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鷹と真珠の門  作者: paiちゃん
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J-093 空中軍艦を叩け(2)


 回頭目標の尾根上空で南に進路を変更する。

 ここから6時間近く掛かるらしいから、薄明が始まる直前になるんじゃないかな。

 コンパスを見ながらの飛行は退屈らしく、ファイネルさんとテリーザさんが交代しながら行っている。

 操縦席が2つあるのは、それも目的の1つにしてるんだろうな。

 たまにエミルさんも操縦桿を握っているみたいだし、砲塔区画から戻って来たときにミザリーが座っていた時には吃驚してしまった。

 通信士という立派な仕事があるんだから、あまり驚かせないで欲しいところだ。


 回頭を行って海上に出たところで舷側に付けられていた増槽を投棄する。

 ちょっとした作業だけど、手順書をバインダーに挟みながらフェイネルさんが1つ1つの作業を順序に従って確認していたのが印象的だった。


「5時間分の燃料だからなぁ。少し身軽にはあった感じだな」


「増槽を付けても西の大陸の往復までは無理でしょうね」


「無理だが、これから攻撃する島を押さえれば可能になるぞ。大陸間の中間にある島の数はそれほど多くは無い。1つでも手に入れれば可能にはなるんだが、大陸間の海には帝国軍の大型の潜水艇が潜んでいるらしい。輸送船を使っての物資輸送が難しいからなぁ」


