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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-099 やはり戦艦は頑丈だ


 高度2500ユーデは真冬の寒さだ。

 船内は暖房があるけど、上部砲塔はヒドラⅡ改の銃身方向明けの装甲板だからなぁ。風を受けると身を切るような寒さらしい。


「まあ、今回は上部砲塔に上がらないから問題はないが、砲塔区画も結構冷えるな。後部銃座はそれほどでもないぞ」


「一服できるんですから、少しは我慢しませんと……。とはいえ、噴進弾の装填時には下のハッチを開けるんですよね」


「防寒服と革のミトンを付ければ問題ないさ。これぐらいで文句を言ってたら、真冬の塹壕で敵と戦っている連中から怒られそうだ」


 寒いと言っても、水筒が凍るような温度ではない。

 何度か雪の中の作戦を行ったけど、あの時の寒さから比べればここは春にも思えるからなぁ。


「それじゃぁ、そろそろ戻ります。直ぐにファイネルさんが来ると思うんですが」


「ああ、 監視をさぼらんでくれよ。そろそろ薄明が始まるからな。遠くまで見通せるはずだ」


 ハンズさんに片手を上げると、ブリッジに向かう。

 ブリッジに入ると、防寒服を脱いで座席に掛けておく。

 ブリッジ内の暖房は最大にまで上げてるのかもしれない。防寒服を着ていると汗ばんでくるような気がする。


「だいぶ明るくなりましたね」


「どんどん明るくなるわよ。早く見つけたいんだけどねぇ……」


 銃座の下に腰を下ろして、エミルさんが前方を眺めている。

 俺も双眼鏡を取り出して、水平線を中心に敵影を捜索し始めた。


 扉の開く音に気が付いて振り返ると、ファイネルさんの後ろ姿が目に付く。

 テレーザさんと交代したのかな? 代わりにミザリーが操縦席に座っている。

 再び前を向いて監視を始めたら、急に肩に重みを感じた。俺の肩越しにリトネンさんが双眼鏡を覗いてるんだけど、エミルさんの隣の方が良いんじゃないかな? 


「見付けたわ! 左20度。数は……、6隻ね」


「戦艦は2隻にゃ。一番手前をやるにゃ!」


 呟くようにリトネンさんの声が聞こえると、急に肩が軽くなった。

 自分の席に戻ると、伝声管を使ってファイネルさんを呼び戻している。

 直ぐに足音を立ててファイネルさんがブリッジに駆けこんできた。足が悪いはずなんだけど、駆けることもできるようになってきたみたいだな。


「……あれか! 手前を狙うんだな。作戦通り、500ユーデで船尾から近付くぞ」


 飛空艇の高度が一気に落ちる。

 海に突っ込むんじゃないこと思うくらいの角度だけど、海面が迫って来たところでゆっくりと飛空艇が水平を保つ。


「テレーザ、軸線を保ってくれよ。リトネン、東の戦艦に噴進弾を使うぞ!」


「試す価値はありそうにゃ。リーディル、ヒドラを使うなら窓を狙うにゃ!」


「了解!」


 目標まで2ミラル(3.2km)も無い。たまに光って見えるのが窓なんだろうけど、かなり小さいんじゃないかな。


 セーフティを外して照準器越しに前方を見る。

 どんどん大きくなる戦艦の甲板には人影がまるでない。

 後部ブリッジの窓が比較的大きいな。あれなら当てられそうだ……。


 およそ800ユーデの距離でトリガーを引く、ブリッジ内に轟音が轟くと同時に、戦艦の後部ブリッジ内に火炎が上がるのが見えた。

 炸裂焼夷弾だから周囲に可燃物があるなら燃え広がるんだが……。


 少し進路が変る。

 急いで次弾を装填すると、背後から大きな炸裂音が聞こえてきた。


「命中!」


「次は、噴進弾にゃ!」


 次弾の狙いを付けていると、足元から3本の炎の帯が前方に延びていく。

 ヒドラⅡのトリガーを引くと同じタイミングで、後部ブリッジに噴進弾が炸裂した。


「上空2500に離脱。南に回頭して10ミラルほど離れるにゃ!」


 急上昇しながら、空が左に流れていく。

 水平飛行をしばらく続けたところで、リトネンさんが北に回頭するよう指示を出した。


「煙が出てるのは右だけね。やはり4イルム噴進弾では戦艦を相手には出来ないか……」


 エミルさんが双眼鏡を覗きながら呟いている。

 リトネンさんも俺の肩越しに見てるんだよなぁ。

 

「煙だけでなく、炎も見えますよ。甲板に大穴が開いているように見えますね」


「もう2発ほど当てれば大破できそうね。翼に4発残ってるけど?」


「それは、前線に落とすにゃ。帰りに前線を襲うにゃ」


 作戦通りってことかな。

 蒸気戦車や蒸気機人ならヒドラⅡ改でも上手く当てれば破壊できそうだ。

 マガジンの弾種を通常弾に換えておこう。

               ・

               ・

               ・

 帝国軍の陣を翻弄したところで、砦に進路を戻す。

20分にも満たない戦闘だけど、噴進弾の発射は5回だからなぁ……。戦艦相手に1回使っているから、帝国軍の蒸気戦車が3両、蒸気機人が4機大破させただけでも十分な戦果と言えるだろう。

