫に向かって弾丸を放つ。

 丈夫な架台に取り付けられたヒドラⅡ改ではあるが、発射時の衝撃は肩を蹴りつけられるように伝わってくる。

 耳栓をしていても、大きな銃声がブリッジ内にかなり響く。

 3回目の射撃を終えて弾丸の装填をしている内に、倉庫群は眼下から消えていた。


 弾薬ケースからヒドラⅡ改の給弾マガジンに3発ずつ装填をして次の攻撃に備えていると、飛空艇は時計周りに回頭を始めた。


 次は岸壁に接岸中の輸送船を攻撃することになる。操縦はテレーザさんが行って、ファイネルさんは噴進弾の狙いを付けているようだ。

 接岸した輸送船が飛空艇の軸線上に乗る。

 どんどん近づいてる輸送船はファイネルさんに任せて、右手に見える倉庫群に炸裂焼夷弾を撃ち込んだ。

 

 次弾を装填しようと右足をレバーに掛けようとしていると、足元からオレンジ色の火炎が前方に伸びていく。

 噴進弾を放ったようだ。

 最初の爆撃と俺達が撃ち込んだ炸裂焼夷弾によって、倉庫群のあちこちから火の手が上がっている。

 まだ燃えていない倉庫を狙って、さらに炸裂焼夷弾を撃ち込む。


 再び軍港から遠ざかったが、イオニアさん達は噴進弾の装填に忙しいに違いない。

 ファイネルさんの席でブザーが鳴ると、再び回頭が行われる。

 

 もう1発銃弾を撃ち込めば、次は炸裂弾になる。

 クレーンにうまく当たれば良いんだが……。


 どうにか1基のクレーンの動力元の箱に打ち込むことができたから、ホッと胸をなでおろす。

 3隻目の輸送船は港の中に係留されていた。

 噴進弾を3発撃ち込まれて大炎上していたが、だいぶ岸壁から離れてしまったからなぁ。クレーンを狙った3発が有効弾となったかどうか分からずじまいだ。

 そのまま飛空艇は北に向かって高度を上げていく。

 陸地が見えなくなったところで東に進路を変えたが、30分ほど進んだところで今度は南進するのだろう。


 攻撃を加えてきたのは小型の飛行船ぐらいに思われたんじゃないか?

 北に向かって飛んで行ったと証言してくれるに違いない。

 

 1時間ほど過ぎたところで、イオニアさんとハンズさんがブリッジに入ってきた。

 ハンズさんは船尾の銃座にいるから、攻撃成果の報告に来てくれたんだろう。


「倉庫群は半分以上炎上しているように見えた。少なくとも被害は三分の一は確実だろう。誘爆している倉庫群も確認できたぞ。消火はかなり困難だろうから、まだ火災を生じていない倉庫に水をかけるぐらいの事しかできそうにないな。

 輸送船は3隻とも火災を起こしている。

 接岸していた2隻は炎上だけでは済まないかもしれない。積み荷に砲弾があるなら誘爆は確実だ。

 クレーンの被害は確認できなかった。俺とイオニアも攻撃したんだが……」


「私からも良いですか?」


 珍しくミザリーが声を出した。


「軍港から平文で援軍を要求する電文が何度も発していました。送り先は作戦本部充てになっていました」


「了解にゃ。しばらくは帝国軍の電信に耳を傾けて欲しいにゃ。電信の内容と時間を書き込んだメモを作って欲しいにゃ」


 役立ったことがうれしいのか、ミザリーが笑みを浮かべている。

 エミーさんも椅子を持参して隣に座ったから2人で確認するのかな?


「後は拠点に帰るだけにゃ。交代で休憩を取るにゃ。エミルには簡単な報告書を頼むにゃ」


 エミルさんが頷いているけど、リトネンさんも一緒に作るんだろうな。


「さて、一服するか! リーディル出掛けるぞ」


 ファイネルさんが俺を手招きしてるから、銃座を降りて一緒にブリッジを出ることにした。

 

