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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-096 身軽な装備で出掛けよう


 飛行船の大きさは80ユーデほどだ。直径も12ユーデを少し超えたぐらいだから、大きさ的には飛空艇より少し大きいぐらいに思える。

 これでちゃんと、飛べるんだろうかと考えてしまうな。


「それで、誰と行くんでしょう?」


「私とリーディル、それにファイネルとハンズの4人になるにゃ。5人は乗れそうだけど、これで十分にゃ」


「持って行くのは、小銃が2丁だけだからなぁ。装備ベルトも軽くしといてくれよ。俺達は拳銃だけだし、リーディルはドラゴニルだけで我慢するんだな」


「銃弾もですか?」


「クリップ2つに、手榴弾が1つ。装備ベルトのバッグには普段入れている荷物はここに置いて、ロープと水筒だけを入れとくんだ。なるべく身軽にしておかないと縄梯子を上るのがつらくなるぞ」


 そういうことか。

 ちょっと安心できないから、サバイバルナイフだけは入れとこう。

 片道6時間以上かかるようだから、飛行船のゴンドラ内で食事を取ることになりそうだ。

 

「今度は、お兄さん達だけなの。私はお留守番になってしまうわ」


 母さん相手にミザリーが文句を言ってるけど、母さんだってどうにもできないと思うんだけどなぁ。

 笑みを浮かべて母さんはミザリーの不満を聞いている。


「大変なのねぇ。でも、4人だけで大丈夫なの?」


「その辺りは、リトネンさん頼みなんだよね。風の神殿から狙撃すると言ってたよ。でも相手が見えないとどうしようもないけどね」


 ハンズさん達が何かしてくれるんだろうけど、あまり派手に動くと俺達を上手く回収できないかもしれない。

 何事もほどほどが良いらしい。そんなことを実例で知ることができるのもリトネンさんの部隊であるからに違いない。


「風の神殿なら、金のシンボルが神殿の屋根にあるはずよ。結構目立つ神殿なの。軍に入った当時は、あのシンボルが全部金だと聞かされたものだわ」


「リトネンさんの話だと、どうやらメッキらしいよ。リトネンさんは、実際に登って確認したらしいんだ」


 俺の話を聞いて、母さんが笑い出した。

 リトネンさんの入隊当時を母さんは知っているみたいだ。当時からリトネンさんは軍隊内で目立っていたということなのかな?


「なら問題ないわね。リトネンの話をちゃんと聞いて行動するのよ。無茶に見えても、リトネンはかなり慎重に行動するの」


 小さく頷いて同意を示す。

 色々と助けて貰ったからなぁ。リトネンさんには頭が上がらない。


「突然出掛けるかもしれない。その時はミザリーが残っているから」


「落ちないでね。リトネンはネコ族だけど、貴方は人間族なんだから」


 屋根の上から狙撃することが分かってるのかな?

 王都でも目立つ建物だということは、それだけ周囲の見通しが良いことになる。

 見通しが良いというのは、俺達だけの利点とも言えない。相手からもよく見えるということにも繋がりそうだ。

               ・

               ・

               ・

 飛行船の塗装が終わって、ファイネルさんとハンズさんが砦周辺で試験飛行を行っている。ミザリーとテレーザさんが乗り込んでいったけど、まぁ、飛行船だからねぇ。落ちるということは無いらしい。

 俺とリトネンさんは、部屋に残って装備の最終点検を行う。

 俺がドラゴニルと5発が纏まった装弾クリップを2個持つ。都合15発だが、先端に穴の開いた変わった銃弾だった。

 リトネンさんが、フェンリルと16発詰め込んだマガジンを4個持つ。

 手榴弾を持つことになってしまったが、これは焼夷手榴弾だから破壊力はそれほどない。

 

「食料は非常食が1食分にゃ。水筒が1つだから、屋根の上でも1日は立てこもれるにゃ」

 

 そうなる可能性もあるってことなんだろうか?

 それなら、もう少し銃弾を持って行きたいところだけどなぁ……。


「夜の作戦だから、これを着ていくにゃ」


「ツナギですか?」


「ポケットが多いから、全て持っていけるにゃ。それに紺色だから、夜なら目立たないにゃ。帽子はこれにゃ。三角巾も黒く染めたにゃ」


 まるで小説で呼んだ暗殺者そのものだな。これだと、目だけ露出することになる。手袋でさえ黒く染められた代物だった。


「それで、何時出掛けるんですか?」


「今夜にゃ!」


 思わず、リトネンさんに顔を向けてしまった。

 笑みを浮かべて、いたずらが成功した顔をしてるんだけど……。

 それだと色々と忙しくないか?


「飛行船は燃料を入れるだけだし、ファイネル達の準備が終わっていることも確認してるにゃ」


「母さんには、事前に説明しておきました。でも、今夜を選ぶ理由があるんでしょうか?」


「王都で施政官主催のパーティがあるにゃ。よりどりみどりにゃ!」


 なるほどね。15発で足りるかな?