「何度も行えないが、飛行船ならいけるんじゃないか?」


「あれは大きいからなぁ……。見つかったら、空中軍艦に撃墜されてしまいそうだ」


 帝国の帝都に爆弾でも落とせるなら、少しは自国防衛に戦力を移動するだろうけど、現状では無理な話となるんだろう。


 夜が長いから、コーヒーを飲みながらそんな話で時間を潰す。

 女性達は交代で仮眠をとっているようだ。


「さて、そろそろ替わるか。テレーザも一眠りしたいだろう」


「俺も一眠りするよ。攻撃前にはイオニアが起こしてくれるだろう」


 ハンズさんが噴進弾を入れた収納庫の上で横になる。

 俺は機銃座で海でも見ていよう。何もないけど、たまにイルカの群れが見えることもあるからね。


 日付が変わり2時を過ぎると、リトネンさんが飛空艇を2500ユーデまで上昇させた。

 そろそろ島が見えると考えたに違いない。俺の背中にエミルさんまで張り付いて島影を探す。


「さすがにまだ夜ですからねぇ。でも海は結構見通しは良いんですよね」


「真っ直ぐに来たけど、風で流されたかもしれないわ。左右も良く監視してね」


 双眼鏡まで持ち出して島を探してるんだが、中々見付けることができない。

 30分ほど過ぎた時、右手に島が見えてきた。

 まだ小さいから、かなり離れているに違いない。


「右手30度付近にあるのが島でしょうか? だいぶ離れてますから、はっきりしないんですが……」


「あれね! リトネン、見付けたわよ。風で流されたみたい。右に30度ほど変針してくれない!」


「ファイネル、回頭を頼んだにゃ。軸線に捕えたら高度を3000まで上げるにゃ。一度通り過ぎて状況を見てから爆撃するにゃ」


 前部銃座が上を向いて、更に上昇を始める。

 座席の横に掛けてあった防寒服を急いで羽織り、シートベルトを締め直した。

 再び飛空船が水平飛行に移る。

 リトネンさんとエミルさんが俺の座席の後ろから下を覗いて島の様子を確認し始めた。


「島の北側には何もないわね……。もう直ぐ、島の南側が見え始めるわ」


「あれにゃ! やはり南側に集積所と桟橋を作っていたにゃ」


 やがて島の上空に差し掛かった時、大きな砂浜に着底している空中軍艦の姿が見えてきた。

 島に作った大きな倉庫の周りに明かりが灯っているから倉庫群の大きさが分かる。

 島に近くに輸送船が2隻停泊しているけど、荷下ろしはしてないみたいだな。

 さすがに夜間の荷下ろしまでは、行っていないようだ。

 船窓から漏れる明かりが回りの海を照らしている。


「空中軍艦には明かりがまるで見えませんね?」


「沢山倉庫みたいなのがあるから、その中に兵舎があるに違いないにゃ。このまま南に向かって、回頭するにゃ」


「回頭は、どれぐらいで行いますかぇ……」


「10ミラルは離れたいにゃ」


 20分も経たない内に東回りに回頭を始めた。同時に高度をゆっくりと落としていく。


「高度300ユーデで奇襲するにゃ! 島の東から倉庫群に爆撃。爆撃後反転して空中軍艦を噴進弾で攻撃にゃ!」


「了解! エミル、ハンズたちに伝えてくれ。10分後には始まるぞ!」


「砲撃は爆弾投下後ね! ヒドラⅡ改で狙えるものは当てていくわよ!」


 イオニアさんとエミルさんが砲塔区画に走っていく。

 既に砲弾はマガジンの中だ。

 安全装置を解除して、……さて何を狙おうか。


 薄明が始まったようで島の様子がはっきりと見えてきた。

 密集した倉庫群のようだから、爆撃で延焼してくれるに違いない。

 それなら、最初から空中軍艦を狙ってみよう。

 狙いは上部の甲板のすぐ下の舷側だ。斜め上だから狙い易いだろう。


 上空300ユーデというのはかなり地上に近い。

 敵が寝込んでいるから、銃弾を食らう心配はなさそうだ……。


 彼距離500ユーデほどに迫ったところで初弾を放つ。

 ドォン! という砲声が2度聞こえたところで装填装置を足で蹴飛ばす。薬莢が飛び出て2発目が砲身内に装填されたところで2発目を放つ。

 さらに3発目を撃ち終える時には、苦衷軍艦の姿が後方に消えていた。


 急いでマガジンに砲弾を装填する。シートベルトが少し邪魔だが、外さない方が良いだろう。


 島から離れると、後方から爆弾の炸裂音が聞こえてくる。

 4イルム榴弾を改良した爆弾だからなぁ。焼夷弾の薬剤も入れているらしいから、さぞや派手な爆発になったはずだ。


 ブザーが2度鳴り、砲塔区画から爆撃結果の報告が入ってくる。

 リトネンさんの復唱から、倉庫群が大火事になりつつあることが分かった。


「高度1500で離脱するにゃ!」


 島が直ぐに見えなくなって、地面がどんどん遠ざかる。

 

「空中軍艦の船首側から攻撃するにゃ。攻撃高度500。東に移動して再度攻撃するにゃ!」


 リトネンさんの指示で、飛空艇が東に回頭していく。

 視界が回り、今度は急降下気味に高度を落としながら空中軍艦に向かって飛空艇が突っ込んでいく。


 空中軍艦の前部にある2階建てのブリッジが見える。

 上手く砲弾が当たってくれれば良いんだが……。


 ブリッジの窓から、こちらを見て逃げ出す人の姿が見えた。

 窓の大きさはおよそ1m四方のガラスを、横に張り合わせたような形をしている。

 さらに近付いて、照準器の枠内の十字線に捕えたところでトリガーを引いた。

 砲声が船内に轟く。

 ガラスが割れて船内で炎が上がるのが見えた。

 急いで次弾を装填すると、舷側上部を狙って砲弾を放つ。3弾目はヒドラⅡ改のバレルをほとんど限界まで下げて放った。

 都合6発。全弾命中したはずだが、果たして装甲板を撃ち抜けたんだろうか。

 2発目を放つ時には、4イルム噴進弾が炎の尾を引いて飛んで行った。

 直ぐに炸裂音が聞こえてきたけど、結果が分からないのが気になるところだ。


「ファイネル、上昇するにゃ! イオニア、噴進弾の装填を急ぐにゃ!」


 リトネンさんが矢継ぎ早に指示を出す。

 上昇から水平飛行に移ると、砲塔区画から装填完了を知らせるブザーが鳴った。


「さっきと同じに降下して噴進弾を放つにゃ。リーディル、どんどん砲弾を叩きこむにゃ!」


 回頭を行い、今度は西に向かって飛行する。

 倉庫群の火災はまだ収まる様子もない。その火事であまり目立たないが空中軍艦からも煙が出ているのが分かる。

 炎までは出していないようだ。船内はどうなってるんだろう?


