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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-094 飛空艇の損傷


 上空2500ユーデに上昇して、再度島の様子を確認する。

 広い砂浜の端に作られた倉庫は未だに炎上している。たまに大きく火の手が上がるのは砲弾の誘爆ってことなんだろう。

 空中軍艦は半ばから折れて船尾が曲がっているようだ。大きな開口部から盛んに火の手が上がっている。ほかにも煙が上がっている場所がいくつもあるのは、ヒドラⅡ改の砲弾を受けた穴に違いない。

 さすがにここからでは双眼鏡を使っても、開口部は分からないが、煙の筋が2つ並んでいるところを見ると俺の発射した砲弾に違いない。


「破壊出来たにゃ。これで飛行船が少しは安全になるにゃ。ファイネル、砦を目指すにゃ!」


「了解。進路はどうするんだ?」


「320度で良いわ。それで砦の西の尾根に向かえるわよ。少しズレるかもしれないから、陸が見えてきたら進路を再度調整することになりそうね」


「320度だな! 進路変更、左に回頭する!」


 北に向かっていた飛空艇が、北北西に進路を変える。

 さてちょっと一休みするか。

 ブリッジを出ようと薄炉に歩いて行くと、ミザリーがリトネンさんのメモを見ながら、電鍵を叩いていた。砦に報告を送るんだろう。


 砲塔区画に行くと、ハンズさんが1人で酒盛りをしていた。

 直ぐに俺にもカップを渡してワインを注いでくれる。


「どうでした?」


「どうでしたって? あれは見ものだったぞ。大爆発して船体が2つに割れたんだからなぁ。エミルが報告してくれた通りだが、真近くで見た俺は、あの爆発に巻き込まれるかと思ったぐらいだ。

 かなり飛んできた破片が当たったんだが……、防弾ガラスを貫通するには足りなかったな」


 2人で飲んで要ると、直ぐにファイネルさんがやって来た。

 やはり女性ばかりの所にいるのは居心地が良くないらしい。


「やはり至近距離で爆風を浴びたってことか……」


「気になることでも?」


 ファイネルさんの話では、船尾のエンジンの出力があまり上がらないらしい。

 破片をプロペラに受けたんだろうか?

 それともエンジンに当たったか……。


「ちょっと、確認した方が良さそうだな」


 ファイネルさんが上部の砲塔に上がるハシゴを登っていった。

 直ぐに下りてきたファイネルさんの顏が蒼白だ。俺達に何も告げずにブリッジに走っていった。


「何を見たんだ?」


「俺が見てきます」


 ハシゴを登って砲塔から船尾を眺めた時だった。

 左のエンジンから煙りが噴き出している。

 急いで下りると、ハンズさんに状況を告げる。

 今度はハンズさんが登って行ったんだが、俺の肩を叩くとブリッジに向かって歩き出した。

 燃え出しているわけではないんだが、何時出火するか分からないぐらいの黒煙がずっと後ろに延びていたんだよなぁ。


「……後部のエンジンを投棄するってことにゃ?」


「エンジンというより翼ごとになるようだ。4つエンジンがあるから1つぐらい無くなっても問題はない。前のエンジン1つでも操船は可能なんだが……」


「戦闘終了時は煙を出していなかった。その後後部銃座から引き上げたんだが、引き上げる時にも煙は見てないぞ」


「燃料配管に亀裂が入ったのかもしれんな。まだ出火はしてないが時間の問題だ。それに燃料漏れが続くと帰れなくなってしまう」


「それなら、投棄するにゃ。帰れなくなるより遥かにマシにゃ。そうなると速度は落ちてしまうのかにゃ?」


「巡航速度は維持できる。問題ない。それじゃあ、投棄するぞ。ハンズ、手伝ってくれ!」


 2人がブリッジを出て行った。

 しばらくして、リトネンさんのお立ち台に設けられたブザーが鳴る。

 伝声管を使って話をしていたけど、話を終えると俺達に座席に座ってシートベルトを着けるよう指示が出た。


「少し揺れるかもしれないから、念のためにゃ。3分後に切り離すと言ってたにゃ」


 シートベルトを着けると、時計を眺めながらその時を待つ。

 ガクンと飛行艇が揺れたが、直ぐに収まった。テレーザさんを見ると、目の前の計器を見ながらエンジン出力を調整しているようだ。

 直ぐにファイネルさんが帰ってくると、てテレーザさんの隣に座り計器を素早くも回している。


「問題なさそうだな……。後部左の翼の投棄完了。これで心配は無いだろうが、念の為にハンズが30分おきに上部の砲塔でエンジンを確認すると言ってくれた」


「了解にゃ。リーディルも手伝ってあげて欲しいにゃ」


「了解! 直ぐに向かいます」


 防寒服を持って砲塔区画に向かう。

 先頭が終われば、船首に設けた機銃座はやることが無いからなぁ。

 テレーザさんとイオニアさんが交代で眺めを楽しむんじゃないか?