 もっとも、クラウスさんの依頼は王都でひと騒ぎ起こすということだった。

 3人を倒せたなら十分かもしれないな。

 騒ぎが大きくなったところで脱出できれば最高だ。


 準備品を纏め終えたところで、ドラゴニルを銃架から取り出す。

 手入れは十分に行っているから、ボルトを開いて弾倉に5発の銃弾を装填しておく。まだ薬室に銃弾は入っていないし、セーフティレバーも上を向いているから、担いで行くのに問題はない。


「フラッシュハイダーは必要にゃ。屋根の上だから案外目立つにゃ」


 リトネンさんの指示で、棚からフラッシュハイダーを取り出して足のポケットに入れておく。

 

 扉が開いて、ファイネルさん達が帰ってきた。


「操縦に問題はない。飛空艇と同じだな。だが、速度は余り早くないぞ」


「今夜出掛けるにゃ。王都まで6時間以上掛かりそうにゃ」


「燃料補給の最中だ。飛空艇と同じように増槽を積んでいくよ。16時間は飛べるはずだ。それと、ウインチを付けて貰ったぞ。縄梯子は初心者は上がるのは無理だろうからな。下にあぶみのような金具を付けて貰ったから、足を乗せてロープに掴まれば問題ない。少しは装備を増やせるだろう」


「ちゃんと迎えに来るなら必要ないにゃ。それで、何を使って騒ぎを起こすのかにゃ?」


「基本は、グレネードランチャーだ。かなり遠くまで弾丸を飛ばせるからね。焼夷弾を使うよ。貴族街は大騒ぎになるんじゃないかな」


 高い場所から撃つなら、確かに遠くまで飛ぶだろう。500ユーデは確実だろうな。

 爆弾とは異なるから誰も上空を見ることも無いだろう。


「回収後は、これを使う。炸裂まで12秒で作って貰った手榴弾だ。10個を積んでいく予定だ」


「飛空艇でも使えそうですね」


 俺の言葉に、ハンズさんが笑みを浮かべる。


「30個中の10個だ。飛空艇の砲塔から、何度手榴弾を投げ込んでやろうと思ったことか……」


 あの場所なら、そんな気も起きるだろうな。

 それに、色々と他にも使えそうだ。


「出来れば、この辺りを狙って欲しいにゃ」


「港の近くか……。さすがに大火事を起こすのは無理だと思うが?」


「グレネード弾なら、反乱軍が入り込んだと思って軍が動くにゃ。まして倉庫近くなら確実にゃ」


 ファイネルさん達が頷いているから、これで騒動担当は問題なさそうだ。

 燃料補給と点検に2時間近くかかるらしい。

 その間に、簡単な食事を済ませお弁当を運んで貰った。

 飛行船の中で食べることになるんだろうな。


 15時を過ぎたところで、飛行船に乗り込み砦を出発する。

 さすがに昼間は目立つだろうから、高度100ユーデを保ちながら尾根沿いに南下することになった。

 尾根を出る前に上空に上がると言っていたけど、そのための手段はゴンドラ周囲に下げた砂袋を投棄することで行うらしい。

 1袋に30パイン(15kg)の砂が入っているらしいんだが、合計12個もあるというから驚きだ。

 

「上昇は、それで良いんでしょうが、下がる時にはどうするんですか?」


「上のガス袋を開いてガスを逃がすんだ。ボンベを2つ搭載しているから、あまり抜けすぎた時には補充できる。その辺りの操作は俺に任せておくんだな」


 自身有り気に言ってるけど、信用するしかなさそうだ。

 軽いエンジン音を響かせながら左右のプロペラが回っている。そういえば、燃料の増槽だけでも60パイン(30kg)はあるらしい。砂袋2つ分がその内に無くなるはずなんだが、ある程度の高さの変動はこの乗り物では仕方のないことなのかもしれない。

 

「飛空艇の方が便利ですね」


「比べるのも馬鹿らしいな。だが、飛空艇の操縦を習う時には飛行船の操縦も一緒に習ったんだ。飛行船のように飛べるからなんだろうな。飛行機とはまるで異なるらしい」


 簡単な構造だから、作るのはかなり容易だと教えてくれた。

 帝国軍の飛行船は鋼板で作った大きな空洞の中に浮体と呼ばれるガスを入れた袋が入っているらしいけど、この飛行船は大きな空洞を布で作ってあるらしい。

 幾重にも塗料を塗ってあるから、革並みの強度があると言っていたけど、銃弾を1発受けたら落ちてしまいそうだな。


「浮体に穴が空いたら、ゆっくりと落ちることになるだろう。3つある浮体の1つが無くなっても浮かんでいられるし、乗っている重量物を捨てることでさらに浮かんでいられる。王都に落ちることは無いだろうから安心していいぞ」


 でもなぁ……。何となく頼りない機体に思えてならない。


 尾根を抜ける前に、砂袋を投棄する。

 2個を落とすと、ゆっくりと飛行船が上昇を始めた。

 600ユーデほどに上昇したところで右に大きく回頭する。下を走る街道に沿って西に向かえば王都に行けるはずだ。

 

 数時間は掛かるだろうと、夕食をゴンドラ内で頂く。

 サンドイッチに冷めたコーヒーだけど、我慢するしかない。

 下を走る車列が何度か見えたけど、既に真っ暗な夜だからだろう。俺達の存在には気が付かないみたいだ。


「増槽を投棄するぞ。少し街道を離れるからな」


 飛行船が左に舵を取る。

 街道から離れると、増槽からの燃料パイプのバルブを閉じて、ゴンドラに取り付けていた増槽の取り付け金具のレバーを、俺とハンズさんが声を合わせて下ろした。

 かなり重いレバーだったけどどうにかハンズさんの操作に合わせることが出来たようだ。

 投棄したことでさらに彦戦の高度が上がる。1000ユーデほどの高さを再び街道に沿って西に向かう。

 既に西の空が明るく見える。あれが王都の明かりなんだろう。

 狙撃が上手く行かなくとも、ハンズさん達が20個以上のグレネード弾を用意しているらしいから、それを使うだけでも騒ぎを起こせそうだな。


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