 再び飛空艇が降下を始める。

 速度は毎時60ミラルらしいが、もう少し遅いと3弾目が楽に撃てるんだよなぁ……。


 彼距離500ユーデで初弾を放つ。船体後部に当たったようだ。直ぐに次弾を装填して甲板に放つ。3弾目は船首付近に着弾したようだが、装甲板で炸裂したようだ。

 再び上昇が始まる。

 水平飛行に移ったところで、マガジンに急いで砲弾を入れた。


「やはり4イルム噴進弾だけのことはあるにゃ。甲板に大穴が空いたにゃ。ファイネル今度は左回頭にゃ、南から島に近付くにゃ。島から3ミラルで空中待機、状況を確認するにゃ」


 6発の噴進弾を受けてるからなぁ。攻撃成果が気になるところだ。状況を確認して、さらなる攻撃が必要か否かを確認するんだろう。

 島が近づいてくると、リトネンさんが双眼鏡を手に俺の座席に前に身を乗り出して観察を始めた。

 俺も双眼鏡を手に眺めたんだが、空中軍艦の甲板から盛んに煙が上がっているのが見える。


「大穴が空いてますね。少し離れた位置にも穴が空いてるようです」


「火が見えないにゃ……。やはり、もう1度攻撃した方が良さそうにゃ」


 リトネンさんがお立ち台に立って、真鍮の柵を握りしめた。


「ファイネル、もう1度にゃ。側面を叩くにゃ」


「了解! 攻撃は少し手前まで急降下して水平移動で近付く。リーディル、攻撃は1回だけになるぞ!」


「それなら、ブリッジ側面に叩きこんでみます。ファイネルさんこそ外さないでくださいよ!」


 振り返ってファイネルさんに伝えると片腕を上げて答えてくれた。任せとけ!という感じだな。


 リトネンさんの方も、砲塔区画に連絡を入れたようだ。


「始めるにゃ!」


 リトネンさんの指示で、カクンと飛空艇の前が下がる。そのまま落ちるように降下して行った。

 ぶつかるんじゃないかと思ってしまったが、寸前で水平飛行に移行する。

 既に空中軍艦は目の前だ。

 ファイネルさんの方は照準をしなくても良いんじゃないかな? 水平に放てば間違いなく当たりそうだ。

 俺は、ブリッジに狙いを付けて最接近を待って砲弾を放った。

 装甲板に穴が空いて中から炎が上がる。

 直ぐ下を炎の帯が通り過ぎると、直ぐに飛空艇が上昇を始める。

 

 ズシン! という腹に応える大音響と共に飛空艇にガツンガツンと破片が当たる。

 ブザーが鳴ってリトネンさんが伝声管で砲塔区画と話を始めた。何かあったんだろうか?


「了解にゃ。やはり3度目の攻撃が効いたんみたいにゃ。全員無事なら、ブリッジに集まるにゃ! ……ファイネル、北に回頭にゃ。高度1500で砦に帰還するにゃ」


 笑みを浮かべているところを見ると、先ほどの大きな爆発は空中軍艦の爆発ということなんだろうか?


 やがて笑みを浮かべた3人がブリッジに入ってきた。


「空中軍艦が2つに割れたぞ!」


 ハンズさんが大声を上げる。

 特等席で見ていただろうからなぁ……。

 俺達の顏にも笑みが浮かぶ。ようやく朝日が東から登ってきたようだ。

 作戦成功ということになるんだろう。

 後は12時間近くかけて砦に戻るだけだ。



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