 砲塔区画に行くと、ハンズさんが砲塔区画においてある自分のバッグからワインを取り出した。

 ボトルを手に持つと俺達に向ける。

 バッグに入れてある真鍮製のカップを取り出し、ハンズさんからワインを注いで貰った。


「おっと! 半分で良いぞ。酔ったら飛空艇がどこに飛んでいくかわからないからな」


「確かにな……。まあ、帝国本土の最初の攻撃が成功した祝いだ。残りはイオニア達にも振舞わないと」


 カップをカチンと合わせて、一口飲む。

 いつもより甘さがあるな。ということは良いワインに違いない。


「高かったんじゃありませんか?」


「いつものワインの3倍だ。まあ、祝い用として2本買いこんであるぞ」


「もう1本は、空中軍艦ってことか? あいにくと今回は来なかったな。すでに2度進路を変えている。俺達がどこに向かったかを帝国軍が知ることはないだろうし、途中で俺達を見つけたとしても追いつくことはできないだろう」


「だが、進路がばれないとも限らない。休憩を終えたら、船尾銃座で後方監視を続けるよ」


 確かに後方監視は必要だろう。

 高度は2000ユーデほどだから、西に見える大山脈のおかげで人々が暮らす山脈の西側から飛空艇を見ることはできない。

 交通の便が悪いということで山脈の東に住む人達はあまりいないことも、俺達にとっては幸いなことだ。


「そろそろ朝日が昇るぞ! だいぶ周囲が見えてきたが拠点の位置はわかるんだろうな?」


「ちゃんと地図に落とし込んであるわ。向こうに見える2つの高い峰を過ぎたら尾根を越えて西に向かえば良いわ」


 山頂の雪は夏まで残りそうな高い峰だ。

 かなり遠回りしているように思えるけど、帝国軍に知られないためなんだからあきらめるしかなさそうだな。


 1時間後に尾根を越えると、今度は南に向かって飛ぶ。高度は2300ユーデらしいが、すぐ下に山麓が見えるんだよなぁ。


「前方から発光信号です! 谷の北側の監視所からですね」


 チカチカと短い光が岩陰から発せられている。エミーさんが同じような感覚で信号を送ると直ぐに発光信号が止まってしまった。

 俺達に拠点の位置を知らせるだけの信号だったに違いない。


 やがて大きなU字型の谷が見えてきた。

 飛行船が停泊しているから、間違いなく拠点に違いない。

 上空に向かって、ライトの信号が振られている。

 その地点を目指してゆっくりと飛行船が高度を落としていった。

 着地の衝撃はほとんどない。フェイネルさんの絶妙な制御ということになるんだろうな。


「飛空艇の着地を確認。『ジュピテル』機関停止……、前翼エンジン停止続いて尾翼エンジン停止……」


 テレーザさんが歌い上げるような口調で、飛空艇の停止シーケンスを進めていく。


「どうにか、帰ってこれたにゃ。とりあえず作戦遂行の報告をしてくるにゃ」


 リトネンさんがエミリさんとエミーさんを連れてブリッジを出て行った。

 さて、外で新鮮な空気を吸いに行くか!

               ・

               ・

               ・

 朝食を食べていると、俺達のテーブルにリトネンさん達3人がトレイを持ってやってきた。

 どうやら、指揮所から解放されたみたいだな。

 

「なかなか信じて貰えなかったにゃ。エミーが何とか説得してくれたけど、私達だけでは信用されなかったに違いないにゃ!」


 リトネンさんがプンプンしている。

 怒りながら朝食を食べるのは、お腹に良くないと思うんだけどなぁ。


「それで、これを渡されたの。ピクトグラフという機械なんだけど、この照準器で眺めた景色を映し取ることができるらしいわ。

 通常画と拡大画を取れるらしいんだけど、拡大と言ってもオペラグラスで見た風景ぐらいの拡大ね」


「要するに証拠を見せろ! ってことか? まあ、信じられないのも無理はないけどなぁ」


「でも面白い機械ですね。どれぐらい撮影できるんですか?」


「12枚らしいわ。1度撮った画像は何枚も複製できると言ってたから、飛空艇の前で最初の1枚を撮ってみましょう」


 記念になりそうだな。

 朝食を終えたら、顔を洗っておこう。鏡も見といた方が良いかもしれない。

 思わず俺達が自分の衣服に視線を移したのを面白そうな顔をしてエミーさんが見ている。

 

「スイッチを押せば撮影できますから、近くを通る兵士に頼みましょう。そうすれば全員一緒に写せますよ」


 エミーさんの言葉に、リトネンさんがうんうんと頷いている。機嫌はすでに直っているようだ。

 さて……、早いところコーヒーを飲み終えて、身だしなみを整えておこう。

 


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