 砲塔区画では、ハンズさんが仕事を終えての一服を楽しんでいた。

 砲塔区画にはいくつかの小窓があるんだが、前後の2つを開ければタバコの煙は直ぐに外に出て行ってしまう。


「切り離しは面倒なんですか?」


「そうでもないが、ファイネルには荷が重いかもしれんな。切り離し用のハンドルがかなり重いんだ。そこのハンドルがそうだ。リーディルの座った砲弾箱の左手にもあるだろう。主翼にも同じようなハンドルがあると言っていたぞ。

 燃料供給を遮断するバルブはあの床にあるハッチを開けて操作するらしい。バルブに供給先を書いた札が下がっているから、この次に行う時には俺とリーディルでも行えるだろう。

 もっとも、そんな損傷や故障が起きない方が良いんだが」


 ファイネルさんに、もしもの時があったら困ってしまうな。

 だけど、最後の攻撃は少し近すぎたようにも思える。砲弾の炸裂で飛空艇が損傷を受けない高さを考えて欲しいところだ。

 

「修理にまたしばらく掛かりそうですね」


「しばらくは空中軍艦は来ないだろうから、その間は飛行船が攻撃してくれるさ。だが帝国には一体何隻の空中軍艦があるんだろうな。

 今回は上手く破壊できたが、俺達の攻撃力を考えて装甲の厚い空中軍艦が出てくると、どうしようも無くなるぞ」


「2イルム厚の装甲なんてことになったら、確かに問題ですね……」


 全く同じ仕様で来ることは無いだろう。装甲を増すか、それとも対処できる兵器を搭載するかのどちらかだろうな。

 ヒドラⅡ並の小口径砲をあの甲板に搭載されたら、近寄れなくなってしまう。

 1ミラルほど離れた場所から噴進弾による攻撃を行うなら、噴進弾を1発命中させるために一体何発の噴進弾を発射しないといけないのだろう。

 砲撃諸元についてはエミルさんが専門らしいが、そもそも噴進弾の命中率は良くないからなぁ。

 それを知っているから、飛空艇であれだけ近付いて発射しているようなものだ。

 かと言って、大砲なんて搭載したら飛空艇の軽快さが損なわれてしまうに違いない。

 大砲は発射時の反動を砲架で受ける。飛空艇の場合は飛空艇の船体で受け止めなければならない。

 ヒドラⅡ改のような小口径であればそれほどの反動はないんだろうが、口径4イルムの大砲ともなれば船体補強も簡単に済ませることはできないだろう。

 ひょっとしたら、最初から作った方が良いのかもしれない。


「噴進弾の大きさはこれ以上は無理でしょうね……」


「だろうな、だが攻撃力を上げる方法は、何も噴進弾に限らなくても良さそうだ。最初に戻って、爆弾を使う手もあるんじゃないか?」


 さらに大きな砲弾を爆弾にするってことか……。

 直径8イルムを越える鋼鉄のパイプに炸薬を詰めて投下するなら、かなりの威力があるだろう。

 そんな爆弾を搭載できる場所はあるんだろうか?

 砲塔区画内を眺めると大きな投下装置を設置できる場所は無さそうだ。落とすとしても2発か4発だろうな。

 そんなものを設置すると、ここでのんびり一服することもできなくなりそうだ。


「どれ、様子を見て来るか!」


「俺が見てきますよ。残り3つのエンジンを見てくれば良いんですよね」


 立ち上がって、上部砲塔に登るハシゴを上る。頭を砲塔から出して、前の2つと後ろの1つのエンジンに異常がないことを入念に確認した。

 何も問題は無さそうだ。

 直ぐ下に下りて、伝声管でファイネルさんに知らせておく。


「異常なしです。次は30分後に……」


 ファイネルさんの「ご苦労様」という声を聴いて伝声管の蓋を閉じた。


「やはり、1基だけの損傷のようですね」


「分からんぞ。まだ10時間以上はエンジンを回すことになるんだからな。もっともファイネルの話では前の翼のエンジン1基が無事ならそれほど遅れることなく帰れるだろうと言っていたな」


 冗長化されているってことなんだろう。そういう意味では試作機で良かったと思う。量産機になると無駄が省かれていくとファイネルさんが教えてくれたからね。

 6輪駆動車もそれほど作られなかったらしい。4輪駆動車が噴進弾発射機の主流になったようだ。やはり無駄は省かれるってことなんだろうな。


 陸地が見えたとの知らせを受けて、ブリッジに戻ることにした。

 ブリッジの扉を開くと、まだリトネンさんが前方の銃座に座っている。

 俺が入ってきたことに気付いたファイネルさんがテレーザさんに操縦を交代して席から立ち上がる。


「俺の席に座っているんだな。テレーザ、後を頼むよ」


「任せといて。進路を変えるかもしれないから、上部砲塔に上がるんだったら、安全帯を付けとくのよ」


「砲塔区画で一服するだけだよ。心配はいらないさ」


 そうは言っても、エンジンの調子を確認するために上部砲塔に上がることもあるはずだ。

 その辺りは、俺達より詳しいから問題はないんだろうけどね。


「テレーザ。このまま進むと王都に行ってしまうわ。進路を10度に合わせて頂戴!」


「了解。進路変更右10度……」


 ゆっくりと飛空艇が進路を変える。

 まだ陸地が見えただけなんだけど、エミルさんには飛空艇の現在地が分かるみたいだ。

 イオニアさんはどこかと眺めていると、ブリッジ後方のベンチで横になっていた。

 昼寝ってことかな? 結構緊張したからなぁ……。

 


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