 俺とハンズさんも蒸気機人を1機ずつ破壊している。

 通常弾をもっと持って来るんだった。炸裂焼夷弾や通常の焼夷弾ではあまり効果がないみたいだ。


「ハッチ付近の装甲は1イルム程度だろうな。通常弾で穴が空くんだから。だが、炸裂焼夷弾や焼夷弾は効果があまりなさそうだ」


「炸裂弾の方が良さそうですね。あれなら1イルムの装甲板を貫通すると聞いてます」


 コーヒーを飲みながら、ハンズさんと砲弾の話で盛り上がる。

 途中でイオニアさんがやって来たから、噴進弾の改良についても話が広がってきた。


「弾速が遅すぎるんだろうな。ブリッジの窓を破って炸裂したようだが、炸裂焼夷弾だから破壊力は余り無いんじゃないか?」


「弾速を上げるとなれば通常の大砲になるんでしょうけど、4イルム砲なんて搭載できるんでしょうか?」


「覇者時の衝撃に耐えられるかが問題だろうな。戦艦を相手にするならさらに口径の大きな6イルム砲が最低でも必要だろう。出来れば8イルム砲が欲しいところだ」


 絶対無理だと思う。

 やはり、噴進弾の改良を行うしかないんじゃないかな。

 噴進弾の最終速度は榴弾砲の弾速とそれほど変わりは無いらしい。あの炎の帯が消える頃にはそうなるんだろうが、あまり距離を取ると今度は命中率が悪くなるのが問題だ。


 10時過ぎに砦に帰り着いた。

 荷物を俺達の部屋に置くと、少し遅い朝食を取る。

 作戦はとりあえず成功ということで、ワインで乾杯する。


「やはり戦艦は頑丈にゃ。でも火災を起こせたなら引き返すしかないにゃ」


「向かう先は、王都のドックでしょうか?」


「大破してないなら、それで十分にゃ。でも3か月は掛かりそうにゃ」


 王都に行くなら、その内に連絡があるだろう。

 それにしても……。やはりもう1回り大きな爆弾ということになるのかなぁ……。

 噴進弾では戦艦を沈めることはできないというのが、飛空艇内での俺達の結論だった。

 そうなると、落とす爆弾の威力を増すのが一番ということになる。前翼の4発の4イルム砲弾改良型の爆弾を取りやめて、直径10イルムを越える大型爆弾なら戦艦を大破することもできそうに思えるんだが……。


「明日は、のんびりしててもだいじょうぶにゃ。午後にクラウス達が来ると言ってたにゃ」


 リトネンさんの言葉を聞いて、俺達は席を立つ。

 先ずはシャワーだ。その後は、夕食まで一眠りしよう。


 シャワーを浴びてさっぱりしたところで、サロンによって一服を楽しむ。

 寝る前だけど、コーヒーを頂いて、峡谷を見下ろしながらのんびりと時間を過ごす。

 秋には峡谷が紅葉で彩られていたけど、すっかり葉を落としてしまった。

 もう1か月も過ぎれば初雪が降るんじゃないかな。

 

 さて、そろそろ寝るか……。


 ゆさゆさと体を揺すられ、目が覚めた。

 笑みを浮かべて立っているのはミザリーと目が合った。


「夕食に出掛けるよ。そしたらまた眠れるからね」


「そうだね」と言って体を起こしたけど、一度起きたら、中々眠れないんだよなぁ。

 とは言っても、お腹に何か入れておかないと、明日の朝まで持ちそうもない。

 リビングで待っていた、母さんと3人で食堂へと向かう。

 

「小盛りで!」と食堂の小母さんに告げたら、たっぷりと盛られてしまった。


「若いんだから、たくさん食べないといけないよ!」


 小母さんがオタマを振りながら、笑みを浮かべてるんだよなぁ。

 何も言わない方が良かったかもしれない。


 窓際の席に座って、食事を始める。

 料理を盛ったトレイを1度テーブルに置いて、ミザリーがワインを入れたカップを運んできた。

 3人で食事が頂けることを、神に感謝しながらワインを飲む。

 後はいつものように、ミザリーのおしゃべりを母さんが笑みを浮かべながら聞いている。

 食べながら話が出来るんだから凄いものだな。感心しながら具沢山のスープを頂く。

 

「……というわけで、大きな爆弾を落としたんだけど、戦艦は破壊できなかったの。甲板に穴が空いてチロチロした炎も見えたんだけどね」


「戦艦の装甲は戦艦の搭載している大砲を撃ちこまれても平気なように作っているらしいの。大きな爆弾で穴が空いてしまっても、戦艦の重要区画までには達していないのかもしれないわね」


 やはり爆弾が一番ってことだな。それにしても、搭載している砲弾を受けられるってどんな装甲厚何だろう。

 

 翌日は、いつものようにクラウスさんへエミルさんが報告を行う。

 戦艦への爆弾投下については、煙がいつまでも続いていたと報告していた。

 思ったよりも影響は大きいのだろうか?


「やはり、輸送船を専門に襲った方が良いのかもしれないな。爆弾を一回り大きくすることもできそうだが、どうする? もっとも、その代わりに前翼の爆弾は搭載することが出来なくなりそうだ」


「改造した方が良さそうにゃ。上手く当てられれば大破出来そうにゃ。それと遅延信管の付いた手榴弾は使えるにゃ。あれなら爆弾の代わりに前線の帝国兵に落とすのに都合が良いにゃ」


「あれか……。12秒の遅延だったな。ドワーフ族なら簡単に作れそうだ。用意しておくように伝えておくよ。

 しばらくは作戦は無いだろう。アデレイ王国の飛空艇が投入されたようだ。それに、大型飛行船がグラウド大陸に向かったそうだ。

 その結果によって戦の流れが大きく変わるかもしれん」


 出発したのか……。高高度からの爆撃らしいから、空中軍艦が迎撃に出てもだいじょうぶだとは聞いたが、帰ってくるまでは分からないからなぁ。

 


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